『ハンブレッダーズ“きっと何かが変わるはず”ワンマンツアー』東京公演、バンドが至った境地をみた
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ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ
ハンブレッダーズ“きっと何かが変わるはず”ワンマンツアー 2021.3.4 TSUTAYA O-EAST
1st Single「COLORS」の発売を記念して開催された『ハンブレッダーズ“きっと何かが変わるはず”ワンマンツアー』、3月4日(木)東京・渋谷TSUTAYA O-EAST。
このツアーは、この東京と、3月9日(火)大阪・BIG CATとの2本。東京では1Fのフロアにディスタンスを取って番号を振った指定位置へお客さんに立ってもらう等、新型コロナウイルス感染拡大予防に配慮したオペレーションで開催された。
『COLORS』収録の「COLORS」「フェイバリットソング」「パーカー」の3曲は、すべて演奏。コロナ禍で、リリース・ツアーを断念せざるを得なかったメジャー1stアルバム『ユースレスマシン』からは、5曲。
ムツムロ アキラ(Vo.G)の歌とギターの独奏で始まった1曲目の「銀河高速」や、アンコールのラストで、まるでこの状況でも集まってくれたオーディエンス(
そして、コロナ禍を受けて、2020年4月20日に急遽デジタル・リリースした「ライブハウスで会おうぜ」もプレイ。さらに、第一建設工業株式会社のCMソングとして書き下ろした、音源としてはまだリリースしていない新曲「STILL DREAMING」も、アンコールの1曲目で披露された。このCM、関西では放送されていないそうで、オーディエンスのリアクションを見たムツムロは「(ちゃんとオンエアされているって)確信が持てた(笑)」というようなことを言っていた。
ただし、そんな「STILL DREAMING」以外も、ステージの上のメンバーたちは、かなり、相当、手応えを感じたんじゃないかと思う。
立ち位置から動けず、歓声もあげられず、顔の下半分がマスクで隠れていて、揺する程度に身体を動かすことや、腕を振り上げることや、拍手や手拍子でしか、ステージに反応を返せない。しかも人数は本来のキャパの半分以下(※目測です)。
そんな状態であっても、その場にいれば肌で感じられるくらい、O-EAST内のオーディエンスの熱は高かった。生でハンブレッダーズのライブを観れる日を待っていた、『ユースレスマシン』の曲を生で浴びることができる日を楽しみにしていた、その思いがフロアから立ち昇っているような、ちょっと異様と言ってもいいくらいの空気感だった。繰り返すが、フロアには、本来の半分の人数しかいないのに。
あと、そんなオーディエンスの期待に寄りかかったライブを、ハンブレッダーズがやらなかった、だからオーディエンスの熱が高いままだった、というかどんどん上がっていった、というのも大きい。と、観終わって感じた。
ツアーとしてはわずか2本だけ、それ以前もライブは再開させてはいたものの、本数としては、コロナ禍前と比べたら、動いていないに等しいくらい。にもかかわらず、ライブ・バンドとしてのパフォーマンスが、飛躍的にアップしていたのだ。演出とかでいろいろやるタイプのバンドではないので、つまり歌と演奏そのものが、ということだ。
自分が初めてハンブレッダーズのライブを観たのは、2018年7月3日渋谷WWWのイベントで、それ以降も、全部ではないにしろ、東京での大事なライブは、だいたい観ていると思う。演奏がちょっとコケ気味だったライブも、ノドの不調で声が出なくてムツムロが本当に悔しそうにオーディエンスに詫びていたライブも、観たことがある。
という中で、ジワジワとよくなっていくさまを観れる楽しさも込みで、ライブを追ってきたところもあったのだが、その上昇曲線の角度が、これまでとはまるで違った。
始まった瞬間に「あれ? こんなにライブよかったっけ?」と、まず思った。そして、その「あれ?」という感触は、14曲目まで途切れることがなかった。
曲の届き方、刺さり方が、あきらかに強くなっている。歌詞のひとことひとことや、メロディの展開や、各楽器の鳴りが、あきらかに耳に刺さるものになっている。おそらく「もっともライブができなかった年」である、2020年を経ているにもかかわらず。
以前とはリードギタリストが違うから、とかでは、たぶんない。演奏がうまくなった、というのはあるだろうが、それだけでもない。何かもっと根本的な、人前で歌って演奏する時の気構えとか、考え方とか、思想とか、大げさに言うと覚悟とかが、変わったのではないか。僕にはそんなふうに映った。
さらにサービスに徹するとかとはなく、むしろストイックに曲を届ける、ただただ真摯に歌と演奏に向き合う、というようなスタンスのライブだったことも、そのことを表しているような気がした。それ以外のことをする必要を、だんだん、感じなくなっているのではないか、と思う。
ライブを拠り所にしてきたのに、それができなくなったのはヘヴィだったことや、今の世の中で信じられないくらいしんどいことが起こっている状況について、アンコールで、ムツムロは触れた。
そして「その悲しみを消し去ることはできないけど、プレイボタンを押せば寄り添うことはできるので、またヘッドフォンの中でお会いしましょう。ハンブレッダーズでした」という言葉でそのMCを締めて、「DAY DREAM BEAT」に入った。
その曲のサビの<ひとり 登下校中 ヘッドフォンの中は宇宙><ひとり 登下校中ヘッドフォンの中に夢中>にかけたMCだったが、「うまい!」と言いたくなるだけではない、それ以上の切実さが、その言葉にも、歌われた曲自体にも、こもっていた。
取材・文=兵庫慎司 撮影=松本いづみ