加藤和樹、『マタ・ハリ』再演でゆがんだ愛の形を生きる男に挑む心境を語る

インタビュー
舞台
2021.5.8
加藤和樹

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第一次世界大戦期のヨーロッパ、オリエンタルな魅力とダンスで一世を風靡するかたわら、スパイとしても活動する一人の女がいた――。フランク・ワイルドホーンの楽曲が実在の女スパイの半生をドラマティックに描き出すミュージカル『マタ・ハリ』が3年ぶりに上演される。初演時に引き続き、マタ・ハリをスパイ活動へと引き込むフランス諜報局のラドゥー大佐役で登場する加藤和樹が、作品への抱負を語ってくれた。

――2018年公演に引き続きこの作品に出演されます。

 初演のときはアルマンとラドゥーの二役をやらせていただいて、二役入れ替わりで稽古していたので大変なところもあったんですけれど、本番の幕が開いてからは、マタ・ハリを取り巻く二役を演じているからこそ、どちらの心情もより深いところでお芝居ができたかなという思い出があります。マチネとソワレで違う役を演じていた日もありますが、それも含めて楽しめましたし、二つの役で柚希礼音さん扮するマタ・ハリと相対することができて、おもしろかったですね。

――ラドゥー役の魅力についてはいかがですか。

 難しい男なんですよね。彼自身、諜報局の大佐としての任務がある中で、男としてマタ・ハリにひかれてしまう。その葛藤や苦悩があります。そういうところを、今回さらに深く描いていけたらいいなと思っています。傍から見たらすごくねちっこいというか、ゆがんだ愛の形があって、それまでそういうものをお芝居で演じたことがなかったなと、初演のときには思いましたね。同じ男として、何だかちょっと不思議な感じがしたというか。

加藤和樹

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――マタ・ハリという人物についてはいかがですか。

 実在の人物で、いろいろ調べていくと、目を背けたくなるようなことに手を染めていたりもするんですけれども。演じているちえちゃん(柚希)の姿を観ていると、やはり、芯の強さがないとできないこともあるなと。自分の良心なんかが拒んでしまうところもある中で、生き抜いていくためにそうせざるを得ない。その強さがないと生き残っていけないという。人としての生き方の強さをすごく感じます。マタ・ハリはそれを踊りで表現するところがあるんですよね。ただの踊りではなくて、本当に、彼女のそれまで生きてきた証みたいなものが(踊りに)現れるから、人は魅了されたのかなという風に思います。

 戦時下で人が何に救いを求めるのか……。ラドゥーの場合、すがるもの、その象徴だったのがマタであったのかなと思います。そこで、”ひとときの夢を見る”じゃないですけれども、そうすることで、戦争の嫌なことも忘れることができたり、一時の心の安らぎみたいなものを得られたんじゃないかなと。

――春にブロードウェイ・ミュージカル『BARNUM/バーナム』に主演されていて、歌って踊って明るくはじける姿を観てちょっとほっとしたくらい、今回のラドゥーも含め、加藤さんには苦悩する役どころを多く演じられている印象があります。

 苦悩したり、痛めつけられたり、死んだりする役どころが多いので(笑)、『バーナム』や、昨年秋に演じた『ローマの休日』で演じたのは、珍しいと言えば珍しい役どころでしたね。そういった対極の役柄を演じることで、表現にもいろいろな方法があるということを知りましたし、明るい役どころを経て、またこうしてラドゥーという男を演じる。初演のときとはまた違った見方もできるのかなというところが楽しみではありますね。

加藤和樹

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――フランク・ワイルドホーンさんの楽曲の魅力についてはいかがですか。

