クレナズム×People In The Box、歓声はなくとも感動があるーーライブというアートの力を提示した『#20072021』とは
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People In The Box 撮影=ハヤシマコ
『#20072021』2021.6.4(FRI)大阪・umeda TRAD
クレナズムとPeople In The Boxによるツーマンイベント『#20072021』が6月4日(金)、大阪・umeda TRADにて開催された。
前夜から続いた土砂降りが、開演を前に見事に上がった金曜日。そんな空模様や週末を前にした喧騒が心を左右するのも、ライブという失いかけた日常が、今日はここにあるから。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの「Only Shallow」と真紅の照明を浴びながら、まずステージに登場したのはフロム福岡の4ピース、クレナズムだ。「福岡のクレナズムです、今日はよろしくお願いします!」(萌映/Vo.Gt、以下同)と、絶叫にも似た開戦ののろしと強烈なヘヴィネスで幕を開けたオープニングナンバーは「白い記憶」。初っぱなから舞台上でのたうち回るように鳴らされたノイジーなギター、うごめく胎動を音にしたようなグルーヴがumeda TRADを包み込む。続く「ウェインは言った」でも、みぞおち辺りにズシッと食い込むようなベースラインに、画面越しでは決して体感することのない現場の醍醐味を再認識。そんな美しき轟音の中で、萌映が可憐な歌声を響かせていく。
クレナズム
「改めましてこんばんは、どうぞ楽しんでいってください!」とフロアにひと声かけた後は、昨年リリースされたミニアルバム『eyes on you』の収録曲より、彼らのポップセンスが生み落とした宝石のような「ラテラルアーク」で、メロディメーカーとしての確かな資質とバンドのポテンシャルを存分に証明。「ひとり残らず睨みつけて」でも、性急なリズムワークときらめくギターリフに連動する照明ともども、みずみずしい輝きを放っていく。
クレナズム
「People In The Boxとのツーマンベントは、実は結構前から決まっていたことではあったんですけど、コロナの影響で延期が続いて……。今日という日がこうやって実現することができたのは私たちだけの力ではなくて、関係者の皆さま、そして目の前にいらっしゃる皆さまのおかげだと思っています。本当にありがとうございます! People In The Boxの皆さんとは福岡つながりで、私たちからすれば偉大なる大先輩なので、共演できることをずっと楽しみにしてきました」
クレナズム
この日に向けた想いをバンドを代表して萌映が伝えた後は、かの森鴎外の死生観が色濃く出た短編『妄想』に出てくる熟語を引用したという「酔生夢死」を。持ち前のネオ・シューゲイズなサウンドに、「今の時代とすごくリンクした部分があって、そっと背中を押してくれるような曲」と語るのもうなずける、より身近な距離感の言葉を乗せた最新型のクレナズムを聴かせる。そして、イントロから瞬時に空間を掌握したのは、彼らの代表曲とも言える「花弁」。どこまでも深い海に沈んでいくようなディープでメロウな世界観に一気に引き込まれていく。彼らの未来に期待せずにはいられない切なき名曲には、People In The Boxというモンスターを前にしても一矢報いる才能の片鱗をまざまざと感じる。
クレナズム
疾走感漂うポップなナンバー「ヘルシンキの夢」では途中マイクにトラブルがあったものの、動じることなく己の音で魅せる頼もしさも感じさせ、むしろ次曲の「エピローグまで」のすごみを増すフックになっていたのは、4人のステージ度胸が呼び寄せた印象的なワンシーンだ。ラストの「青を見る」まで、高まる衝動と静かなる感動が共存するドリーミーなサウンドとはかない歌声に、身も心も浄化されるかのようなクレナズムのライブだった。
クレナズム
1曲目の「デヴィルズ&モンキーズ」からいきなり異質、というPeople In The Boxの真骨頂。ドラム、ベース、ギターのそれぞれが生き物のように、思いのままに音を奏でているようで、全てがバンドとして、音楽として、歌として構築されている奇跡を当たり前に見せつけられる光景に、これぞPeople In The Boxと細胞がざわざわ騒ぎ出すこの感覚。硬質なビートが導く「ミネルヴァ」でも、ブレイクとシンクロするグリーンの閃光もろとも心を持っていかれる相変わらずの総合芸術ぶりで、People In The Boxでしか、ライブでしか味わえないすさまじい磁場を、冒頭から存分に感じさせていく。
People In The Box
さっきまでの緊張感がうそのようにアットホームなMCを挟み、再び畳み掛けるリリックとギターが先導する「ニムロッド」へ。天才/変態かつ圧倒的なオリジナリティをライブ中に何度も思い知らされ、「馬」「懐胎した犬のブルース」と、ずぶずぶとPeople In The Boxの沼に引きずり込まれていく快感、いや中毒性。コロナ禍によりソーシャルディスタンスが確保された座席指定のレイアウトのため、会場の最後部から見る客席の絵面にはほとんどフィジカルな動きはないが、メンタルが刺激されまくっているのは空気で分かる。
People In The Box
「久々の対バンで、大きい音でクレナズムさんのリハを聴いたんですけど、やっぱ良いですね。ライブとかちょこちょこ行ってます皆さん? 早く前みたいな感じに戻ると良いなと思ってますけど。あと2曲やって帰ります、よろしく!」(山口大吾/Dr)
不穏を具現化したようなサウンドから一転、開かれるメロディラインのカタルシスに酔いしれる「聖者たち」でも、軽々しく使いたくはない唯一無二という言葉がこれほどハマるバンドはいないと痛感。トリッピーな心地良さに身を委ねる。最後は、神秘性と少年性をたたえた歌声で、<かみさまはいつだって優しい嘘をつく>と言ってのける第一声からのめり込まずにはいられない「かみさま」で圧巻のフィナーレへ!
People In The Box
とかく理由や共感を求めがちなこの時代に、理屈抜きの興奮や刺激を享受する喜びを。コロナ禍だからこその楽しみ方で記憶に残るライブを。そこに歓声はなくとも、確かな感動がある。音楽の、ライブというアートの力を改めて提示した、意義ある一夜となった『#20072021』だった。
People In The Box
取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=ハヤシマコ