山田佳奈が新たに目指す地平とは~□字ック第十四回本公演『タイトル、拒絶』インタビュー
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山田佳奈
Netflixオリジナルドラマ『全裸監督』で脚本を手がけ、自らが劇団公演で上演した『タイトル、拒絶』が映画化され、監督と脚本を務めた山田佳奈。各方面で話題となっている同作品を、劇団「□字ック」で再演する。デリヘルの待合室で横たわる不穏でインモラルな人間関係を描いた本作で、山田佳奈が新たに目指す地平とは、いったいどこなのだろうか。
焦燥感から解放されて
ーー劇団公演として、今度の舞台で『タイトル、拒絶』は再演となります。映画としても公開され、さらにキャストもフルチェンジした舞台です。ここ数年の山田さんは『タイトル、拒絶』にずっと注力している状況ですね。
そうですね。2年間ぐらいずっとこの作品と向き合っています。でも見え方というか、自分自身の作品に対する思いや視点というのは、2年間のあいだでもけっこう変化してきているんですよね。それこそ7年くらい前の舞台作品だったものを映画化するときに、台本をあらためて読み直したんですが、かなり自分でも忘れていた言葉がありましたから。
山田佳奈
ーー変化を感じたのはどんな点ですか?
エッジの効いたセリフを意識的に書いているなと思いました。当時の自分が抱えていた問題をセリフにしていましたから、今の私だったらこういう書き方はしないかなと。30代も半ばに来て、だいぶ解消された問題もあるから、当時の自分には「ああ、こんなふうに思ってたんだ」と冷静になっていたり。
ーー昨年、『掬う』の現場でお話ししたとき、山田さんは「多少、自分のなかでひっかかりがあってもセリフとしてインパクトのあるものは台本に残してきたけど、『掬う』は、それとは違う意識で書いた」とおっしゃっていました。
そうです。書き方はやっぱり年齢やキャリアとともに変遷しますよね。とにかく、必死だったんです。会社を辞めて劇団を始めた何者でもない人間がどうにかなろうと思ったとき、焦燥感しかなくって。結果を残すことに必死でした。お仕事をもらえるようになって、その焦燥感からは少し解放された感じはあります。
30代に差し掛かる直前、豊橋市で市民の方々と演劇を作ったんです。高校生から70代までの人たちが、純粋に演劇を楽しんでいました。すごく焦燥感を抱えていた時期に、一般社会の人たちと芝居ができたのは私に大きな影響を与えてくれました。次の作品のために脇目も振らず演劇をしてきましたが、あのときの経験で自分のなかにあった澱みが落ちたように思うんです。あれからです、「優しくなったね」って他人に言われるようになったのは(笑)。
山田佳奈
嘘のないメンタルが動くとき
ーー映画と舞台で、キャストもガラリと変わりました。山田さんが俳優に対して求めていることはなんですか?
嘘をつかないということかな。いや、お芝居だから当然嘘ではあるんですけど、その俳優が本質的に嘘の状態でいると、きっと面白くないです。その人自身の生身の姿というか、パーソナルな部分が透けて見えた状態が一番大切だと思います。それが必要なかったら、俳優は誰でもいいってことになってしまう……。映画でも舞台でも、そこはいつも考えていますね。
『タイトル、拒絶』という作品のベースは同じだけど、今回、また舞台にすることで、俳優が変わればおのずと違うところに着目すると思いますし。おそらく2時間程度の舞台で、あらすじを追うという連続性だけでは絶対にお客さんは飽きてしまう。そういう意味で演出として変えていきたいし、舞台ならではのライブ感が加わることによって変わっていくと思います。
ーー監督業と舞台演出で、大きく異なる点を教えてください。
仕上げの過程が全然違います。舞台だと、稽古場でみんなと付き合って、中身の部分を固めて、劇場に入ってからの3日間くらいがテクニカルの仕上げ期間。映画は撮影が終わってからが長いんです。編集スタジオに詰めて延々と作業する。短距離走と長距離走の違いみたいな感じかも。短い時間で瞬発力を発揮するのか、ゆっくり練り上げていくか。でも、俳優との関わり方っていうのはそんなに変わらないと思います。人と人の関係のあり方は、メディアのジャンルで変わらないはずです。
山田佳奈
ーー初の小説『されど家族、あらがえど家族、だから家族は』(双葉社刊)を上梓しました。脚本家、演出家、俳優、映画監督に続き、新たな肩書きが増えましたね。
もう、肩書が多くて何やっている人なんだと思われますよね(笑)。でも、小説はまたぜひ書きたいです。本当にひとりで脱稿まで完結させなきゃいけない作業だから、脚本とは別の筋肉を使っている感じで、新鮮な体験でした。もちろん、小説も脚本もひとりで書く作業ですが、特に外部でお仕事する脚本の場合、演出家や監督のオファーに応えようという気持ちもある。□字ックで自分が演出するときも、キャストからイメージを受け取ったり、メンバーたちと練り上げたりすることがたくさんあります。小説を書いたことで、いかに自分は周囲の人たちから助けてもらいながら書いていたのかということを痛感しました。
だから、小説を書いて得た新鮮さは、また体験したいなって思うんです。すごく視野が広がりましたし、それを継続したときに見えるものは絶対にあると思うから。映画も演劇もそうなんですけど、やっていくだけ発見がある。だからいろいろやりたくなって、ますます何やっている人なのかと思われちゃう(笑)。
山田佳奈
シンプルに、創作を楽しむ
ーー□字ックは劇団としての体制が変わり、山田さんひとりになりました。
まさに劇団ひとり状態です(笑)。私のなかでは10年やってきて一周した部分があって、次に進むべきタイミングで劇団の形を変えました。旗揚げからのメンバーもいて、彼女たちと続けていく選択肢もあったんですが、やっぱり先々も自分の創作を一番に考えていきたかったし、自分のスキルをより高めたいと思ったとき、ひとり体制にしようと思ったんです。何もかも削ぎ落として自分ひとりで背負いたいというか……。
それを話したら劇団員がみんな「ひとりでやったほうがいいよ」って言ってくれて。10年も一緒にやってきた人たちだし、全員で達成感を得られる劇団の面白さもあったんですけど、このスタイルを選びました。劇団員たちには私から別れ話を切り出すようなことをしておきながら優しくしてくれて、結果的に私が泣き出すという(笑)。
ーー新たな環境で、作品に新たな一面が加わるといいですね。
創作だけに向かう環境なので、心のなかがシンプルになりました。とにかく創作に打ち込める体制を得られるようになったうえに、少し気持ち的にも余裕が生まれました。ちょっと前まで焦燥感の塊でしたからね、私。なぜか音楽フェスや東京コレクションに出たり(笑)。いろいろお仕事させてもらうようになって、創作を楽しめるようになって、今、一番肩の力が抜けている状態です。でも「その程度じゃダメだろ。もっと高みを目指せ」ってお尻を叩いている自分もいるんですけど(笑)。
山田佳奈
取材・文=田中大介 撮影=池上夢貢
公演情報
『タイトル、拒絶』
■日程:2021年2月4日(木)~2月10日(水)全8ステージ