『ターニングポイントフェス~関西小劇場演劇祭~』記者会見レポート、「関西演劇界が再びつながっていく、そのきっかけになれば」(古川剛充)
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会見に出席した「ターニングポイントフェス~関西小劇場演劇祭~」実行委員たち。(左から)橋本匡市(万博設計)、わかぎゑふ(リリパットアーミーII」)、古川剛充(「ゲキゲキ/劇団「劇団」)、小西透太(「ゲキゲキ/劇団「劇団」)。
新型コロナウイルスによる自粛から、少しずつ活動再開の気配が見え始めた関西演劇界。しかし今もなお、ほとんどの劇団が公演を打つこともままならず、観客は観客で感染を恐れて、劇場での観劇をためらってる人が少なくない。そんな状況を打破するために、関西の劇団が結集して「ターニングポイントフェス~関西小劇場演劇祭~」を開催することが決定した。
中心となったのは、大阪の若手劇団「ゲキゲキ/劇団「劇団」(以下ゲキゲキ)」。その熱意で先輩劇団も巻き込み、キャリアもジャンルも様々な18団体を招へいすることに成功した。さらに、演劇ファン以外にも作品を届けるため、当日のライブ配信を無料にするという、思い切った決断までくだしている。2020年8月25日に会場の[ABCホール]で行われた、演劇祭の会見の模様をレポートする。
出席したのは、フェス実行委員となる、ゲキゲキ主宰の古川剛充、ゲキゲキ団員の小西透太、「リリパットアーミーⅡ」座長のわかぎゑふ、「万博設計」代表の橋本匡市。ことの発端は、もともと9月に[ABCホール]での公演を予定していたゲキゲキの中で「普通の公演ではなく、いろんな劇団と一緒に何かやってもいいのでは」という声が上がったのと、古川がわかぎと対談したことだったという。
「自粛は開けたけど、行政が示すガイドラインにのっとると興行的には厳しいし、いろいろあってお客さんも(劇場に)来づらい状況の中、どうしていこうかと考えて。その時に小西が、演劇フェスのアイディアを出してくれました。一劇団では厳しくても、幾劇団かが手を取り合って、一つの公演を打てば盛り上がるんじゃないかと。
それと同時期に、わかぎさんとツイキャスで対談をさせていただく機会があり、そこで「関西小劇場を挙げた、お祭みたいなことをしても楽しいよね」という話が出ました。それがこのアイディアと結びついたので、橋本さんにも相談を差し上げて、すぐに企画を立ち上げました」(古川)。
4つのブロックに分かれた18団体は、各自20分以内の短編を上演する。キャリア的には、今年で結成40周年を迎えた「南河内万歳一座」のような大ベテランから、大阪朝鮮高級学校の現役高校生による「演劇部希望」のようにフレッシュな集団まで参加。ジャンルの方も、パントマイムの「いいむろなおきマイムカンパニー」や、ギリシア悲劇の朗読を行う「清流劇場」、人形劇に挑戦する「劇団往来」と、実にバラエティに富んでいる。
「ターニングポイントフェス~関西小劇場演劇祭~」参加団体一覧。
その中でも異色なのは、この演劇祭のために結成された「スペシャルユニット」。これは劇団に所属しない、フリーの俳優に参加してもらうために立ち上げたユニットだそう。
「劇団所属の役者さんでないと、フェスに出られないというのは寂しいので。フリーの方々にも枠を作るため、今回限りのユニットを結成します。演出は「スクエア」の上田一軒さん、脚本は二朗松田さんをお迎えして、ZOOMでオンラインオーディションを開催しました。審査はすごく難航したんですが、10名の役者さんに参加していただきます」(古川)。
そして一番のエポックとなるのは、You Tubeでのライブ配信を無料にしたこと。会見に出席した記者からも「有料にしてもいいのでは?」との質問が出たが「関西小劇場の間口を広げる、一つのターニングポイントにするために決断した」と、古川は言う。
