【インタビュー】シス・カンパニー新作『たむらさん』(作・演出:加藤拓也)は、橋本淳×豊田エリー出演の「答えが2つ以上ある話」
(左から)加藤拓也 豊田エリー 橋本淳 (撮影:寺坂ジョニー)
シス・カンパニーが新作舞台『たむらさん』(作・演出:加藤拓也)を、2020年10月9日(金)~11日(日)に新国立劇場小劇場で上演する。
コロナ禍により劇場スケジュールに生じた空き期間に「じゃあ、何か面白いことをやってみよう」と、シス・カンパニーが新進気鋭の劇作家・演出家として注目されている加藤に声をかけたことから始まったという今回の公演は、加藤による書き下ろしで、出演者は加藤が主宰する<劇団た組>の昨年公演『在庫に限りはありますが』にも出演した橋本淳と豊田エリーの2人だ。
椅子に座った男性とその背後でキッチンらしき場所に立っている後姿の女性のイラストビジュアル、ある男が淡々と語り始める冒頭から始まる物語、という以外謎のベールに包まれている本公演について、作・演出の加藤と出演の橋本に、先ず話を聞いた。また、2人へのインタビュー終了後に、本読み稽古にやって来た豊田も短時間ながらインタビュー取材に応じてくれた。
(撮影:寺坂ジョニー)
■加藤拓也(作・演出)&橋本淳(出演)に聞く
<シンプルに思えるけれども、色彩豊かな作品>
――お二人の出会いからおうかがいしたいのですが、橋本さんが加藤さんの作品にご出演されたのは、昨年4月の劇団た組『在庫に限りはありますが』が初めてだったのでしょうか。
加藤 舞台はそうですね。実はその直前に、ショートドラマみたいな映像でご一緒してるんですけど。
橋本 会ったのはもっと前ですよね。
加藤 福田雄一さん演出の舞台『スマートモテリーマン講座』(2017年)を見に行った時に橋本さんもいらしてて、そこでご挨拶したのが初めてでした。
橋本 それから劇団公演のオファーをいただいて、台本を読んだらとても面白かったので、これはやりたい、やらせてください、ということで出演しました。
橋本淳 (撮影:寺坂ジョニー)
――橋本さんは加藤さんの作品のどういったところに魅力を感じていますか。
橋本 着眼点とか、物の見方とか、それを表現する方法が本当に見事ですね。いやらしさもなく、でもストレートでもない妙な変化球で、演じる側としては非常にややこしくて難しいんですけど、本当に面白い台本なんです。今作では、またさらにパワーアップしたなというのを感じています。
――加藤さんからご覧になって、橋本さんはどんな俳優さんだと思われますか。
加藤 複雑なことを簡単にせず、複雑なままお芝居にしてくれるところがすごく魅力だと思っています。普段から結構、難しかったり複雑なことを簡単にしてしまいがちなんですけど橋本さんは、ぐちゃぐちゃなものをそのままやってくれる俳優さんだと思います。
橋本 ぐちゃぐちゃしたことが書かれてる本だから、演じる方もそうならざるを得ないんです。でも加藤さんの本って、そこが楽しいんですよね。一見シンプルに思えるんですけど、その中にはいろんな感情とか、グラデーションがあるし色彩も豊かなので、それを字面通りやっても面白くないし、書かれていることの答え探しというか、答えなんてないんですけど、自分の中での答えを探したりとか、加藤さんが求めているのは多分こういうことなんだけど、絶対その通りにはやりたくないという思いを乗せたりとか、脚本を書いている加藤さんと、芝居をするこちら側とで戦っている感じがあるところが楽しいですね。
――今作の出演は橋本さんと豊田さんのみですが、お2人は『在庫に限りはありますが』でも共演されています。
橋本 豊田さんは本当にクレバーで、自分らしさみたいなものを変に出さずに役の中でちゃんと表現できるし、こちらが投げたものに対してベストなものを返してくれる、技術もあるしパッションもある、とても信頼できる素敵な俳優さんです。今回もものすごく助けられています。
――加藤さんからご覧になった豊田さんはどんな俳優さんですか。
加藤 とても素直な方ですよね。飾らない無邪気さみたいなものがエリーさんの魅力だなと思っています。それが作品を通じたときに、大人っぽさに変わるというのがまた面白いなと思いながら見ています。
加藤拓也 (撮影:寺坂ジョニー)
<答えをいくつも見つけてしまっている人の話>
――橋本さんは今回の『たむらさん』の台本を読まれてどのような感想を持たれましたか。
橋本 また複雑なこと書くな、というのが正直なところでした。でも読み物としても面白いし、実際舞台を見たいなと思える、想像力をかき立てる台本です。ある男の人の話なんですけど、本当に現時点で世界中の人が目にしているようなことだと思うんですよ。ある事に対して第三者がああだこうだ言って、興味がなくなったらそこからスッと離れていくみたいな、そういうことの残酷さだったりが書き込まれているので、今これを劇場でやることの意味は本当に大きいなと思います。やる方としては「ちょっとこれは嫌だな」って思うくらいキツイんですけど、難しい分面白さが詰まってると思うので、今3人で大切に作ってます。(加藤に)内容はどう説明すればいいですか?