 楽曲として本当にすばらしいんですよね。ダイナミックですし、聴き応えがある楽曲ばかりです。でも、歌うとなると、ものすごくエネルギーを要するところがあって。芝居が本当に自分の身に入っていないと成立しない楽曲ばかりなんですよね。ただ歌えばいいというだけの楽曲ではないところがすごく魅力なんだなと思います。マタとアルマンとラドゥーの三重唱「あなたなしでは」というナンバーがあるんですが、韓国で舞台を観たとき、これはすごいなとめちゃめちゃ鳥肌が立ったんです。それぞれの思いを交錯させて同じ歌詞で歌うんですけれども、こめられている思いはそれぞれ全然違っていて。(初演時に)稽古場で初めて3人で歌って練習したとき、全然成立しなかったんですね(苦笑)。これを歌うにはやっぱりお芝居を突きつめないといけない、そこまで到達しないと歌えないということを思い知らされた曲でした。

――柚希さんに加え、今回、愛希れいかさんもマタ・ハリ役をダブルキャストで演じます。

 ちえちゃんは初演から続投なので、よりマタとしての魅力、初演とはまた違った魅力が見られたらうれしいですね。一緒に演じていてとても気持ちのいい役者さんですし、とてもかわいらしいので、そのギャップずるいなって思うんですけれども(笑)。今回はアルマンは演じないので、ラドゥーとしてどうアプローチしようかなという楽しみもあります。ちえちゃんはものすごく全力なんです。一つ一つのお芝居、セリフに対してもそうだし、相手として思わず引き込まれるものがある、その気持ちよさがありますね。

 愛希れいかさんとは『ファントム』で共演して。僕がファントムで、彼女が演じるクリスティーヌに惹かれる役どころだったんですけれども、今回はラドゥーとして、彼女をどう舐め回す演技をしていく感じというか(笑)。

加藤和樹

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 (愛希さんとは)芝居に対する感性みたいなものが似ているなと感じます。『ファントム』で初めてみんなで本読みをしたとき、お互い感情移入しすぎてボロッボロに泣いちゃったんですよ。まだ本読みなのにって、びっくりしました(笑)。彼女が読んでいる言葉に対して、僕の方もスイッチが入っちゃって、終わったとき、二人して鼻かんでいて。それまで、本読みで、同じように感情が高ぶりすぎる人ってあまりいなかったんですけど、そのとき、迷いなくちゃんと伝えてくれる人、与えてくれる人なんだなということをとても感じました。芝居への取り組み方も含め、真面目な人なんだろうなとも。お互い遠慮せず役についても話すことができると思いますし、また、彼女のダンスもすごくすばらしいので、ちえちゃんと違うマタを作り上げると思うので、そこもとっても楽しみですね。

 それぞれがどういうマタ・ハリ像を作り上げて、どうアプローチしてくるかによって、こちらのお芝居も変わってくると思うので、その違いを楽しめることが今回新たな試みかなと思います。再演というと、自分の中にどうしても初演のときのリズム感、お芝居のテンポが残っていて、演じ始めるとそこをなぞってしまうきらいがあるので、そこに流されず、相手のお芝居に対する感覚を研ぎ澄ませて、新鮮に反応して作っていきたいですね。

加藤和樹

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――ラドゥー役をダブルキャストで演じる田代万里生さんについてはいかがですか。

 万里生さんはいろいろな作品で観させていただいていますし、コンサートで共演させていただいたことはあるんですが、こうやって同じ作品に携わることは今回が初めてです。なので、万里生さんがどんなラドゥーを演じるか、個人的には非常に楽しみで。自分とタイプが違うと思うので、万里生さんのラドゥーを通して見えてくるもの、今まで見えていなかったものを楽しみにしています。