「僕はもともとバンド活動をしていて、演劇を観た時「こんなに良いのなら、もっと(前から)観てたのに」と思った一人なんです。そんな風に、一度観れば「面白い」と思ってもらえる人は多分いる。そのファーストステップとして、有料にするか無料にするか……たとえばこの時代、900円のサブスクでいろんな映画が観られる。You Tubeだと無料でいろんな動画が観られる。そこで500円とかの敷居があって「じゃあいいや」となることを防ぎたいと思いました。
「無料だから観てみよう」となって、10人のうち1人でも「面白い、劇場に行ってみたい」という気持ちになってくれたらいいと思います。当日は(配信用の)カメラを3台入れて、スイッチングを同時に行う予定です。演目と演目の間は、転換や消毒などで5分ぐらい時間が空きますが、その間にインタビューやCM的な何かを入れて、番組チックに構成していければ。配信のお客様には、演劇を楽しむだけでなく、演劇祭の様子もわかるよう工夫したいです」(古川)
とはいえ劇場の
「今はどこの劇団も、お客さんを十分収容できない代わりに、
会見中の実行委員たち。(左から)橋本匡市(万博設計)、わかぎゑふ(リリパットアーミーII」)、古川剛充(「ゲキゲキ/劇団「劇団」)、小西透太(「ゲキゲキ/劇団「劇団」)。
どの団体も、現時点では無償どころか手弁当で参加することになるが、わかぎからは参加劇団を代表するような形で、こんなコメントが。
「正直な話、今はどこの劇団も公演ができないので、やれる場所があるなら馳せ参じたいという気持ち。だからお金のこととか、誰も考えてないと思います。お客様の前に立てて、観ていただけるという喜びが、18団体すべてにあると思うので。だからお金のことは、あまり言わないであげて(一同笑)」。
またゲキゲキに巻き込まれ「いつの間にか、実行委員に名を連ねていた」と言うわかぎと橋本は、コロナ禍における演劇の現状と、演劇祭に対する思いについて、以下のように語った。
「かつて[近鉄小劇場]や[OMS(扇町ミュージアムスクエア)](注:いずれも以前大阪にあった小劇場)がなくなった時、「小劇場の火が消えた」みたいに報道されて、私たち劇団はなくなっていないにも関わらず、小劇場そのものがなくなるというとらえられ方をされまして。それによって本当に、小さな劇団がバタバタ潰れていった時代がありました。そこからじょじょに小劇場が戻りつつあったところに、このコロナという状況で、また「劇場に行かない方がいい」という書かれ方をされています。
劇場はなくなっていない、小劇場の劇団も生きていますよ……ということを、自分たちで報道していくことに加担していかないと、あの時の二の舞になるんじゃないかと、私は恐れています。報道によって劇団までが潰れるようなことを、一つでも食い止めたい。これだけ幅広い劇団を、一気に観られることはなかなかないと思うので、配信でもいいから観ていただきたいと思います」(わかぎ)
「ターニングポイントフェス~関西小劇場演劇祭~」タイムスケジュール。
「内藤裕敬(南河内万歳一座)さんが演出した『日本三文オペラ』(2004年)という、関西の劇団のお祭のような作品を観て、僕は「あのメンバーに選ばれるような団体になりたい」と思い、劇団を始めました(注:「万博設計」の前に結成していた「尼崎ロマンポルノ」のこと)。観客の方に楽しんでいただくと同時に、演劇人が新たに演劇を始める機会となるようなフェスになったらいいなあと思います。
今は演劇とお客さん、あるいは演劇自体が社会一般と分断されてしまうんじゃないかという恐れを、強く感じています。クラスターが起こったために、お客さんがこのまま小劇場に足を踏み入れないんじゃないか? という怖さもありますし。徹底して(感染予防の)対応をして、大阪で演劇公演ができるんだ、小劇場があるんだということを示すことができれば、今後も演劇が続けられるという自信になると思います」(橋本)。
