少年少女たちの“恋と性”の物語を「10年前の映画」にしない 『うみべの女の子』石川瑠華×青木柚×ウエダアツシ監督インタビュー

2021.8.26
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左から、アサダアツシ監督、石川瑠華、青木柚 撮影=iwa

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2009年に発表された浅野いにお氏による漫画『うみべの女の子』が、ウエダアツシ監督により実写映画化され、8月20日(金)より公開中だ。14歳で初めて体験する「思春期」、「性」、「恋」の曖昧さと脆さが内包された本作は、原作の世界観そのままにノスタルジックな青春の跡を残している。

海辺の小さな街で暮らす中学生の小梅は、憧れの三崎先輩に振られたショックから、かつて自分に告白してきた地味な同級生・磯辺と勢いで関係を持ってしまう。はじめは興味本位だったが、何度も身体を重ねるうちに、ふたりの気持ちは変化していく。磯辺を恋愛対象と見ていなかったはずの小梅は、徐々に磯辺への想いを募らせ、一方、小梅に恋焦がれていたはずの磯辺は、関係を断ち切ろうとする。思わず胸が締め付けられるような、不器用な小梅と磯辺の関係を体現した石川瑠華&青木柚のフレッシュなコンビ、そして、メガホンをとったウエダ監督の3名に、作品に込めた思いを語ってもらった。

『うみべの女の子』という原作の魅力に、みんなが惹かれていった

(C)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会

――原作の世界観を忠実に映像化していて、驚きました。ウエダ監督は、石川さんと青木さんに対して、どのようにイメージを共有されたのでしょうか?

ウエダ監督:今回はオーディションをして、ふたりのお芝居も見せてもらっていたので、僕が原作を読んで抱いていたイメージに、すでにふたりがばっちり合っていたんです。なので、現場中にイメージ的なことで話し合うとかは、ほぼなかったんじゃないですかね? 浅野さんの原作は、いわゆる単純なエンターテインメントではなく、深みのある作品なのですが、このふたりなら感性で理解して体現してくれるんだろうなと、安心はしていました。

石川:私はもともと原作を知らなかったので、オーディションを受ける前に拝読したんです。もし映画化できたら、とにかくすごいものになるんだろうな、と思っていました。小梅は、同性の私から見たら、なんか……ずるくて、身勝手で、天使のような女の子ではない。けど「なんだこいつ」という嫌われ者にもしたくないと思って、やっていました。私がそれを飲み込んだ上でやることで変わらないかなとも思いながら、オーディションに参加しました。

石川瑠華 撮影=iwa

――小梅役が決まり、現場に入ってからは、より役に近づけたような思いはあったんでしょうか?

石川:そうですね。私単体でいたら小梅にはなれなかったと思うんです。けど、現場のロケ地が、本当に原作のイメージそのままのような場所だったので、あの世界にちゃんと入り込ませてくれる材料が周りにあったから、すごく助けになりました。ロケ地だけでなく、衣装だったり、磯辺、桂子、鹿島……周りに、あの世界観の人たちがちゃんといたので、近づけたというのがすごく大きかったです。

――青木さんは、いかがでしたか?

青木柚 撮影=iwa

青木:オーディションの前に原作を読ませていただいたときに、この作品がすごく好きだなと思いましたし、それ以上に、磯辺という人間が持っている引力みたいなものに惹かれました。「僕が磯辺をやりたい!」という気持ちがすごく湧き上がってきたのを覚えています。先ほど、監督がイメージの話し合いはほぼなかったとお話されましたけど、『うみべの女の子』という原作の魅力にみんなが惹かれていったから、撮影もそういう気持ちを大事に、みんなでひとつの方向に進めたのかな、と思いました。石川さんと同じで、いろいろな人の助けがあったから、僕も撮影を乗り切れたと思っています。

若い感性を信じて、「10年前の映画」にはしない

左から、石川瑠華、青木柚 撮影=iwa

――ウエダ監督が、おふたりの演技やお話から刺激を受けたこともありましたか?

