「本当に老後の資金がないんですね」渡辺えり&高畑淳子がW主演で舞台初共演! 『喜劇 老後の資金がありません』製作発表レポート
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高畑淳子と渡辺えり(左から)
2015年に刊行され大ベストセラーとなった垣谷美雨による同名小説を舞台化した、『喜劇 老後の資金がありません』が2021年8月13日(金)より新橋演舞場、9月1日(水)より大阪松竹座で開幕する。コメディに定評のあるマギーが脚色・演出を務め、同い年の演劇人である渡辺えりと高畑淳子がダブル主演を務める。
6月29日、都内で製作発表会見があり、渡辺えりと高畑淳子、マギーらが出席した。その様子を写真とともにレポートしたい。
歌あり踊りあり⁉︎ 生活感あふれるエンターテイメントへ
マギー
脚色・演出を務めるマギーが挨拶した。
マギー:今日は緊張しながら、会場にきたのですが、僕が入ってきた時に、えりさんと高畑さんがちょうどご挨拶をされているタイミングで。お二人が「は〜〜! いや~!」と挨拶されている姿が、明るく大きなお花が二輪咲いているという雰囲気があって。それを見て緊張がなくなったし、この舞台はこういうことだよなと。とにかくワクワクしております。
原作はとても面白くて、その面白さのひとつは、老後の資金がないという、誰もが抱える問題を具体的な数字や身につまされるようなセリフがたくさんあるところで。これを舞台化、脚色することで、どうしていこうかということで、「老後の資金がありません……」という内向きな独り言が書かれている台詞を、「老後の資金がありません〜〜!」と明るく歌い上げることで、歌や踊りや笑いで、この生活感あふれる作品をエンターテインメントとしていきたいと思います。僕自身が非常に楽しみにしています。
渡辺えり「共演したいと思い続けて30年」
渡辺えり
続いて、主演を務める渡辺えりと高畑淳子が挨拶した。
渡辺:あの、本当に、老後の資金がないんですね(会場笑)。私自身、どうしようかなと悩んでいて。特にコロナ禍で、大赤字ですから。今66歳で、老後の資金がないなと思いながら、この芝居をやることが興味深いし、楽しみです。
老後の資金がないんだけど、もっと必要なものがあるなとこの一年で考えて。友情だったり、愛情だったり、家族とか、目に見えないものが本当に大きいんだなとつくづく考えた一年でした。資金がないということだけではなくて、何か足りないものがある。それをマギーさんが原作を面白く脚色させてくださったと思うんです。
長年連れ添った夫婦に、資金がないとわかった時に、ちょっと亀裂が走っていく。それを乗り越えていく話だと捉えています。高畑さんと共演したいと昔から思っていて。『女たちのシェイクスピア』という作品をで30年ぐらい前に拝見して、すごい役者さんだなと思って。酔っ払いの男役をやられていて、いつかご一緒したいと思って30年です。
今回は歌もあって、踊りもあって、夢のように明るく演じたいと思います。だって、老後の資金がないんですから(笑)。暗くなっても仕方ない。奥にある夢の部分がパッと華やかに演出できたら良いんじゃないかなと思います。こういう時代だからこそ、みんなが触れたくなるような楽しい芝居を目指して、みんなで力を合わせて頑張っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
高畑淳子「劇場は不思議な場所で、魔法のような場所」
高畑淳子
高畑:みなさんが全部言ってくださったので、私は何も言うことはなく、稽古場でのほほんといられるのではないかなと、考えています。えりさんはエネルギッシュな方ですが、公演日程も私にとってはエネルギッシュ。こう見えて、胃とか喉が弱いんですよ。お芝居の半分ぐらいで、無声映画のようになってしまって、千穐楽は何の声もでなかったということがありました(笑)。その辺は体力の帳尻を合わせつつ、最後までお客様にきちんと満足していただけるように。
いまの時代に枯渇しているのは、心の滋養だと思います。私自身もそうですが、心が不安なんですよね。この間、映画館の客席に座って、スクリーンを見た時点で、だだ泣きしてしまって。こういうことに来ること自体、魂が震えるというか。劇場には不思議な力があって、魔法のような場所だと思っています。演舞場はお芝居小屋らしくて、そういう意味でもお客様の何かを乱して帰っていただける作品になればと思っております。どうぞよろしくお願いします。
松竹の山根成之・専務取締役
会見の冒頭では、松竹の専務取締役・山根成之氏が以下のように挨拶した。