ちなみに今回の感染予防対策だが、政府のガイドラインでは、客席は通常の2分の1使用できるところを、あえて4分の1となる75席に。この理由を古川は「出演者が多いので、劇場に出入りする人数が(通常の演劇公演より)多い。僕たちに何かあると、今回参加しなかった劇団さんにも迷惑になってしまうので、より厳しく安全な席数にしました」と語る。また全参加団体には、稽古でも必ず全員検温を義務付けるなど、実行委員が設定したガイドラインを共有の上、徹底してもらうという。
またこの演劇祭については「できれば今後も継続していきたい」と、実行委員のメンバーは口をそろえる。
「一つの劇団だけで活動するのも素敵だけど、やっぱり今後は横のつながりというか、密にならないといけない時代になってきているのかなと思うので。これからは関西小劇場界がもう少し結託というか、つながっていくことで、マーケットをどんどん広げていくのが大事だと思います。また今回の企画を通じて、ふっこさん(わかぎ)や内藤さんなど、いろんな方と話をするのがとても勉強になったし、それは皆さんにもやってもらいたい。交流の機会になるという意味でも、続けた方がいいと思ってます」(古川)。
「OMSがあった頃は、小劇場の劇団ってみんなが知り合いで、それが関西の強みだったんです。偶然一緒に飲んだのがきっかけで「客演に来いよ」みたいなことも、日々あったので。無償でもいいから、みんなが集まる機会を作ったら、そこで私たちが若手に何かを伝えることもできる。それこそ高校生の劇団が「大人になってもアホおんねんや。(演劇)やめなくていいや」と思ってくれるかもしれない。私たちは本当に小売店みたいなものなので、年一回ぐらい団体化するお祭があっていいし、ゆるく続けていけたらいいと思います。(演劇祭が)やれない年は、飲み会だけでもやればいいよ(一同笑)」(わかぎ)
(左から)橋本匡市(万博設計)、わかぎゑふ(リリパットアーミーII」)、古川剛充(「ゲキゲキ/劇団「劇団」)、小西透太(「ゲキゲキ/劇団「劇団」)。
まさに演劇をする側にも観る側にも、当分続くコロナ禍の世界を駆け抜けるための、気合を入れる機会となりそうな予感がする演劇祭。記者会見ではレポートの通り、その赤字覚悟ぶりを心配する声が次々に上がっていたが、現在クラウドファンディングを立ち上げて、広く運営資金を募っている所だ。
「上手いこと行かせて、参加した皆さんに『これからの活動資金にしてください』というお金をお渡しできるよう頑張りたい」と古川。この記事を読んで心を動かされたら、ぜひ協力をご一考いただきたい。きっと当日の配信では、それだけの価値があったと思えるような舞台が展開されるはずだから。
取材・文=吉永美和子
公演情報
「ターニングポイントフェス~関西小劇場演劇祭~」
■参加劇団・スケジュール ※表記は出演団体順。
〈19日マチネ Aブロック〉
ゲキゲキ/劇団「劇団」、演劇部希望、Z system、清流劇場、オパンポン創造社
南河内万歳一座、劇団レトルト内閣、いいむろなおきマイムカンパニー、MousePiece-ree ※オープニングで座談会あり。
劇団とっても便利、無名劇団、VOGA、May、リリパットアーミーⅡ
万博設計、劇団往来、匿名劇壇、スペシャルユニット ※オープニングで座談会、ラストにグランドフィナーレあり。
■料金:1ブロック3,000円 ※当日You Tubeで無料ライブ配信実施。
※9/30までクラウドファンディング実施中。https://motion-gallery.net/projects/turningpoint-fes
■問い合わせ:gekigeki.staff@gmail.com(ゲキゲキ/劇団「劇団」)
■公式サイト:https://www.geki-geki.com/turningpointfes