――演出の石丸さち子さんについてはいかがですか。

 とにかく作品と役に対する愛がすごい人なんですよ。本当に信頼がおける方ですし、全力でぶつかり合える演出家なので、今回もとことん突きつめていきたいなと思います。ちょっと厳しい部分もあるんですけれども、本当に役者の底上げをしてくださる演出家なので、頼りになります。初演のとき、僕がアルマン、佐藤隆紀くんがラドゥーを演じていて、二人が対峙するシーンがあるんですが、公演が始まってから、そこの演出について、まだ上に行けるからちょっと試したいと、本番が終わった後に楽屋でずっと3人で話をしていて。劇場の退館時間になっても時間が足りず、ホテルの部屋に戻って深夜の1時過ぎくらいまで話し合いをしたことを覚えています。動きも含めて、決められたものではなく、お互いの感情の思うまま、自由にやってみたらどうかということで、夜中まで試みていて。それはすごく印象的でしたね。めちゃめちゃ熱い人なんです。

加藤和樹

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――戦時下に生きる人々が描かれた作品ですが、社会の張りつめた雰囲気はどことなく今の状況とも重なるようにも思います。

 コロナ禍で参加してきたのは、『ローマの休日』や『バーナム』など、どちらかというと明るい作品だったんですね。こういう状況下で暗めの話を上演するのが初めてなので、お客様も含めてどういう反応をしてくださるかはまだ想像できないんですけれども、こういうつらい状況下で人はどう強く生きていくのか、それも作品の一つのテーマだと思いますし、その中でも生まれる希望や愛、そういった前向きなものもあるんだということを感じていただけるとうれしいですね。

――加藤さんにとってミュージカルの舞台に立つ醍醐味とは?

 舞台に立っていても、客席で観ていてもそうなんですが、物語が始まる瞬間の、お客様も含めてのある種の緊張感、それに毎回ぞくぞくするんですよね。オーケストラのチューニングに、あ、いよいよ始まる! って感じたり。そうやって客席と一体になるところ、その瞬間が醍醐味だなと思いますね。こうやって同じ作品を再演できるということは、ありがたいことに、それを望んでくださった方々がたくさんいらっしゃったということだと思うので、感謝して取り組みたいなと。やるからには初演を超えるものを作るというのが再演をやる意味でもあると思いますし、僕自身としては、また新たな『マタ・ハリ』を作るという思いでいます。スタッフ・キャストと一緒に、この状況下でできる最大のエンターテインメントを届けたいと思いますので、ご期待ください。

加藤和樹

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ヘアメイク=江夏智也(do:t)スタイリスト=立山功
ジャケット 31,900円、パンツ 16,500/CROWDED CLOSET(tel 048-930-7224)、シャツ 24,200/DISTINCTION MEN’S BIGI(tel 03-6738-3801)、その他スタイリスト私物


取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=福岡諒祠

公演情報

ミュージカル『マタ・ハリ』
 
日程・会場:
東京公演:2021年6月15日(火)~6月27日(日)/東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
愛知公演:2021年7月10日(土)~7月11日(日)/刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
大阪公演:2021年7月16日(金)~7月20日(火)/梅田芸術劇場メインホール
 
脚本:アイヴァン・メンチェル
作曲:フランク・ワイルドホーン
歌詞:ジャック・マーフィー
オリジナル編曲・オーケストレーション:ジェイソン・ホーランド
訳詞・翻訳・演出:石丸さち子
 
出演:
柚希礼音  愛希れいか(Wキャスト)
加藤和樹  田代万里生(Wキャスト)
三浦涼介  東啓介(Wキャスト)
春風ひとみ  宮尾俊太郎
 
鍛治直人  工藤広夢  飯野めぐみ
石井雅登  伊藤広祥  竪山隼太  上條駿  中川賢  中本雅俊  森山大輔
彩橋みゆ  石井千賀  石毛美帆  桜雪陽子  Sarry  鷹野梨恵子  原田真絢
 
企画・制作:梅田芸術劇場
主催:東京公演主催:梅田芸術劇場・東宝・アミューズ
愛知・大阪公演主催:梅田芸術劇場
 
公演に関するお問い合わせ:
東京・愛知 0570-077-039(10:00-18:00)
大阪 06-6377-3800(10:00-18:00)
 
公式ホームページ https://www.umegei.com/matahari2021/
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