まるで一緒に旅をするように。9月4日開幕のミュージカル『VIOLET』ゲネプロレポート〜ヴァイオレット役・唯月ふうかver.

 

ミュージカル『VIOLET』日本キャスト版が2020年9月4日（金）から6日（日）までの3日間限定で、東京芸術劇場プレイハウスで上演される。

梅田芸術劇場が英国チャリングクロス劇場と共同で演劇作品を企画・制作・上演し、演出家と演出コンセプトはそのままに「英国キャスト版」と「日本キャスト版」を各国それぞれの劇場で上演する日英共同プロジェクト第一弾となった本ミュージカル。演出家の藤田俊太郎が単身渡英し、現地のキャスト・スタッフと作り上げたロンドン公演は、2019年の1月から4月まで上演され、オフ・ウエストエンド・シアター・アワードで6部門にノミネート。中でも日本人演出家の作品が栄誉ある「作品賞」候補に選ばれる快挙を得た。

ロンドン公演に続き、当初、2020年4月に上演が決まっていた日本キャスト版だが、コロナ禍で公演は全て中止。しかし、この度たった3日間だけ、公演が実現する。出演者は、唯月ふうか・優河（Wキャスト）、成河、吉原光夫、spi、横田龍儀、岡本悠紀、エリアンナ、谷口ゆうな、稲田ほのか・モリス・ソフィア（Wキャスト）、畠中洋、島田歌穂。

9月2日（水）に行われたゲネプロ（舞台総通し稽古）の様子をお伝えしたい（ヴァイオレット役：唯月ふうか、ヤングヴァイオレット役：稲田ほのか ver.）。

1964年、アメリカ南部、ノースカロライナ州のスプルースパインという小さな町。幼い頃、父親（spi）による不慮の事故で顔に大きな傷を負った白人のヴァイオレット（唯月ふうか／優河※Wキャスト）は、25歳の今まで人目を避けて暮らしていた。

しかし、今、ヴァイオレットは決意の表情でバス停にいる。あらゆる傷を癒す奇跡の“テレビ伝道師”（畠中洋）に会うために。西へ1500キロ、願いを胸に人生初の旅が始まる。

ヴァイオレットの顔を見た途端目を背ける人、白人の老婦人（島田歌穂）、白人兵士モンティ（成河）と黒人兵士フリック（吉原光夫）。長距離バスの旅でヴァイオレットは、さまざまな人に出会い、多様な価値観に触れ、少しずつ変わっていく。そして、長い旅の先にみたものは――。これがあらすじ。

ロンドン公演と同じように、本公演でも、舞台上に仮設客席を組み、四方を客席が囲むシアター・オン・ステージの方式をとる。さらに、盆を頻繁に回転させるので、観客は、あらゆる角度から、この「旅」を見る。このように、仕掛けだけ見ても、まるでヴァイオレットらと一緒にバスに乗って旅をするかのような気分になってくるはずだ。

面白いのは、ヴァイオレットの顔そのものに傷がないこと。特殊メイクを施して、大きな傷を創り出すこともできるはずだが、ヴァイオレットのメイクは「ふつう」の舞台メイクだ。加えて、黒人だから白人だからといって、ことさら肌の色を強調させることもしない。飾らない生身の俳優たちがそこにいて、物語を紡ぐだけだ。そうなると、観客は、登場人物たちが抱いている「傷」を想像せざるを得なくなる。そして、旅が進むにつれ、気がつけば、自分自身のコンプレックスや差別の視線、悩みなどを見つめている。ヴァイオレットだけではなく、観客の一人として、自分自身もこの旅で気づきを得て、少しずつ変わっていくのか。やられた。これも藤田の演出の意図だろうか。

本作品の音楽も魅力。2015年『ファン・ホーム』でトニー賞最優秀オリジナル楽曲賞を受賞したジニーン・テソーリが手掛けている。旅がはじまるときの「マイ・ウェイ」など、耳に残る楽曲が多い。物語の中では、ノースカロライナから、テネシー、ナッシュビル、メンフィス、オクラホマまで旅をするわけだが、その土地土地の音楽をベースにした楽曲が取り入れられている。カントリー、ソウル、ブルース、ゴスペルと幅広いジャンルを飽きることなく楽しめるだろう。

この日、ヴァイオレットを演じた唯月ふうか。「変わるんだ」という決意の固さと、それでもどこか自信がない弱さ。タイトルロールを背負うその役柄を、見事に演じ切った。ミュージカル初挑戦のシンガーソングライター優河との違いもぜひ見てみたい。モンティを演じた成河、フリックを演じた吉原光夫も、歌唱はもちろん、とにかく芝居がよかった。ヴァイオレットのみならず、モンティやフリックの目線でも物語を追えたのは、2人の芝居が光っていたからだと思う。

上演時間は休憩なし約2時間。コロナ禍の影響でたった3日間の限定公演になってしまったが、機会があればぜひお見逃しなく。なお、SPICEでは後日Wキャストの優河ver.もレポートする。

取材・文＝五月女菜穂