残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」河原雅彦×中村倫也にインタビュー
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河原雅彦、中村倫也 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
「ライチ」をこういうやり方で上演するんだ、でもこれは「ライチ」だ、これぞ演劇だって思わせますよ
12月18日(金)からAiiA 2.5 Theater Tokyoにて残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」(以下、「ライチ」)がスタートする。以前、本作の稽古が始まる前にe+ Theatrix!で取材させていただいた演出の河原雅彦と主演・ゼラ役の中村倫也に再び話を伺ってきた。稽古場を訪れた日は一度荒い通しをやって、それを直している最中とのこと。稽古場に仮のセットを組んでいる状態だった。
――この「ライチ」、演出を始める前と始めてからの印象を伺いたいんですが、正直手ごわい作品ですか?
河原:手ごわいは手ごわいですけど…ああしたい、こうしたい、がいっぱい浮かんで自分で大変にしちゃってるとこもあるかも。可能な限り準備をして稽古場に入りましたが、やっぱり稽古で変わっていくことや、新たに思いつくこともこの作品については多いので、まったく気が抜けず…。ただ、楽しいです。他の作品にはない楽しみがいっぱい詰まってる。「これ漫画だからできるんじゃん!」ということを、演劇を武器にどう活かして見せていくか、ものすごく演劇脳を使うので連日頭がチュンチュンです。だけど僕の場合、「大変は楽しい」ですから。充実感がハンパない。
――前回、毛皮族の江本純子さんが演出された「ライチ」ですが、今回河原さんが演出されることで、女性目線の演出が、「男性目線」での演出に、より少年のピュアなところが浮き彫りになるのかも、と思ったのですが。
河原:男女の違いというか、演出家としてのセンスが全然異なるので。とはいえ、作中に出てくる生々しい場面はより生々しく・・・そう思うのは僕が男性だからかなぁ。エモジュンはおもしろで処理していたけど、この作品が持つエロスや残酷性なんかは、たっぷりの臨場感をもって伝えたい。クラブメンバーの瞬間瞬間の刹那な感情も同じくね。
河原雅彦 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
――中村さんは本作の稽古に入るまで、映画・TVドラマと、ものすごい数の作品に出演されていて、ハタから見ていて「働き過ぎ!」と思うくらいでした。
中村:貧乏だからですよ!(笑)
――身も蓋もないことを(笑)今回久しぶりに河原さんとのお仕事ですがいかがですか?
中村:河原さんは、僕にとって演劇というもののおもしろさに気づかせてくれた人の一人ですし。河原さんが誘ってくれて一緒にやったことを、演劇界のほかの方が見て、それきっかけで声をかけてくれたり、いろいろな意味で恩師なんです。今回初めて主演として、「河原雅彦と一緒に作品を背負っていく」気合いみたいなものがありますね。今は稽古を続けていく中で、この「ライチ」がこうなったらおもしろいな、こうできたらいいな、って個人的に思っていたところに面白みを見出して稽古で詰めている段階です。原作ファンも多いですし、この作品の「髄」の部分を濃縮して、晒して、なおかつ歌劇としての楽しさを加えています。河原さんと同じ方向を見れているって感じています。
中村倫也 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
――歌・踊り・芝居とタフさが求められる作品ですね。
中村:団体競技な感じですね。ぬかりなく繊細かつ大胆に、要所要所作っていかないといけない芝居だと思います。
河原:こういう歌もダンスもあるステージって、それらすべてがレベルの高いところで「馴染む」までが難しいんです。演技やダンスができていても歌ができてなかったら残念なものになっちゃうし、ダンスがどんなによくても演技ができていなければ、その芝居は台無しになる。で、各登場人物が歌・演技・ダンスを「役として」演じられていないと、観る方は感情移入出来ないっていうね。どんなタイプの舞台でも「役として生きる」のが一番大事なことだから。そこができてないとお客さんに届くものも少なくなる。歌・演技・ダンス、すべてのクオリティを高いところでキープしたままこの舞台をやりきることが到達点。それができたときはストレートプレイにはない、すごい威力があるんです、音モノの舞台は。
――この作品でいちばん大変なシーンでどこですか?演じる側と演出する側で異なると思うのですが。
中村:個人的にゼラとしては、最初に裏切られたところですね。物語としての玉をついて、そこからどれだけ終幕に向けて転がしていけるかという…いろいろな可能性のある場面ですね。
河原:やはり漫画って絵の力がすごいから。漫画は一コマで十分な説得力を持つ。たとえばこの作品のストーリーラインをそのまま芝居にするだけだと、いっぱい疑問が出てきちゃうんですね。この人は何でそんな風に思ったんだろうとか、それをどのタイミングから思っていたんだろう、とか。さっき中村くんが言ったゼラの展開も、漫画なら印象的なゼラの絵があれば、それ一発で多くを説明せずとも読者に十分伝わるけど、演劇でそのままなぞっちゃうと唐突な展開にしか感じられないっていう。そのあたりをどう見せていくか。
あと漫画だと、大勢人がいるシチュエーションでも、コマ割で必要な人物だけを切り取ってるでしょ?けど、演劇だとそのシーンに出ている全員がお客の目に晒されているわけで、漫画では描かれていない部分をそれぞれの役者が埋めなきゃいけない。特にタミヤ役は光クラブに疑問を覚えてくる設定だから、そんな当たり前のことがこの作品ではデリケートで難しいというか。
河原雅彦、中村倫也 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
――ここでゼラが何かをしている場面でヤコブが何を思っているか、とか。
河原:そう。お調子者のヤコブ一人とっても、ちっとも手が抜けない(笑)。
中村:ドラマや映画でも同じことが言えますね。カメラが向いてくれないと何をやってても意味がない。舞台だと若い頃は脇役とかやってましたが「あ、頑張れば誰かが観ている」って気が付きましたね。それが面白いところでもある。
河原:でも、今回は歌にダンス、ステージングという武器がありますから。漫画原作が持つケレン味を演劇のケレン味でがつんと調理していけばいいわけで、歌劇という形で上演する今回の「ライチ」。いい感じでハマっていると思います。
――今回、東京ゲゲゲイのメンバーが加わりました。以前、「アスタリスク」に出演されたときに初めてナマのパフォーマンスを観たのですが、ものすごく中毒性があって、その後Youtubeで何度も観ていました。彼らと絡んでよかったことは?