山根:こうした状況の中、またお芝居が開けられて、記者会見ができるということは感謝の極みでございます。『喜劇 老後の資金がありません』という8月の新橋演舞場、9月の大阪松竹座の記者会見ですが、このキャッチーなタイトルでわかりやすい内容でございますけど、4、5年前に話題になった小説の初めての舞台化でございます。ワクワクしますが、しかもその演出は、マギーさん。非常に楽しみな作品となります。
以前2000万円問題というか、老後には2000万円が必要だと、世の中を騒がせましたが、誰もが経験しないといけない、今経験している方もいらっしゃいますでしょうし、これからだという方も、落ち着いている人もいると思いますが、老後の資金問題は身近な問題でございます。これは喜劇でございますので深刻な受け止められ方をしないように、お笑い、歌、踊りを交えて、楽しく作っていただければと思います。
出演者は、渡辺えりさんと高畑淳子さんと日本を代表する演劇人でございます。初めての舞台での共演でございまして、丁々発止が楽しみでございます。
「あんた、あの役、分かってる?」事件
会見で話す高畑淳子(左)と渡辺えり
続いて、記者からの質疑応答が行われた。
ーー今回初共演ということですが、お互いの役者として、どう見ていらっしゃるかを教えてください。
渡辺:様々な舞台、井上ひさしさんですとか、明治座の芝居ですとか、青年座の舞台とか観ているんですけど、全部違うところが好きです。高畑さんは高畑さんなんだけど、全部役を演じる時の心根を変えていらっしゃる。それで、台詞を言わない時の表情が面白い。具体的に役として感じることのできる、稀有な役者さんだなと思っています。
高畑:えりさんの印象は、25年ぐらい前ですか、PARCO劇場である芝居をやっておりました。その中の出演者で、一人いけていないなという男性の俳優さんがいたんですけど、えりさんがお客さんでいらしたときに、楽屋にドドドドときて、「あんた、あの役、分かっている?」と言いまして。すごいなぁと思って。それが焼きついています。その人とお芝居をするのかと思って(笑)。
渡辺:若い頃の話ですよね! 誰に言ったかも覚えていません(笑)。演出だったから、友達に関しては持ちつ持たれつで、本当のことを言わないといけないと思い込んでいたので。今はそんなことやっていません。若い頃はそれが正しいことだと思っていたんです。
高畑:ものを作るということは、刺激あってのことで、自分で気付いていないことを教えてもらえることこその芝居なのかなと。そういうところから遠ざかっていく、年齢も含めて誰も言ってこない、裸の王様になりつつあるので、できる限り、体力と見合わせながら、最後まで立つということが一番です。お芝居を一緒に作れる楽しみに溢れています。がんばります。
歌と踊りで明るく、時には馬鹿馬鹿しく
渡辺えり
ーー原作はとても面白い作品で、さらに歌あり、踊りありと聞いた時、どのような感想をもたれたか教えてください。
渡辺:歌があることで時空を飛べるというか。歌と踊りを入れることで、時間を飛べるし、気持ちもすかっと切り替えることができるんですよね。気持ちの説明の部分を端的にできるという意味で、歌と踊りはいいなと私は思っています。好きです、私、歌と踊り。
高畑:渡辺えりは演出なんだなと感動しました。歌と踊りは苦手です。ドレミファソのソぐらいからファルセットになってしまうので。ひとりで歌うぐらいならいいんですけど、えりさんと歌うとなると。えりさん、すごくお上手ですから。声がすぐもげるんです。森山良子さんみたいな歌なら歌えるんですけど(笑)、頑張ります。
マギー
ーーどのようなことを考えられながら脚色されたのでしょうか。
マギー:まさに先ほどえりさんがおっしゃったように、自分の中の心象風景、自分の中の独り言みたいなことを、歌と踊りにすることで明るく、時には馬鹿馬鹿しくさえ感じるように伝えることができるとしたら、それはすごくいいなと思って。えりさんがここまで分かってくださっているのは、「どうぞ!」というだけです(笑)。
演じるのは「普通の主婦」と「節約家の女性」
会見で話す渡辺えり(右)と高畑淳子
ーー渡辺さんは「普通の主婦」である後藤篤子役、高畑さんはその友人である神田サツキ役を演じられます。それぞれの役柄について教えてください。
渡辺:普通っていうのはないと思うんですけど、「普通の主婦」だといっても、普通の主婦が何をしでかすか分からない世の中ですし、普通と言うのは普通なのか捉えきれない部分があると思うんですけど、その中でも普通の主婦という設定ですよね。
