W座長の平野良&小林且弥が挑む新たな“歴史のif”とは~ 「チャオ!明治座祭10周年記念特別公演『忠臣蔵 討入・る祭』」インタビュー
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(左から)小林且弥、平野良
今やすっかり年末の風物詩となった『る祭』シリーズが今年もやってくる! 今回は元祖年末の風物詩・『忠臣蔵』を題材に、第一部が芝居「O-ICCEAN’S11~謎のプリンス~」、第二部がショー「煮汁プロジェクト」というまたまた濃い目のラインナップ。そしてW座長を務めるのは寺坂吉右衛門役の平野良と、大石内蔵助役の小林且弥だ。時節柄全公演のライブ配信も行われる本作、通称・忠る(ちゅーる)の本番に向け、意気込みを語り合ってくれた。
ーーW主演が決まったときのお気持ちは?
平野:僕ら年始に二人芝居(『ウエアハウス-double-』)をやったんですけど、まず舞台での共演はあれが久しぶりで。
小林:そう。しかもあそこまでガッツリ一緒にお芝居をってなると、ほぼ初めてだったよね。
平野:うん。で、それがすごく楽しかったから、この『忠る』で引き続き二人でお芝居をできるのが嬉しいし、ワクワクする。しかもコバカツさんは兄やんなんで、僕はいつもよりもちょっと甘えながらのびのびやりたいな、と思ってます(笑)。
小林:(笑)。でもさ、1月の共演時はまだ新型コロナのことが日本では全然ピンと来てない状況で、そこから数ヶ月の間に舞台を取り巻く様子もものすごく変容して、で、また12月に良ちゃんとW座長となると、もうほんとに僕にとっては「2020年は平野良」しかないからね。
平野:ハハハッ(笑)。
小林:それはすごく嬉しいことだし、そしてやっぱりそれと同じくらい「いいモノ作らないとな」というプレッシャーもあります。なんか……わからないんですよ、ずっと舞台をやってないので。「客席を50%で」という経験ないですし……それって多分届けるためや“空”を埋めるためのパワーが余計に必要なんじゃないかと思うんです。この『忠る』も、まだイメージでしかないですけど、自分がいつも見ていた明治座の舞台からの光景が違うのかもしれないということも含め、改めてしっかりやっていかなきゃなと思っています。
平野:僕は自粛後に3本舞台をやらせてもらったけど、例えば笑えるシーンでもお客様が「声を出さないようにしよう」って思うからね。客席の「声」もいつもとは違う感じだからなぁ。
小林:そういうことだよね。客席のみなさんの感情のフィルターとか温度がね、決定的に今までと違ってるんだろうな。
平野:その代わり来てくださった方の熱意というか、拍手はすごいです。人数が半分でも拍手の音はいつもの倍っていうくらい気持ちを届けてくれるから。
小林:……うわ、今、ちょっとゾクッときた。
平野:うん。今このとき、演劇を届ける側も受け取る側も、“続けていくぞ”という気持ちは同じなんだってすっごく感じられた。
(左から)小林且弥、平野良
ーー『る祭』の開催実現も、みなさんの“続けていく覚悟”の力強い決意表明ですね。
平野:みなさん相当悩まれたとは思います。
小林:ホントだよね〜。しかも今回、10周年なんですよね。
平野:でもやっぱり1年の終わりはこれで締めるっていうお客様も多い中で、それこそいろいろあったからこそ、この『祭』シリーズで笑って年越しするっていうのは必要なこと。「ピークエンドの法則」っていうのがあるんですけど、最後に僕らと笑って終われたら「2020年、辛かったけどでも最後は楽しかったな」って、のちのちいい印象に残せるようにも思いますし。
小林:確かに終わり方って大事かも。僕は28歳で最初に『る祭』に参加して、そこから10年間作品が作られ続けた意味って絶対あるし……僕たち役者も毎回その時のメンバーでしかできないモノを届けてきたから。今回も、僕の大石内蔵助と良ちゃんの寺坂吉右衛門役でしかできない物語を届けることが、一番大事で、やりたいことです。