加藤 正解がないような時代になっちゃったから、答えをちゃんと見つけられないことの方が大事だったりするかもしれない話?
――今作は、本番を上演する新国立劇場小劇場の舞台で稽古をやるそうですね。通常でしたら稽古場で稽古して、一回稽古場をバラシてある意味一区切りつけてから劇場入り、となるところが稽古開始から本番までずっと劇場にいることになります。
橋本 もう逃げ場のない状態を役者は用意されてるんですよ。これだけ贅沢に照明もあるし、劇場空間もあるし、「全部用意してあるからお前らちゃんとやれよ」みたいな感じで、恐ろしいですよね(笑)。稽古場だと役者がある程度想像して補填しなきゃいけない部分もあるんですけど、もう本番の舞台が目の前にドンとあるのでそれは有難いです。
――公演期間も短いですし、コロナ禍だからこそ立ち上がった公演ということで、特別なものになりそうですよね。
加藤 そうなんですよ。突然(プロデューサーの)北村明子さんから携帯に着信があって、そのとき電話に出られなかったんですけど、そうしたらSMSで「電話できますか?」って送られてきて。何か怒られるのかな? ってビクビクしながら折り返したら、「事務所来れますか?」って。電話では内容を教えてもらえなかったんでますます怖くて(笑)。
橋本 いきなり北村さんから電話が来たら確かにドキドキする(笑)。でも北村さんのそのバイタリティのおかげでこうして大きな船に乗っからせてもらえた。
橋本淳 (撮影:寺坂ジョニー)
<この公演は最後までみんなでゴールを切りたい>
――現在のコロナ禍については、お2人も少なからず影響を受けたと思います。劇団た組は『誰にも知られず死ぬ朝』を2月22日(土)~3月1日(日)に上演されました。
加藤 公演はできましたが、でも客席は半分くらいキャンセルになっちゃいましたね。
――橋本さんはご出演されていた『泣くロミオと怒るジュリエット』が途中から公演中止になってしまいました。
橋本 ちょうどた組と公演時期がかぶっていて、『泣くロミオ~』の休演日にた組を見に行ったら、その日に「明日から公演中止です」という連絡が来たんですよ。
加藤 『泣くロミオ~』に出演していた高橋努さんも見に来てくれたんですけど、2人とも劇場ロビーでものすごくつらそうにしていたことを憶えています。
橋本 なんかもうびっくりしちゃって……だから努さんと2人でた組の芝居見ながら「俺たち、明日からできないんだ」って泣けてきちゃったんですよ。
――様々な状況を経て久しぶりの舞台公演となりますが、今のお気持ちはいかがでしょうか。
橋本 これまで60本くらい舞台に出演していますけど、初めて「あ、できなくなるんだ」と思った経験でしたね。これまで当たり前に来ていた千秋楽が、こんな簡単に来なくなっちゃうんだ、って。「昨日やった公演が最後でした」って後から言われても、ちゃんとゴールできなかった、っていう感じで気持ちはずっと宙ぶらりんに残ったままでした。今回『たむらさん』をやるにあたっては、細心の注意を払って最後までみんなでゴールを切りたいな、という思いがより強くなりました。
加藤 僕は9月26日・27日に日生劇場で上演された『MISHIMA2020』の中の一作品で作・演出を担当したので、そちらの稽古が先に始まっていました。ただ、その稽古がスタートしたときに、稽古場に行くってこんな緊張したっけ、というくらい久しぶりに緊張しましたね。稽古場への道とか乗る電車とか間違えて全然たどり着けなかったし。だから久しぶりの劇場に入って、半年ぶりだからそんなに経ってないはずなんですけど、一回絶望的に「もうできないんじゃないか」みたいな気持ちになってしまったから、やっぱり感慨深いものがありました。
加藤拓也 (撮影:寺坂ジョニー)
――劇場で公演ができない間も、加藤さんはいろいろ精力的に活動されていました。リモート演劇などをやってみて、何か思うところはありましたか。
