舞台と配信をミックスしたような熱量とゆるさが楽しい~ナポリの男たちch 特別回『舞台・ナポリの男たち』ゲネプロレポート
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ナポリの男たちch 特別回『舞台・ナポリの男たち』
本作は、2021年7月8日(木)〜7月19日(月)ヒューリックホール東京にて上演された、人気のゲーム実況プレイヤーグループ「ナポリの男たち」原案という異色の舞台。かねてより展示会の開催、怪人化やサンリオコラボといった多彩な活動を展開してきた彼らが、ついに舞台化を果たした。公演は19日をもって終了してしまったが、開幕を前に行われたゲネプロの様子をお届けしよう。
『舞台・ナポリの男たち』は、「雄すぎ」「どす恋!」「スナックしゆみ」「ナポンヌのムスカリ」の4演目とオリジナルコンテンツで構成されている。“人気ゲーム実況グループの舞台化”という前例のない作品に多少の戸惑いを覚えたが、冒頭で行われるナポリの男たちのゆるいトーク、キャスト陣の自己紹介動画へのツッコミといったミニコーナーを見て、ふと気が付くとすっかりこの舞台の空気に取り込まれてしまった。
ナポリの男たちch 特別回『舞台・ナポリの男たち』「雄すぎ」
最初の演目は「雄すぎ」。「小すぎ」という野生動物と少年の友情を描いた昔話風の物語だ。
蘭太郎・福島海太、小すぎ/すぎる・山下晃季を中心に、蘭太郎のおじさんである修三をひのあらた、蘭太郎の息子・すぐるを小槙まこが演じた。
前フリ動画や村の子供たちのクセの強さ、M字開脚で縛られた状態で登場する小すぎのインパクトに度肝を抜かれたが、物語が進むにつれて、子供たちもすぎるも可愛らしく、微笑ましく見えてくるから不思議だ。いい話風な中に笑いどころやネタが詰め込まれており全体的にシュールだが、キャスト陣の熱演でしっかり泣ける話に仕上がっていると感じた。特に、すぎるが雄すぎになる前に山に帰さなければいけないと分かった時の蘭太郎の悲しみや葛藤を丁寧に表現する福島と、蘭太郎・すぎるへの深い愛情と苦悩を感じさせるひのの渋い演技が素晴らしい。そして、すぎるを演じる山下のピュアで無邪気な表情や動きが、切なさを際立たせていた。
ナポリの男たちch 特別回『舞台・ナポリの男たち』
EDが流れた後は、ナポリの男たちのパペットが現れ、演目を観た彼らによる感想やツッコミのコーナーが入る。原作でモブを演じていたshu3が「あのキャラはオリジナル? 面白かったね」と言い出し、他のメンバーからツッコミを受けるシーンも。原案を担当したhacchi、主人公とナレーションを担当したジャック・オ・蘭たんは「こんなに良い話だったんだ」「すぎるが段々可愛く見えてくる」と驚きを見せていた。
MCにより、自分たちの作品を「舞台」という形で観た感想をその場で聞けるのが新鮮だ。生の舞台の熱さや勢いを楽しめる一方で、オーディオコメンタリーを見ているような不思議な感覚に陥る。ナポリの男たちと演劇の両方が好きな方はもちろん、どちらか片方のファンも気軽に楽しみ、もう片方への理解を深められる演出と構成になっていると感じた。
ナポリの男たちch 特別回『舞台・ナポリの男たち』「どす恋!」
続いては、少女漫画雑誌りぼんで漫画化もされた「どす恋!」。相撲に魅せられた小学生・瓜咲らん(田崎礼奈)が相撲部設立を目指す熱血青春物語だ。
「雄すぎ」とはガラリと雰囲気を変え、モチーフはユニークながら少女漫画の王道をしっかり踏襲している。主人公のらん、らんと対立する優等生・秀条まな(小槙まこ)、ボーイッシュな天野八郎(梨衣名)が一緒に歌うテーマ曲も正統派アイドルソングといった雰囲気。三人が並んだ時のキャラクターデザインのバランスも良い。相撲部設立をかけてらんとまなが対決することになったり、学園イチのお嬢様と噂されていたまなの意外な秘密が明らかになったりと、少女漫画や青春もののあるあるが詰め込まれており、可愛くてキラキラした姿に眩しさを覚えた。
