城山羊の会 2年ぶりの公演『石橋けいの あたしに触らないで!』が開幕~ゲネプロレポート&山内ケンジ・石橋けいインタビュー
城山羊の会『石橋けいの あたしに触らないで!』
城山羊の会の新作舞台公演『石橋けいの あたしに触らないで!』(作・演出:山内ケンジ)が、2020年12月17日、東京・下北沢の小劇場B1で開幕した。カンパニーとしては2年ぶりの公演。また、主演の石橋けいにとって、5年ぶりの城山羊の会復帰。共演は、吹越満、米村亮太朗、岩谷健司、島田桃依、岡部ひろき、筒井のどか、岡部たかし。
劇場は発売開始後即完売となったが、この公演では初の試みとしてweb配信(視聴可能期間:2020年12月26日15:00~2021年1月23日14:59)も行われるので、劇場が買えなかった人や諸事情で劇場に行けない人、或いはこれまで地方在住で城山羊の会を観ることが叶わなかった人でも自宅等で観ることが可能になった。
「自粛とストレスで太ってしまった令夫人をめぐる艶笑譚」と山内が紹介するこの作品。そのゲネプロ(総通し稽古)に筆者はお邪魔した。以下、見学レポート&インタビューを記す。
この一年の出来事は全て夢だったのではないか、
夢に違いない、とその令夫人は思っていた。
しかし、家の中に幽閉されている間に、明らかに太ってしまっている。
このこと自体は夢ではない。現実である。
しかし、なんとかして、この贅肉を夢にできないだろうか、と令夫人は思う。
この物語は、令夫人の夢と現実、贅肉と恋との往来の中で紡ぎ出される、なんの教訓にもならない、滋味あふるる喜劇である。
真っ黒な壁に囲まれた舞台には、ピンク色のソファ、ピンク色のテーブル、ピンク色の椅子。城山羊の会には性的な場面が多く登場するが、会場に着いた段階からそれを意識してしまうなんて。
まだ客席照明が明るい中で島田桃依演じる弓子が登場し、その独白を聞いているうちに徐々に暗がりへと包まれる。現実と虚構のあわいが溶けていくような演出を、久しぶりに体感できることがうれしい。
気まずくて、不毛なやりとりにのぞく後ろ暗い感情。水面下でもつれあう、隠しても隠しきれない秘密の関係。あけすけなのに、おかしみの宿るセックス描写。これまでにも山内の作品で感じてきた、「人の事情(と情事)」を覗き見しているような世界が、今回は黒とピンクに統一された空間で繰り広げられる。
現実世界では人と人との距離を保つことが正義とされる2020年だが、舞台上では物理的にも心理的にも濃密な人間関係が展開される。切実だけど、見方によってはとても滑稽な、人間の割り切れない感情の数々が、これまで以上に愛おしく、特別なものに感じられた。
そして、城山羊の会ではおなじみ、石橋けい、吹越満、岡部たかし、岩谷健司、島田桃依の手練れの芝居には毎度の如く酔い痴れてしまう。さらに、初参加組の三名(米村亮太朗、岡部ひろき、筒井のどか)が、緻密でグロテスクな官能ジグソーパズルの不可欠なピースとして、それぞれの存在感を見事に発揮させていたことに目を見張らされた。余談だが、初参加の岡部ひろきは実父・岡部たかしと今回の舞台で親子共演を果たしている。
コロナ感染対策として、舞台と客席、そして座席と座席の間にしかるべき間隔が設けられている。そのため、客席数は通常より少ない。入場客には検温や手指のアルコール消毒が施されるのはもちろん、上演時間約110分の中に二度の「換気休憩」(各5分)が挿入されている。
城山羊の会『石橋けいの あたしに触らないで!』
ゲネプロ終了後、山内ケンジと石橋けいに話を聞いた。
■セックスシーンよりもエロティックな〇〇
ーー今回の公演タイトル『石橋けいの あたしに触らないで!』は、ソーシャルディスタンス的なことを意識してつけた題名なのでしょうか?
山内 いかにもコロナ以降な感じですが、実はそうではないんです。石橋さんが出演することとタイトルは1年半くらい前にもう決めてあって。
ーー偶然だったのですね。すると最初はタイトルにどんな意図があったのでしょうか?
山内 意図は特になかったけれど、久しぶりに石橋さんが出演するっていうことで、日活ロマンポルノとか、そういう、ちょっとポルノチックなものがいいなと。
山内ケンジ 石橋けい
ーー石橋さんにとって、城山羊の会へのご出演は5年ぶりです。
石橋 そんなに経ったんだという感じで。あんまり年月は意識してなかったです。メンバーも半分くらいはすでに城山羊でご一緒したことのある俳優さんたちだったので、リラックスして参加できました。
山内 『仲直りするために果物を』(2015年)以来ですよね。あれがもう5年も前なんだ。
石橋 ただ、そのあと映画の『At the terrace テラスにて』(2016年)にも参加してますし、他にも年に一度くらいは仕事でご一緒しているので、久しぶりな感じはしないですね。
山内 『仲直りするために果物を』の時は、あまりにも酷いシーンがあって上演途中なのに席を蹴って帰る人が出た。あれは初めての経験で、ある意味おもしろかったですね。
石橋 今回の内容はきっと大丈夫ですよね。
山内 帰らないと思う。まあ、換気休憩中に帰れるけど(笑)。
山内ケンジ
ーー今回石橋さんが演じられるのは、自粛とストレスで太ってしまったご夫人の役です。石橋さんの実生活とリンクする部分はありましたか?
