DEZERT、渾身の“今日”を魅せた『SPECIAL LIVE 2020 "The Today"』オフィシャルレポート
DEZERT
11月23日(月・祝)にLINE CUBE SHIBUYAで開催された『DEZERT SPECIAL LIVE 2020 "The Today"』のオフィシャルレポートが到着した。
今日の出来事を。今日を生きている自分たちのことを。今日を迎えられたという事実を。
全て堂々と自己肯定したうえで、さらなる佳き未来を呼び込むために「今日から変わっていきたい」と宣言し、それを実行していく彼らの姿がそこには在った。約1年前に最新アルバム『black hole』を発表したのち、本来であれば今年はシリーズライブ『DEZERT 2020 LIVE /天使の前頭葉』や全国ツアー『DEZERT 2020 TOUR /天使の前頭葉』を実施する予定であったDEZERTがコロナ禍の深刻化により続々と各公演を延期し、さらにはそれらを全て2021年へと再延期するに至ったこと…これはもちろん致し方のない不可抗力的災難でしかない。
千秋
ただ、DEZERTの場合はここまで頑なと言えるほどのスタンスで無観客配信ライブの類いを一切開催して来なかった事実があるだけに、このたびLINE CUBE SHIBUYAでの有観客ワンマン『DEZERT SPECIAL LIVE 2020 “The Today” 』を決行したことは、その事実自体がひとつのメッセージにもなっていたと言えるのではなかろうか。
季節が秋から冬へと近付くに従い、目下日本ではコロナ第3波とされる兆候がみられるようにはなったものの、いわゆる50%キャパ制限を遵守しつつ、公演中にも換気のためのインターバルを設け、来場者全員の検温を行うなど各種感染防止対策がとられた中でのこのライヴは、DEZERTというライブバンドにとって非常に重要な場としての意味を持っていたのだ。
Miyako
「よく生きてたな! いろんな不安はあると思うけど、今日は俺らが全部切り裂いてやるから安心して遊んでってください!!」
今宵、フロントマン・千秋が登壇して開口一番にこう述べたうえでまず我々へと供されたのは、この11月より配信開始となったばかりの新曲「Your Song」。
〈怖がらなくていいよ 僕がここにいるよ 君がそこにいるのなら〉
〈何度失ったって 世界を無くしたって 君が君でいるのなら 僕は僕でいよう〉
Sacchan
なんでも、この曲はもともとシングル用として年明けにレコーディングしていたものだったそうで、のちに歌詞は少し改編したというだけあり、歌詞には今時分とフィットするくだりが幾つかみられる。また、音像面での「Your Song」はよりバンドサウンド自体が骨太になっているのと同時に、そこにはロックに不可欠な心地よい緊張感もしっかりと漲っていて、当然その感覚は今回のライブでも体現されていたため、我々はここで早くもDEZERTが“なんだか以前より頼もしくなっている”ことに気付かされることとなったのである。
SORA
かくして、久方ぶりのワンマンライブでいきなり新曲を呈示してみせた一方、ここからのDEZERTは“SPECIAL LIVE”の冠を地で行くように「「君の子宮を触る」 」を始めとした懐かしめの過去曲たちや、アルバム『black hole』に収録されていたグルーヴィにして痛快な「Thirsty?」など、ベスト盤的な流れの神セトリで新旧の楽曲たちがあれもこれもと演奏されていくことに。ここまでの約9ヶ月間はライブが“おあずけ状態”になっていたこともあり、臨場感あふれる中で彼ら4人の放つ活きの良い音たちを堪能出来るその時間がやたらと贅沢に感じられたのは、何も筆者だけではあるまい。
なお、今回のライブについてはwebでの生配信+アーカイヴ配信も行われ、それらのサウンドはなんとMUCCのミヤが自身のノウハウを活かして配信音声マスタリング管理を担っていたそう。そもそも会場がソールドアウトしていたことや、様々な事情で現場に足を運べないファンがいることを踏まえると、ネット回線を通じても良質なライブサウンドを味わうことが出来る体制が整えられていたことは素晴らしい限り。
Sacchanの弾く繊細なピアノフレーズや、抑揚の利いたSORAのドラミング、ブルージーな匂いの漂う乙なMiyakoのギターワーク、そして表情豊かな千秋の歌が劇的な情景を描きだした「「遭難」」といい。時にはヘイトの詰まった曲も生み出してきたDEZERTが、敢えて真正面からの清く正しい正論を掲げる「True Man」といい。はたまた、従来のライブでは途中でオーディエンスがサビを歌ってきた場面で楽器隊メンバーがそれを代行した「「遺書。」」といい。この夜この場で演奏された曲たちが、どれをとっても聴く者の魂を揺さぶるような尊いエモーショナリズムに満ちていたのも実に納得だ。
