the quiet room、「挑戦を楽しめた」という初のフルアルバム『花束のかわりに』を菊池遼に訊く
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the quiet room・菊池遼 撮影=菊池貴裕
8月4日に、the quiet roomの1stフルアルバム『花束のかわりに』がリリースされる。コロナ禍と呼ばれる未曽有の事態にぶち当たりながらも、「良い雰囲気でバンドをやれている」と話す菊池遼(Vo/Gt)の言葉がそのまま作風に表れてたような、挑戦的でありながらも、とても風通しの良いアルバムになっている。ネガティブな話題が尽きない中、こうした作品が生まれることはリスナーとしても喜ばしいことだが、彼らは何故、ポジティブな想いに満ち溢れた作品を作ることができたのか? 今作から見える、今のthe quiet roomの状態や、物事への考え方の変化について、菊池に訊いた。
――今作のジャケットのアートワークも素敵ですね。
そうなんですよ。いつも人物が描いてあるんですけど、今回はイラストレーターさんと「(人物は)描かないようにしよう」と話した上で、挑戦してみました。
――何故、描かないことにしたんですか?
バンドとしても、新しいことをしていきたい、ひとつの形に拘りたくない、という気持ちが少し前からあったんです。なので、今回が1stフルアルバムということもあり、そういう「バンドを変えていきたい」という意識変化を今作で示したい、という意図も込められています。
――その意識変化は、2019年にリリースされた『White』から感じていました。
まさにそうですね。メンバーチェンジや、サポートミュージシャンがレコーディングに加わったことがきっかけで、the quiet roomはロックバンドではありつつも、そのフォーマットに拘らなくていいんじゃないか?と思えるようになったんです。そのおかげで寛容になれたし、色んな人と音楽を作ることができている状況に、今まで以上の楽しさを感じています。今作だけでも、5人のドラマーの方にサポートお願いしているんですけど、それも今しかできないことだなと思いますし。
――ドラマーが変わることによってもたらされる変化は強く感じます?
そうですね、びっくりするくらい違います。「ドラマーが変わるだけで、楽曲の雰囲気ってこんなに変わるんだな」と気付いたのが『white』や『You e.p.』でした。
――そうした変化や気付きをポジティブに受け入れながら、今回の1stフルアルバムのリリースに至った訳ですが、「やりきった!」という気持ちになってます?
うーん。メンバーはそういう気持ちらしいんですけど、僕は早く次の作品を作りたいなって思っていますし、まだまだ他にもやれることを見つけられそうだな、という気持ちです。もちろん、今できることは全部詰め込んだし、そういう意味ではやりきった!と言えるんですけど、「次はこういう人とやってみたいな」とか「こういうことをやってみたいな」とか、先に向けた想いがどんどん大きくなっています。
――ライブでも「今、良い雰囲気でバンドをやれている」と仰っていましたけど、そう思えている理由って何でしょう?
僕個人の理由としては、コロナ禍という期間を良い休みにできたというのが大きいですね。the quiet roomって、本当に走り続けてきたバンドだと思うんです。リリースしてツアーをやるというサイクルを休まずにしてきましたし、常に楽曲制作とツアーが平行していたんです。その中でコロナ禍に入り、活動がスローペースになった時に、自分の気付かない内に擦り減っていた部分があることに気付いたんですよ。その上で、成長する為の回復に時間を使えましたし、そうしたリフレッシュ期間があったからこそ、音楽の楽しさに改めて気付けたんだと思います。それに、僕らは運がいいことに、ライブのキャンセルもせずにツアーを回ることができたんですよね。それも、バンドの空気の良さに繋がっているのかもしれないです。
――そうした変化を率先して取り入れてきている中でのリリースとなった今作ですが、1曲目の「Leo(a new day)」の歌詞で、「日常と愛の歌」と「ロックンロールミュージック」を“或いは”という言葉で繋げていることが気になったんです。菊池さんの中で、そこの2つは一緒ではない、という気持ちがあるんですか?
