藤重政孝インタビュー~舞台『サイドウェイ』は「人生に寄り添う、体温のような作品」

インタビュー
舞台
2021.3.12
藤重政孝 (撮影:池上夢貢)

藤重政孝 (撮影:池上夢貢)

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舞台『サイドウェイ』が、2021年3月20日(土)~25日(木)東京芸術劇場シアターイーストにて上演される。この作品は、第77回米アカデミー賞脚色賞や第62回ゴールデングローブ賞作品賞をはじめ、世界中で大小350もの賞を受賞した映画『サイドウェイ』(2004年)の原作者、レックス・ピケットが2012年に自ら戯曲化した舞台版の日本語上演となる。日本語上演台本・演出は古川貴義(箱庭円舞曲)が務める。なお、この公演では各ステージの配信もおこなわれる。

脚本の請負仕事をしながら小説家を夢見るマイルスと、鳴かず飛ばずの俳優業の傍らテレビ番組のディレクターで生計を立てているジャック。40代の入り口に立ち、人生に迷っている親友同士の2人が、カリフォルニアのワイナリー巡りの旅に出かけた先で、女性やワインと出会うことで人生の岐路に立たされるという物語だ。

マイルスを演じるのは、シンガーソングライターで近年は俳優としても精力的に活躍している藤重政孝。本公演の企画・製作・主催であるconSeptが手掛けた2018年上演のミュージカル『深夜食堂』に出演、今年6月にはミュージカル『いつか〜one fine day 2021』への出演も決定しており、舞台での活躍にますます注目が集まっている。今作では、ワイン好き同士で意気投合しているマヤ(壮一帆)に心ひかれながらも、離婚の痛手を今も引きずってなかなか一歩踏み込めない、そんな煮え切らない男を演じる藤重に、今作への思いを聞いた。

■1日24時間じゃなくてもう6時間欲しい

――藤重さんは音楽活動もされていますし、ミュージカルでのご活躍が印象的ですが、今作はストレートプレイですね。

今回もミュージカルですよ。歌うところありますもん、1、2秒くらい(笑)。どこでどう歌うかは乞うご期待、ということで。

――台本を読んで、ご自身が演じるマイルスについてどう思いましたか。

僕は今まで割とジャックみたいな役が多かったんです。でも僕の中では、自分自身とはすごくかけ離れた役だという感覚もあって。今回のマイルスという役も、僕としてはすごく遠いところにいる役だろうと最初は思っていたんですけど、いざ稽古に入ってみると自分の中にマイルス的な部分がすごくあることに気づき始めました。悩んで葛藤してる部分とか、夢に向かってあえいでいる部分とか、そういう自分を引っ張り出してマイルスと繋げていくという作業を日々しているんですけど……まぁ眠いです(笑)。

――それは、お稽古がハードだからでしょうか?

稽古場はそれぞれが持ってきたものをぶつけ合う場所だと思っているので、家にいる時間であったり、稽古場との往復の時間であったりというのがいかに大事なのかということを改めて感じています。久しぶりに、1日24時間じゃなくてもう6時間欲しい、と思ってしまいますね。こういう時代になったので、USBメモリを自分の体のどこかに差せるようにならないのかな、とか(笑)。

■記憶に委ねられてしまうその瞬間がものすごく好き

――今作はワインが重要なモチーフとして登場します。

僕はビンテージギターがすごく好きなんです。木でできているので、ギター自体が年月によって育っていくんですよ。どんな音が鳴るように成長していくのかは使う人によっても変わってくるし、弾かなければ鳴らなくなるし。ワインもボトルの中で熟成されて成長していくけれども、飲み頃のピークを過ぎてしまえば衰退していくし、同じ日にボトル詰めしたワインでも、保存の状態とか環境によって1本1本育ち方も違ってくるだろうし。ワインのそういうビンテージ感とか儚さを、稽古しながら感じています。

――マイルスとマヤがワインについて語っているシーンが印象的で、ワインと芸術、舞台は非常に近いんじゃないかと思いました。

保存がきかないっていうのは、舞台もワインも確かにそうですよね。記憶に委ねられてしまうという、その瞬間がものすごく僕は好きなんです。あと、フィルムの写真の現像するまでどう撮れているかわからないドキドキ感も好きです。デジタルでは作れないアナログ感っていうのかな。そこは時代が変われど消えずに残るものなんじゃないかなと思います。

――舞台も、昨日の公演と今日の公演で同じことをやっているはずなのに全然違ったものになる、なんてこともよくあって、そこはある意味アナログ感ですよね。

しかも、やっている側が「よし、今日よかった!」って思っても、案外お客さんから見たら「昨日の方がよかった」ってこともあるし、今日失敗しちゃったな、って反省していたらプロデューサーに大絶賛されたりとか(笑)。それはワインと繋がるところですよね。育てて提供する側と、飲む側の味覚の違いもあるだろうし。

――ワインは見た目も美しくて、置いてあるだけでもインテリアになるようなデザイン性の高さも魅力的だと思います。

レコードのジャケ買いじゃないけど、ラベル買いもありそうですよね。飲んでイマイチだったとしても、ラベルがカッコいいから空きビン飾っておいたりして。そういうのって、アートですよね。今は配信で音楽を聞く人が増えていますけど、レコードやCDはジャケットとかたたずまいとか、そこにアートがあったんですよね。そこを楽しんでくれる人が減ってきているのは、少し寂しい気もします。

