斉藤朱夏『朱演2021 つぎはぎのステージ』ライブレポート 「私は君がいなければ生きていけません」そんな「君」に感謝を届けるライブパフォーマンス
2015年に『ラブライブ!サンシャイン!!』の渡辺曜役で声優デビューを果たし、現在Aqoursの一員としても活動を行なう斉藤朱夏。2019年にはソロ歌手としてのデビューも果たし、ファーストアルバムである『パッチワーク』をリリース、本アルバムを提げた単独ライブ『つぎはぎのステージ』が2021年12月10日パシフィコ横浜国立大ホールで開催された。11月28日には大阪にて開催される予定だった本公演は残念ながら大阪公演が中止、その分を横浜公演に全力をぶつけての開催となった。一箇所集中の本ライブ、果たしてどんなステージが披露されるのだろうか、多くのファンが注目がする中で当日を迎えたのだった。
会場である横浜パシフィコにはオープン前から多くの人が集まり、会場入り口が開くと同時に長蛇の列ができた。その列を抜けて会場に入った観客たちは、彼女の登場を心待ちにしながらステージに熱い視線を送ったのだった。開演時間になると同時に暗転した会場、そこに一筋のスポットライトが落ち、ピアノの音に合わせて斉藤朱夏が登場。スポットライトの落ちるその場所に向けて歩んでいく。白のワンピースに白のスニーカー、そこに一点映える赤のソックス。会場はサイリウムを灯してそれを出迎える。
スポットライトの下にたどり着くと大きく息を吸い込む。そのブレス音が会場中に響く。そしてこう続く「天才なんかじゃないし 才能もないし だから汗と涙をシャワーに流し」。一曲目に披露したのは「ワンピース」。アカペラで始まった本楽曲にバンドサウンドが途中から合流していく。会場は短時間にして壮大な演奏と歌声に包まれた。そして一曲目を高らかに歌い上げると、力強く拳を握り曲を締める。そして次に披露したのは「くつひも」。ダンサブルなテンポの楽曲に彼女は身体を揺らし、心地よい歌声を紡ぐ。曲に合わせて明滅する照明も印象的だった。そこから立て続けにスタートしたのはライブ初披露の楽曲「恋のルーレット」。イントロから会場は手拍子に包まれ、ステージ上では斉藤朱夏がハニカミながらステップを踏む。会場中にいるすべての人が音楽を全身で楽しんだ。開始三曲でライブ会場は多幸感に包み込まれた。
そしてここで改めて会場に挨拶。ファン、彼女のいうところの「君」がライブを楽しんでいる姿に対して「やっぱり君は天才だな~!」と伝えると、改めて2021年の活動についてを振り返った。「このライブが斉藤朱夏として今年最後のライブとなります」と述べると「真っ直ぐに全速力で走っていっちゃうわたしも、25歳になってやっと休憩していいんだという事に気づきました。たまには頑張れない時があっても、まぁいいよね」と次の曲を匂わせる。それに合わせてステージライトと観客のサイリウムが青く染まり、カントリー調のサウンドが響く。続いたのは「あめあめ、 ふらるら」だ。青く光るステージの中で彼女は赤い傘をさす。その華やかな姿、スター性を感じずにいられない。そして曲の終わりには傘を手に舞台セット裏にはけていった。
すると舞台セットがステージ外に滑っていき、そのうしろから真っ赤なワンピースに身を包んだ斉藤朱夏が登場。ステージバックにはファーストアルバム『パッチワーク』に因んだ、多数の布が縫い合わされた背景が現れる。「みんなパパパで踊るよ!」と告げてスタートしたのは「パパパ」。彼女の「パッパッパッ」という掛け声に合わせてライトが明滅し、観客全員がサイリウムをふる。音楽が会場中に一体感に包まれる。
「みんなまだまだ踊りたいよね!ちゃんと練習してきてくれた!?」
と言うとここで振り付けのレクチャー……かと思いきやここまでの会場の一体感にその必要がないと判断した斉藤朱夏。そのまま立て続けにネクストナンバー「ぴぴぴ」を披露する。複雑な振り付けが曲中にある本楽曲、しかしそれでも観客は完璧なまでにそれを踊り切る。その光景は彼女に「すごいね!120点です!」と言わせるほどだった。
そしてここでライブの空気感がガラッと変わる。MCを挟み「運命的な出会いをした君にこの曲をおくります」と言葉を伝えると、それに応えるように客席のサイリウムは白に変わる。その光景はまるで雪原、そこに一人立ちすくむ彼女が披露したのは「36℃」。バンドメンバーが優しいサウンドを奏でると、そこに彼女のハイトーンボイスが乗り、エモーショナルな空気が会場中に広がる。さらに静寂な空気感は引き継がれたまま楽曲が続くなか、披露したのは「よく笑う理由」。いつもは元気で力強い彼女の見せる、憂いを帯びた表情。見る人は引き込まれずにはいなかった。
