二度の延期を乗り越えたどり着いたマイアミパーティのワンマンライブ「サイカイ」は心から「生きている」と実感できるライブだった

レポート
音楽
2021.6.25
マイアミパーティ

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2021.06.13 マイアミパーティpresents『サイカイ』@渋谷WWW X

大げさではなく心から「生きている」と実感した。一音一音がその人の形をした楽器の音、それらがバンドサウンドとなってほとばしったときの圧を、空気の震えを、ダイレクトに肌で受け止めるこのうえない歓喜。機関銃のごとく繰り出されるリリック、その語間や行間に宿る赤裸々な体温は鼓膜を通じて聴く者の全身を駆け巡り、胸の奥を焦がす。ライブとは振動と熱でできていること、生きているということはそうした振動と熱をリアルに実感できることなのだとこの日の彼らのステージにつくづく教わった気がする。6月13日、渋谷WWW Xにて開催されたマイアミパーティ初の東京ワンマンライブ“サイカイ”。本来ならば1月30日に行なわれる予定だったのだが、度重なる緊急事態宣言の発出によって二度の延期を余儀なくされた。そうしたなか、コロナ禍収束の見通しは依然として立たない状況ではあるものの、いよいよ開催実現に漕ぎ着けた今回。まさに三度目の正直、再振替のスケジュールが決まってからはメンバーもおそらく気が気でない日々を過ごしてきたのだろう、この日、ステージに姿を現わした4人はのっけから尋常ではない気迫をみなぎらせていた。

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「マイアミパーティ始めます! ライブハウスへようこそ! 素晴らしい夜に!」

 登場とともについに叶った再会への喜びをポエトリーリーディングに乗せて放ったのち、そう高らかに宣言するさくらいたかよし(Vo.& G)。次の瞬間、分厚いアンサンブルが「待ってました!」とばかりに客席目がけて一斉に溢れる。1曲目を飾ったのは昨年12月に初の配信シングルとしてリリースされた「ウォルト」だ。「待ってました!」はオーディエンスだって同様、即座にフロアいっぱいザンザンと突き上がる拳のなんと嬉々としたことか。新型コロナウイルス感染予防対策として場内には間隔を空けて椅子が用意され、さらに観客はマスク着用かつ大声や歓声は禁止とされるなどのルールがいくつも設けられていたが、それらはしっかり遵守した上で、不自由をものともせずに一人ひとりが全力でこの瞬間を楽しみ、ステージと一体になって分かち合おうとしている。声は出せずとも心のなかでは一緒に歌っていること、実際に駆け寄ることはできなくても気持ちはめいっぱいの前傾姿勢でいることは4人にもはっきりと伝わっていたに違いない。♪ルーランランララン、の息の合ったコーラスが楽曲をいっそう躍動的にした「つれづれ」から「最終列車」と演奏はぐんぐんパワーアップ、場内の温度を急上昇させにかかるのだからたまらない。さらにテンポを上げた「未来予報」では曲中で歌詞を♪おーい いつか僕らも歌を歌えなくなってしまうのか だとしたら歌えるときに歌うしかない、と替え歌にする一幕も。コロナ禍の痛みを真っ向から喰らってきた彼らだからこその、この一瞬に懸ける想いがいっそう説得力を増してこちらにも届く。本当に待ち侘びていたのだ。

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「今日まで長かったね。その間、みんなに何があったかはわからないけど、最後の最後の最後に背中を押すのが僕らバンドマンの仕事だと思ってます。本当に来てくれてありがとう」

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さくらいがそう告げて突入した「夜明け前」。淡々とリズミカルに繰り出される歌と、その歌に寄り添って抑制を利かせた演奏とがサビでグワッとエモーショナルに広がり、聴き手を一気に包み込む。悲しみを噛み締めながらも、それに染まるまいと必死にこらえる“僕”の心情がなんともやるせない。「ごめんね」に綴られた“君”への想いの、とても誠実でありながらハッとするほどの辛辣さ、それを吐露してしまう“僕”が僕自身を刺す痛みを、イワノユウ(Dr.)が刻むタフなビートと後半に向かうに従って存在感を増すハイトーンが切実な叫びを彷彿させる中川マサキユ(G.)のギター、両者の間を縫うように動くセルジオ(B.)のベースラインの三位一体がいっそうブースト。