ウエダ監督:そうですね。やっぱり40を過ぎた僕が原作を読むのと、20代のふたりが読むのでは、受け取ることも感覚も、若干の違いはあると思うんです。僕が書いた脚本に対して、想像もしていないようなお芝居が出てくることもあり、すごく面白かったです。原作は10年ぐらい前に発売されたものですけど、この作品を「10年前の映画」にはしたくなくて。今の若い子たちに受け入れられる映画にするためにも、ふたりの若い感覚を信じてやってもらった部分は大きいです。一方で、細かい心情や肌を露出するような撮影などのあたりは、ふたりと綿密に話し合って決めていった感じでした。

(C)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会

――“若い感覚”にハッとした点、どのあたりでしたか?

ウエダ監督:衣装の話をしていても、「これは小梅は着ないと思います」みたいなことを言われたりして(笑)。

石川:はい、言いました(笑)。最初は全然違う色だったんですけど、着せられている感というか、「これって、今着るのかな?」みたいに思ったりしたので。中学生っぽいキャラクターを作るのではなくて、ちゃんと小梅として魅力的なものを出すために、衣装合わせをしてもらいました。そういえば……マフラーの色までこだわりました(笑)。

ウエダ監督:そう、そう。昔は認識できていたはずなのに、年を取ると、中学生と高校生の差もわからないようなことになってしまう。そういう意味では、「郊外に住んでいる中学生だったら、こういうブランドを着るのでは?」というところまで石川さんに相談して、アイデアも出してもらっていました。

石川瑠華 撮影=iwa

青木:僕に関しては、役を演じるにあたって、ヘアメイクさんと衣装さんの力に頼っている部分もありましたし、特に磯辺の部屋の美術セットは、入った瞬間にもう、思わず「ありがとうございます!」と。

ウエダ監督:(笑)

――原作そのままのお部屋、という感じでしたもんね!

青木:本当に、すごく助けられました! あの部屋にいるだけで、普段の自分(の演技)だったら出せないようなものが出せた、というか。生活感や、磯辺の兄の閉塞感まで隅々まで染みついていたので、美術さんに本当に感謝しています。

青木柚 撮影=iwa

――ストーリーの面で言うと、ある場面で出てくる「手紙」がキーだと思いました。LINEやメールではなく原作の「手紙」のまま残っていることにぐっときました。石川さん、青木さん世代も、あの場面は「手紙」だと思ったんですか?

石川:それはもう、思います! むしろ、あの場面では、手紙以外の手段がないと思います。今、手紙はあまり書かなくなりましたけど、どことなく重い(伝達)手段として残っていると思うんです。それを映像に映せたら、とすごく思いました。

青木:僕も同じです。手紙を選んだことに、小梅のいろいろな意味が乗っかってくるというか、より強く思いが重なっている、表現されているんだろうなと思いました。今の時代、手紙の流通が昔より減ったことを考えても、今の映画であの手紙が出てくる意味は、すごく大きなものになっているんじゃないかな、という印象です。

心をかき乱して、モヤモヤを吹っ飛ばしてくれるようなパワーのある映画になった

(C)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会

――本作では、「恋愛の核心」が描かれています。ご自身の恋愛観と照らし合わせて、発見したことや、作品を通して変わった点はありましたか?

石川:恋愛観とは少し違うかもしれないんですけど、この作品と出会ってから、女の子が持つ無自覚な残酷さを、すごく考えるようになりました。若い人というか、中高生なんて、みんながそのかたまりだと思うんです。それは狭い空間だから許されるものというか。それに気づかずに大人になっていく人もいるんだろうなと思うと、私、この作品をもうちょっと早い段階で読みたかったなとすごく思ったんです。そうしたら、もっと大人になれたのかなと思うし、自分にある無自覚な残酷さにも気付けたのかな、って。私の中学時代とか、たぶんそれにまみれたものだったと思うので。

――無自覚な残酷さにまみれたもの!

石川:はい(笑)。いわゆるサブカルチャーというものに全然触れてこなかったので、本当にもっと早い段階でこの作品に出会いたかったなあ、と思います。

石川瑠華  撮影=iwa

――本作がR-18ではなく、R-15にレイティングを下げて製作されたことには、非常に意味があると思います。より多くの若い世代に、作品を観ていただけますよね。

石川:本当にそうですよね! 幅広い年代の方に観ていただきたいです。

――青木さんは、作品を通して変化はありましたか?