派遣の社員で働いていて、夫はきちんとした会社に勤めているんだけど、娘が結婚して、お葬式代とか急に出ていくお金が増えるという、誰もが経験するような事柄がいろいろ繰り返されていくんですけど、結婚式代が600万円、私……そんなにかけるんだぁと思ったんですけど。その主婦はこんなにかけたくないと思って、節約しようと思うけど、夫が見栄っ張りで。
私だったらおかしいと言うんだけど、夫の気持ちを尊重しながら、自分が我慢していく。きっとこれが普通の、一般的な日本人の主婦の人。みんな、自分を殺して、娘や夫のために尽くしている人が大勢おられると思うんですよね。男社会をなんとかしたいと私は頑張っていきたんだけど、そうなっていかないわけですよ。
女性が自分の考えを発言したり、自分が思うように家計をやっていくのが難しいんだなと再確認させられるような作品の中の、普通の主婦。分かっていただけますか? 派遣でやっている、そこもクビになって、仕事も収入もなくなる。娘は娘で心配なんだけど、どんどん孤立していくんです。コロナ禍であり、孤立していき、頼りになっていく人がいない。子どもも育てて、夫を支えたのに孤独になっていくという主婦の方がかなり多くて。一般の主婦のみなさんと考えながら演じていきたいと思います。
今の世の中を風刺していきながら、日本が抱えている問題みたいなものを笑いつつ、表面化していくような脚色になっているので、そこは面白くみんなでやっていけるんじゃないかなと思います。自分は目立たない人になります。地味な普通の主婦の役ですね。
高畑淳子
高畑:私の役はとても節約家で、美容院なんか1回も行ったことない、髪の毛は自分で切っちゃうという。だけど、私はケチではない、と。パン屋さんをやっているんですけど、基本たくましそうな人に見えますよね。でも実は「そうはなりたかった」という一節があって、そこに私は胸打たれますね。篤子さんという、えりさんの役……どうも(自分と同じ名前で)気持ち悪いんですけど、篤子さんといるときは、なりたい自分になっていたかったんだという胸にしみわたるような役だと思います。
「演劇は不要不急ではないと信じている」
ーーこのコロナ禍で、改めて劇場に立つこと、そして劇場に迎え入れることについて、思いをお聞かせください。
マギー:この作品に関して言いますと、原作が書かれたのは2018年。僕が脚色に着手したのは2019年。だからコロナ禍の前に書いているんです。ですから、現代の話ではあるんですけど、世界観としてはコロナになる前の世界を描くつもりではあります。
その中で、コロナ禍で上演する上で、何を見せたいかというと、やっぱり閉塞感のある世の中じゃないですか。やっぱりマスクをしていても、マスクの中で、ゲラゲラと開放感を持って笑っていただいて、そんな気持ちで劇場の外に出てもらうと言うのが、今回の作品でお客さんに届けるべきことかなと思っています。
高畑淳子、渡辺えり、マギー(左から)
渡辺:私も、大笑いしていただいて、泣いていただきたいと思います。自分がやっぱり本当に孤独でつらいんですね、毎日。人と会えないし、会議もオンラインだし。マスクで意識疎通がうまくできなくて落ち込むし。
そこで生の演劇を見ると、救われますね。私も友達が一生懸命やっている芝居を観にいって、コロナ以前よりもよく舞台を観ているんですよ。そうすると、劇場の中にいる時だけはほっとするし、落ち着くというか。ここが自分の居場所だなと、本当に穏やかな気持ちになりますね。
家に帰ると、鬱々とする。劇場に行くと、ほっとする。その繰り返しで。この芝居を観ていただいたお客様が、私と同じような気持ちで、ほっとできるというか、大笑いできるような芝居にしたいと思いますし、自分も芝居の稽古をすることで、自身の精神も救われるんじゃないかなと思います。
自問自答を続けている1年間でした。ともかく、思い切り演じさせていただいて、お客様に笑顔になってほしいなと思います。
高畑:今回特にご高齢の申し込みがとても多いんです。ずっと家にいるのが苦しくってね、今回はお芝居行こうと思うの、と。なにか心が干からびている感じがするんでしょうね。
舞台はいろんなことがあります。ですが、いろんなことがあるのが人生ですし、壁にぶつかるのが生きているということです。えりさんはお芝居大好きだから、劇場にいるとほっこりするというも分かりますし、私もスクリーンの前の座った時に号泣しました。
この世界が好きで、小説とか映画とか舞台が、心を強くしてくれる存在なんです。だから、こういう演劇ババアになってきたというところがあります。お客様にもそうなっていただけると信じて、心をこめて演じたいです。この職種は不要不急ではないと信じております。
取材・文・撮影=五月女菜穂