HeavensDustのShinソロEP『Behind My Smile』に参加したグラミー賞ノミネート経験もあるSeann Boweと尺八奏者・平野透山3人にきく
Seann Bowe / Shin / 平野透山
今年6月にEP『Behind My Smile』を発表したShin。コロナ禍で体感したことを綴った同作は、自身がフロントマンを務めるラウドバンド・HeavensDustとはまた異なった質感の作品となったが、収録曲「You Took Everything From Me」が、フィーチャリング・アーティストを迎えて再構築された。Shinが招いたのは、Wiz Khalifa、Weezer、MIYAVIなどの楽曲にも参加し、グラミー賞ノミネート経験もあるSeann Boweと、映画やアニメの劇中歌などでも活躍している尺八奏者・平野透山の2人。異色のトリプルコラボレーションとなった「You Took Everything From Me(Remix)ft. Seann Bowe & Hirano Touzan」について、話を聞く。
──Shinさん、まずSeannさんと平野さんとの関係性から教えていただけますか?
Shin:Seannとは、Answer-edというバンドのToshiという共通の友人から紹介されたのが最初でしたね。そこから何回か飲んだことがあって意気投合したのと、彼の楽曲を聴いたときにものすごく衝撃を受けたんですよ。そこから普通にSeannのファンになって、いつか一緒にコラボしたいなという話になったときに、この曲をリミックスして歌ってほしいなと思って。それで声をかけた感じでしたね。(平野)透山とは、まだ10年経っていないのかな。でも、もう7、8年ぐらいの付き合いですね。和楽器系と繋がりが多いのもあって、存在はずっと知っていたし、演奏もすごく好きだったので、声をかけました。
──Seannさんは、Shinさんと初めて会ったときの印象というと?
Seann:Toshiくんが「ShinさんはHeavensDustのボーカリスト」って教えてくれて、すごくびっくりしました。高校生のときに大ファンだったので。
──へぇー! どういうところが好きだったんですか?
Seann:高校生のときに日本語を勉強していたので、日本の文化やいろいろな物事が気になっていて。HeavensDustは、日本の文化と自分の好きな音楽をミックスしていたから、すごく好きになりました。でも、最近までそのことは内緒にしていたんですよ(笑)。
Shin:ラジオの生放送でそのことを聞いたんです。いま言うんかい!って(笑)。
──(笑)。なんで内緒にしていたんですか?
Seann:初めて会ったときにファンだというのを教えたら、ちょっと距離が空いてしまうかなと思って。
──なるほど。いまは日本にいらっしゃるんですか?
Seann:そうです。日本に住んでます。
──いついらっしゃったんですか?
Seann:1年ぐらい前ですね。
──じゃあコロナ禍になってから?
Seann:そうですね。緊急事態宣言ばかりです(笑)。
──せっかく来たのに……(苦笑)。日本に住んでみようと思った理由というと?
Seann:なんでだろう……MIYAVIさんとのツアーで日本に来たときに、直感的にこの国に惹かれたんですよね。自分はここにいなきゃいけないと思って。日本の音楽も好きなので、それでこっちに来ました。
──日本語を勉強をしていたというお話もありましたけど、昔から日本が好きだったんですか?
Seann:そうですね。たぶん、5歳の頃から日本が好きでした。母親がいろんな映画を僕に観せてきたんですけど、最初はあまり興味なかったんです。でも、『ゴジラ』を観たときに、すごく好きになって。そこからゴジラがめちゃ好きだし、日本も好きになりました。ちょっと変ですけど。
──いえいえ。そんなことないですよ。平野さんはいかがです? Shinさんに初めて会ったときのことというと。
平野:正直言うと怖かったですね(笑)。自分が普段やっている和楽器の業界には、こういうタイプの方がいなかったので。
Shin:どういうタイプよ(笑)。
平野:でも、音楽をやる上でそういうことは関係ないですからね。いろいろやっていく中でだんだんと馴染んでいきました。バンドみたいなことをやるのも初めてではなかったので、そういう面での引っ掛かりとかはなかったです。
──平野さんとしては、いわゆる和楽器の世界だけではなく、いろいろな人たちとコラボレーションをしてみたかったんですか?
平野:そうですね。お琴、三味線だけというのもやっていましたけど、いろんな人たちとやってみたいなと思っていて。そもそも僕は、ガッツリ和楽器から入ったというわけでもなかったんですよ。尺八を始める前に、ピアノやフルートをやっていたので、いろんなジャンルといろんなことができるんじゃないかなというのは、昔から思っていました。
曲を作ったらちょっと気持ちが治るんじゃないかなと思って
──その3人によるコラボ曲「You Took Everything From Me(Remix)ft. Seann Bowe & Hirano Touzan」についてですが、Shinさんとしては、なぜこの曲を選んだんですか?
Shin:Seannが「Hate you」という曲を出していて。その曲で彼のファンになったんですけど、歌詞がつらい内容だったんですよね。メロディにもそういう雰囲気があって、そこは「You Took Everything From Me」も同じような系統というか。心の中にある大きな悲しみや傷についての曲だったので、Seannにこの曲を歌ってもらってコラボしたらどういうふうになるのかなと思って、この曲を選びました。あと、今までソロの曲では和楽器を入れていなかったんですけど、やっぱりほしいなと思って。それで、お願いするなら透山だなと。
──曲にまつわるストーリーのお話もされたんですか?