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のっぴきならないグルーブを生み出してゆく迫力には思わず息を呑む。さくらいが歌詞や時折、演奏の前に披露するポエトリーリーディングに紡ぐ言葉はマイアミパーティの強力な武器であり大きな魅力のひとつだが、その言葉の力を最大限に活かしているのはそれぞれにプレイヤーとして抜きん出たメンバーの存在にあることは間違いない。イントロや間奏、アウトロで発揮される表情豊かなアンサンブルは、歌や言葉と同じくらいこのバンドの個性になっていると思う。モニタースピーカーに乗ったり、ピョンピョンと弾きながら何度もジャンプをしたり、千手観音と見紛うかのごとく手足を巧みに操ったり、アイコンタクトを交えながら笑顔で演奏に没頭する4人の姿は何よりオーディエンスに力を与えていたはずだ。

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 東京で初めてのワンマンライブとあって、バンドが現在の形になってから約4年となる歴史をまるごとパッケージするかのごとくマイアミパーティの名曲たちを新旧織り交ぜてラインナップしたセットリスト。さらに最初の振替公演予定日だった5月2日当日に「いつもありがとうと、ごめんなさい」の想いを込めてTwitterにアップされた新曲「mother」もこの日改めて披露された。大それたことはできなくても人から見ればちっぽけなことに大きな愛を注ぐこと、小さな温もりを守り続けることはできると朗々と歌う、彼ららしい実直な希望に満ちたアッパーチューンだ。おそらく初聴きにも関わらずフロアがいきいきと揺れはずんでいるのもとても印象的。中盤戦に差しかかるとゲストコーラスとして恋は魔物の佐藤いづみ(Vo.& G.)を招き入れ、音源でも彼女がコーラスに参加している「グリコ」などミディアムナンバーを中心に6曲を演奏する。ブルージーな「日々」に繰り返される“変わらなきゃいけない”のフレーズで女性コーラスの華やかさが重なることでひときわ抜き差しならない心情が浮かび上がったかと思えば「レイトショー」ではしみじみと色褪せない愛情を感じさせたり、より楽曲の情緒に立体感がもたらされるからなんとも面白い。佐藤を見送ったあとは、さくらいが“さくらいくん”名義で発表した1stソロアルバム『一人の時間』に収録の1曲「とも/だち(Track by マサキユ)」(必聴!)をマイアミパーティバージョンで奏でるなど、とにかく見どころ聴きどころがもりだくさん。加えてMCではメンバー(主にセルジオ)のあれこれが明かされたり、ライブも後半戦になろうとしたところでさくらいが曲順を間違えてメンバーにツッコまれたりとライブならではの楽しみどころも。

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「僕は歌うことしかできないんだけど、こんなふうに小さなことを大きな愛を込めてやっていこうと思います。みんなもたまに上手くいかないこともあると思うけど、自分が失敗したときは“そういえばあのとき、さくらいも歌詞を飛ばしてたな”なんて思い出せばいい」

 ラスト3曲を前にオーディエンスへ向けて、そうメッセージを送るさくらい。人生は七転び八起き、イヤなことがあったら楽しいことがあると説き、変わらない日常の繰り返しのなかにライブハウスがひとつ組み込まれるといいなとポエトリーリーディングで訴えかける。そのためにも僕らは歌い続けるし、ライブハウスは明かりを灯し続けると誓い、「ライブハウスでまた会いましょう!」と呼びかけて、そのままライブの鉄板チューン「シスター」へ。そこからはもう怒涛の一語に尽きた。オーディエンスのぶんまで大声で叫ぶメンバーコーラスの熱き野太さ、それに応えんと必死に拳を振り、全身を揺らしてひとつになるフロア。ステージと客席、観客と観客、それぞれのソーシャルディスタンスをあっさり飛び越えて、心と心がぴったりと密になっているのがわかる。そうだ、これが音楽の、ライブというものの力だ。

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 アンコールを飾った「ジーザスクライスト」は現在のこの出口の見えない現状に彼らが突きつけた意志表明だっただろう。何があってもここにいて歌い続けるから、だから君もきっと元気でまた会おう、そんなメッセージでもあったと思う。トータル22曲、たっぷり2時間に及んだ“サイカイ”は私たちに今本当に必要なものは何かを思い出させてくれるに十二分なエネルギーに溢れていた。遮二無二で一心不乱な振動と熱。もしあなたがこの日、まだ彼らに出会えていなかったとしてチャンスはこれからいくらだってある。なぜならマイアミパーティもここから再び始まるからだ。“再会”そして“再開”の先に待つ新たな知らせを心して待ちたい。

 

取材・文=本間夕子 Photo by稲垣ルリコ

 

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