■“人間の生きている温度”をこの作品で届けたい

――マイルスは39歳という設定ですが、40代に入ったときに何か考えたことや感じたことはありましたか。

今46歳なんですけど、「これでいいのかな」というのは常に感じています。昔から大人の男にあこがれ続けていて、年を取ることは嬉しいんですけど、年齢だけ増えて中身変わってないよ?みたいな(笑)。良くも悪くも、気持ちは東京に出てきた頃のまま変わってないように感じていて。周りにいるカッコいい大人の先輩方を見ていると、40代で体の節目はいろいろ感じていますけど、もっと大人になりたいっていう憧れは強くなりますね。 

――今作は40代に限らず、現状の自分に「これでいいのかな」と感じている人が一歩を踏み出せるようにそっとエールを送るような作品になりそうですね。

この作品の温度って、熱くもなく冷たくもなく、ちょうどいい36度台くらいの体温だな、と読んだときに思ったんです。“人間の生きている温度”というのをこの作品でお客様に届けたいと思っています……僕の加齢臭と共に。

――それは記事に書いてしまって大丈夫でしょうか?(笑)

プロデューサーからカットされるかもしれませんが、僕的には全然OKです。まあ、加齢臭はさておき(笑)、人生に寄り添うような、体温のような作品にしていきたいと思っていますので、楽しみにしていてください!

■ワインへの理解を深める

インタビュー後、稽古場にてワインソムリエの松木リエさんによるワインレクチャーが行われた。今作ではワインが頻繁に登場し、その銘柄も様々。登場人物たちはワイン用語も多用する。

まずは、最初にマイルスとジャックがワイナリーを訪れるシーンを披露し、それを見た松木さんにアドバイスをもらうことから始まった。テイスティングマネージャーのクリスがマイルスとジャックにテイスティングワインを注ぎ、マイルスがうんちくを述べながら味わうのだが、松木さんからの指摘は非常に細やか。

「ワインを注ぐときは手首の内側を見せないようにして、ラベルを見せるようにしながら注ぐ」「スワリング(ワイングラスをクルクルと回すこと)は、右利きの人は反時計回りにすると、こぼれたときに人にかかりにくい」といった基本動作のアドバイスや、「テイスティングのときは、歯茎や舌の位置によって感じる味覚が違うので、口の中全体を使って味わうようにする」「ワイナリー巡りをするときは、酔ってしまうと味覚も変わるし体力を温存する意味でも、テイスティングで口に含んだワインは基本的に飲み込まずにスピット・バケツに吐き出して、本当に美味しいものだけを飲み込むようにするといい」といったテイスティングの際の心得も教えてくれた。出演者はもちろん、スタッフも興味津々で松木さんの話に聞き入り、質問も活発に飛び交っていた。

今作はワインの魅力を伝えているところも重要なポイントだ。こうしたレクチャーを通じてキャスト・スタッフがワインへの理解を深めることで、劇中に登場するワイナリーやワイン、そしてワインについて語る登場人物たちにより説得力が増すことだろう。今作を見終えたときに、作品の内容を反芻しながら思わずワインが飲みたくなってしまうような、そんな舞台になることを期待したい。

取材・文=久田絢子  写真撮影=池上夢貢

公演情報

『サイドウェイ』(劇場/配信)
 
■原作・脚本:レックス・ピケット
■翻訳:主計大輔
■日本語上演台本・演出:古川貴義(箱庭円舞曲)
■キャスト:
藤重政孝、神農直隆、壮一帆、富田麻帆、江浦優大、嶋村亜華里、片桐はづき
 
■会場:東京芸術劇場シアターイースト
■日程:2021年3月20日(土)〜25日(木)
3月17日(水) 19:00
3月18日(木) 14:00 /19:00
3月19日(金) 19:00

3月20日(土) 13:00△/18:00▲
3月21日(日) 14:00△
3月23日(火) 14:00△/19:00△
3月24日(水) 14:00△/19:00△
3月25日(木) 13:00▲
▲=3カメ配信、△=1カメ配信

※開場は開演の30分前 ※未就学児入場不可
 
■劇場一般発売:2021年1月30日(土)
発売当初は、客席数は70%程度を想定して対応予定です。今後、新型コロナウイルス感染状況により変更可能性がありますので予めご了承ください。
■配信販売:conSept movie
https://consept-movie.myshopify.com/
■料金:
一般:8,800円(全席指定・税込)
ボトルワイン付き観劇券:12,000円(全席指定・税込)
配信視聴券/3カメ配信:3300円、ワイン付き6500円(数量限定・税込・ワイン送料別)

配信視聴券/1カメ配信:2500円、ワイン付き5700円(数量限定・税込・ワイン送料別)
※ボトルワイン付き観劇券はオリジナル・ワインオープナー付きでお届けします。
※ボトルワイン付き観劇券は別途送料1,000円(1本)がかかります。
※アーカイブ配信はありませんが、配信トラブル対応のための見逃し配信を各配信日の23:59まで設定しています。
※配信開始60分後までご購入可能です。
 
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