残酷だけど素敵な宇宙の友だち 『サイコ・ゴアマン』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第八十六回

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2021.8.14
 (C)2020 Crazy Ball Inc.

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。

夏といえば、アニメに特撮と、夏休み期間中の子どもに向けた作品が多数公開されるシーズン。今年は、そんな季節にトンでもない面白映画が飛び込んできたぞ。観れば思わず呼びたくなる、その名も『サイコ・ゴアマン』だ!

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自宅の庭で遊んでいた兄妹・ルークとミミは、掘り返した穴から謎の宝石を発見し、「悪夢の大公」と呼ばれる残虐な宇宙人の封印を解いてしまった。解き放たれた宇宙人は宝石を返すよう兄妹を脅すも、妹のミミは全く聞き入れない。それどころか、宝石の力を利用し、宇宙人を服従させてしまうのだった。「サイコ・ゴアマン(略してPG)」と名付けられた宇宙人と兄妹は交流を重ねるが、やがて「悪夢の大公」が復活したことを聞きつけた刺客たちが、次々と彼らの前に現れる。
 

凶悪な少女と凶悪な宇宙人の化学反応

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どこか日本作品の匂いを漂わせるビジュアルが目を引く本作だが、それもそのはず、監督であるスティーヴン・コスタンスキ氏は、『ゼイラム』(91)など、雨宮慶太氏らに代表される特撮に特に強い影響を受けているという。コスタンスキ監督は、かつて、オムニバスホラー『ABC・オブ・デス2』(14)で手がけた一編・『W Wish』でも、少年たちが特撮ヒーロー番組の世界に入り込んでしまい酷い目に遭うという話を手掛け、特撮への愛好っぷりを発揮していた。その愛をさらにパワーアップさせ、「ヒーローと友だちになりたい」という子どもの夢に、家族ドラマも織り交ぜたことで、ジャンルレスすぎる本作が爆誕したのだ。

主人公の兄妹は、宇宙人と出会って恐怖するのかと思いきや全くそんなことはなかった。特に妹のミミはたいそう肝が据わっているし、内気な兄を服従させて連れまわし、常に威張っている。生意気なミミは宇宙人に対しても怯まない。彼に「サイコ・ゴアマン(PG)」とイカしたセンスの名前を付け、一緒にバンドを組んで歌ったり家族に紹介したりと、恐ろしいはずのPGを兄同様、子分のごとく扱う。そのせいかPGが酷いことをするシーンを見ても「怖い!」とは思えず、むしろ文句を垂れながらミミの遊び相手になっている姿に癒される。

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対するミミの傍若無人さには、観客は「なんて可愛げのないガキ!」と思うかもしれない。ただし、彼女が素直じゃないのは、どうやら家庭にも事情がありそうだ。両親は不仲というほどではないが、夫婦のパワーバランスが崩れており、お互いへのリスペクトは皆無。かつての自分もそうだったが、子どもというのは親の状況や顔色を伺い、もろに影響を食らってしまうもの。ミミもまたそうなのかもしれないと思うと、私は彼女を嫌いにはなりきれなかった。そんな複雑な家庭事情も本編に絡んでくるため、一家がどう変わっていくのかも、見どころの一つと言えよう。


可愛い仲間が大集合

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ヒーローと敵怪人が対決するという(本当はPGがワル側なのだが)設定だけでなく、登場する怪人たちの造形もなじみ深い。キャラクター造形は、ほぼコスタンスキ監督が手がけたという。事前に公開されている本編映像でも姿が確認できる、PGのかつての部下「暗黒の勇士」五人組も、パンチのあるビジュアルが特徴。肩に鳥を乗せた機械の剣士や、日本語で喋り干し首を扱う魔女ウィッチマスターなど、みんな個性的なルックに惹かれる。

私が注目したデストラッパーは、死体をみっちみちに詰められたタンクのような外見。ホース状の腕から水鉄砲のように血液を飛ばす攻撃をするのだが、はたして相手にダメージを与えられているのかは不明だ。名前よりも怖くなさそうなところがまた可愛らしい。

キービジュアルや作品の公式Twitterでマスコット的存在として活躍している“のうみそくん”も忘れちゃいけない。彼はどでかい脳味噌にくりくりの目がついた可愛い臓器だ。臓器でいえば小腸派の私も、モルカーばりにプイプイと音を立てて歩く彼の姿に思わずにっこりしてしまう。正直PGより彼と友だちになりたい。

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この2キャラは、私の周辺の映画好きたちの間でもすでに話題となっているので、ホラー映画のフィギュアもリリースが多いNECA社あたりがフィギュア化してくれるよう祈っている。

キャラクターたちを観ているだけでもテンションが上がるし、王道展開なのに常にどこかズレているシュールさがたまらない。PG(レイティングの方だぞ!)12ではあるが、怖さは控えめなので親子で楽しめる夏休み映画となっている。冷房の効いた映画館でぜひ!

『サイコ・ゴアマン』は公開中。

作品情報

映画『サイコ・ゴアマン』
 
 
 
(2020年/カナダ映画/95分/スコープ/5.1ch/DCP)
原題:PG(PSYCHO GOREMAN)
監督・脚本:スティーヴン・コスタンスキ 製作総指揮:ジェシー・クリステンセン 
製作:スチュアート・F・アンドリューズ、シャノン・ハンマー、スティーヴン・コスタンスキ
撮影:アンドリュー・アペル 編集:アンドリュー・アペル、スティーヴン・コスタンスキ 音楽:ブリッツ//ベルリン
出演:ニタ=ジョゼ・ハンナ、オーウェン・マイヤー、アダム・ブルックス、アレクシス・ハンシー、マシュー・ニネバー
レーティング:PG12               
キングレコード提供 アンプラグド配給
公式サイト:http://pg-jp.com/
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