「ファートストアルバムを作っていて、いろんな自分がいることにいるということに気づかされました。」ここでファーストアルバムをリリースした時の心境が語られる。一つ一つの楽曲に込められた想いは別でも、その全てが彼女自身の想いであることは歴とした事実。そのすべては「君」がいて、はじめて出来上がっているということに気付かされた。それを語ると「ここにいる君が私の生きる原動力です」と言葉を紡ぎ、次の楽曲「ヒーローになりたかった−Acoustic ver.−」へ。それは、実に儚げで繊細な歌声。アコースティックギターのサウンドに乗る声。舞台上にはこれまでに見せていたのとは違う、今にも消え入りそうな彼女の姿があった。曲の合間には涙を拭う瞬間も見られ、その姿に心打たれないものはいなかっただろう。感動的な光景の中で本楽曲は締め括られる。
するとそこから、力強さ溢れるキーボードの演奏が始まる。その力強さはどんどんと波及し一つの曲へと紡ぎ合わさっていく。披露したのは「セカイノハテ–Acoustic ver.–」。アコースティックバンドセットで演奏された本楽曲、にも関わらずそこには力強さがあった。そんな一見矛盾したものを同時に成立させることができる、これこそが彼女の持つ力なのだと思い知らされた。
ここで一度MCを挟み、「アコースティックで2曲お届けしました」という言葉に会場中が大きな拍手を送る。会場を埋め尽くす大きな拍手を聞いて「泣きそう!」と目頭をおさえる姿が非常に印象的だった。
そしてここで「最高な音楽を奏でてくれているメンバーを紹介させてください!」と叫ぶと、バンドメンバーがソロパフォーマンスを見せて会場を沸かせる。そして「盛り上がって行こうぜ横浜!」との号令とともにバンドメンバーが一丸となってパワフルなサウンドを響かせると、そこにパワフルな斉藤朱夏が帰ってくる。力強いバンドサウンドが響く中、それに負けない彼女の歌声。その力と力のぶつかり合いが聴く者のボルテージを引き上げる。披露したのは「しゅしゅしゅ」「Your Way My Way」の2曲。その勢い、圧巻と言わざるをえないものだった。
「みんなたくさん遊んでくれてありがとう!」そう言うとここで次がラストナンバーであることが語られる。「また君に会えますように」そう語ると締めくくりに披露したのは「またあした」。シティーポップ調のダンスナンバーが会場中に響き渡ると楽しげな歌声がそこに乗る。サビでは「またあした」と歌いながら会場に手をふる彼女。それを客席に集まった「君」はサイリウムをふってそれに応える。まさにこの一体感こそがライブの醍醐味だろう。こうして会場中が多幸感に包まれたまま彼女はステージを後にしたのだ。
去りゆく彼女への拍手はいつしか手拍子に変わる。そしてそれに合わせて斉藤朱夏がステージに返ってくる。ダメージジーンズにオーバーサイズのライブTシャツ、そのパワフルなそのキャラクターを体現したかのような出で立ちだ。そんなアンコールの一曲目に披露したのは「もう無理、でも走る」。全身を使い、時にはステージに膝をつきながらも全身を使ってパフォーマンスする姿に圧倒されないものはいなかっただろう。
ここで一度お知らせを挟み、今回のツアーに込めた想いが語られる。今回の公演をすごく緊張しながら迎えたこと、大阪公演が中止になり悔しくてたまらなかったこと。そしてそんな緊張も悔しさも「君」がいたから乗り越えられたということ。そんな「君」に感謝を届ける歌「声をきかせて」が本公演のラストナンバー。曲の中で何度も何度も繰り返される「ありがとう」という言葉、それこそが今彼女の心の中の大部分を占めていたものだったのだろう。それが言葉として吐き出され、本ライブの演目はラストを迎えたのだった。
全ての演目を終えた後「私は君がいなければ生きていけません」と語った彼女。君のためならば頑張れる、パワフルな姿も見せられる、儚くも繊細な表情も見せられる、それもこれも全て「君」というファンがあってのもの。そんなメッセージがそこには込められていたのだろう。斉藤朱夏を「君」が応援し、「君」が斉藤朱夏を支える。両者がいてこそ、これだけのステージがなしえられたのは確かだ。それを確認できたのが今回の『つぎはぎのステージ』横浜公演だったと思う。
レポート=一野大悟
セットリスト
『朱演2021 つぎはぎのステージ』