和田琢磨はカツオ役、大平峻也はタラオ役 まさに家族のような雰囲気の二人に訊く、舞台『サザエさん』について
(左から)大平峻也、和田琢磨
2019年、国民的人気作『サザエさん』がアニメ放送50周年を迎え、藤原紀香主演で舞台化するというニュースは瞬く間にお茶の間に知れ渡った。その公演を経て、2022年1月より続編の公演が行われる。前回公演では原作やアニメの10年後を描いたが、今回はさらにその先の未来のストーリーになるという。
新たに磯野カツオ役を引き継いだ和田琢磨と、フグ田タラオ役の大平峻也の取材にSPICE編集部も参加。ふたりは、大平が初めて舞台に出た時から数年来に渡って付き合いが続いているということで、お互いを思いやりながらも遠慮のない、まさに家族のような雰囲気のなかでインタビューが進められていた。
磯野家全体でひとりのキャラクターを作っている
ーーご出演が決まっての感想をお願いします。
和田:国民的な知名度を誇る『サザエさん』という作品に携わることが出来て、しかもカツオくんの役ということでとても光栄でしたし、嬉しくもあります。同時にみなさんが想像しやすい作品ですので、そのイメージを壊さないように、かつ、舞台ならではの楽しさをお見せするにはどうしたらいいのかな、どうやったら受け入れてもらえるかなという方向にすぐ頭が行きました。プレッシャーはありますね。
大平:僕は前回も出演させていただいており、続投という形だったので、自分が出るということよりも荒牧慶彦さん(前回公演のカツオ役)がいない! って思いました。
和田:おい(笑)!
大平:藤原紀香さんしかり、松平健さんしかり、今まで関わらせていただいたことがなかった方々の中に2.5次元俳優として2人で入ったので、一蓮托生だと思って「一緒に挨拶回りとかもしようね」って言ったり、本当に兄弟のように過ごさせていただいていました。だから今回荒牧さんいないなぁって思っていたんですが、たっくん(和田琢磨さんのこと)は、僕が初めて舞台に出させていただいたミュージカル『テニスの王子様』(以下、「テニミュ」)で僕らの学校の部長という役どころで、それこそ本当に“お兄ちゃん”みたいな存在なので、たっくんがカツオ兄ちゃんをやるということは自分の中ではすごくしっくりきました。
(左から)大平峻也、和田琢磨
和田:荒牧くんとどっちがいいの?
大平:それはこれからです! いや、でも荒牧さんはいい兄ちゃんだったな~(笑)。
和田:くぁ~~~!
ーー国民的キャラクターである『サザエさん』の10年後、さらに数年後という難しい役どころになると思いますが、自分の中でどう成長させていこうと思っていますか。
大平:演出の田村さんが「タラちゃんは3歳から中学生になるので、一番成長の幅が大きい」とおっしゃっていました。原作の最初の方でサザエさんに怒られて小屋に閉じ込められた時に「開けろー! クソババア!」なんてセリフもある描かれ方もしていたので、もしかしてグレちゃったりもしているんじゃないかまで想像していて。いざ台本ではすごく真面目ないい子になっていて、愛のある家庭のその愛を真っ直ぐに受けて育った子なんだなって思いました。おそらく今回もしっかり家族の愛を受け継いだ子として登場するのかなと想像しています。
和田:前回の公演を拝見して、登場人物が各々一人で成り立っているというよりは、磯野家全体でひとりずつのキャラクターを作っているということがすごく伝わってきました。一番印象的だったのが、「タラちゃんには敵わないよ」っていうセリフです。峻也くんが演じるタラちゃんが中心になっている瞬間もあるし、サザエさん、カツオくんが中心になる瞬間もある。そうして支え合っているのが磯野家の家族だと思います。自分でどう役作りをするかというよりは、周りの方々と一緒に作っていくような感じになりますね。掛け合いの太さというのをすごく感じたので、それに自分も上手く混ざれたらいいなと思っています。
ーー今回のような原作のある舞台のときはどういう役作りをされますか。
和田:何より原作を一番見ます。台本と同じくらい原作を見ますね。漫画原作の場合はコマとコマの間にも人間は生きているので、そこで何をしているかというのは舞台で見せるときはすごく重要かなと思っています。
大平:僕はまずはお客さんと同じフラットな状態で原作を見てみて、思ったキャラクターに対する印象や感覚と、ファンの方々のキャラクター解釈とを照らし合わせながら、どう進んでいこうかなって思い浮かべています。外側を一回整えてから台本に向かっていくというか。舞台は生ものですし、うつっていないときに何を考えていたんだろうっていうことも考えなければならない。そうして台本に向かいつつも、実はそこから少し外れたものが面白いものになると思っています。見えない部分の揺れ動いた感情を表現すること。そういうものがすごく2.5次元化するということの意味だと思います。それと、人の意見はよく聞くようにしています。
