木村達成「自分が成長していくためにも大切な作品。今は、“崩壊”するぐらいやってもいいのかもしれない」 音楽劇『銀河鉄道の夜 2020』インタビュー

2020.9.10
インタビュー
舞台

木村達成

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1995年、青山劇場開館10周年記念事業として白井晃の演出で上演された「イーハトーボの音楽劇『銀河鉄道の夜』」が、再び白井晃の手により音楽劇『銀河鉄道の夜 2020』として蘇る。主人公のジョバンニを演じるのは、これがストレートプレイ初挑戦となる木村達成。数々のミュージカル作品で培ってきた舞台経験と感性を全開に、“身を削るほど”に没入している稽古から大いに刺激を受ける日々の中、自らが見つけ出した作品に内在する数々の魅力、演劇の楽しさ、そして、宮沢賢治から受け取った“伝えたい思い”について、真摯な言葉で語ってくれた。

ーー本作の出発点、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』はご存知でしたか?

タイトルは知っていましたけど読んだことはなかったんです。今回、出演にあたって初めてちゃんと読みました。初見はかなり理解し難い部分もありましたが……原作を読み、台本を読み、稽古に入る前までは本当に「これが童話としてどう成立していたんだろう。童話として子どもはどう見ているのか?」って、ずっと気になっていました。でも稽古が始まってみたら、このお話が童話である意味が自分なりに理解できてきたように思います。その……他人を思いやる気持ちとか、人としての生き方というのが賢治の宗教観も含めて難解な表現で書かれているとは思うんですけど、やはりファンタジックで子どもたちが好きそうな独創的な描写もたくさんある。僕が特に魅力を感じたのは──読者ではなく役者としての観点からですが、突然「銀河ステーション」というものが出てきて、作品の世界がスッと変化するところ。好きですね。この物語を読み解く入り口であり、自分で演じてみて好きになった場面です。

ーー物語前半、ジョバンニが“境界”に立った瞬間。

もう出るべくして出てしまったジョバンニの幻影というか……あくまでもファンタジーではあるけれど、やっぱりジョバンニがそれまでの毎日でどれだけ心を痛めたか、どれだけ疲弊していたか、もう本当に憂鬱になってしまうぐらいの耐え難い描写の積み重ねの果てに「死者の列車」に乗ることができるのは、かなり感慨深く必然的な出来事ではあるし、自分自身もそこまで気持ちを追い込まないといけない。あれはたぶん、本来は天上へ行ける列車なんです。そしてジョバンニも選択次第ではそちらに行くことも可能だったと思う。でも天上へは行かず列車の中から消滅し、こちらに戻ってくる人間側に居て……。これは、ホントにそれぞれの解釈があっていいと思う物語。ただ僕が今の段階で解釈しているのは、列車に選ばれた人間がカムパネルラといった他の乗客で、ジョバンニはその人たちの主張を聞き、彼らがそれぞれに生きてきた“証明”をしていく役目だった。だから、彼らのことをずっと思い出してあげることというのが、今回の僕の役のあり方なのかなとも思うんです。

ーー演出の白井さんとは稽古場でどんなセッションができていますか?

始まる前に一度オーディションのような形でお会いして、でもその時は細かなお話は何もしなかったので、みんなと同じで、稽古に入ってから「よーい、ドン」の関係です。白井さんは一節一節セリフを言うにあたっても実際に動きなから「こういう気持ちになったことあるよね」とか、「こんな感じでもやってみてくれる?」って心情に寄り添っていろいろ仰ってくださる。25年前の初演も演出されているので、作品への思い入れは強いはずでしょうが、自分のイメージを押し付けるわけではなく、一人ひとりの人間をちゃんと見てくださる。お芝居に対するノートやシーンの具体的なイメージなども丁寧に伝えてくださるので僕らとしてはキャッチしやすいですし、ありがたいです。

