鹿賀丈史&市村正親インタビュー 名優二人が五度目のタッグで贈るミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』の変わらぬ魅力
鹿賀丈史、市村正親
日本のミュージカル界を牽引し支え続けてきた二人の名優、鹿賀丈史と市村正親。50年近くを共に過ごし切磋琢磨し合った彼らが贈るミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』が、2022年春に再び上演される。
本作は南仏のゲイクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」を舞台に、一風変わった家族の中で巻き起こる騒動を愉快かつハートフルに描いた人気作。1985年の日本初演から30年以上に渡って繰り返し上演されている。2008年からはゲイクラブのオーナー・ジョルジュを鹿賀丈史が、看板スターの“ザザ”ことアルバンを市村正親が演じ、本公演でついに五度目の夫婦役となる。
“最強の夫婦”と名高い鹿賀と市村の二人に、『ラ・カージュ・オ・フォール』の変わらない魅力、そして2022年版に向けた意気込みを聞いた。
ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』(写真提供/東宝演劇部)
――本作は1985年の初演から繰り返し上演され、多くのお客様から愛され続けています。その理由は何だと思いますか?
鹿賀:まず作品の完成度の高さというのがあるのでしょうけども、日本人の感性に非常に合っているということも理由だと思います。随分古い作品ではありますが、根本的な人の生き方や想いは変わらないということが伝わってくる舞台ですよね。
市村:作品が良いのは当たり前なんですが、僕はねえ、主演の二人の俳優がいいんじゃないかなと(笑)。丈史(=鹿賀)と僕という、お客様の想像力を働かせることができる名優二人が揃っていることが、大きな理由ではないでしょうか(笑)。
――確かに! それは間違いありません(笑)。そんなお二人が互いに感じる、鹿賀ジョルジュと市村ザザの魅力を教えてください。
鹿賀:いっちゃん(=市村)のザザはねえ、美しいのよ〜!
市村:今回はどうかな〜(笑)。
鹿賀丈史、市村正親
鹿賀:もうコンビを組むのは五度目になるし、ちょっとずつ崩れてきてはいるよね(笑)。でもそういうところに非常に人間味が出るわけです。歳を重ねるということは、二人の関係もその時々で変わってくるということ。そんな僕らが芝居をして歌って踊って、それが自然と流れていくことでお客様がスッと心地よくこの世界に入ることができる。そんな舞台にますますしたいと思っています。
市村:丈史は大人で僕は子ども。そして役の関係としても、ジョルジュの方がやっぱり大人で、ザザの方がちょっとやんちゃな部分を持っていると思います。この作品は僕ら夫婦と息子という一つの家族を通して、誤解の中から真実が見えてくるお話。あらゆるものに対して「誤解した見方をしてはいけないんだよ」「これが本当のあるべき姿なんだよ」ということに気づかせてくれる作品になっているんですよね。
――2022年の公演では、それぞれどのように役に取りみたいと思いますか?
市村:僕は“なるべく動きたくないザザ”を狙いたいですねえ(笑)。そういう人間からはたして何が出てくるのか、というところを見せたいなと。何年か前に鷲尾真知子さんが『ラ・カージュ』を観にきてくれて、僕が登場したときに泣けたって言うんですよ。「なんで?」って聞いたら「哀れで」って(笑)。でもこれは正解なんだよね、だから、今回はより泣けるザザになっているんじゃないかなあ(笑)。いろいろ考えながらドラマを深めていきたいですね!
