加藤和樹にインタビュー 自身がいつか日本版を上演したいと熱望したミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』の魅力とは?
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加藤和樹
ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』が日本版演出・日本人キャストで2021年9〜10月に上演されることになった。
世界的に有名な未解決事件として恐れられた殺人犯・通称“ジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)”。19世紀末に英国ロンドンで発生したこの猟奇連続殺人事件をモチーフに、チェコ共和国でミュージカルが創作された。そのミュージカルを原作に、韓国独自のアレンジを施したミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』は2009年の初演以来多くの観客に愛される大人気演目に。今回、KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督も務めた白井晃が日本版演出を担う。
SPICE編集部は、繊細な心を隠し荒ぶりながらも正義のため孤高に生きる刑事アンダーソン役と、市民を恐怖に陥れる連続殺人鬼であり謎の復活を遂げる通称“切り裂きジャック”役の2役を回替わりで務める加藤和樹に、作品の魅力や意気込みを聞いた。
加藤和樹
――まずは菊田一夫演劇賞、受賞おめでとうございます!
ありがとうございます。
――受賞のお気持ちは?
ようやく実感が湧いてきたなという感じですかね。本当にみんなで頑張った結果がひとつの形になったというだけなので。それに満足することなく、これからも、役者人生を歩んでいきたいと思います。
――今回は『ジャック・ザ・リッパー』ということで、アンダーソンとジャックの2役を演じられます。『マタ・ハリ』(2018)のときも2役演じられましたが、た、大変ですよね?
実際にやってみないとね、本当の大変さは分からないですが、実際に韓国で作品を観ているので、「大変なんだろうな」というのは、想像はできています(笑)。ただ、アンダーソンとジャックは、対極のところにいる2人。どちらの心情も分かって、面白いんじゃないかなと思っています。どちらもやりがいのある役だとも思いますし。
――『マタ・ハリ』のときは、2役演じるなかで「曲によって音程が混ざる」といったご苦労を語られていました。今回もその辺りに挑戦するわけですか?
ジャックとアンダーソンは、もちろん重なるところもあるし、同じシーンに出ているところもあるんですけど、『マタ・ハリ』のときほどの戸惑いはないと思います。『マタ・ハリ』の場合は、デュエット曲でお互い違う旋律を歌う感じだったので。
1つの作品の中で違う2役を演じられるというのも、すごく贅沢なことだなとも思うので、(演出の)白井さんにビシビシしごいていただきたいと思います。
加藤和樹
――韓国で『ジャック・ザ・リッパー』をご覧になられたということですが、それはいつ頃ご覧になられたのですか?
10周年記念公演の時なので、2019年の2月ぐらいです。
――ご覧になられて「日本でこれをやりたい」という熱い思いを感じられた。
もちろん日本では、韓国版が上演されていたんですけども、やはり日本版として、日本のキャストでいつか上演したいなという風には思っていましたね。
――作品のどういうところに一番惹かれましたか?
『フランケンシュタイン』の演出をしたワン・ヨンボムさんが韓国版の演出をされていますし、韓国版音楽監督も『フランケン』を創られたイ・ソンジュンさんで、もともと僕が好きなテイストというか。もちろん今回は、韓国で上演されたものとは、全く別物になると思いますが。
ダークな世界観だけれども、楽曲の派手さが印象的でした。特に僕が印象に残っているのは、ジャックの曲が急にロックになるんですよ。あとは緩急の付け方ですよね。劇的なシーンと、静かなところのメリハリがある。とにかく観ていて目が離せなくなる。「次は何が起こるんだろう?」という感じです。
全体的には、本当に、後ろ振り返ったらジャックがいるんじゃないかと感じてしまうような結構暗い世界観で。息を飲んで、すごく集中して観られる作品だと思いますね。
――韓国で作品をご覧になっている時は、加藤さんご自身が出演されているイメージはあったのですか?
それはなかったですね。観終わってからやりたいなという感じでした。
初めて観る作品だったので、そんなに前情報を入れずに観に行ったんです。そこで起こることに「今どうなっているんだろう?」とか「これってどういうことなの?」とか「もしかしてそれってそういうこと⁉︎」とか、いろいろ想像しながら観ることができたので、すごく面白かったですね。もちろん当時、言葉は分からないですけど、それだけの表現力と楽曲の力、歌唱の力を感じました。
加藤和樹
――演出の白井さんとは『オセロ』(2013)から、だいぶ長いお付き合いですよね。
はい。お世話になりっぱなしです。
――改めて白井さんはどんな演出家だなと感じられますか?
とにかく情熱があふれている。情熱の人です。
演出や芝居に関して諦めないですね。初日が開けても、千秋楽まで、いや、千秋楽が終わっても、作品をより良くしよう、もっと上があるということを考えている方。役者としては初日が開けても、より良い公演にしていこうという思いがあるんですけど、それを共に歩んでくれる演出家なので、とても信頼できますね。
――オフィシャルのコメントでは、白井さんのことを「演劇の師」と表現されていました。
僕は、白井さんに褒められた記憶がないんですよ(笑)。そういう意味では、僕にとても厳しく接してくださる方ですし、自分の弱いところや、もっともっと上を目指せるということを教えてくださる。
初めて白井さんとやらせていただいた『オセロ』という作品では、本当に右も左も分からなくて。何もできない僕にも、厳しく、諦めずに稽古に付き合ってくださって、お芝居を演出してくださった。その後の作品でも厳しく演出をしていただいて。そこまでの愛情をもって接してくださる方はなかなかいないです。当時は「なんで自分だけ」と思った瞬間もありましたけど(笑)、いつも白井さんの愛を感じます。
白井さん自身、芝居も素晴らしいので、そうしたところから見えてくるものがやはりあるのでしょう。こちらも白井さんの感じていらっしゃることを叶えたい、体現したいという思いが尚更大きくなりますよね。
――加藤さんご自身、白井さんと最初に出逢われた頃に比べて「成長」を見せたいという思いもあられるのですか?