また、未だコロナ禍という状況での上演になったので、初演の時は大人数だったところを今回はかなり少数のカンパニーでやっていて、僕とカムパネルラ以外はみなさんがいろんな役をやるんです。銀河鉄道の乗客にもなるし、他のキャラクターも演じる。そういうところでも僕は「演劇って楽しいな」って思います。一人の役者の中にいろんな役の姿が見え隠れして、また、本人同士で話し合う時間もあって……その度に別人同士というか、いろんな関係が築ける。人っていろんな面があるから面白いなと、あらためて感じられてます。

木村達成

ーー自分の中にある気持ちともアクセスしながら、この、ある種難解だったり非常にファンタジックな世界に埋没していくような稽古の日々。

「演じる」って難しい。聞き馴染みのある言葉だからみんなも「それは表現の中のひとつである」とは理解できているけど、そこにはたぶんもっともっと深いポイントがあって……演じているときに湧いてくる言葉とか、気持ちの中の整理とか、自分の心情がどうなっているかというのが役者自身セリフを発している中で見えないと、それはもうただの嘘になってしまう。そもそも「演劇」が、「演じること」が「嘘」だったとしたら? いくら嘘でも嘘をつくための嘘が嘘過ぎて、さらにそこでどんどん嘘をついていったら、演劇として成立していかなくなってしまいます。

ーー「本当に嘘をつくこと」に向けてもがいている?

ジョバンニを作る上ではそういうのがかなり大切なポイントになるのかなって、今はすごい考えていて……それこそ自分の気持ちの整理はすごくしています。僕はジョバンニとして確信のある発言をしなきゃいけないんだと思う。それでいて、提示してしまい過ぎることも問題なんです。あれこれ言葉で説明していくのは難しくないけれど、それよりも説明以上に「その言葉の本当」が自分の中で輝いてくれば、ジョバンニとしての……木村達成が描くジョバンニとしての姿が自ずと舞台で出るのではないのかな、と。たぶんそこの境地までいくのってかなり困難なことだとは思う。で、例えばこの作品でそういう作業ができても、たぶん次の作品ではまたゼロからなので……もうできなくなっているんでしょうね。そして、そういう稽古が今はとても楽しい! すごく集中力を使っているので、ちょっと休憩に入ると絶対食べるんです、おにぎりを。それがないと集中できなくて。なんかもう一日があっという間に終わってしまいますし、稽古が終わるとクタクタです(笑)。

ーー物語の軸となるジョバンニとカムパネルラ。カムパネルラ役の佐藤寛太さんとは初共演ですね。

僕は人から見ると「独特な雰囲気を持っている」らしいんですけど(笑)、寛太くんも独特な雰囲気を持っている方ですね。ジョバンニとカムパネルラはこの台本上ではあまり会話をするシーンが多くないので、心から通じ合っている仲というのは、たぶんプライベートでの会話から育んでいくのがいいのかな。稽古場の席が隣同士なので、合間にプライベートの話、お仕事ではない会話をすることも多いです。役としては木村達成のジョバンニ、佐藤寛太のカムパネルラというのが生まれ、そこから各々で理解しあえるところがこれから絶対出てくる。そういう姿をちゃんと受け取って親身に寄り添い、お互いを感じあうことができればいいのではないでしょうか。

ジョバンニとしては、岡田(義徳)さんが演じるケンジというポジションもキーです。彼はかなり特殊な存在で舞台上の人々に見えているのかいないのか……僕と一緒に会話するシーンもあるんですけど、それも厳密には会話じゃない。ケンジの言葉なのか、ジョバンニの言葉なのか、それともケンジが作り出しているジョバンニなのか……。そのふわっとした感覚も、未完の作品と言われる『銀河鉄道の夜』にふさわしい、見応えのある表現になっていると思います。

