いよいよ今週末!『幽悲伝』通し稽古レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
撮影:吉永美和子(このページすべて)
登場人物たちとPatchたちの奮闘とが重なる、胸熱の力作になる予感大!
「演劇で大阪を元気に」というキャッチフレーズの元、「D-BOYS」の関西版として2012年に誕生した俳優集団「Patch(ぱっち)」。次回公演の『幽悲伝』では、ついに数多くの大物俳優も立つ大劇場[森ノ宮ピロティホール]に初進出を果たす。兄貴分の「D-BOYS」が上演した『夕陽伝』を、役者と演出を一新して上演するという試みも注目される本作。公演1週間前に行われた、通し稽古の様子をお伝えする。
(左から)竹下健人(『あさが来た』の弥七!)、村川勁剛、吉本考志、井上拓哉
『幽悲伝』(『夕陽伝』)は、近年は大きな舞台を手掛ける機会が増えた末満健一が作・演出を担当(『夕陽伝』は岡村俊一が演出)。日本最古の神話『古事記』の世界をベースに、王族に生まれた対照的な性格の兄弟が、瀕死状態にある自分の国&幼なじみとの恋にそれぞれの形で対峙し、決着をつけていく…という物語だ。
(左から)中山義紘、松井勇歩、村川勁剛
末満はPatch旗揚げ時から、彼らが役者として成長できるような作品を意識して取り上げて来たが、今回課題にしたのは「ピロティホールに似合った演技をしてもらうこと」だと言う。「彼らの身の丈に合ってない枠組みが用意された時に、周りの大人がその差を埋めてきてくれたけど、もう彼ら自身が埋めていかないといけない。そのために、演劇キャリア3年目の子たちにとっては難しいことを、いろいろ要求しています」。
(左から)杞山星璃、三津谷亮(D-BOYS)
今回用意された物語は、その舞台の大きさに相応しく、恋や友情などの身近なことだけでなく、人の世にはびこるマクロな問題についても同時に考えさせるような物語だ。中心となるのは、大和国王子の海里(かいり/村川勁剛)&都月(つづき/松井勇歩)の兄弟と、2人とは兄妹のような関係にある、摂政・猿美弥(えみや/中山義紘)の娘の陽向(ひなた/田渕法明)。自由奔放に立ち振舞い、周りからは「バカ王子」と呼ばれる海里。兄に変わって王になることを周りから望まれるほど優秀で、陽向に恋心を抱いている都月。大和国と長年対立していた熊曾族との和解のため、熊曾の王子真多羅(まだら/三好大貴)と結婚することになった陽向。しかしこの婚礼は思わぬ結果を招き、それは大和国のみならず、日本国全体を揺るがす厄災へとつながっていく…。
(左から)松井勇歩、三好大貴
D-BOYS版の『夕陽伝』は、ユニークなキャラクターを生かしたギャグや、派手なアクションシーンなどをたっぷり盛り込んだ、かなりエンターテインメント性の高いものだった。しかしPatch版の『幽悲伝』は、むしろ「幽(かそけ)き悲しみ」というタイトル通り、各登場人物の抱える悲劇にスポットを当てた群像劇、という色合いが強いように思える。様々な悲劇を乗り越えて前進していくために、未来を担う若者たちはそれらをどのように受け入れ、そして立ち向かっていけばいいか──そんな物語を、登場人物たちとほぼ同年代のPatchのメンバーが、身の丈を越えようと必死に演じる。それが「夕陽の向こうの明日」を求めて背水の陣で戦う登場人物たちと重なり、胸が熱くなる瞬間が稽古中に少なからずあった。
(左から)三好大貴、松井勇歩、三津谷亮(D-BOYS)、杞山星璃
でもそんな精神論的なことだけでなく、単純に「観て楽しい」という要素も多い舞台だ。物語の後半はほとんど殺陣のシーンで、しかもまるでダンスのように、興奮よりむしろ美しさすら感じさせるアクションも。特にD-BOYSの三津谷亮の「骨がない異形の人物」という役にふさわしい、超柔軟なアクションには何度も目を見張らされた。またヒロインの陽向は、歌舞伎の女形よろしく男優が演じているが、この田渕法明がどう観ても女性にしか見えないというレベルの可憐さ。これがメイク&衣裳バッチリな舞台上では、さらに少女度がアップするのかと思うと末恐ろしいぐらいだ。
(左から)田渕法明(ブルーシャトル)、三津谷亮(D-BOYS)
稽古はこれから追い込みに入るが、Patchのメンバーには「恥をかいてほしい」と末満。「単純にクオリティを上げたいというのはもちろん、Patchは外側で(役を)作る傾向があるので、人間力のある演技を心がけてもらいたい。そのためには稽古の段階で、たくさん恥を知ってほしいと思ってます」。
(左から)村川勁剛、松井勇歩、田渕法明(ブルーシャトル)
古代を舞台にしながらも、現代のメタファーのようにも思える世界で、より良い明日を切り開くために戦い、成長していく若者たちの物語。派手なアクションにワクワクできる舞台を目当てにしてもいいし、現実離れした壮大なストーリーを楽しみたいという人にもオススメできるだろう。でも一番観て欲しいのは、今の自分を変えたり、第一歩を踏み出さねばと思っているけど、そのキッカケがつかめずにいる人のような気がする。未熟でも恥をかいても、自らの成すべきことを成そうと戦う登場人物と、そのキャラクターに近づこうと食らいついていくPatchたちの姿に、強く背中を押されることになるかもしれない。
(左から)村川勁剛、松井勇歩
最後にPatchメンバーの中から、海里役の村川勁剛、都月役の松井勇歩、そして摂政・猿美弥役で、NHK朝ドラ『あさが来た』の炭鉱夫役も好評だった中山義紘による動画メッセージをどうぞ。稽古中の真剣な姿とは打って変わり、関西の若者らしい明るいノリの3人にギャップ萌え確実?!
■日時:12月19日(土)・20日(日) 19日=18:00~、20日=12:00~/17:00~
■場所:森ノ宮ピロティホール
■料金:前売5,500円 当日6,000円(全席指定) ※初めてPatch stageを観る方対象の「初めまシート」あり。見切れの席や後方の席中心。4,000円(当日引換)
■公式サイト:http://www.west-patch.com/
■作・演出:末満健一
■出演:
村川勁剛、松井勇歩、竹下健人、三好大貴、中山義紘、井上拓哉、吉本考志、杞山星璃、岩﨑真吾、山田知弘、近藤頌利、有馬純
竹村晋太朗(劇団壱劇屋)、吉田青弘、内村正年(W.Strudel)、浦田克昭、伊藤駿九郎(KING&HEAVY)、キタノの大冒険(よしもとクリエイティブエージェンシー)
田渕法明(ブルーシャトル)、中川浩三(Z system)、三津谷亮(D-BOYS)