中でも、本編ラストに投下された名曲「TODAY」の存在感はことさら圧倒的で、これの演奏前に千秋が繰り広げた13分近くにもわたる口上も併せて、深い説得力をたたえたものだったと言っていいだろう。
千秋
「3月から、えれぇ世界になってしまったもんです。4月、5月、6月とDEZERTは“こんな世界だからこそ、やるべきことをやろう!”と考えてました。曲も作ったりしましたよ。でも、8月はえれぇー暑かったし、俺は幸せについて考えちゃったんだよね。(中略)当時は11月のライブも出来るかどうかわかんなかったし、とにかく“どうしたら幸せになれるんだろう” “どうしたら来てくれるやつらを救えるのかな” “どうしたら、来たみんなが明日からも頑張ろうって思えるようなライブを出来るのかな”ってずっと考えてた。それはみんなのためじゃなくて、自分のためにね」
いやはや。ごく個人的な見解にはなってしまうが、“あなたのためを思って〜”などと善意を押し付けてくる人間ほど信用しかねるところがある反面、千秋がここで口にした“自分のために”という言葉に不思議なほどの真実味がこもっていると感じられたのは、そこに偽善という嘘が折り込まれていないからだったに違いない。
「10月に「TODAY」を新しいアレンジで出したんだけど、あらためて考えたんだよ。果たして俺は、この詞みたいに〈生きててよかった〉と思えるような本気の夜を迎えられてるのか?とね。(中略)だから、俺は自分の今日を変えようと思うわけ。そして、それを続けていくことも大事だと思ってる。実際、俺はこの考え方をするようになってちょっと救われております。やるべきこともなかなか出来ない、こんな世界だけど嘆いててもしょうがないし。なんか“千秋、丸くなったな”とか“もっと、おまえのやべーとこ見てみたい”みたいなことを言ってくるバカがたまにいるんだけどさ。何がやべーとこ、だよなぁ。こっちは本気で“自分のために歌で人を救いたいと思ってる”のに。でも、そのことにあらためてちゃんと気付いたのもまさにこの期間でした」
つまり、千秋はこのコロナ禍において自らの天命についていよいよ悟ったということなるのかも。
Miyako
「前にある人から言われたのね。“やりたいことをやるのが才能じゃねぇ。やりたいことをやれると思う気持ちが大事だし、やり続けられてるのは既に才能だ”って。(中略)今日ここにいる人たちにも、俺はぜひそういう人間になっていって欲しいです。俺も頑張ります。これからずーっとDEZERT続けていくから。チャレンジしていくよ。DEZERTには武道館、横浜アリーナは無理って言ってたヤツら、見とけ。絶対やるからな。だけど、それにはオマエたちの存在も必要です。だからこそ、オマエたちもやりたいことをやれる才能を身に着けてください。そしてまた、“この場所で”みんなで会いましょう。長くなったけど今日は本当にありがとう。今ここで。明日じゃない今日。自分を変えていってくれ!最後に聴いてください、「TODAY」!!」
Sacchan
意図的だったのか、それとも時たま起こる無意識的な現象だったのか。
〈誰もが失って 時に泣き叫んで また今日から始めればいい〉という歌詞を、〈誰もが失って 時に拳をあげ~〉と替えて歌っていた千秋の歌声には、極めてポジティヴな想いが託されていたように感じられた。
ちなみに、このあとアンコールにて披露された未発表の新曲からもそれは感じられたことで、今日の為に作ってきたというこの書き下ろしの新曲には、聴き取った限り以下のような詞が含まれていたような気がする。
〈違いを赦して 違いを愛して 互いを照らしてくれ〉
嗚呼。なんと真っすぐで寛容な愛と希望のうた、だろうか。昨今、方々で多様性を尊重しようという声はそれなりに上がれども、世代や主義主張などあらゆる違いや差の存在するところに分断が生まれ続けている現世において、DEZERTがここで呈示した未来へのヴィジョンは、誰もがたどり着く必要のあるひとつの境地だと言えそう。
SORA
「俺ら、いつかすげぇ虹かけますよ!…でも、最後に一言だけ。…やっぱ、コロナうっぜぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
溜まりに溜まった心の内の呪詛を炸裂させながら、DEZERTの深部に眠る三つ子の魂を甦らせるかたちとなった殺伐チューン「「殺意」」の演奏までを含めた、計約3時間。彼らが展開してみせた渾身の“今日”は、その様子を見聞きした者たちにとって忘れ得ぬものになったものと思われる。
今日を生き抜くことを日々重ねながら、自らのために幸せを貪欲に希求していくDEZERTが、やがて大きな虹をかける時。そこには必ず佳き未来が訪れるはずだ。
取材・文=杉江由紀
撮影=田中聖太郎・渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)