平野:でもこうして相関図を見ると、「うわ、これしかいないんだ!」って思っちゃう。もちろんこれでも人数いるほうだけど、今までに比べたら全然少ない。シリーズ最少人数。
小林:多分メインビジュアルもスッカスカなんだよ。お互いに距離取って(笑)。
ーーでは10年続いたパワー、良さ、楽しさ。お二人が思う『る祭』の魅力というと……。
小林:誰もが知っている歴史の隙をついて、「もしかしたら……」という歴史のif物語を届け続けているのと、シリーズならではの積み重ね。「前はこの人があの役をやっていたけど今回はこうなるんだ!」っていう“誰が誰をやるか”の面白みとか、シリーズならではの恒例、「噛める」要素も豊富にあるよね。
平野:そして年末特有のここにしかないノリ。(加藤)啓さんなんかもうなにやっても怒られないポジションを築き上げてますから(笑)。
小林:今回いよいよ磯野タマ役だからね(笑)。
平野:(爆笑)啓さんは去年は麒麟……神獣で、絡みはほぼ僕とだけ、全編アドリブっていう状態だったんだよ。「事前に打ち合わせせずやりましょう」って。
小林:ええ〜っ。じゃ、稽古もアドリブ? なんだよー、今回もそうなのかなぁ……嫌だなぁ……絡みたくないなぁ(笑)。そこはみんなに任せる。今回僕はもっとドラマを深めたいんだもん。
平野:いいねぇ。まぁ、人数限られる分、自ずとそうなるでしょうね。一人ひとりの責任も大きくなると思う。
平野良
小林:そうなるよねぇ。多分、台詞も多いんだよ……。
平野:そこの心配!? 年始の舞台もエグイ量ありましたけど。
小林:いや、毎回思ってるんだけどね。「台詞多いのやだな」って(笑)。あの時は円周率100桁! でもそれに比べたら……うん、イヤになったら思い出すことにする。
平野:「あれやったんだから──」。
小林:「これはできるだろう」とね。
ーー今回の題材は長い間日本人に冬の風物詩として印象付けられ、舞台はもちろんドラマや映画なども様々なところで好まれ取り上げ続けられていた『忠臣蔵』。実は近年、『忠臣蔵』は年末の恒例から姿を消し始めています。それを若手を中心としたみなさんが今回ガッツリ演じるということに、このおなじみの演目をちゃんと後世にも繋げていこうという思い、「名作の継承」を感じます。
小林:うわっ! それ、全部今僕が言おうとしてたところですよ! ……と、急ぎ書いておいてください。
平野:嘘つけーっ(爆笑)。
小林:いや、ホントに思ってたし! だって、日本人なら、『忠臣蔵』は残していきたい演目でしょう?
平野:確かにそうですけど……この先輩、怖っ(笑)。でも今回、大石内蔵助と寺坂吉右衛門っていうところで、まず僕は驚きですよ。しかも寺坂は謎多き人物で。
ーー赤穂浪士四十七士唯一の生き残り。
平野:そこをどう“歴史のif”で料理するのか……もはや歴史解釈の新説のひとつの提示ですよね。そのあたりはやはり見どころになっちゃうんじゃないですかね。ちょっとミステリーチックで。
小林:大石内蔵助と浅野内匠頭じゃなく、吉良上野介でもなく、寺坂吉右衛門。面白いよね、この『忠臣蔵』。しかも僕が演じる大石内蔵助は転職したがってますからね(笑)。でもそこも奇をてらってるわけでもなく、ホントにそうだったかもしれない! 現代に置き換えたら「この会社最高。人間関係も潤滑だし、もう永久就職したーい!」なんてことなかなかないから、ifというよりはこれは大石の本当の本音かもしれないし、そういうのが実は討ち入りまで結びついちゃったのかもしれないし……とか、そんなのを考えるのも面白い! 史実を遊びながら作っていけたらいいなぁ。特に今回はみんなのキャラが立つほど関係もより深くなって面白くなると思うので。
(左から)小林且弥、平野良
平野:おそらく今までの『る祭』スタイルを踏襲しつつ、また新たな形になるんじゃないかな。ちなみに昨年は原田優一さんが演出で、今回は板垣恭一さん。僕、『祭』は3回目だけど、板垣さん初めてなんです。
小林:あ、最初は毛利(亘宏)さんか!
