WOWOW『劇場の灯を消すな!PARCO劇場編』オフィシャルレポートが到着
(上段左から)渡辺謙、中井貴⼀、天海祐希(下段左から)藤井隆、三谷幸喜、箭内道彦 撮影:宮川舞子
三谷幸喜と箭内道彦がタッグ組んで送るWOWOW『劇場の灯を消すな!PARCO劇場編』が、2020年10月31日(土)夜7:00 WOWOWライブにて放送される。このたびオフィシャルライターの徳永京子氏によるレポートが到着した。
コロナ禍に見舞われ、多くの公演が中止や延期になった劇場を応援しようと7月に始まったWOWOWの『劇場の灯を消すな!』も、10月25日にオンエアする4回目のPARCO劇場編がラストとなった。首都圏では9月に入って公演の数が戻り始め、同月19日にイベント人数の規制が緩和されると、半数にしていた座席数を増やす公演も少しずつ増えている。偶然ではあるものの、劇場再開の軌道が再び描かれ始めた時期に、このシリーズが最終回を迎えるのは感慨深い。
PARCO劇場(オープン当時の名称は西武劇場)は、開場した1973年から数えると、半世紀近い長い歴史を持つ。それは間違いなく、日本の現代演劇のある一面を形づくる時間だった。優れた経営者であると同時に一流の文化人でもあった堤清二氏がつくったパルコは、ファッションビルでありながら、文化芸術の深さ、楽しさを、より多くの人に伝えていく使命を持っており、劇場はそれを積極的に進める最先端の場所だった。
たとえば、劇場が企画を立て、戯曲、演出家、キャスト、クリエイターをブッキングして公演を打つプロデュースをおこなうのは現在は普通だが、その雛型を日本でつくったのは西武劇場/PARCO劇場だった。舞踏や人形劇など、マニアックとされていたアーティストを紹介するのと同時に、演劇に洗練されたイメージを与えたのも西武劇場/PARCO劇場だった。’74年から’88年という驚異のロングランを成し遂げ、「仕事帰りの大人が劇場でひととき、歌と踊りと一組の男女の物語をライブで楽しむ」という習慣をつくった『ショーガール』シリーズ(作・構成・演出:福田陽一郎、出演:細川俊之、木の実ナナ)、’90年から’16年まで続き、500組近い男女のペアの俳優が取り組んだ朗読劇『ラヴ・レターズ』(翻訳・演出:青井陽治)など、他に類のないレパートリーも多い。『ショーガール』を三谷幸喜が川平慈英とシルビア・グラブで、『ラヴ・レターズ』を藤田俊太郎が引き継ぎ、現在も上演されているのは、劇場が作品を生きた財産にできた貴重な例だと言える。
またPARCO劇場と継続的に作品を創作する人も多く、20年以上に渡るパートナーの美輪明宏、宮本亞門、三谷幸喜、立川志の輔ら、繋がりの深いクリエイターが何人もいる。歴史が長い分、代表作も多く、苦楽を共にした人が多いのだ。
『劇場の灯を消すな!』でも、そうしたPARCO劇場の個性が反映されている。「PARCO劇場のためなら」と多数の演劇人がメッセージを寄せた。その豪華さはさすがのひと言。二部構成の中身も、超一流の出演者、クリエイターが集結した。
まず第一部が、新生PARCO劇場オープンまでの道のりを描いた『on the Road to~』。前半はドキュメントで、箭内道彦が演出を担当する。それを受ける形で、後半は三谷幸喜がショートドラマ『彼、かく語りき』の脚本・監督を手掛けた。これは、『ピサロ』の主演・渡辺謙が、新生PARCO劇場を公園通りからガイドするという豪華なもの。昨今の演劇状況についても話しており、その軽やかな口調の奥には、この番組と同じ、劇場の灯を消してはならないというメッセージも聞いて取れる。
収録時に上演中だった『大地』のキャスト、藤井隆も参加して、洒落た大人のファンタジーの味わいだ。いずれにしても、約3年半に渡る、渋谷PARCO建替えによる休館→満を持しての新開場→コロナ禍の直撃という、あまりに劇的でハードな日々が、異なる才人の目と脳を通してどんなふうに描かれるのか、期待が高まる。ちなみに撮影監督には、WOWOW制作の『short cut』『大空港2013』で三谷とタッグを組んだ山本英夫を迎え、完全1シーン1カットを実現したというから、映像的にも見応え充分。
そして第二部では、シリーズ恒例の朗読劇『十二人の手紙』(作:井上ひさし)を、三谷が演出する。まだ下ろしたての感触とまぶしさを放つ椅子が並ぶ客席を使い、中井貴一と天海祐希が、シリアスな劇中劇のある『葬送歌』を朗読。通常の演技とは異なるふたりの表情が見られる。この朗読劇には三谷がこっそり出演しているから、見逃さないように要注意だ。
どこを切り取っても充実した、最終回にふさわしい内容で、観たあとはきっと「劇場の灯は消えない」と感じられるだろう。
PARCO劇場