EDでは、数え歌などの要素も取り入れた可愛さ満点の曲とダンスを披露。「どす恋!」の原案担当であり、作詞も行なったすぎるは「ダンスをイメージしながら歌詞を書いたらイメージ通りになってる!」と絶賛し、他三人も「可愛かった」と高評価。子供たちも覚えやすいように心がけて歌詞を書いたというすぎるの話を受け、「確かに耳に残る」と口ずさんでいるのが印象的だった。
ナポリの男たちch 特別回『舞台・ナポリの男たち』「スナックしゆみ」
人生相談風のコーナーとして配信されていた「スナックしゆみ」は、しゆみママ(梨衣奈)の経営するスナックに訪れるお客さんたちにフォーカスした人情物語に。
常連・すぎじい(ひのあらた)に、飾ってある花が枯れている理由を尋ねられたしゆみは、その花を持ってきたのが有名なフラワーデザイナーの父(大野泰広)を目標に修行していたイケちゃん(青地洋)であること、イケちゃんのフラワーアレンジメントを初めて褒めてくれた信子(小槙まこ)への淡い恋について語りだす。
成功している父とまだ半人前な息子の微妙な距離感や、イケちゃんと信子の初々しく微笑ましいやり取りに心を掴まれる。二人が初デートで訪れるテーマパークではサイコパスラーすぎるをセンターにショーダンサーたちがキレッキレのダンスを見せるなど、一癖も二癖もあるモブはこの演目でも健在。ほろ苦いが少しの希望が残るラストと、EDで披露されるしゆみとすぎじいの歌謡曲デュエットが、どことなく懐かしさを感じさせる。また、しゆみのクセの強い喋り方とセクシーな雰囲気が妙にマッチし、段々と頼れるママに見えてくるのも面白い。
元はストーリーのなかったコーナーから生まれた舞台オリジナルの物語に、演目を見終えたナポリの男たちも「こういう話もできそうじゃない?」「すぎじいも気になる」と、和気藹々とした雰囲気で話を広げていく。スナックしゆみを取り巻く個性豊かな人々のドラマは確かに気になるところだ。
ナポリの男たちch 特別回『舞台・ナポリの男たち』「ナポンヌのムスカリ」
そして、ラストを飾ったのは「ナポンヌのムスカリ」。
4演目のうち唯一のミュージカルである本作では、前フリとして原案担当のジャック・オ・蘭たんが殺陣に挑戦する動画が流れる。和やかな稽古場映像が終わると、壮大な雰囲気の本編が始まった。元はひとつでありながら分断された国の王子たちの友情を描いた、王道かつスケールの大きなストーリーで、歌唱も殺陣も迫力は充分だ。だが、スグール王子(渡辺コウジ)とハーチェス王子(本間健太)、シュー13世(ひのあらた)が次々に登場して同じテーマ曲を歌い上げたり、配信時の編集をお手本にした映像が背景に流れたりと、ところどころで笑いを誘う演出が。気迫ある演技とのギャップにより、熱さとコミカルさが際立っていた。
原作では名前のみの登場だったフランス国王(大野泰広)もオリジナルキャラクターたちに負けないキャラの濃さで登場。ナポリの男たちによるMCでも「物語に深みが出た」と絶賛を受けていた。ここまでの4演目を観て、ナポリの男たちが自ら生み出した作品の広がりを感慨深く振り返る様子から、グループの歴史が感じられてグッとくる。
ナポリの男たちch 特別回『舞台・ナポリの男たち』
最後に、締めの演目として実写動画に登場する怪人たちも参加したエンディングテーマが披露され、まるでお祭りのように明るく楽しい大団円で幕を閉じた。
「ナポリの男たちch 特別回」と銘打っている通り、ナポリの男たちの生み出す世界やゆるいトークを存分に楽しみつつ、生の舞台の面白さと魅力をしっかり味わうこともできる本作。アーカイブ
取材・文=吉田沙奈
公演(配信)情報
会場:ヒューリックホール東京
公式グッズ通販 https://special.movic.jp/shop/special/napolimen-stage/index.html