河原:よかったことだらけです。MIKEYさんもこういう形でお芝居の振付に参加するのは初めてとのことで。僕も冒険だったんですがMIKEYさんはちゃんと「溶かしてくれる」んです。僕がリクエストする様々なステージングに対して、独立したパフォーマンスではなく、あくまで「ライチ」の世界観の中で東京ゲゲゲイを見せてくれる。僕のイメージを具現化するのを、MIKEYさんも楽しんでやってくださっている。
普通はなかなか難しいと思うんですよ、MIKEYさんはいわゆるただの振付師じゃなく、一人のアーティストですから。東京ゲゲゲイとしてのプライドやポリシーを当然持ってらっしゃるし、そうでしかるべきだし。でもここまで理想的なコラボが出来ているので、ちょっと他では見られない演劇になってると思います。ま、僕的にそういう舞台にするのが当初からの目標でしたし、まさに願ったり叶ったり。
中村:とても反応が速いですよね。ありがたいです。
河原:速いよね。音モノの舞台では、物語の意味を加味しながらステージングをつけていかなければならないので、「この曲に振り付けてください」みたいな単純なものではなかったりするのですが、MIKEYさんは初めてなのにとてもいい塩梅でその場その場にフィットしてくれて、アイディアも豊富だし理解度も高い。僕と倫也と東京ゲゲゲイ、そしてライチ。相性ばっちり(笑)。
河原雅彦 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
――話題になってリピーターが増えそうですね。
河原:できれば、最初からいっぱいの人に観に来てほしいです(笑)。もちろんリピーターも大歓迎ですけど。
――ところで、中村さん。ご自身が演じるゼラという人間を理解できますか?
中村:すごく一生懸命な人だとは思います。あと、友達の作り方が徹底的に下手。演じていて思いますね。
自分もわかるところはあるし、自分の子ども時代に周りにいた友達にもいろいろな片鱗があって、その集合体がゼラなのかな、と。あとは女の子にモテたいんだなとか、コアの部分はケバケバしい、ギザギザの外側をはがしたら、ちょっと賢いけど生きるのが下手な子どもで…。
そして農家の才能があるヤツなんだろうと(笑)農業したら絶対いいと思いますよ、ゼラ。だって埋立地にライチを3年で育てるんですから(笑)
――ゼラにとってのライチってどういう存在だと感じていますか?
中村:ゼラの個人的なコンプレックスを補う存在であり、暴力こそ最強、この世の真理みたいなところを担っている存在かな、と。ゼラは人間として産まれましたが、傷つきたくないから機械になりたいって思っていて。そこに人間らしい裏切りとかが入ってきて。逆にライチは機械として生まれ、人間になりたいという思いがあって、最終的には機械的なプログラミングで壊れていく。その対比もあるのかなと思います。
中村倫也 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
――原作を読めば読むほどゼラがかわいそうな子に思えてくるのですが。
中村:ゼラを本当に嫌う人とかわいそうに思う人を7:3くらいにしたいですね。演じていけばいくほどかわいそうな人だと思います。誰かが頭を撫でてあげれば少しは変わったのになあって。今、大人になっている自分としては、昔を思い出しながらゼラという“中坊”と向き合ってます。
――ゼラのような「“中坊”心」っていつぐらいまで持っていましたか?(笑)
中村:今でもあると思いますよ(笑)オープニングで「子どもとは自分本位に世界を作りたがる慈愛に飢えた動物だ」っていう女教師のセリフがあるんですが、俺、まだそれ全然残ってるなって。まだ子どもだと思います。
河原:“中坊”心・・・猥談が好きなところ(笑)常々語るんですが、所構わずふいに猥談を放り込むことってある意味僕のライフワークなんですよ。ただ、46歳の困ったオヤジだって思われるのだけが心外で。僕は小さいときから猥談が好きなだけで(笑)猥談に関しては「現役アスリート」のつもりなんです。ずっと実践しているから、たとえばピリピリした稽古場でも余裕で猥談を放り込める(笑)飲み屋で、とか、陰でこそこそと、とかいう猥談ではなく、常日頃からすっと差し込んでいくのがポリシー。生涯、大事にしていきますよ(笑)。
――共演の光クラブのメンバーたちと、稽古場でのコミュニケーションはいかがですか?
