楠木ともり『Kusunoki Tomori Birthday Live 2021 Reunion of Sparks』レポート 楠木ともりが音楽を使って見せたい景色――
声優として数々のアニメに出演し、音楽活動も積極的に行う楠木ともり。2021年11月には自身で全楽曲の作詞作曲を担当した3rd EP『narrow』もリリースし、更なる展開に注目が集まっている。そんな彼女のライブ『Kusunoki Tomori Birthday Live 2021 Reunion of Sparks』が2021年12月に開催された。東京、大阪の二箇所をめぐる本ライブ。初日である2021年12月22日は楠木ともりの誕生日当日、果たして22歳になったその日に何を届けてくれるのだろうか。
ライブ当日、豊洲PITには会場を埋め尽くすほどの座席は満席。そこにペンライトを使用しないようにとの場内アナウンスが流れる。ライブはペンライトの使用が禁止となっており、そこにミュージシャン・楠木ともりが表現したいものの一部を垣間見る、きっと新しい音楽体験を提供してくれるだろうと確信が深まる。
会場が暗転、バンド隊が楠木ともりの登場を促すように演奏を始めると、観客の拍手が重なる。そこに白いワンピースに身を包んだ楠木ともりが手を振りながら登場。一曲目に披露したのは「アカトキ」だった。芯の通った歌声が、観客の耳にスッと入り込んで脳に直接メッセージを届ける、「アップデートしていこうよ」と。まるでそれは「新しい音楽を届けるから、意識をアップデートして聴いてほしい」そんなメッセージにも感じられた。
一曲目を終えると改めて挨拶。「好きなように身体を動かして楽しんでもらえばと思いますので」と今回のライブについて説明すると、「楽しむ準備はできていますか!?」との曲振りからキーボードが力強いメロディを奏でる。ステージ後方にある大小異なる4面のスクリーンは印象的な白黒映像で花を映し出し、歌声がそこに合流する。二曲目に披露したのは「ハミダシモノ」。
そこから間髪を入れずに4拍のハイハットが響き、「眺めの空」が始まる。スクリーンには雲混じりの空が映し出され、歌の世界観を補強する。聴くものはそこに広がった世界に没入せずにはいられない。音楽に引き込まれるとは、まさにこのことだということを改めて感じさせられる。
ステージの端にあるセットに、そっと腰掛けると続いてのナンバー「よりみち」。ローファイなサウンドが会場を包み込むと、座ったまま語りかけるように歌い始める。そして、時に舞台上をゆらゆらと歩き、「よりみち」をしながら口ずさむかのように曲を紡ぐ。スクリーンにはリリックビデオのイラストの断片が映し出される。ただ歌を届けているのではない。彼女が届けたかったのは情景なんだ、それに気づかされて膝を打たされた。
さらにメロウな空気は続く。続いて披露したのは「sketchbook」。そこに現れた情景は夜。夢の中にいるような優しい歌声が会場を包むと、スクリーンには綺麗な星空が広がる。“うっとり”これ以上にこの瞬間を形容する言葉はないだろう。舞台上には優しい光に照らされた楠木ともりの姿が輝いて見えた。
一度MCを挟んだ楠木が「ここでカバー曲を披露したいんです」と披露したのは星野源の「未来」。ギターと歌声だけで始まったこの楽曲に、他の楽器のサウンドが集結して曲を紡いでゆく。洗練された音の集まり、そこには欠けているものも過剰なものも何もない。繊細なバランスを保った状態で美しい音楽が奏でられた。
続いてもカバー曲、みゆなの「くちなしの言葉」。「とにかくただただ好きな曲」と語ったこの楽曲も、やはり過剰な装飾のない、シンプルでそれ故に美しさの際立った楽曲だった。このカバー曲2曲を通して、彼女の愛する音楽の形が垣間見れたように感じた。
「ここからは盛り上がっていただきたいんです!3曲一気に駆け抜けてもいいですか!」ここまでメロウな曲を続けて披露してきた彼女は、ここで一度大きく舵をきることを宣言。椅子に座り、ゆったりと音楽を楽しんでいた観客たちが立ち上がりそれに応える。サンプリングを思わせる独特なビートに呼応するかのようにスクリーンが明滅し、スタートしたのは「Forced Shutdown」。徐々にビルドアップされていく曲のテンションに、客席のテンションも高くなっていく。それに合わせて、舞台上にはケミカルなカラーのライトが降り注ぐ。彼女の着ている白いドレスはスクリーンのようにライトを反射し、色とりどりに輝く。