もちろんそれもあります。今回は2役を演じるので、人より2倍3倍は頑張らなきゃいけない。そこで、白井さんの満足できる芝居を両方作れるかどうかというのは課題かなと思います。
加藤和樹
――今回、アンダーソン役は松下優也さん、ジャック役は堂珍嘉邦さんとそれぞれWキャストを組まれます。お二人についてはどんな印象をお持ちですか?
お二人とも作品は観たことはあるものの、共演はしたことないので、非常に楽しみではありますね。優也くんも、堂珍さんも歌の表現が素晴らしいので。いいところはお互いに協力しつつも、結果それぞれの役ができてくると思うので、そういう意味ではいい距離感で作っていけたらなと思います。
――ダニエル役を演じられる木村達成さんと小野賢章さんのお二人については?
達成は『ファントム』(2019)で共演しましたし、賢章も一緒にお芝居は作ったことないんですけれども、声優の仕事で関わりがあって。二人とも内に秘めるものがすごくある俳優なので、そこはダニエルにぴったりな気がします。あの二人がどういう表情を見せるのか、すごく楽しみですね。
――まだお稽古前だと思うのですが、どんな感じで加藤さんのお稽古は進んでいくのでしょう? その日はアンダーソン、明日はジャック、という形でしょうか?
やり方はいろいろあると思います。どちらか片方の役を先につくるというやり方もあるんだと思いますが、『マタ・ハリ』のときは同時進行でつくっていきました。どちらかというと、同時進行の方がやりやすいかなと思いますね。
――混乱はしませんか?
1つが先に出来上がってしまうと、それで完結してしまうような気がして。2つを同時進行でつくっていくことで見えてくるものもあると思いますし。まぁ、そこら辺は白井さんとの相談になるとは思います。
――きょうはアンダーソンとジャックそれぞれのビジュアル撮影をされました。ご自身の中でイメージは膨らみましたか?
そうですね。もともと自分の中にあるイメージと、今回つくろうとしているイメージとは、そんなに大差はないと思いましたね。
ただまだ演じているわけではないので。ビジュアル的にはその2人が持っている違いは出せたかなとは思いますね。かたや殺人鬼、かたやそれを追う刑事。アンダーソンもやさぐれていると言えばやさぐれているので、その陰や闇の部分はもちろんあるんですけど。その目の奥にある違いは出せたかなと思いますね。
加藤和樹
――「闇」や「陰」は加藤さんのお得意の分野ですね(笑)。
そうですね(笑)。去年から今年にかけては「陽」の役しかやっていないので、久々にこちらに戻ってきたなという感じですかね(笑)。
――確かに『BARNUM』はびっくりしました。
あはは、ありがとうございます。俺もびっくりしました(笑)。ミュージカルとはいえ、あんなにはっちゃけた役もなかなかない。どちらかというとね、殺されたりとか、殴られたりとか、暗い作品が多かったので……(笑)。
――最後に、観劇を楽しみにされているお客様に見どころや意気込みをお願いします!
『ジャック・ザ・リッパー』は韓国で大ヒットして、日本でも何度か上演されている作品です。それが満を持して、いよいよ日本版演出、日本のオリジナルキャストで上演できることにすごく喜びを感じています。
もともと韓国のミュージカルが好きな方で観たことがあるという人もいらっしゃると思いますし、作品を今回初めて知って観に来るという方もいます。
誰もが耳にしたことがある“ジャック・ザ・リッパー”(切り裂きジャック)というものをモチーフにしている作品ではあるんですけど、その中に秘められた真実や愛、「人と人との繋がりとは一体なんだ?」「追い詰められた時、人はどうなってしまうのか?」と、本当に人間の本質に迫るような作品になっていると思うので、ぜひドキドキしながら観に来ていただきたいと思います。
加藤和樹
取材・文=五月女菜穂 撮影=福岡諒祠
公演情報
作曲:Vaso Patejdl 作詞:Eduard Krecmar 脚本:Ivan Hejna 演出: 白井晃
翻訳:石川樹里 訳詞:高橋亜子 音楽監督:島健
ダニエル:木村達成・小野賢章(Wキャスト)
アンダーソン:加藤和樹・松下優也(Wキャスト)
ジャック:加藤和樹・堂珍嘉邦(Wキャスト)
グロリア:May’n
ポリー:エリアンナ
モンロー:田代万里生
朝隈濯朗 天野勝仁 伊佐旺起 石井雅登 齋藤桐人 常川藍里 水野栄治 りんたろう
碓井菜央 岡本華奈 熊澤沙穂 香月彩里 菅谷真理恵 ダンドイ舞莉花 永石千尋 橋本由希子
期間:2021年10月8日(金)~10日(日)
会場:フェニーチェ堺 大ホール
主催:キョードーマネージメントシステムズ/フェニーチェ堺
企画制作:ホリプロ
公式Twitter @musicaljack