ーー『サザエさん』という作品自体の魅力について教えてください。
和田:その瞬間瞬間で誰かを中心に回っている物語ですね。必ずしも波平さんが主軸であるわけでもないし、ときにカツオくんがかき回したり、うまくいかなくて悲しんでいるタラちゃんをみんなが励ましたりとか、一人ひとりが立つ瞬間がとてもリアルなので、自分の日常生活に重ねられる瞬間が多いんじゃないでしょうか。
大平:特に大きな事件が起きないところがすごく魅力的だなと思います。アニメのサザエさんで「一番印象に残っているエピソードはありますか?」と言われて、パッと出てくる人は多くないと思うんです。些細な日常が、家族にとって大きく取り扱われているというか。誰かに何かがあったときに家族が一丸となって考えてくれるみたいな。そういうところに改めて家族の温かさを感じます。あとはアニメが放送されている時間帯もいいですよね。家族が集まる夕方の時間です。自分たちの家族とも重なるところがあって、共感性がある。それが長きにわたってこの作品が愛される理由なんじゃないかなって思います。
(左から)大平峻也、和田琢磨
いつも明治座は試練を与えてくれる
ーー以前の稽古場はどんな雰囲気だったんでしょうか。
大平:藤原紀香さんに最初にお会いするときは緊張するかなって思っていたんですが、ご挨拶させていただいたときに「サザエでございます! タラちゃんよろしくお願いします」って言ってくれて。稽古場からすごくおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんが家族を作り上げてくれようとしていて。そういうチームワークが見えてきたので、自然と入りやすかったですね。お芝居に関しても同じで、すごくやりやすい場所、居やすい空間で稽古をしていました。
和田:一度作品が出来上がってから途中参加って出る側としては結構勇気がいるんですが、今回は峻也くんの後ろについていこうかなって。以前にそうなった時も、みなさんの関係性がすでに出来上がっているので、躊躇してしまったことがありました。その経験を経た自分としては、みなさんとたくさんコミュニケーションを取れるように取り組んでいこうと思っています。
大平:シゲさん(山口森広さん/サブちゃん役)としゃべっていればすぐみんなと繋がれるよ! とにかくコミュニケーション能力が高い方なんです。前回も博多座で隣の楽屋だったんですが、真ん中のふすまを全部取っ払ってシゲさんとふたりになったことがあります(笑)。
ーー今回の稽古場で楽しみにしていることはありますか。
和田:普段なかなか先輩とご一緒できることがないのでそれがすごい楽しみですね。あわよくば松平健さんと殺陣を一緒にできたりとか……ね!
大平:僕も前回同じこと言ってたー!
ーー明治座という会場にどういう印象や思い出がありますか。
大平:たっくんの方がたくさん明治座に出てるよね。
和田:今回の『サザエさん』で3回目になります。1回目は花道を走って、あと3メートルくらいで捌けきれるっていうところで転んだんです。2回目は座長として立たせていただいていたんですが、盆が回っているときに途中で動かなくなっちゃって。やばい! どうする⁉ って。そのまま続けられましたが、内心ヒヤヒヤでした。いつも明治座さんは僕にとって舞台に立つ試練を与えてくれる劇場です。3度目の正直じゃないですが、今回は無事に何事もなく務めることができたらって思います。
大平:怖いんだけど! 巻き込まれたら怖いよ!
和田:大丈夫、失敗はしてないから! 転んだのは僕の勝手なせいだし、盆が止まっちゃったときも、お客さんは気付かないで最後までできたし。
(左から)大平峻也、和田琢磨
大平:何事もないのがいいので!
和田:なので、何が起きても僕は大丈夫です。
大平:頑張ってください……なるべくそういうシーンと被らないといいな。
和田:巻き込まないようにね!
大平:明治座では休憩中にお客さんがご飯を食べることができたり、客層も全然違いますよね。僕は前回一度しかまだ明治座の経験はありませんが、年齢も性別もバラバラですごく不思議な感覚でした。そういえば、公演中面白かった出来事がありました。みんなが涙するような良いシーンで、どこからか小さないびきが聞こえてきたんです。休憩後だったからご飯を食べて眠くなっちゃったのかな……。キャスト陣は無言のうちにどうにか起こそうという気持ちがあったのかもしれません。いつもより声をめっちゃ張っていました(笑)!