ーー音楽を担当されているのは、アメユキ役で出演もされている、さねよしいさ子さんです。

本番は生演奏なんですけど、稽古場で録音したモノを聴いたときに“ジョバンニの心情”みたいなのがメロディにすごい込められていて。ジョバンニとして聴くとかなりダイレクトに憂鬱な気持ちになってしまいそうな(笑)、素晴らしいメロディラインがたくさんありました。さねよしさんの個性的なヴォーカルとも相まって、とても強い作品観。耳で聴くだけなく、感じる、思う、視る──もう五感全部で味わう音楽ですね。その音楽と僕たちのお芝居とで紡ぐ「音楽劇」、僕自身はこれは新たなコンテンツだと感じています。

ーー木村さんの中の『銀河鉄道の夜』が、どんどん鮮やかになっていますね。

『銀河鉄道の夜』は下書きから第1稿〜第4稿ぐらいまで、約100年前から推敲を重ねて書かれた賢治にとっては未完の童話。出版されるごとに内容も違うところがいろいろあると聞いているので、きっとまだ「正解」はないんだと思う。けれど、今も昔も変わらない“大切なところ”がそこにはずっと書き記されていて……宮沢賢治はひとりの人間としてここまで様々なことを考えながらひとりイーハトーブの地に立っていたのかって考えると、とても興味深いし、この作品に込められた祈りのありがたみを強く感じます。その2020年のバージョンを、白井さんと一緒にこのカンパニーで作り上げられるというのはまた面白いところで。だってそれって僕らが今、賢治の生きた証みたいなのを証明していることですから、それもまた良い意味で繋がっていけばいいのかなと。

木村達成

ーー死後に出版されたため賢治自身も自分の作品が後の世でこれほど愛され続けていることは知らないけれど、その崇高な思いは人々の心の中で脈々と生き続ける。木村さんたちもこの作品の「研究者」として物語を紐解いていくというところでの創作の楽しさは、ある意味格別で。

ラストでカムパネルラがジョバンニに言うんです。自分が生きていたことを証明して欲しい。その証明とは一体何なのか……? と。稽古場で日本の文化で考えると例えば四十九日とか、そういうことが死者を思い出してあげる時間でもあるよね、という話になった時、僕はそれがかなり胸に刺さりました。劇中では「証明して欲しい」へのジョバンニのアンサー、レスポンスが「うん」しかなくて……でも自分はそこの気持ちにはかなり乗っていける。「大丈夫だよ。思い出してあげるよ、安心してね」って、心を込めて仏壇に手を合わせるみたいな感覚をかなり覚えられたので……きましたね、気持ち的にはぐっと。そこはまだまだもっともっと深くなると思います。結局フィクション、お話を演じるというのは、そこに描かれていることだけじゃなく自分たちが生きている中で感じたり発見していくこと、各々で経験したものも多少なりとも入っていると思う。だからこのジョバンニは自分の作り上げてるジョバンニだし、寛太くんが作るカムパネルラだし、(宮崎)秋人くんの作るザネリだと思うので……。そうか、経験ってこういうところで生かされるんだなって、改めて身にしみてるんです。​

ーーそう思うと身の回りをより丁寧に見るようになったり、丁寧に感じ取れるようになれそう。

日々の生活もカラフルになるというか、彩られているなとは思います。今の状況下での日常でこの作品に触れ合っていると、いろんなところに面白いモノがあり、いろんな感情のスイッチのもとが潜んでいて、ちょっとした幸せもあちこちに転がっているのがわかる。今まで目がいかなかったところにいくようになって、改めて身の回りには無限にお芝居の素材が存在していて、改めてそれを駆使できる役者って面白い職業だなと思わせてくれるので、なんて豊かな作品だろうと思います。だから……ぐったりするんです、帰ったら(笑)。でも僕はちゃんとオフが必要な人なので、情緒のスイッチをオンしたら、しっかり切る瞬間もないと……無理〜。疲れて悩みながらやる稽古も大切だし、今はもちろんその時期だとも思うし、絶対的にこれは木村達成が成長していく上での大切な時期、大切な作品ではあります。だから……今は崩壊するぐらいやっていいのかもしれないんですけど、でもできるだけ崩壊はしたくないので……(笑)。