加藤 リモートは画面を一個挟んだ途端に急に“フィクション”だと感じてしまう感覚とか、全部が効率的になってしまうことへの気持ち悪さみたいなものもありました。人間の出来不出来というものが一回機械を通すことによって均一になってしまう感じというか。それがリモートを何本かやってみた感想です。
――では、公演を楽しみにしていらっしゃる皆様へのメッセージをお願いします。
橋本 こういう時ですし、一概に「来て下さい」と言えないところが悔しいんですけど、覚悟決めて来てくださる人には満足してもらえるものを作ろうと今努力しています。やっぱり演劇は時間と空間を共有することが醍醐味だと思うので、無理のない範囲で劇場に来て、感じていただきたいなと思います。
加藤 演劇をまたやらせてもらえる機会をいただけたので、思いっきりやらせていただいて、劇場に見に来てくださる人たちに楽しんでもらえるものになったらいいなと思います。
(撮影:寺坂ジョニー)
■豊田エリー(出演)に聞く
<緊張も楽しみながら演じたい>
加藤と橋本へのインタビュー終了後、本読み稽古前の豊田が、急遽インタビュー取材に応じてくれた。
豊田エリー (撮影:寺坂ジョニー)
――今回の公演が、作・演出が加藤さん、そして昨年の劇団た組公演に出演していた橋本さんと豊田さんのお二人が共演ということで非常に期待が高まります。
豊田 昨年た組に出演させていただいてから、加藤さんの作品は内容を知らなくてもOKという気持ちで、今回も本を読む前にもう「出る!」って答えちゃいました。出演が決まった後で台本を読んだんですけど、今回は読んでいても足元が不安定になるような、目の前がクラっとするような展開を見せるので、そこは楽しみにしていてもらいたいと思います。私の役は「あの人誰なんだろう?」っていうところも面白さの一つで、お客さんたちにとってどういう存在に映るのか楽しみです。
――橋本さんとの共演はた組以来ですね。
豊田 淳さんは、いろいろ抱えている人を見せようとするんじゃなくて、姿勢だったり声だったりに乗せることができる、素敵な表現をされる方だなと思っています。共演したときにすごいなと思ったのが、淳さんは舞台でも普段しゃべってるときみたいな感じで話してて、ボソボソというトーンで、声を張ったりしないんですけど、ちゃんと言葉が届くんですよ。だから今回も淳さんのお芝居を楽しみにしています。
豊田エリー (撮影:寺坂ジョニー)
――豊田さんは5月にご出演予定だったイキウメの公演が中止となりました。公演ができない期間などを経て、今回舞台に立つにあたりどういったお気持ちですか。
豊田 イキウメは公演中止になってワークインプログレスを行ったんですけど、公演をする予定だった東京芸術劇場をお借りすることができて、ある意味劇場でお芝居をすることは出来たんですね。でもやっぱりお客さんが入って作品というのは完成するんだなということを感じた期間でもありました。お客さんと共に一つの空間でまたできることをすごく心待ちにしてましたし、今回は3日間3公演と短いですが、作品が回を追って成熟していく感じも楽しみです。
――今作は短期間ですし、本当に特別な公演になりそうですね。
豊田 ワクワクする企画だな、と思っています。今お話ししながら、これはすごい緊張するかも、と思い始めました。でもとにかく演劇ができることが嬉しいので、その緊張も楽しみながら演じたいと思います。
――それでは公演へ向けてのメッセージをお願いします。
豊田 今のこの日常だったり時代だったり、私たちの生活と地続きの世界のお話しです。本当にこういうことはあるし、こういう人はいるんだ、という実在感のあるお芝居になっているので、ぜひお越しください、ってなかなか明るいトーンで言える時期ではないんですけど、いろいろなタイミングが合えば見に来ていただきたいな、と思っています。
(撮影:寺坂ジョニー)
取材・文=久田絢子 写真撮影=寺坂ジョニー
公演情報
■出演:橋本 淳 豊田エリー
■会場:新国立劇場小劇場(東京・初台)
■料金(税込):S席¥5,500 A席¥3,500
■一般前売開始日:2020年9月26日(土)
■公式サイト:http://www.siscompany.com/tamurasan/