荒井敦史×新内眞衣インタビュー~歴史ある劇場で歴史ある作品に挑む 『熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~』
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(左から)新内眞衣、荒井敦史
2021年1月14日(木)~1月31日(日)紀伊國屋ホールにて、『熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~』が上演される。
1964年の開場以来、日本を代表する様々な劇団や演劇人が作品を上演してきた紀伊國屋ホールが、2021年春に改装工事に入ることになった。その紀伊國屋ホール57年の歴史の中で最も上演回数の多い作品が、1973年に文学座で初演されて以降、様々な形で上演され続けている、つかこうへいの代表作『熱海殺人事件』だ。まさに改装前最後の上演作品にふさわしいと言えるだろう。
そんなメモリアルな公演の演出は、これまでもつか作品を多数演出してきた岡村俊一が務める。主演の木村伝兵衛は、岡村演出の下、2017年~2019年の3シーズンにわたって同役を演じたことでも話題となった味方良介と、今年3月に紀伊國屋ホールで上演された『改竄・熱海殺人事件』(演出・中屋敷法仁)の『ザ・ロンゲストスプリング』で同役を演じた荒井敦史がダブルキャストで演じる。
木村伝兵衛以外の役もすべてダブルキャストとなっており、ヒロインの婦人警官・水野朋子には、つかこうへいの愛娘でドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する愛原実花と、乃木坂46 のメンバーで今回つか作品初挑戦となる新内眞衣、熊田留吉刑事には、2018、2019年の味方主演の『熱海殺人事件』で同役を演じた、お笑いコンビNON STYLEの石田明と、つか作品をはじめ幅広いジャンルで活躍する細貝圭、犯人の大山金太郎には、テレビドラマや舞台など多方面で活躍している池岡亮介と、舞台作品をはじめ映像にも活躍の場を広げている松村龍之介、とそれぞれ魅力的な役者が顔を揃えた。
公演回によって出演者の組み合わせが違う上に、「バトルロイヤル公演」や「チャレンジ公演」と銘打たれた回もあり、どの回を観に行くのか観客としては嬉しい悩みだが、演じる側の心の内はどうなのだろうか。木村伝兵衛役の荒井と水野朋子役の新内に話を聞いた。また、インタビューに立ち会った演出の岡村からも貴重な話を聞くことができた。
「味方がやった3回を、俺は1回で超える」と公言してきた(荒井)
ーー荒井さんは今年3月に「令和初の熱海殺人事件」ということで中屋敷法仁さんの演出で上演された『改竄・熱海殺人事件』の『ザ・ロンゲストスプリング』で木村伝兵衛役を見事に演じ切りました。そこから1年を待たずに再び伝兵衛に挑まれます。
荒井:上演バージョンも違いますし、また一から構築していかなきゃいけないのかな、とは思うんですけど、何より嬉しい気持ちが一番大きいです。僕としては味方とダブルキャストでやれるところに意味があるのかな、という思いがあります。
荒井敦史
ーー2017年から3年連続で木村伝兵衛を演じたことで話題になった味方さんですが、『改竄・熱海~』のインタビューで荒井さんがおっしゃっていた「ミカティ(味方)の時代は終わりだよ」という言葉が強烈なインパクトでした(笑)。
荒井:味方は伝兵衛をやりすぎですよ!(笑)。今回も「まだ来るのか、味方!」と思いましたし。しかも味方には絶対と言っていいほど石田明が加わってくる。これを僕は“味方のハッピーセット”と呼んでいます(笑)。僕が味方と石田さんと初めて共演したのが、2016年の『新・幕末純情伝』(岡村俊一演出)なんですけど、あれからあの2人はずっと一緒にやってるイメージですよね。
これまで、伝兵衛をやるからには「味方がやった3回を、僕は1回で超える」と周囲の人に公言してきましたが、まさかその味方とダブルキャストになると思っていなかったですね。自分でハードル上げるということは逃げ道がなくなるということなんだな、と今回改めて思いました。
ーー新内さんは今作がつか作品初挑戦ということですが、つか作品経験者やつか作品への思い入れの強い方が多いこのカンパニーに参加される今のお気持ちをお聞かせください。
新内:まだ稽古が始まる前ですが、率直に怖いです。私は初舞台が乃木坂46の舞台『16人のプリンシパル』という、メンバーが1幕で毎日やりたい役に立候補して、その中からお客さんが投票して2幕の出演者を決めるという特殊なシステムの舞台だったんです。出演できるかわからない舞台に毎日臨まなければいけない状況に、舞台に対する恐怖心を抱くようになってしまいました。その後、何作か普通の舞台に出演して舞台の楽しさはわかってきましたが、だからこそ、つかさんの作品で舞台に立つというのはものすごいことだと思うので、今はひたすら「怖い」しか出てこないです。
新内眞衣
チャーミングな役なので、アイドルとしての経験を活かせればいいな(新内)
ーー演出はつか作品の第一人者、岡村俊一さんです。
新内:私は岡村さんの演出を受けるのは今回が初めてなんですが……(荒井に)いかがですか?