平野:そう。板垣さんには他の作品でご一緒すると「お前は僕の演出の『祭』避けてるもんな。出ないもんな」って言われ続けてたので(笑)、やっと板垣さんと『祭』ができるのも僕は個人的にすっごく楽しみなんです。板垣さん群像劇を得意とされてますし、自分的には意外に初めましてのキャストさんも多いので、いろんな楽しみがあります。
小林:僕も初めましての人が多いかも。でもさ、今回、コミュニケーション困るよね。稽古後にも飲みにはいけないし。
平野:そうだよね……あ、でもいつもはどうです?
小林:僕が出てる時は割と行ってるほうだった。座長やってた時は(一緒に出ていた左)とん平さんに「座長は金使え」って言われててよくみんなで行ったので……結構かかりました。
平野:そこ!? 「結構仲良くなりましたよ」じゃなく??
小林:信頼を金で買ったね。ハハハッ(笑)。いや、でもそこはちょっと考えよう。やっぱりこういうスタイルの演目ってコミュニケーションが欠かせませんから。そこから作られていくモノも大きい。
平野:まあねぇ。でも飲みに行かなくなるとお金貯まりますよ(笑)。実際にびっくりしたもん。「最近お金使ってないぞ。今までどんだけ飲みでコミュニケーション重ねてたんだろう」って(笑)。
小林:なるほど。でもなぁ……どうするかなぁ……あ、ラーメンだ! そうだよ。とりあえずみんなで「一蘭」に行こう。
小林且弥
平野:行きましょう。きっちり区切って、横並びましょう。
ーー今回は全公演のライブ配信も決定していますね。観たい人に届く演劇。早くみなさんと一緒に笑いをわかち合いたい!
平野:2020年は自分自身の価値観が変わりました。その中でやっぱり僕は演劇を信じたいっていう思いが今まで以上に強くなっています。そして、劇場でも配信でもそこに賛同してくれるお客様にとっての「演劇」って……日本って欧米のキリスト教とかのように広く特定の宗教感を共有している感じはあまりないと思っているんですけど、そういう“心に常に掲げて支えてくれるモノ”としては、演劇などのエンターテインメントって、宗教と同じような役割を果たしてるんじゃないのかなって僕はずっと思っているし、折を見て言葉にして伝えてきてもいるんです。ホントにこの演劇で、このエンターテインメントで心を潤して日々戦っていく、歩んでいく、みたいなことを観てくださる方々は実行しているし、志を僕らと同じくしてくれていると思っています。だからこそ年末に思いっきり笑って泣いて、そしてやっぱり笑って終われる。今、そういう年越し興行をやるのは僕の中でひとつの責務というか、役者としてのひとつ大きなテーマなんだと思う。2020年、この公演を走りきるのが僕の役割。覚悟を持ってお届けしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
小林:やっぱりさ、世界って大変なんだよ……。
平野:ええっ!?
小林:うん。世界は大変なんだよ。
平野:わかった。わかったけど……ちょっと締めが雑(笑)。
小林:いやいやいや! みなさん、行間からくるモノ、あるでしょう? あとはすべて本番で、ね。
平野:……う、うん(笑)。
(左から)小林且弥、平野良
取材・文=横澤由香 撮影=福岡諒祠
公演情報
第二部:ショー「煮汁プロジェクト」
日程:2020年12月28日(月)~31日(木)
会場:明治座
演出:板垣恭一
脚本:土城温美
出演:平野良、小林且弥/
安西慎太郎、木ノ本嶺浩、蒼木陣/
前川優希(Wキャスト)・松田岳(Wキャスト)、大薮丘、小早川俊輔、
井深克彦、谷戸亮太、加藤啓、林剛史/
伊藤裕一、百名ヒロキ、大山真志(Wキャスト)・原田優一(Wキャスト)/
辻本祐樹/水夏希
配信4,500円(カウントダウン公演のみ5,500円)
公式HP https://chu-ru.jp