檀れいに、主演舞台「恋、燃ゆる。~秋元松代作『おさんの恋』より~」への思いを聞く
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檀れい
人間の生きる哀しみや歓びを描き、『常陸坊海尊』『近松心中物語』『元禄港歌』等で知られる劇作家・秋元松代。彼女が1985年にテレビドラマ用に書いた『おさんの恋』は、近松門左衛門の『大経師昔暦』をベースに、独自の視点を付け加えた作品。今回は石丸さち子の上演台本・演出で、「恋、燃ゆる。~秋元松代作『おさんの恋』より」として舞台化される。自らの意志で生き抜くヒロインおさんを演じる檀れいに、舞台への意気込みを聞いた。
ーー明治座で座長公演を行なうのは2018年の『仮縫』以来となります。
明治座さんは私の大好きな劇場の一つ。なので、こうしてまた再びその舞台に立てること、お客様に会えることがすごく嬉しいです。ただ、このコロナウイルスの問題がある中で皆様にどれだけのものをお伝えできるのかという、今までとは違った不安と責任感を抱えておりますので、手放しに嬉しいだけではありません。大丈夫かな、ちゃんと幕を開けることができるのかなという不安はやっぱりついてきています。
ーーテレビドラマ版をご覧になっていかがでしたか。
それぞれの役者さんのうねるような感情の動きや、おさんを演じられた太地喜和子さんの女優としての魅力を感じているうちに二時間が経ってしまいました。これを舞台化して、私自身がおさんを演じることの重みを感じました。ストーリーもどんどん引き込まれていく展開でしたし、あっという間の二時間でした。
檀れい
ーーおさんをどのような女性ととらえていますか。
時代物を演じるときにいつも思うことですが、日本、海外を問わず、女性は長らく苦しい時代を生きてきたということです。おさんが生きていた時代というのは、今のように女性が個人としては生きていません。おさんは商家の「ご寮さん」であり、永心の「妻」であり、自分の意思はあっても、気持ちを抑え、耐えて耐えて主人に仕える。顔では笑っていても冷たい涙が心の中に流れている。そのような女性が茂兵衛というまっすぐで、自分の思いをストレートに伝えてくる男性に出会ったときに、一人の人間としてどう変化していくのか。その心の動きを表現し、今を生きる現代の方にお伝えできたらと思います。おさんという女性が苦しみながらも真実の愛を見つけ、悲しみながらも喜びを見つけ、どのように人生の選択をしていくのかを、生き生きと演じたいです。
ーー時代物となると、装いが着物であるということも含め、身体表現のあり方が、現代女性を演じるのと違ってくるところがあると思うのですが、そのあたりはいかがですか。
違いますね。今だと身体にとって解放的で動きやすい服装を皆さん身に着けていらっしゃると思いますが、自分自身、お着物を着るとき、前をあわせて、帯も締めてとなると、やはり動きがすごく制限されるんです。その中で、和物の所作をしていかなくてはいけない。昔の人たちは、襖一つ開けるにしても、立ったまま開けません。ちゃんと膝をついて、両手で襖を開けて、中に入って、また閉める。所作の一つをとっても今とはまったく違う。そこに、役の心の動きも加わってくる。今回は抑圧されている時代の女性を演じるので、身体表現的にもしんどいのではないかなと思いますが、着物を着た女性ならではの美しさを表現できればと思っています。
ーーさきほど、明治座は大好きな劇場の一つとおっしゃっていました。
公演ごとに、一筆箋やポーチ、お饅頭、飴など、作品に合わせて自分でプロデュースしたグッズを販売させていただいているんです。明治座さんは休憩時間もとても楽しい劇場です。いろいろなお店があるので、お買い物を楽しんだり、お茶をしたりご飯を食べたりして、充実した時間を過ごせます。
檀れい
ーー共演者の方々についてはいかがですか。
中村橋之助さん、西村まさ彦さん、高畑淳子さん、東啓介さん、多田愛佳さん、石倉三郎さん、皆さん、お芝居を一緒にさせていただくのは初めてです。すごく素敵な方たちなので、皆さんとどういう舞台を作っていけるのか、とても楽しみです。橋之助さんは、ギリシャ悲劇『オイディプスREXXX』など、海外の文芸作品にも意欲的に出演されていますし、歌舞伎の舞台を拝見しますと、非常にエネルギッシュで、演じることが好きで、突きつめる方なんだなということを感じます。目の輝きが違うというか、素晴らしいと思った役者さんの一人です。彼が茂兵衛を演じたときに、どういう熱量でおさんの心を揺さぶるんだろうと思うと、一緒にお芝居するのがとても楽しみです。高畑さん、西村さんはどんな役でも自在に演じられる方々。一緒にお芝居できると考えるだけで楽しみが止まりません。それと同時に、私もしっかり演じていい作品にしなければという気持ちです。
ーーコロナ禍にあって、舞台に立つことをどうとらえていらっしゃいますか。
今年の初めからコロナの問題が出て、エンターテインメントは非常に早い段階でストップしていましたよね。舞台も多くの公演が中止になっていましたので、そのような中で秋に舞台が上演できるんだろうか、やるのであればお客様に満足していただけるような作品にしたい、でも、興行として本当に打てるのだろうかと、いろいろなことを考えてしまって、不安は尽きなかったです。その気持ちは千秋楽の幕が降りるまで続くと思います。一人の役者として、今回の公演の座長として、出演者、スタッフ、お客様の全員が大切な存在です。せっかく楽しみに観に来てくださった明治座で、何かあって欲しくないですし、スタッフも出演者もワンチーム。誰が欠けてもだめだから、みんなで元気に笑顔でエンターテインメントを届けたい。エンターテインメントは、なくても生きていけるものかもしれませんが、心がほっと温かくなったり、苦しい中で観た作品で心が救われたり、人生の活力になる。それがエンターテインメントの力だと思うので、その灯が途絶えたり縮小してしまったりすることはすごく苦しいです。コロナ禍の中で、私が舞台に立つにあたって何ができるのか、常に考えていますが、その答えはなかなか出ない……。でも、自分が与えられたことをやるしかないなと思います。やるのであったら、いい形で、万全の態勢で、皆さんに上質な作品を届けたい、それだけです。
ーー上演台本・演出を手がける石丸さち子さんとはどんなお話をされましたか。
今回、石丸さんは秋元先生のテレビドラマの台本を軸に上演台本を書かれていますが、石丸さんの中でもいろいろなお考えがありまして、セットや舞台の使い方がとても斬新なもので、お話を聞いたときに、どうなるんだろう、やってみたい! というわくわく感がすごくありました。ただ、演じる側としてはすごくハードルが高いなと(笑)。役者の心情と、舞台機構がいい感じでミックスされるので、スタッフ・キャストが心を一つにしないとうまく行かないなと思っています。
檀れい
スタイリスト:西ゆり子(C.コーポレーション)
衣裳協力:アニエスベー、アビステ
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=池上夢貢
公演情報
■会場:明治座
上演台本・演出:石丸さち子
檀れい
西村まさ彦 高畑淳子
みやなおこ 及川いぞう 塚本幸男 中村橋吾
塚越健一 丸山雄也 水野直浩 舩山智香子
小見美幸 小早川真由 武田一馬 荒澤守
津賀保乃 石毛美帆 内藤好美
電話・ネット予約 8月30日(日)10:00~
予約引取・窓口販売 9月2日(水)10:00~
■明治座HP:https://www.meijiza.co.jp/