ーーうまくバランスをとりながら没頭したい、というジレンマが。

周囲の人が言うには、俳優・木村達成って限界にいるときのほうがいい表情をするし、良いことが起きるんですって。でもそんなのは僕は求めていない(笑)。それって自分ではZippoで言う「もう石がない」。カチカチッって無理やり火花出すような状態だと思うんだもん!(笑) でもね、それが面白いんですって……人の限界ってやっぱり面白いですから。声も、声帯がもうバチッて当たらなくてかすれ切っているような響きのほうが、お客さんの心って持っていかれたりとかしますしね。

ーー計算では得られない人間味、リアリティー……表現のエッジが効いてくる。

そう。だから僕、常に限界を狙いには行きたい──って、狙いに行っている時点でもう限界にはならないんだけど(笑)。でも「挑戦」という意味ではこの感じは常に持っていたい。ジョバンニも基本的にはおとなしい少年ですが、「だから静かに」とかそういうことを考えてしまうとすごい変なストッパーが効いちゃうと思うので、気持ち的にはいつもと変わらず、お客さんの感情の中に飛び込みに行くスタンスで。

ーー限界、カチカチッの木村さんですね。

はい。いや、もう今もホントに身を削りながら稽古をしてますし、今回の作品の「自己犠牲」というテーマにも正面から向き合って……なんか、今の世の中の状況も作品の内容的にはピッタリじゃないかと思うんです。僕はこの『銀河鉄道の夜 2020』をこの時期にやれることはすごいありがたいと思っています。そして、僕にとってもお客様にとっても最高な舞台になって欲しい。宮沢賢治という人格者がいた、その彼に対しての僕の思いは強いですし、作品に対する追求すべきテーマなんてもう……あっという間に100ほどは見つかると思うので、そういうところを追求して創り上げた世界を感じて取っていただけたら嬉しいです。僕、思うんです。人はみんながみんな星みたいに輝きを持っているって。この作品を通じてそれを証明していきたいし、お客様にも証明してもらいたいんです。僕らが2020年の今、この『銀河鉄道の夜』で賢治の思い、僕らみんなが生きてきた証を繋いでいるということを。

木村達成

『銀河鉄道の夜 2020』は、2020年9月20日(日)~10月4日(日)KAAT 神奈川芸術劇場<ホール>にて上演される。

ヘアメイク:馬場麻子

取材・文=横澤由香 撮影=平岩享

公演情報

KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース
音楽劇『銀河鉄道の夜 2020』

日程:2020年9月20日(日)~10月4日(日)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場<ホール>
 
【イープラス 貸切公演】
日程:9月21日(月・祝)開演:14:00~ (開場 13:15~)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<ホール>

■【手数料0円】 一般発売
受付期間:2020/8/29
10:00~2020/9/21月・祝13:00
申し込みは【こちら
 
演出:白井晃
原作:宮沢賢治
脚本:能祖将夫(将は旧字)
音楽監督:中西俊博
振付:山田うん

出演:木村達成 佐藤寛太 宮崎秋人 / 岡田義徳
 
さねよしいさ子 明星真由美 有川マコト 伊達暁
飯森沙百合 伊藤壮太郎 黒田勇 西山友貴 山口将太朗
 
ミュージシャン:新澤健一郎(キーボード)、柴田奈穂(バイオリン)、小夜子(バイオリン)、ファルコン(ギター)、木村将之(ベース)、海沼正利(パーカッション)
 
企画製作・主催:KAAT 神奈川芸術劇場
 
代金】(指定席・税込)
S席 7,500円 A席 5,000円
U24 (24歳以下):3,750円
高校生以下割引:1,000円 シルバー割引(満 65歳以上):7,000円
※車椅子でご来場の方は事前にかながわにお問い合わせください。
※未就学児の入場はご遠慮ください。

お問合せ:かながわ 0570-015-415(10:00~18:00)
公式サイト:http://www.kaat.jp
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