するとスクリーンには大都会の象徴ともいえるネオンサインが浮かぶ。そこに映し出された文字は「ロマンロン」。疾走感あふれるサウンドが奏でられ、そこに勢いよく歌声が乗る。会場はさらにヒートアップし、「ロマンロン」とシャウトするたびに湧き上がる。色とりどりに輝く大都会を歌で、身体で、表現しているかのようだった。ここからさらにギアが一段加速して披露されたのは「熾火」。客席はさらなる興奮に包まれ、宣言した通り「駆け抜ける」という言葉がしっくりと来る3曲の連続だった。
MCを挟みつつのバンドメンバー紹介では、ここまで見せてきた大人びた姿とは違い、バンドメンバーと楽しそうに話す姿を見せる。そのあどけなさが見え隠れする歌とのギャップもまた一つ彼女の魅力だということを感じさせられる。そして「もう後2曲なんです」とこのライブもクライマックスに突入していることを切り出す。
MCではさらにコロナ禍で活動が思うようにできなかった日々のことを振り返る。「自分がみんなの前に立つ意味があるのだろうか?」そんな自問自答を繰り返す中、楠木ともり自信が導き出した結論は「こうして今、目の前にみなさんがいてくれることが答えなんだなと思います」と語った。そしてこう続ける。「そんなみなさんを思って歌いたい曲があります。受け取る準備はできていますか?」観客はこれに拍手で答える。
キーボードが優しい音色を奏で、スポットライトの中披露したのは「バニラ」。この日、会場に来た全ての人に届けられたメッセージ。それは聴いてくれる人がいて、初めて歌う意味が生まれる、それが「あなたの声はバニラに溶けて私に甘く残り続ける」という歌詞に込められていたのだろう。
そして、歌うことの意義を歌った曲が続く。「narrow」を、心の中から感情を捻り出すように歌いあげ、「本日は本当にありがとうございました!」という言葉を残して舞台を後にした。
誰もいない舞台に向けて拍手が鳴り続け、それはやがて手拍子になる。そして、会場に再び音楽が帰ってくる。優しいギターの音が響き、優しい歌声が聴こえてくる。披露したのは「タルヒ」。ゆったりと身体を揺らしながら、歌を披露する。音楽と、その姿に、木漏れ日のような温もりを感じた。
「アンコールありがとう、生きててよかったと思いました。」アンコールがあったことを心から喜び、それをとびっきりの言葉にして客席に届ける。そしてここでグッズ紹介。はにかみながらも今回のライブグッズを一つ一つ丁寧に紹介していく姿はなんとも愛らしい。そしてそのグッズの一つであるタオルを紹介すると、「まだこれ、使ってないですよね?」と会場に呼びかける。そんな流れから、手にしたタオルを掲げてラストナンバー「僕の見る世界、君の見る世界」へ。爽やかなサウンドに合わせて手を掲げ、タオルを回しながら楽しそうに歌う彼女。その姿は、ただ等身大で音楽を愛し、音楽を心から楽しむことのできるピュアな楠木ともりの姿があった。その純粋無垢さは見るものを釘付けにして離さなかった。
ラストナンバーを歌い上げ、締めのMCに入ろうとしたところに、バンド隊が突如演奏を始める。演奏したのは「ハッピーバースデートゥーユー」。そして大きなケーキが運ばれてくる。ライブ当日に22歳の誕生日を迎えた彼女へのサプライズ。感激で言葉に詰まりながらも、その喜びを言葉にし、最後はケーキと、バンドメンバーと、会場に来た全ての人と記念写真を撮って本ライブは締めくくりとなった。
楠木ともりには、音楽を使って表現したいものがある。音楽を使って見せたい景色がある。それを明確に感じさせるライブがそこにはあった。そして、今日より明日、さらに見せたい景色の解像度はさらに上がっていくのだろう。次に見せてくれるのはどんな景色なのだろうか。楠木ともりの今後の活躍からも目を離すことができない、そんな確信を見るものに与えてくれたのだった。
セットリスト
『Kusunoki Tomori Birthday Live 2021 Reunion of Sparks』