中村:ちょいちょい飲みにいってますよ。みんないい子です。
――ムードメーカーって誰になるんですか?
中村:あまり言いたくないけど・・・加藤(諒)くん…。
河原:まあね。あいつは顔面が反則だから、本人にその気がなくても勝手にこっちが気になっちゃう(笑)。このカンパニーではお兄さん的ポジションの玉置玲央とか尾上寛之とか、吉川純広くんも、いいムードを現場に持ち込んでくれています。つか、そもそも若い男が毎日わいわい集まってなにかをするって、自然と部活みたいな空気になるし。
中村:まさに「クラブ」ですね。
河原:ま、みんな頼りになるし、今回、若い力を還元してもらっている気がします。普段の座組みでは得られないものがこの座組みにはあるので、すごく楽しいですね。
――ジェネレーション・ギャップは?
河原:その辺は特に感じてないです。
中村:やっぱ「現役アスリート」だから(笑)
河原:稽古場でスペシャリストの猥談を聞けるわけだから、そこは尊敬してもらわないと(笑)。
中村:わくわくしますね。
河原雅彦、中村倫也 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
――河原さん、昔からB級ホラー映画とか大好きじゃないですか?そういう好きなものも今回の舞台で活かされていくんでしょうか?
河原:好きですね。アナログ感が好きなんですよ。今の時代だとCGや精巧な作り物でなんでも表現できちゃうけど、内臓が飛び出すとか、血をワーッと出すとか、大の大人たちが真剣に試行錯誤しながら表現していく感じがたまんないわけですよ。照明の具合とか、カメラアングル一つとっても細心の注意を払ったりね。
中村:技術の無駄遣い(笑)
河原:最初は自覚なかったけど、その創意工夫や現場の熱になんとなく惹かれていたんでしょうね。だから演劇というアナログを今僕はやっている。つながってはいますね。
――「ライチ」は頭からいたるところで内臓が飛び出たり血が噴き出したり、そして気になる「胴体を便器が貫通する」もありますが、そのあたりはどう表現するんでしょうか?
河原:こう見せる、というのは僕の中ですでにありますが、ナマでやるものですから漫画と同じにするのは無理だし…まあ、そこは発想の転換ですよね。その部分も含めて、観る側が「えっ、ここ、こんな?!」って目が点になるような舞台になる予定です。とにかくお客さんを圧倒したまま2時間を駆け抜けたい。「ライチ」をこういうやり方で上演するんだ!でも、これはまごうことなき「ライチ」だ!これぞ演劇だって。
河原雅彦、中村倫也 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
――今回の公演中に中村さんがラスト20代となる日を迎えますね。
河原:あ、そうなの?
中村:あ・・・29歳ですね。自分の年齢忘れるんですよ(笑)今、「ライチ」をやるに適した年齢なんですよ。超えてもしんどくなるし、若くても足りないこともある。よかったなあ今で、って思います。縁とか運とか、いろんな偶然もあるし。一生出会わなかっただろう人とかも出会えているし。
――では、12月24日はステージ上で誕生日パーティーですね(笑)
中村:早くシャワーを浴びたいです(笑)
――じゃ、ぜひ30歳になる前にふぁさっとトークライブを再び。
中村:いいですね、ぜひSPICE主催で!
――そういえば河原さん、最近「俺パラ」やってませんよね?※「俺パラ」=河原さん主催のトークイベント。
河原:うん、もう何年もやってないんだよね。
――中村さんのふぁさっとトークライブも先日拝見しました。
河原:そういうの、やってるの?
中村:はい、今年のアタマにやって、夏にもやって…。半年に1回くらいのペースでやっているんです。
河原:…なんで呼んでくんないの?
中村:お、マジですか!呼びますよ(笑)
河原雅彦、中村倫也 残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」
■日時:2015年12月18日(金)~27日(日)
■会場:AiiA 2.5 Theater Tokyo
■原作:古屋兎丸(太田出版『ライチ☆光クラブ』)
■演出:河原雅彦
■パフォーマンス演出:牧 宗孝(東京ゲゲゲイ)
■脚本:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
■出演:中村倫也
玉置玲央 吉川純広 尾上寛之 池岡亮介
赤澤 燈 味方良介 加藤 諒
BOW(東京ゲゲゲイ) MARIE(東京ゲゲゲイ)
MIKU(東京ゲゲゲイ) YUYU(東京ゲゲゲイ) /
KUMI(KUCHIBILL)
皇希 七木奏音
■公式サイト:http://www.nelke.co.jp/stage/opera_litchi2015/