成河、鞘師里保、水田航生らが出演 2日間限定上演『35MM: A MUSICAL EXHIBITION』開幕 ゲネプロレポートが到着
『35MM: A MUSICAL EXHIBITION』より
2012年にオフ・ブロードウェイで上演されて以来、世界中で上演されて来た、傑作ソングサイクルミュージカル『35MM: A MUSICAL EXHIBITION』が、2020年10月31日(土)と11月1日(日)TBS赤坂ACTシアターにて4公演限定で上演される。そのゲネプロが10月30日(金)に行われた。
本作は、ブロードウェイの名作舞台の写真を多く手掛ける若手天才写真家マシュー・マーフィーと、彼の夫であり新進気鋭の作詞作曲家ライアン・スコット・オリヴァーのコラボレーションにより生まれた。マシューの撮った写真をモチーフにライアンが作詞作曲した楽曲をオムニバス形式で綴られていく。写真という一貫したテーマがありながらも1曲1曲は独立し、その中で多種多様な物語が語られていくソングサイクルミュージカルだ。
マシューとライアン 二人の若い才能に、実力とフレッシュさを兼ね備えた成河、鞘師里保、水田航生、実咲凜音、内海啓貴、ダンドイ舞莉花、福井晶一と言った日本のキャスト陣の熱演が加わり、近年稀にみる卓越した化学反応を劇場に起こしていた。
成河
鞘師里保、ダンドイ舞莉花
実咲凜音
水田航生
内海啓貴
ダンドイ舞莉花
福井晶一
写真を現像する暗室で各々作業をしているキャスト。その中にカメラを手にした鞘師が登場するところからスタートする。彼女がシャッターを切ると、キャストが一斉に複雑なコーラスワークのオープニングを歌い出し、一気に作品のコンセプトの中へ引き込まれる。
そこから、現代の都会に住む若者の苦悩を刺激的な歌詞で綴ったロックナンバー“Crazytown”へ。キャスト陣の歌声が塊となって迫ってくる様なナンバーは、ミュージカルとコンサートの両面を持つ今作の魅力が感じられ、劇場は一気に熱気を帯びた。
若い男女が“お互い完璧じゃないけれど君は俺/私をハッピーにしてくれる”と歌い合う“Make Me Happy”では恋のワクワク感を成河とダンドイが歌で、鞘師と水田が瑞々しいダンスで表現し、ポップな曲調と相まって楽しい心躍る時間を作り出していた。
打って変わり “Leave, Luanne”では成河が南部のケイジャン(アメリカのルイジアナ州に永住したフランス系の人々)の夫婦の愛憎劇をストーリーテラーとなって迫真のパフォーマンスで引っ張り、実咲、内海のコーラスと共に濃密な演劇的空間を作り出し、劇場全体が思わず息を飲んだ。
激しい楽曲もある一方で、優しいアコースティックギターの音色と共に福井が想いを寄せる女性を熾天使に見立てて歌う、美しい歌詞のナンバー“The Seraph”では、包み込む様な温かい歌声が心に染み入る様だった。
同じく歌詞が印象的だったのは、福井と実咲が揺れ動く男女の“別れたいけど好き”と言ったアンビバレントな心を歌った“Hemming and Hawing”だが、二人の抑制の効いた表現と共に大人な世界観に仕上がっていた。
そして、極めつけが鞘師がリードを取り、全キャストで歌う、“The Ballad of Sara Berry”。周囲からのプレッシャーもありプロムクイーンに執着する女子高生の狂気を歌ったナンバーで、5分弱の一曲の中で、悲しみを秘めながら底知れぬパワーで突き進んでいく女子高生サラの姿を、役者ならではの表現力が光るマイクリレーと圧巻のパフォーマンスで描き、劇場全体がその興奮の渦に巻き込まれていった。
他にも、恋にときめく男女のウキウキ感を歌うポップソング、パートナーを失った喪失感を歌ったバラード、呪われた人形との奇妙な日々を描いたコミカルソング、バンパイアと彼に噛まれた女性が永遠の愛を掛け合いしながら歌うラブソングなど多種多様な内容とスタイルの楽曲が次々と披露され、ソングサイクルミュージカルの醍醐味を感じられると共に一曲完結の異なる物語を途切れる事無く繋ぎ、世界観を構築していた演出・振付のTETSUHARUの手腕が光っていた。
最後にこれまでの楽曲のモチーフが次々に登場し絡み合い、これまでのパフォーマンスを総括するような“Finale”では、「写真に閉じ込められた被写体の遠近、高さ、色、状況、驚きに真実が…何かがある。それを感じる心を持とう。そして、その写真の先にも人生は続くからフォーカスを合わせて、一瞬一瞬を捉えよう」と、生きる希望を与えてくれるようなメッセージを残してくれた。
今作は前述の通り、写真とそこからインスピレーションを受けた楽曲で作品が紡がれていく形式のソングサイクルミュージカルの為、写真毎に楽曲のスタイル/テイストが変わり、キャストが様々な役割を演じ、様々な表情を見せてくれるのが今作の大きな魅力である。今作はまさにタイトルにある様に名場面が集められた展覧会の様なユニークな演劇体験が出来る作品であった。
本作は、キャストのパフォーマンスをより身近に感じられる舞台上からの360度VR映像と舞台全体を見渡せる引きの定点視点を楽しめるBlinky Liveでの配信(31日18:00~)と5台のカメラを駆使した通常配信(1日17:00~)も行われる。
上演時間は休憩なしの約80分、ノンストップで様々な人間模様が描かれる濃密な時間をぜひお見逃しなく。なお、31日(土)のBlinky Liveでの配信は、開演前にキャストからの特別メッセージがあるとのことだ。