鹿賀:全く新しい部分と、今までやってきたいい部分とを一体化させて、2022年は“決定版”と言われるくらい内容の濃いものにしたいですね。これまでに何度も観てくださったお客様のことを、ちょっと驚かせたいとも思っているんですよ。ただ、それは決して形を変えるということではありません。長い年月を経てきたからこそ出てくるジョルジュの匂いというものが、少し変わった方が面白くなるんじゃないかなと考えています。
鹿賀丈史
――長い年月といえば、真島茂樹さん(ハンナ役/振付)と森公美子さん(ダンドン夫人役)は初演から出演され続けていらっしゃるんですよね。
鹿賀:真島さんはずーっとやってこられて、今の歳になってもバリバリお稽古なさっているので本当にすごいですよね。モリクミちゃんもキャラクターを変えずにそのままで、本当に面白い人だなあと思います。
市村:やっぱりあの二人なんですよねえ。ハンナとダンドン夫人という役をやれる人は、まじーとモリクミさん以外いないんじゃないかな。
――そんなベテラン勢の中に、内海啓貴さん(ジャン・ミッシェル役)と小南満佑子さん(アンヌ役)が新キャストとして加わります。
鹿賀:『ラ・カージュ』は大人のノリのミュージカル。そういう作品に若い子たちが入ってくれると、いてくれるだけでもう新鮮に見えてくるんです。なので、素直に芝居をしてくれたらいいなと思いますね。
市村:配役としても非常にピッタリな二人だと思っています。内海くんはまたいい息子が帰ってきたなあと思うし、小南さんは歌も踊りもしっかりしている人だから、これまでに引けをとらないアンヌが演じられるんじゃないかと思います。
鹿賀:劇中のショーで踊るカジェルたちも、新たに若いメンバーが何人か加わるんですよ。それによって新しいニュアンスになることもあるでしょうし、楽しみですね。
――改めて、ご自身にとって『ラ・カージュ』はどういう作品ですか?
鹿賀:完成された作品に出演するということは基本的に嬉しいことです。自分が心身共に健康になれる感じがするんですよね。もう10年以上の間、3年おきといういい間隔でやらせてもらっています。そういう作品って、あるようであまりないかもしれません。『ラ・カージュ』を待っているお客様もたくさんいらっしゃると思いますし、こういう作品に出会えたということ、そして続けられているということに感謝しています。
市村:『ラ・カージュ』というのは、僕自身を元気にしてくれる作品です。約3時間ザザ/アルバンとして生きることが嬉しいですし、張り合いがあります。舞台上で一生懸命生きていると、それは劇場にも伝わるんです。自分を奮い立たせてくれて、しかも最後は幸せな気持ちになれる作品ってなかなかないですよね。そして、鹿賀丈史という俳優とは再来年でいよいよ50年の付き合いになります。50年間共に生きてきた二人が夫婦役として作品を支えているということが、感謝に値することだと思っています。
市村正親
――2018年の前回公演時と比べて、世の中の状況は大きく変わってしまいました。2022年春にこの作品を上演する意味をどう捉えていらっしゃいますか?
鹿賀:正直、ここまでコロナ禍を引きずるとは誰も思っていなかったでしょう。世界を動かして分断する程の大きな影響があり、それによるストレスは非常に大きいと思うんです。そんな状況で10年以上も前から同じ形で演じ続けるということは、かなり意味があることだと思います。むしろこういう時代だからこそ「やってよかったね」という実感が味わえるんじゃないかなあ。お客様にも、ぜひ期待して今回の『ラ・カージュ』を観に来ていただきたいと思います。
市村:『ラ・カージュ』では最後、「今この時」というナンバーでお客様も総立ちになって手拍子をする瞬間があります。こういう時代だからこそ、「今 この時を しっかり生きて 愛して」という歌詞は誠にその通りであって、大きなテーマだと思います。このナンバーにいくまでには、面白かったり切なかったりいろんな紆余曲折があります。そこで目一杯やって、最後にあの歌に辿り着くんです。だからこそ、みんなが何かに向かって必死な姿が傍目から見るとおかしくも美しいものに映るんじゃないかな。こういう素晴らしい作品に自分が出て、そこで生きられるということが本当に役者冥利に尽きますし、幸せですよね。お客様には劇場で大いに精神を高揚させて楽しんでもらえたらいいなと思います。
ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』(写真提供/東宝演劇部)
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=敷地沙織
公演情報
会場:日生劇場
ジョルジュ 鹿賀丈史
ザザことアルバン 市村正親
アンヌ 小南満佑子
ハンナ 真島茂樹
ジャクリーヌ 香寿たつき
エドワール・ダンドン 今井清隆
マリー・ダンドン 森 公美子
翻訳:丹野郁弓/訳詞:岩谷時子、滝弘太郎、青井陽治/演出:山田和也/オリジナル振付:スコット・サーモン