たまらなく幸福な観劇体験になる Litera Theater vol.1『誰かひとり / 回復する人間』オフィシャル稽古場レポートが公開

2026.3.3
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Litera Theater 1『誰かひとり / 回復する人間』稽古場より

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2026年3月5日(木)~3月29日(日)ザ・ポケットにて、Litera Theater vol.1『誰かひとり / 回復する人間』が上演される。この度、オフィシャル稽古場レポートが届いたので紹介する。

『誰かひとり/回復する人間』PV

文学VS演劇。文学を演劇化したときに感じるのは圧倒的な言葉の力だ。ひとりの作家が考え抜いた言葉はそれだけで十分でありそこに俳優や演出が入ると説明になってしまうこともある。これがノーベル文学賞受賞作家の作品とあればなおさらではないか。ノルウェーのヨン・フォッセと韓国の作家ハン・ガンの作品の贅沢なダブルビル企画『誰かひとり/回復する人間』は文学をどう演劇化するかひじょうに意欲的な試みである。『誰かひとり』はもともと戯曲であり、韓国の作家ハン・ガンの短編小説『回復する人間』は気鋭の劇作家・オノマリコが大胆に脚色した。

ノーベル賞作家作品というある種の権威にやや緊張しながら稽古場につくとドアの向こうで笑い声が聞こえていた。和やかに稽古が行われているようだ。『誰かひとり/回復する人間』のチラシが貼ってあるドアを開けると、教室のように長テーブルが3列に整然と並び、俳優とスタッフが座っていた。向かって左に俳優たち。前から山本涼介と鈴木勝大、豊田エリーと智順、平野良と古河耕史が並んで座っている。

真ん中の前列に演出の西本由香、その後ろに『回復する人間』のムーブメント・ディレクションを担当した藤井颯太郎や『誰かひとり』の翻訳と上演台本を担当したアンネ・ランデ・ペータスなどが座っている。

部屋の突き当たりがアクトスペースで、これから通し稽古が行われるところだ。豊田と智順、山本と鈴木、平野と古河がそれぞれ同じ衣裳を着ている。

まず『誰かひとり』。4つの台と透けた布のようなものが垂れ下がっているというシンプルな空間に若い男1(山本)、若い男2(鈴木)、年長の女1(智順)と年長の女2(豊田)、年長の男1(平野)と年長の男2(古河)が立つ。彼らの役割や関係や状況はそこはかとなくわかるが、決して明確でなく、誰一人として肉体も視線も交わらないように、見える。

求める者、拒絶する者が行ったり来たり。台本を読むとセリフのところどころに(一瞬途切れる)(一瞬、間があく)などと指定がある。ヨン・フォッセの戯曲は詩的なモノローグのようで、彼の作品には(間)の指定があったりする。解釈は多様ながら作家の揺るぎない意図もあって、そこを俳優たちが慎重に適切に読み取りながら語り、空間を彷徨うように静かに移動していく。すると小さな空間が広く、長い時間がたゆたうようで、空虚な孤独が際立って見えた。ちょっと能舞台のような印象も受けた。

年長の女2を演じる豊田は言う。「稽古でノルウェーの景色を見ました。ただただ1日ボートを漕ぐような情景がこの国にはあるのだなと感じました」

筆者はノルウェーに行ったことがないが、北欧のある種の風土から生まれた世界が表現されているような気がした。穏やかだけれどどこかひんやりとして研ぎ澄まされたヨン・フォッセの世界。空間に響く音も印象的だった。

『誰かひとり』のあと、休憩を挟んで『回復する人間』の通し稽古がはじまる。俳優たちは衣裳を変え、4つの台が違う位置に配置された。驚いたのは、演出も俳優も同じながら、作家の違いで、こうもスピード感が違うのかということだった。間が印象的だった『誰かひとり』に対して『回復する人間』はめまぐるしい。ムーブメント・ディレクションとして藤井颯太郎が参加しているのでコンテンポラリーダンスのような印象も受ける。

『回復する人間』は主人公(豊田)が怪我の治療を通して、文字通り「回復する」行為と向き合っていく。それは同時に疎遠だった姉(智順)のことを思い出すことにもなった。文学を演劇化するにあたり、リフレインが用いられている。主人公が怪我の治療をする場面が繰り返され、そのたび微妙にズレが生じながら、徐々に主人公が何に傷ついているのかわかるようになっていく。とはいえすべてがわかるわけではない。『誰かひとり』と同様、俳優たちの声と身体の動きは作家の言葉の回答ではなく、物語のなかの痛みや孤独を観客に提示しながら、まだまだ考える余地があるという引率者のようでもある。

通しを終えた豊田はこう語った。「2作を同時にやっていると頭が混乱してしまいます(笑)。『回復する人間』を初めて通したときは目の前を嵐が過ぎ去っていったような感覚に陥りました。今日は2回目の通しで、ようやく周りを冷静に見ることができた気がします。ただ、主人公が嵐のなかに巻き込まれていくような物語でもあるので、その感覚は失わないようにしたいと思っています」

豊田の言う嵐とは、ハン・ガンの原作の文章の「あなた」と二人称で主人公に呼びかける言葉が「あなた」という私に追及の手をゆるめない熱量で、繰り返されるシークエンスの積み重ねと呼び合い、高まっていく。

答えがはっきり出なくて、いろんなことを感じられる作品だが、俳優たちは確たる答えを持って演じているのだろうか。豊田に聞いてみると。

「2作品ともとても哲学的で様々な解釈ができます。稽古でディスカッションを繰り返し、私たちのなかでの共通認識は一応あるんです。でもそれをいま詳しく話してしまうと見る方の自由に受け取る面白さをスポイルしてしまうかなと思うので、内緒です(笑)」

まだまだ本番までに探求は続いている。通しのあとに行われたノートで意見交換が成された。演出家が正解を持って俳優たちに指示することはない。提案ベースで、俳優もスタッフも異なる考えを持っていて、率直に意見交換していく。

『誰かひとり』ではやっぱり台本上の()の部分が注視されていた(ト書きではなく主に間の指示)。ごく短い間やセリフ、ひとつひとつに様々な解釈がある。ノルウェー、韓国、日本という国の違いでもおそらく感覚は違うだろう。俳優たちの異なる肉体も物語を多様に見せていく。

俳優たちがセリフを語りながら空間を動いていく軌跡のなかに生まれる高純度の余白。簡単に正解を出したくない、たくさんの可能性の海に潜りたいヒトにはたまらなく幸福な観劇体験になるだろう。
 

稽古場写真撮影:谷中理音    執筆:木俣冬

公演情報

Litera Theater vol.1​『誰かひとり/ 回復する人間』
日程・会場:2026年3月5日(木)~3月29日(日)ザ・ポケット
 
『誰かひとり』
脚本:ヨン・フォッセ
翻訳:アンネ・ランデ・ペータス
上演台本:アンネ・ランデ・ペータス、山崎元晴
 
『回復する人間』
原作:ハン・ガン
翻訳:宋元燮
脚本:オノマリコ

演出:西本由香(文学座)
出演:
山本涼介、鈴木勝大、豊田エリー、智順、平野良、古河耕史
 

【公式サイト】https://consept-s.com/reborn/litera1/
【公式X(旧Twitter)】@consept2017
【公式Instagram】@consept2017
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