今作って、かなりポップス寄りというか、明るい方向に振り切った仕上がりになっていると思うんです。そうした意識やバンドの方向性が「日常と愛の歌」という部分に込められている一方で、自分たちはロックバンドなんだという自負はもちろんあって。だから、補足という意味合いでも、ここで「ロックンロールミュージック」という言葉を入れています。
――ああ、なるほど。もう一点、<花束のかわりに/この日々を贈ろう>の部分で、贈るのは“曲”じゃないんだな、とも思いました。
元々は、「キャロラインの花束を」の歌詞にリンクさせる意味も込めて、「この曲を贈ろう」にしていたんです。でも、今作のことを考えたら、コロナ禍の中で、僕が色々と考えながら積み上げてきた日々を感じてもらう、というニュアンスの方がぴったりだなと感覚的に思ったんですよね。「日々」って、色んな捉え方ができる言葉だと思うんです。例えば、コロナ禍で解散してしまうバンドもいれば、僕らみたいに意欲的になれるバンドもいるし、楽しい日もあれば、退屈な日もある。そうした多様性やテンションの変化を内包してくれるのが「日々」という言葉だと思っています。僕たちがバンドのテーマとしている「表情豊かに生きる」や、アルバムタイトルになっている「花束」という言葉も、色んな解釈ができるものだと思いますし。
――想像できるシーンをひとつに決めつけない為の余白を大事にしているんですね。
そうですね。日によって感じる様々な変化をそれぞれの曲にしていますし、そういう点では自分の曲ではあるんですけど、聴いてくださる方が好きなように解釈してもらえたらいいと思っています。「ノンフィクションの日々に捧ぐ」は、かなり主観的だなと思いますけどね。
――日々の変化を曲ごとにパッキングしていくとなると、ライブで歌う時の感情移入に苦労しそうですね。
ああ、かなり変わりますね。今作にはあまりないですけど、激しい曲を演奏する時には、別人格を呼び出して憑依させる気持ちでいかないと、ただニヤニヤとふざけて演奏している奴になっちゃうので(笑)。その辺りのテンション感はかなり意識しています。
――「ノンフィクションの日々に捧ぐ」からは、「わたしらしく胸を張って生きてきた」と言い切る強さを示す一方で、<流れて消え行く毎日に/ほんの少しでもいいから意味がありますように>という弱さとも言える面も垣間見えました。その二面性やメンタルの危うさというのは、菊池さんの内面を表しているものですか?
本当にその通りですね。危うい部分は結構あると思います。外から見られる自分からは、メンタルの高低差というのはあまり感じられないと思うんですけど、曲を書いている時はかなりアップダウンがありますね。でも、そこがノンフィクションでありリアルな部分だと思いますし、これは誰にでもあるものだと思うんです。
――フィクションとして主人公を他者に置き換えなかった=菊池さん自身の内面を曝け出すことにもなったと思うのですが、そこに抵抗や怖さは感じなかったのですか?
歌詞を通して自分を曝け出すことや、例えば一人称を「わたし」にすることへの抵抗感っていうのが、最近は本当になくて、自由に曲を書けているんです。この曲も、強いて言えば自分の曲ですけど、聴いてくれる人にとって「自分の人生の曲だ」と思ってもらえたら嬉しいです。
――その一方で、先行配信もされていた「(168)日のサマー」は、夏感満載のハイテンションなナンバーですよね。タイトルからは、映画「(500)日のサマー」のオマージュだということも伝わってきます。
歌詞には深い意味を持たせずに、ただただリズムやメロディーに乗って楽しんでもらいたい!という純粋な気持ちを込めた、遊び心満載の曲になりました。歌詞に意味を持たせない、という作り方は今まであまりしてこなかったんですけど、やってみると楽しかったですね。実は、この曲ができたのは最後というか、本当は10曲でアルバムを構成しようと思っていた中で、スタッフの方々に「時間あるしもう1曲作ってみたら?」と言われて、メンバーと楽しみながら作ったんですよ(笑)。あと、この「168」という数字は、曲のテンポです(笑)。
――その数字について色々計算してみましたけど、本当に深い意味はなかったんですね(笑)。そうした遊び心は「Cut」からも感じます。今までにないダンスミュージックですし、編曲にバンド外の方であるMOP of HEADのGeorgeさんを迎えたというのも初ですよね。
はい。デジタルっぽいサウンドに挑戦してみたいと思う一方で、バンド一筋でやってきた自分たちが一から作り上げるのは難しかったんですよね。そこで、以前からサポートしてくれていたGeorgeさんにお願いしました。僕的にはちょっとやりすぎちゃったかな?と思っているんですけど、メンバーは「これくらいやった方がいいよ!」と言っていました(笑)。結果的には、そこまで違和感なく仕上げられたなと思っています。先ほどの「抵抗がない」という話になってしまうんですけど、自分に対してもバンドに対しても、縛りを設けず、とりあえず何でもやってみよう!と思えたからこそ出来た曲です。
――「やわらかな気配」も、初のラップパートがありますもんね。
