コブクロ、初の配信ライブで新曲を披露 笑いを忘れないMCで「この無観客の“無”を、“夢”と書きたい」
KOBUKURO STREAMING LIVE
コブクロが初の配信ライブ『KOBUKURO STREAMING LIVE』を10月3日に配信。オフィシャルレポートが到着した。
一昨年結成20周年を迎えたコブクロ。『KOBUKURO STREAMING LIVE』は、その長いキャリアの中でも初となる配信ライブだ。本来であれば今年の秋から全国ツアーが予定されていたものの、全世界を襲った新型コロナウイルスの影響により彼らはツアーの中止を決定。そして、ツアーに代わるものとして配信ライブの開催を発表した。
コブクロがステージで本格的なパフォーマンスを行うのは、20周年ツアー『KOBUKURO 20TH ANNIVERSARY TOUR 2019 "ATB"』千秋楽となった昨年8月の台湾公演以来約1年2カ月ぶり。ストリートライブからそのキャリアをスタートさせたコブクロにとって、ライブというのは絶対に欠かすことのできないいわば“真髄”。それをこれだけ長い期間行うことができなかったことは、二人にとってもさぞ忸怩たる思いがあったに違いない。たとえ目の前にオーディエンスの姿は無くとも、インターネットを通じてリアルタイムで自分たちのステージを多くのファンに観てもらえること、同じ時間を共有できることへの喜びは、リハーサルの時点から二人の表情やふるまい、そしてその歌声から存分に伝わってきた。
KOBUKURO STREAMING LIVE
19時半、ふたりはバンドメンバーの待つステージに拳を上げて登場。「KOBUKURO STREAMING LIVEへようこそ! コブクロです! 久しぶりのライブ、今日は画面を通してみんなと一緒に楽しい時間を過ごせることをめちゃめちゃ楽しみにしていました。黒田と僕、そしてバンドメンバーと愛すべきスタッフと一緒に最高のライブを届けます!」との小渕の第一声に続いて、印象的なピアノの美しいメロディが奏でられる。「君という名の翼」、そして「Million Films」と続く2曲は、どちらも彼らのライブでは定番とも言える人気曲だ。とりわけ「君という名の翼」は黒田のボーカルが全開となる1曲で、オープニングに持ってきたことからも、この日のライブに込めた二人の強い思いが感じられた。
冒頭の2曲を終えた最初のMCは、「今日は俺の得意なお客さんイジリが全くできない」という冗談交じりの黒田のボヤキから始まった。そして、小渕によるバンドメンバー紹介の締めでは、「……そして今日の日を待ってくれていた最高のメンバー、お客さんです!」と、画面の向こうのオーディエンスに向けて手を差し出す。そこがストリートであれアリーナクラスの大会場であれ、コブクロは常に目の前の聴き手一人ひとりに向けて20年歌い続けてきた。たとえ無観客のストリーミングライブでも、彼らとオーディエンスとが同じ時を共有していることに変わりはない。この日のライブを通して二人が最も強く意識していたのは、そんな画面の向こうのオーディエンスの存在だったように思う。
KOBUKURO STREAMING LIVE
「こうして無観客でやらせていただく大きなライブというのは初めてですけど、僕らはストリートでやっていた時、(最初は)お客さんもいませんでしたし、ライブハウスのステージに初めて立った時も、お客さんが一杯にはならない時期というのもありましたが、今回の無観客というのはそういう意味でお客さんがいないんじゃない、こんな時代でも画面を通して待っていてくれる人がいる、そんな無観客ですから。僕はこの無観客の“無”を、“夢”と書きたいね!」そんな小渕らしい熱いMCを、黒田は絶妙なイジリで笑いに変えていく。演奏だけではない、目の前にオーディエンスがいなくとも、ファンが二人に期待することを二人は決して裏切らない。
そこから、コロナ禍によって延期となった東京五輪とアスリートたちに思いを馳せた「今、咲き誇る花たちよ」(※NHKソチオリンピック/パラリンピックテーマソング)、そして「流星」「桜」と、コブクロを代表するヒット曲を立て続けに披露。普段のライブであればクライマックスと言ってもいい選曲だが、それらは歌い上げる声の力強さよりもむしろ、聴き手に優しく語りかける、背中をそっと押して勇気づけるような歌として響いた。そして、そんな二人の思いがそのまま歌となったような新曲「Lullaby」へ。いまだ不安を感じる日々を過ごすすべての人たちに向けたこの“子守唄”で、「ただ通り過ぎてく この時間も 幾年か先の日々を支える 想い出になる」と二人は穏やかに歌う。さらに「陽だまりの道」へ、かけがえのない日常にフォーカスした楽曲で聴き手の気持ちに寄り添っていく。
中盤、二人はステージを降りてフロアに移動し、これもライブ初披露となるニューシングル「灯ル祈リ」へ。この不条理とも思える世界の様々な出来事に抗い、祈りという小さなあかりを心にともすこと。外出自粛期間中に小渕と黒田とでリモートにより制作されたこの楽曲は、言葉にするとどこか儚げな印象を与えるそんなモチーフを、前述の「Lullaby」とは対照的な、力強くドラマチックなパワーバラードへと昇華させた。2011年の「あの太陽が、この世界を照らし続けるように。」もどこか彷彿とさせる、心を鷲掴みにして揺り動かすようなそのエネルギーは、ここまでのあたたかなライブの空気を一変させてしまうほどのものだった。しかしそれもまたコブクロのライブの醍醐味のひとつであり、間違いなくこの日のクライマックスと呼べるパフォーマンスだった。
KOBUKURO STREAMING LIVE
そんなどこか張り詰めた空気をお馴染みの爆笑エピソードトークでほぐした後は、小渕のリードするパーティーチューン「潮騒ドライブ」、そして本編ラストとなる「轍—わだち—」「神風」へ。「轍—わだち—」ではマイクを客席に向け、オーディエンスの合唱を促していく。普段のライブであれば会場が大きな歌声で満たされるところだが、この日のオーディエンスはみな画面の向こう側。そのことを踏まえつつ黒田が小さな声でメロディをガイドしていくが、小渕は手振りでそれを制止し、ステージはまったくの静寂に包まれる。今まさに同じ時間、同じ思いを二人とオーディエンスが共有しているということを、これほど強く感じさせるパフォーマンスは他にないだろう。この瞬間、耳をすませば日本中の様々な家から、部屋から、この歌を口ずさむ声が聞こえてきたに違いない。
そしてアンコールは「晴々」。結成20周年記念となる、これまでのコブクロの数々の名曲のタイトルが歌詞に散りばめられた幸福な一曲で、この特別な一夜は幕を下ろした。
アンコール含め全12曲、コブクロの魅力が凝縮されたメニューだったが、そこには今のこの困難な時代を生きるあらゆる人たちに向けた二人からのメッセージも込められていた。特別目新しいことをするわけでも、奇抜な演出に頼るわけでもなく、ファンの心を時に優しく、時に力強く励ましてくれるストレートなライブを、コブクロの二人は配信という形でも見事に届けてみせた。