和田:安心して観てくれていたんでしょうね。
大平:ほんわかして心温まるストーリーですが、楽しみ方は人によって違うと思うので、いろんな見方をしてもらえればと。僕はいつか明治座さんのお弁当をお客さんとしても味わってみたいですね。
共演していた「テニミュ」で学んだこと
ーー改めてお互いの印象を教えてください。
和田:年に一回は「テニミュ」の青学のチームで集まるようにしています。そこから10年くらい経ちますが、みんなと会うと不思議と当時の雰囲気に戻ったりして。それこそ『サザエさん」の家族のように、一人ひとりの役割があって「俳優を辞めても、別の仕事をしていてもこうして集まれることが理想だね」ってよくみんなで話しています。仕事がどうとか気にしていないです。でもこうしてすごく活躍しているからびっくりする(大平さんの方を見ながら)。
大平:追いつかなきゃって思っているんです。「テニミュ」に出演させていただいたとき、たっくんはレギュラー陣で、僕は一年生でみんなを応援するっていう立場の役でした。同じ学校でも楽屋が別々だったり、すごく疎外感を感じた時があって。当時16歳くらいだったので、すごく多感な時期だったと思います。そういうのを相談したら、たっくんが真っ先に「彼らも青学っていう同じ学校のメンバーだから、楽屋も一緒に居させてほしい」と製作さんに相談してくださって。それがすごく僕には刺さりました。他のメンバーもそうだと思いますが、たっくんが引っ張ってくれたからこそ、今でもみんなで会いたいなって思える、それこそ家族みたいな関係になれたんじゃないかなって思っています。他のメンバーが仕事を頑張っている姿を見ては、追いつかなきゃなという気持ちも生まれてきます。
ーーその時のことは覚えていますか。
和田:もちろん覚えています。自分もずっといい役ばかりではなかったので、悔しさももちろん知っているし、だからっていって主役がえらいっていうわけでもない。学生の群像ものだから、部活みたいに仲良くなれたらいいなって思って。彼らは中高生だったけれど、僕はその青春期は終えているので、その時こういう部活動だったらいいなとかこういう雰囲気だったらいいなっていうのをそのまま提案させていただいただけですね。あ、ここは太字で書いてください。(笑)
ーー2022年はどんな風になっていきたいですか。
大平:どうですか!(笑)
和田:毎年ハラハラして生きています。2022年は『サザエさん』の舞台で始めることができるので、自分の中で縁起がいいなと思っています。自分のことですが、この作品の後にも明治座でやらせていただけるので、これを機に毎年明治座さんに呼んで頂けるように頑張りたいと思います!
(左から)大平峻也、和田琢磨
大平:えっ、いいなー! 僕は役者としてのスキルアップは常日頃から考えていることなので、2022年もそういう経験を吸収できる状態の自分でいたいなとは思います。来年はスケジュールがわりと埋まっているので、粗相を起こさないように……気を付けたいなと思います。
和田:うーん、それは大事だ!!
大平:決して天狗にならないように! ある方から、「キャラ人気と自分の人気は別のものだよ」ということをすごく教えて頂いたんです。いくらお仕事がある状態でも、決して天狗にはなっちゃいけないよと。粗相は起こさない。そういう風に日々生きていきたいと思います。
和田:ごみ拾いしても、必要な方に席を譲っても取り上げられないのに、悪いことするとすぐ週刊誌とかに載るじゃん。世知辛いよね。
大平:そういう世の中ですよ……。
和田:見えないところでも頑張ろう。
大平:そうですね、見えないところでも徳を積んでいくって大事ですね。
ーー最後にメッセージをお願いします。
大平:今回はカツオ兄ちゃん、ワカメお姉ちゃんが変わっていますが、だからといって家族は崩れることなく、前回とは少し形が変わったサザエさん一家として楽しんでもらいたいです。サザエさん役の紀香さんがとても温かい人なので、紀香さんを筆頭にそういう座組になっていくと思います。僕も稽古がすごく楽しみです。ちょっと家族に会いたいな、実家に帰りたいな、家族を大事にしたいなとかを思ってもらえるような温かい作品になると思います。「10年後ってなに!?」っていう興味で来てくださっても構いません。いい意味で裏切れる作品になるかと思います。ぜひお越しください。
和田:『サザエさん』の作品のすばらしさは本当にどなたでも知ってらっしゃると思うので、舞台ならではのその場その場で生まれるエネルギーを感じとっていただきたいです。僕自身は素晴らしい先輩方とご一緒できるので、胸を借りるつもりで稽古から頑張っていきたいです。カツオくんは磯野家の中でもムードメイカーと言いますか、その場を動かす役割だと思いますので、責任を持って磯野家を引っ張れるようになりたいなと思います。
ーーありがとうございました。
(左から)大平峻也、和田琢磨
舞台『サザエさん』は、藤原紀香、葛山信吾、和田琢磨 ※東京公演のみ出演、近藤頌利(劇団Patch) ※大阪・福岡公演のみ出演、本間日陽(NGT48)、大平峻也、酒井敏也、高橋惠子、松平健ほかが出演。2022年1月29日(土)から東京・大阪・福岡にて公演予定。
取材・文=松本裕美 撮影=池上夢貢
公演情報
藤原紀香 葛山信吾
和田琢磨 本間日陽(NGT48) 大平峻也 酒井敏也
高橋惠子 松平 健 ほか
【会場】新歌舞伎座
藤原紀香 葛山信吾
近藤頌利(劇団Patch) 本間日陽(NGT48) 大平峻也 酒井敏也
高橋惠子 松平 健 ほか
【会場】博多座
藤原紀香 葛山信吾
近藤頌利(劇団Patch) 本間日陽(NGT48) 大平峻也 酒井敏也
高橋惠子 松平 健 ほか