【観劇レビュー×新劇場レポート】劇団四季『ライオンキング』は新たな伝説へ
劇団四季『ライオンキング』
1998年の初演以来、日本演劇史上初の無期限ロングラン公演を続ける劇団四季のミュージカル『ライオンキング』。各地での総公演回数は13000回、観客動員数1290万人を誇る、まさに”ミュージカル界の王者”である。
ここでは2021年9月26日(日)に新たに開幕した『ライオンキング』東京公演のレビューと、新劇場・有明四季劇場のレポートを併せて書いていきたい。
劇団四季『ライオンキング』(撮影;上原タカシ)
冒頭、ヒヒの呪術師・ラフィキの「ナーツィゴンニャー」の歌いだしとともに、サバンナの大地へとさまざまな動物たちが集まってくる。その命の輝きと躍動感溢れる演出にあらためて心を掴まれた。このオープニングは何度体感しても刺さる。
1幕で描かれるのはサバンナの王国、プライドランドで展開する動物たちのさまざまな関係性だ。圧倒的な王・ムファサとそんな兄に劣等感と憎悪とを抱く弟のスカー。教育係として王家を支えるザズ、食べ物を狙うハイエナたち、そしてムファサの息子、ヤングシンバと幼馴染のヤングナラ。サバンナの掟のもと、ムファサは息子のシンバに王として生きることの厳しさを教えるが、シンバは王位を狙うスカーの策略により、図らずも父を亡き者にするきっかけを作ってしまう。
『ライオンキング』を劇場で観劇するのは本当に久しぶりだったが、初演から20年以上たっても色あせないジュリー・テイモアの演出にこの作品の底力を感じた。物語の舞台であるアフリカの色彩豊かなテイストを劇中に散りばめるのは当然だが、アメリカの象徴のひとつと言えるディズニー作品に、インドネシアの影絵や祝祭、日本の文楽といったアジアの芸術を取り込み、動物たちをパペットやマスクで表現する手法の斬新さ。そのどれもが完璧に計算されている、良い意味で隙がない。
劇団四季『ライオンキング』(撮影;上原タカシ)
2幕では大人になったシンバ(1幕ラスト、1曲のうちに一瞬で時を飛ばす演出!)が「自分はいったい何者なのか」という、生きていく中で誰もが宿す疑問の答えを見つける過程が描かれる。
父の死に責任を感じ、プライドランドを飛び出してたどり着いた”楽園”で、ミーアキャットのティモンとイボイノシシのプンバァとともに「ハクナ・マタタ」と楽しく暮らすシンバ。そこに幼い日々を共に過ごしたナラが現れ、故郷の地が荒れ果てているとシンバに告げる。ナラに「あなたこそが正当な王」と言われたシンバは自分が一体何者なのかと悩み、ラフィキに導かれて自らの顔を水に映す。その顔は、いつしか父のそれと重なり、シンバは先祖たちから受け継いできた王としてのスピリットを自覚する。青年期によるアイデンティティの獲得だ。
20年以上ロングランされ、数字で見れば国民の10人に1人が観劇した計算にもなる『ライオンキング』。長期間の上演が続く中で、演出面がブラッシュアップされているのも興味深いし(特に「愛を感じて」のシーンは今の方が格段に良い)、かつてシンバを演じた飯村和也が敵役ともいえるスカーを担っていたり、ラフィキ役の青山弥生に代表されるように、長きにわたりこの作品を支えてきたベテランと若手俳優の熱量とが舞台上で化学反応を起こすさまを体感できるのも、この作品の醍醐味といえる。
さて、ここからは『ライオンキング』東京公演第3の地としてオープンした「有明四季劇場」についてレポートしていきたい。
有明四季劇場外観(撮影:荒井健)
これまで東京で『ライオンキング』が上演されてきた旧・四季劇場[春]や四季劇場[夏]と同じく、有明四季劇場も外の道から直接入場が可能。だが上記の二劇場と異なるのは、1階客席が劇場内のエスカレーターか階段を使って昇ったひとつ上の階にあることだ。
有明四季劇場・キャストボード
その日の出演者やスタッフの名前が掲示されるキャストボードは、新・四季劇場[春]や[秋]と同じくデジタル仕様を採用。エントランス階と1階客席ホワイエの2か所に設置されている。
有明四季劇場・ホワイエ
1階ホワイエのソファーベンチにはソーシャルディスタンス確保のため、このようなプレートを設置。現時点(2021年10月)ではホワイエでの食事等は禁止で、ペットボトルや水筒など、蓋つき容器の飲み物のみ水分補給が可能。また、1階客席階には化粧室がないので、気になる人は事前にエントランス階等にある化粧室の場所をチェックしておくといいかもしれない。
有明四季劇場客席(撮影:上原タカシ)
有明四季劇場は1、2階合わせての客席数が約1200ということで、規模でいうと新・四季劇場[秋]と同レベルの広さ。1階席は13列目から勾配が急に取られているので後方席でも見やすいのではないだろうか(1階13列目前は通路)。
しいて座席のおすすめを書くとすれば、1階席最端以外の通路側。”あの演出”は新劇場でも踏襲されているので、特に久々の観劇を楽しみにしている人や初めて『ライオンキング』に触れる人には1階通路側の席を推したい。
有明ガーデン~東京駅丸の内南口バス(四季48系統)
今回、四季の公演として珍しいのが「東京駅丸の内南口」直通バスの運行。劇場に隣接している商業施設「有明ガーデン」の敷地内バス停より、夜公演終演後の21時25分と21時35分の2本が運行中だ(運賃=210円)。
筆者が乗車した平日夜の目的地までの所要時間は約25分。途中の停留所には停まらないので、サバンナの余韻に浸りながら、東京の夜景をゆっくり楽しめる。ちなみに系統「四季48」の「48」とは『ライオンキング』主人公「シンバ」のこと。現時点では10月30日まで(夜公演実施日のみ)の運行が発表されている。
劇団四季『ライオンキング』
日本初演から公演23年目に突入したミュージカル『ライオンキング』。ひとつの作品がこれだけ長く上演されるのにはわけがある……そんなことを今回あらためて実感した。シンバをはじめ、ナラやムファサ、そしてスカーやハイエナたちもじつは”私たち”を映す存在なのである。
新たな劇場でこの作品がどう進化していくのか。そんな発見にまた出会える日を楽しみにしたい。
※文中の出演者は筆者観劇時のもの
取材・文・一部撮影=上村由紀子(演劇ライター)