青木:恋愛観で言うと、僕が中学生のときよりも大人だな……と思っちゃいました。僕が中学のときは、小梅と磯辺のような対話はしたことがなかったですし、自分を客観視できていなかったなと、作品を通してすごく感じました。でも、どちらかというと恋愛というよりは、「若さ」みたいなところに自分を重ね合わせていた部分が大きかったです。今の若い子たちは、スマホも身近だし、コンテンツもすごくいっぱいあって、僕たちが学生だったときよりも、良くも悪くも感じることがたくさんあるんだろうなと。だから、心が疲弊するような感覚が、結構あるんじゃないかなと思いました。今の若い子たちと対面したときに、どう接すればいいのかを考えるきっかけにもなりました。

青木柚 撮影=iwa

――そして、まもなく映画が全国の皆さんにお披露目となります。ウエダ監督は感慨もひとしおでしょうか、今のお気持ちを聞かせてください。

ウエダ監督:まずは、(石川、青木に)よく頑張ったな!!

一同:(笑)。

ウエダ監督:『うみべの女の子』はストレートな青春映画ではなく、ちょっと変化球な青春映画になっています。初めて原作を読んだときから映画にしたいと思って、企画から数えると、もう5年が経ちました。やっと皆さんに観ていただける準備ができました。先ほどおっしゃっていただいたように、R-15にレイティングを下げて、多くの若い子たちにも届くようにしました。いまはコロナ禍で、夏なのに満足に遊びに行けない人たちが多いと思います。そんな方々にも打ってつけの映画です。心をかき乱して、モヤモヤを吹っ飛ばしてくれるようなパワーのある映画になったので、是非この夏の思い出として映画館でご覧ください。

石川瑠華  撮影=iwa ヘアメイク=堀川知佳 スタイリスト=岩渕真希 刺繍ブラウス、デニムパンツ/muller of yoshiokubo 衣装協力店=muller of yoshiokubo

青木柚  撮影=iwa ヘアメイク=亀田雅 スタイリスト=小宮山芽以

 

『うみべの女の子』は8月20日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開中。

取材・文=赤山恭子 撮影=iwa 
【青木柚】ヘアメイク=亀田雅 スタイリスト=小宮山芽以
【石川瑠華】ヘアメイク=堀川知佳 スタイリスト=岩渕真希 
 

作品情報

映画『うみべの女の子』
 

 

(107分/DCP/シネマスコープ/5.1ch/カラー/日本)
石川瑠華 青木柚 
前田旺志郎 中田青渚 倉悠貴 
宮﨑優 髙橋里恩 平井亜門 円井わん 西洋亮 / 高崎かなみ  いまおかしんじ
村上淳
 
原作:浅野いにお「うみべの女の子」(太田出版)  
監督・脚本・編集:ウエダアツシ 音楽:world’s end girlfriend 
挿入曲:はっぴいえんど「風をあつめて」(PONY CANYON/ URC records) 
 
製作:藤本款 吉田尚子 市村亮 前信介 村松克也 宮前泰志 水戸部晃 
エグゼクティブプロデューサー:甲斐真樹 プロデューサー:白川直人 秋山智則 
ラインプロデューサー:鈴木徳至 技術コーディネーター:豊里泰宏 宣伝プロデューサー:小口心平
撮影:大森洋介 照明:石垣達也 音響:弥栄裕樹 美術・装飾:横張聡 
衣裳:小宮山芽以 ヘアメイク:河本花葉 助監督:平波亘 制作担当:飯塚香織 共同脚本:平谷悦郎
スチール: 岩﨑真子 中島未来 山﨑みを 宣伝デザイン:大寿美トモエ
 
『うみべの女の子』製作委員会
(スタイルジャム、クロックワークス、TCエンタテインメント、キュリオスコープ、グラスゴー15、ポニーキャニオン、カラーバード、コンテンツ・ポテンシャル)
制作プロダクション:スタイルジャム 制作協力:コギトワークス 配給:スタイルジャム
レーティング:R15+  
公式サイト:https://umibe-girl.jp/
(C)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会
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