荒井:岡村さんは「任せておけばなんとかなる」という安心感があるので、誠心誠意全力で向き合えば、自分で見つけられるものもあるし、見つけてもらえるものもあると思います。舞台を観に行って、100%全部好きな作品ってなかなかないですよね。全体としては好きだけど、あの部分はちょっと、とかあると思うんです。でも、僕は岡村さんの作品をたくさん拝見してきましたが、100%全部好きなんです。だから岡村さんには絶大な信頼というか、ついていけば間違いないと思っています。
新内:今の荒井さんのお話しを聞いていると、舞台に対する怖い気持ちはありますけど、すごく楽しみになりますね。これだけ信頼関係を築けている方が共演者の中にいるということは、きっと間違いなくいい作品になるんだろうな、と思えます。多分厳しいお言葉もたくさんいただくと思いますし、ぶち当たる壁もあると思うんですけど、必死に食らいついていきたいです。
(左から)荒井敦史、新内眞衣
ーー台本を読んで現時点ではどういった印象を抱いていますか。
新内:長ゼリフがすごく多くてびっくりしました。台本をめくれどめくれど同じ人がずっとしゃべってる! と思って。
荒井:確かにそうですね。つか作品に慣れ過ぎて、その感覚をちょっと忘れてました。こんなにしゃべるやついないだろう、っていう感じですよね(笑)。
新内:長ゼリフの間に水野がちょいちょい茶々入れしていて、でもその一言で自分の存在を知らしめなきゃいけない。そこをどうやって岡村さんが調理してくださるのか楽しみです。水野はすごくチャーミングな役なので、アイドルとしての経験を活かせればいいなと思っています。
新内眞衣
その役と本人の人間性とが重なる瞬間がたくさんある作品(岡村)
ーー今回は全役がダブルキャストで、しかもキャストをシャッフルして上演するというのが、観る側としてはどの組み合わせのときに行こうかなとか、違うキャストで複数回観に行こうかなとか楽しみが膨らみますが、出演者としてはどのようなお気持ちでしょうか。
荒井:まあ、いわゆる“主”である伝兵衛の僕と味方の場合は、誰かに合わせて何かを変えるということがほぼないと思うので、僕らなんかより新内さんとか周りのみなさんが大変なんじゃないかな。とか言いながら、蓋を開けてみたら結局全員大変だった、ってなりそうですけど(笑)。
新内:今日、岡村さんや荒井さんから「こういうことをやるんだよ」というお話しを聞いて、初めて事の重大さに気付きました。とんでもないことをするんだな、という印象しかないです。以前出演した舞台で、緊張して頭が真っ白になってしまって、1発目のセリフを飛ばしちゃったことがあるんです。また舞台上でセリフが出なくなってしまうんじゃないか、というのが今一番怖いです。
荒井:でも、セリフが出てこない、っていうのはみんな経験しますよね。今回、熊田留吉役で出演する細貝圭くんの話なんですけど、今年の1月に新国立劇場 中劇場で岡村さん演出の『飛龍伝2020』に彼は出演していて、スペシャルイベントで『熱海~』の予告編をしたとき、彼は木村伝兵衛役だったんです。ピンスポットを浴びて「あのドアを出ると、新聞記者たちが手ぐすねひいて……」という長ゼリフをしゃべるはずだったんですが、「あのドアを出ると……」と言ったところでセリフが出なくなってしまって、結局セリフの一番最後の「……この曲!」ってセリフを言って終わらせたっていう(笑)。だから会ったときに「細貝さんって、あのドアを出たきり帰ってこられなかったんですか?」って言えばすぐ仲良くなれますよ(笑)。でも本当に、誰にでもあることですよね、岡村さん?