石橋 基本的には、キャラクターはすべて山内さんの創作だとは思うんですが。
山内 でも、石橋さん、実際に太って、痩せましたよね。
石橋 あ、そうそう(笑)。出産があって。産後のすごく太っている時に一度お会いしたんですよね。産後に太って、コロナがあってジムになかなか行けないって嘆いてたり、城山羊までにどうやって体を戻そうって悩んでいる話をいっぱいしたりしたんで、もしかしたらそういうのが一部入ってるのかも。
ーー石橋さんがパーソナルトレーニングを実演するシーンがありますね。しかし、あれをあんなふうにエロティックに捉えてらっしゃるなんてっていう……。
山内 最近演劇で、ああいう変なシーンをただただ観せるっていうのはあまりないですよね。しかもそれをみんなが観てるっていう。セックスシーンよりもエロティックですよね。
ーー観ていて気まずさを感じながらも、ワクワクしてしまいました(笑)。ところで今回は劇場がいつも以上に早く売り切れになりましたね。
山内 そうですね。座席を減らしてるから。(舞台と客席最前列の間を指して)これが2メートル。
石橋 いつもよりお客さんがだいぶ遠く感じますね。
山内 大きな劇場みたい(笑)。
石橋 本当に!
石橋けい
■初のweb配信、劇場とは異なる体験を
ーー今回は配信もありますね。しかも、無観客の状態で別途撮影されるのですね。
山内 そうなんです。生配信だとちゃんと配信されるのかどうか危なっかしいから、それはちょっと嫌だなって。それで休演日に、配信用のを別に撮ろうと思って。無観客にすれば、カメラをステージに上げて自由に撮ることもできます。そのうえで、ある程度編集もおこないます。そういう形での配信になります。
石橋 城山羊の会はいつも公演をDVD化してますよね。配信もきっと、そのままDVD化できるくらいクオリティの高いものになるはず。
山内 ただ、今まで撮ってきたDVDの映像は、お客さんがいる状態で、離れたところから撮ってるから、そこが今回違いますね。
石橋 じゃあ、さらに良くなるんですね。
山内 普通の舞台を撮影したDVDの映像とは全く違うものになると思います。
石橋 より観やすくなるんですよね。『At the terrace テラスにて』くらいの感じになるんじゃないかなって。
山内 まあ、そうですね。それに近い感じ。
山内ケンジ 石橋けい
ーー役者さんの細かい表情も押さえてくれるのでしょうね。
石橋 絶対そうですね。劇場だと、一瞬の隙にいろんな人の表情とかおもしろポイントを見逃すけれど、映像だと「ここを観て」って部分がちゃんと編集で収まってるだろうから、来場して観た方にとっても2度美味しいと思うんですよね。もちろん、観に来られない方に配信で初めて観ていただけるのもとても嬉しいですし。
ーー石橋さんは、劇場にお客さんがいない状況で演技をされるのは初めてと聞いています。演じるうえで気持ちに何か変化は起こりそうですか?
石橋 そこはあまりないと思いますね。山内さんは、期間中も全部のステージを観てくださるんですよ。それで毎日ダメ出しがあって、そのたび稽古もちょっとしたりして。だから、最初に稽古場に入った時からずっと山内さんが観ているという状況自体は同じなので、気持ちはあまり変わらないかな。
ーー山内さん配信用の映像を作るにあたって、参考として他の舞台の配信も観たりされたのでしょうか?
山内 けっこう観ました。三浦大輔さんがやってた『役者の証』は、内容もさることながら技術的にも優れていました。あとは、岡田利規さんの『未練の幽霊と怪物』とか、シアターコクーンの『フリムンシスターズ』も観たな。その他にもずいぶん。配信は演劇界で今年突然ポピュラーになりましたが、もしかすると今のこの騒ぎが終わってからも残るかもしれないですよね。今は劇団によってやり方がバラバラですが、これからだんだんフォーマットが固まってくるんじゃないですかね。そういう気がします。
城島和加乃(城山羊の会プロデューサー/E-Pin企画) 初の無観客撮影なので、我々制作側も楽しみで。プランはまだ山内の頭のなかにしかないんですけど。山内は元々、映像の監督ですし、撮影スタッフも優秀な人が揃っているので、かなりクオリティの高いものができると信じています。
山内 それはわかんないです(笑)。でも、売り切れだとか、(地方在住といった)距離的な問題だとか、いろんな意味で観に来られない方がいるかと思いますし、石橋さんや吹越満さんを何度も観たいという方もたくさんいらっしゃるだろうし。だから、配信、ぜひ、よろしくお願いします。
山内ケンジ 石橋けい
公演は12月27日まで続くが、web配信が12月26日より視聴可能となる(配信は12月15日から発売中)。CMディレクターとして数々の名作を生み出し、傑作映画も監督として手掛けてきた山内が初めて挑む舞台の映像配信、この機にぜひチェックしてほしい。
取材・文=碇雪恵 写真提供=城山羊の会
公演情報
■出演:石橋けい、吹越満、米村亮太朗、岩谷健司、島田桃依、岡部ひろき、筒井のどか、岡部たかし
<劇場公演>
■会場:小劇場B1(東京・下北沢)
■料金:(全席自由・日時指定・整理番号付き)4,000円(税込)
■公式サイト:https://shiroyaginokai.com/
12月21日に無観客で撮影&編集したものを12月26日から配信
■視聴可能期間:2020年12月26日(土)15:00~2021年1月23日(土)14:59
■視聴料金:2,000円
■発売日:12月15日(火)10:00〜
■詳細:公式サイト参照 https://shiroyaginokai.com/