この「やわらかな気配」と「Cut」は、作曲者のクレジットが僕ではなく、the quiet room表記になっているんですけど、これはみんなが先に作ってくれたオケの上に、ラップや歌詞を乗せていったからこの表記にしたんです。そういう作り方をちゃんとしたのが初めてでしたし、新鮮さはありましたね。曲の最後にあるテンポのアップダウンも、サポートで入ってもらったHAPPYさんがやっているチーナというバンドの曲を真似て入れてもらったし、ふざけながらも楽しんで作れました。ラップは、世代的にRIP SLYMEやケツメイシを聴いてきたというのもあって、ずっとやってみたかったんです。
――ラップパートだったりデジタルサウンドだったり、そうした挑戦をできたというのは、やっぱり今だからできたことなんでしょうね。
そうですね。コロナ禍前のハードなスケジュールの中だと、「良い曲を作らなきゃ!」という気持ちが先行して、ふざける余裕もなかったんですよね。だから、そういうプレッシャーからは解放された気がしています。もちろん良い曲は作りたいし、逃げたい訳ではないですけど、他のことを楽しむ余裕というのは間違いなく生まれましたね。
――良い兆候ですね。「フローライト」は、これまでのthe quiet roomらしさも感じつつ、ループを重ねるごとに徐々に曲のスケールが変わっていくところに新鮮さを感じる曲でした。
最近、活動を止めてしまう仲間のバンドが沢山いる中で抱いた哀しさを曲に残しておきたくて作った曲です。そうした節目の企画に呼んでもらうことが多々あったんですけど、その度にバトンを託された気持ちになったし、彼らの分も頑張ろうと前向きに思えているんですけどね。そうした想い入れがあるからこそ、他の曲とは雰囲気が違うのかもしれないです。
――「カフネ」も同様に、落ち着きを持ったミディアムバラードですよね。
今までのthe quiet roomの曲にはバラードもあったんですけど、ピアノの音を入れた王道バラードか、ギターが轟音で掻き鳴らされるシューゲイズ的なロックバラードのどちらかだったんです。その上で、今回は、出来るだけ音数を減らして、どれだけ良いバラードが作れるか?ということに挑戦してみました。メンバーは放っておくとガンガン弾いちゃうので(笑)、今回は最初から「弾かないでくれ」とお願いして作りました。作り終わって、手応えはかなり感じましたし、アルバムを支える大事な曲になったと思います。レコーディングエンジニアの方に、どの音が最低限必要なのか?を相談しつつ作ったので、面白い経験になりました。
――じゃあ、菊池さんにとっての今作の製作は、楽しい・面白い・新しいの3本立てだったんですね。
本当にそうですね。かなり楽しかったです。この前、メンバーが今作について訊かれた時に「やりきりました」とか「疲れました」とか言っているのを聞いて、「あれ?そうなんだ? 僕は結構楽しかったけどな」と思ってました(笑)。
――ははは! そんな今作のラストセクションに関してですが、「パレードは終わりさ」からの「キャロラインの花束を」という、非常に綺麗な流れになっていますね。
いやぁ、これは本当に「やってやったぞ!」という思いです。「パレードは終わりさ」が大団円感の強い曲なので、これが最後に来るのかな?と思っていたんですが、「キャロラインの花束を」という、アルバムのラストを務められる曲ができて本当に良かったです。「キャロラインの花束を」が出来たことで、この曲を中心にしたアルバムの制作が始まったので。
――やっぱり「パレードは終わりさ」で終わりたくはなかった?
アルバムに必要な曲であり、きっかけの曲ではありつつも、2年前の曲ですしね。そこから更新したバンドの姿を残したいという思いはありました。「終わりさ」って言っちゃっているので、最初の方にも持ってこれないし、置き場所は難しかったですけどね。でも、今作の曲順はかなり気に入っています。今の時代、サブスク全盛期だし、1曲聴きが主流になっているのかもしれませんけど、是非曲順通りに聴いてもらいたいです。
――9月からは全国ツアーも始まりますし、楽しみですね。
そうですね。悲観的なことは考えないようにしています。今のバンドの雰囲気的には、先々のことをどんどん考えていった方が良いと思いますし、ツアーを回りながらも新曲をいっぱい書けたらいいなと思っています。それに、世の中が好転するように、という希望的観測も含めて、「(168)日のサマー」には意図的にコール&レスポンスのパートを入れているんですよ。ツアーファイナルは12月ですし、少しでも良い状況になった中で、みんなで歌えることを願っています。
取材・文=峯岸利恵 撮影=菊池貴裕
リリース情報
収録曲:
2. ノンフィクションの日々に捧ぐ
3. (168)日のサマー
4. フローライト
5. You
6. やわらかな気配
7. Cut
8. グレイトエスケイプ
9. カフネ
10. パレードは終わりさ
11.キャロラインの花束を
ツアー情報
2021年9月18日(土)
2021年9月23日(木祝)
2021年9月25日(土)
2021年10月9日(土)
2021年10月23日(土)
2021年10月24日(日)
2021年11月13日(土)
2021年11月20日(土)
2021年11月21日(日)
2021年12月10日(金)
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