荒井敦史
岡村:出てこないセリフはカットするから大丈夫(笑)。というのも、かつてつかさんが『熱海~』の稽古をしているときに、役者がまさに今の話と同じく「あのドアを出ると……」のところでセリフが出なくなったんだけど、そうしたらつかさんが「よし、そこのセリフは『あのドアを出ると』まででいい」ってカットしちゃったということが実際にあったんです。
ーー怒涛の長ゼリフですから急に出て来なくなってしまうこともあるかもしれないけれど、そこはつか作品ならではといいますか、その状況に合わせて何とでもなる、たとえセリフが飛んでも芝居は進んでいくし成立する、という感じがします。
岡村:2013年に『熱海~』を上演した千穐楽の日に、それまで散々やってきたんだからもうセリフが出てこないわけがないのに、水野をやっていた大谷英子ちゃんが長セリフの途中でピタリと止まってしまったんです。その理由というのが、これが最後だと思ったら悲しくなって言えなくなったそうです。止まってしまったのは5秒間くらいだったと思いますが、でもちゃんと間が持ったんですよ。お客さんは全く気付かなかったと思います。
ーー『熱海~』は、セリフを完璧に言うことを良しとする類の芝居ではないですよね。役になりきるというよりは、演じている役者自身が投影されるところが『熱海~』の面白さに繋がっているのではないでしょうか。
岡村:つかさんの作り方ってそうなんですよね。その人物の正しい心持ちみたいなところを人間はかっこいいと思うので、だから「ああ、この人正しいこと言ってるな」と感じさせる瞬間というのは、その役と本人の人間性とが重なった瞬間なんですよ。その瞬間がいくつあるか、というのがいいお芝居の基準なんだ、とつかさんがおっしゃっていました。だからきっと『熱海~』はその瞬間がたくさんある作品なんです。メチャクチャ言ってるんだけど「こいつ間違ってないな」って思わせる瞬間がたくさんあるから面白いんですよ。
ーー今の岡村さんのお話しを聞いて、荒井さんと新内さんをはじめとするこのキャストでどんな『熱海殺人事件』が観られるのか、ますます期待が高まりました。では最後に、荒井さんと新内さんお一人ずつ、公演への意気込みをお聞かせください。
荒井:紀伊國屋ホールという歴史ある劇場の改装前最終公演として、歴史ある作品をやります。いろいろある状況下ではありますけれども、今のこのタイミングだからこそ観て欲しいなと思いますし、やはり劇場にお客さんが来てこその公演だと思うので、僕らも全力で頑張って面白いものを届けたいと思います。ぜひ楽しみにしていてください。
新内:3年ぶりの舞台で今は弱音しか吐けないんですが、千穐楽のときには笑って「やり切った!」って思えるくらいに成長できたらいいなと思っています。キャストの組み合わせもそうですが、私自身も多分公演ごとに違うものになると思うので、ぜひ「その瞬間の新内」を見て欲しいなと思います。劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。
(左から)新内眞衣、荒井敦史
取材・文=久田絢子 撮影=荒川 潤
公演情報
■キャスト出演スケジュール
この2公演は、どのキャストが出演するのか、当日、幕が開くまでのお楽しみとなります。
★バトルロイヤル公演(1/20(水)17:00公演)
誰がどの役をやるのか…? 8名全員出演!? なんてこともあるかも…! な公演となります。
☆チャレンジ公演(1/26(火)17:00公演)
通常の出演者以外が飛び入り出演!?する可能性があります。