Shin:いや、曲のストーリーとかは話していなかったんですけど、サビの歌詞が結構わかりやすくキツい感じではあるので(笑)。そこから広げてもらえたらなと思っていました。
──Seannさんは「You Took Everything From Me」を聴いたときにどんな印象を受けましたか?
Seann:Shinさんも話していたけど、めちゃわかりやすいテーマだと思いました。そういう経験は僕もあったので、歌詞やメロディも絶対にできると思いました。
──今回のアレンジは、原曲よりもBPMをあげていますよね。
Seann:リミックスということだったので、それならば(原曲と)より違う感じになったら、もっとリミックスっぽくなると思って。それでBPMをちょっと速くしてみました。あとは、曲を聴きながら、いろんなアイデアをレコーディングして、このパートが好きだなと選んでいく感じでしたね。
────ちなみに、Shinさんがファンになったという「Hate you」は、どういうところから生まれた曲なんですか?
Seann:ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)、元カノに浮気されたんですよ。それがめちゃずるいと思ったし、つらすぎたので、曲を作ったらちょっと気持ちが治るんじゃないかなと思って、午前5時までラップトップでずっと作っていました。
──そういう経緯があったんですね。平野さんは、今回のお話が来たときに、どういうものにしようかすぐ見えました?
平野:いや、僕も何回も聴いて、どういうのを入れていこうかなとか、ここはない方がいいかなとか考えるタイプなので、パっとここはこれ!っていうのがないタイプですね。
──かなり吟味して長考されるタイプ。
平野:そうではあると思います。最初にリクエストもなかったので、まずはとりあえずダーっと吹いてみて、どうしますかね?という感じでしたね。
Shin:自分が最初にこうしてほしいと言わないタイプなんですよ。20代の頃は結構細かく指示を出していたんですけど、30代後半ぐらいから変わってきました。むしろ指示をしてしまうと、その人の可能性がなくなってしまうし、自分がひょっとしたら見えていない部分もあるじゃないかなと思うようになったので。だから、基本的には何も伝えずに、とにかく好きなようにやってもらって、もしそれが合わなかったら、これはカットしてもいい?って聞くことが多いです。
──お2人が加わったものを聴いてみていかがでした?
Shin:びっくりしましたね。特にSeannがテンポを変えてきたことに(笑)。
Seann:ははははは(笑)。
Shin:最初は聴き慣れていなかったから驚いたんですけど、聴いていくうちに馴染むというよりは、これはむしろ新しい曲だなと思えたところがいいなと思いました。尺八も、透山がいつも吹いている感じはわかっていたんですけど、音色もよくて、期待以上にいいものになったなと思います。
「もっと尺八っぽく」とか「もっと日本っぽく」と求められることもありますね
──ソロ楽曲にはこれまで和楽器を入れていなかったけれども、やはりShinさんにとって、和楽器は自身の音楽を表現するにあたって重要な要素のひとつでもあります?
Shin:そうですね。そう思いました。和楽器なしでやっていても問題ないんでしょうけど、やっぱり自分が海外で生まれ育って、見た目は日本人で生きてきたときに、自分の中に日本の血が入っていることに誇りもありましたし、音楽としては洋楽のテイストではあるけど、そこに和を入れることによって自分のアイデンティティみたいなものを表現できるなとは思いましたね。
──Seannさんは、今年発表された『Phantom of Dogenzaka』に収録されている「Nonde」では、三味線を使われていますよね。和楽器に興味はあるんですか?
Seann:はい。あのアルバムは、日本に感謝を伝えたいなと思って作りました。「Nonde」は、昔、みんなでバーで飲んでいるあの感じをどうすれば作れるかなと思って、YouTubeで和太鼓とか三味線の音を切って、お祭りの感じの曲を作ろうと思ってました。
──和楽器自体にはどんなイメージがあります?
Seann:やっぱり日本を感じますね。美しいし、エナジーもあって、すごくいいバランスだと思います。
──平野さんも、カザフスタンの方とコラボレーションされたり、国外の方とご一緒される機会も多いと思うんですが、日本の楽器って独特だなと思うところはありますか?
平野:そうですね。その国それぞれの楽器がいろいろあって、カラーみたいなものがその国ごとにありますけど、日本も日本でそういう部分はあると思いますね。
──そういう部分を海外の方から求められることもあります?
平野:あります。僕は尺八っぽく吹くときもありますけど、そうじゃない感じというか、わりと綺麗に吹くことも多かったりするので、「もっと尺八っぽく」とか「もっと日本っぽく」と求められることもありますね。その「もっと」っていうのがよくわからなかったりもするんですけど(笑)。
Shin:はははははは(笑)。
──海外の方々からすると、よりわかりやすい尺八の音を欲しくなるというか。
平野:そうですね。尺八1本にしても、演奏する人ごとにそれぞれ音色も違うので、そこもあると思うんですけどね。
──いまはYouTubeやサブスクリプションサービスもあって、日本と国外の壁がよりフラットになってきていて、世界へ発信することを意識されている方も増えていると思うんですが、その中で和楽器を取り入れることはすごく効果的だと思っているんですけど、Shinさんとしては、その点に関してはどう思われますか?
Shin:海外で活動してきて思ったのが、やっぱり同じメタルで戦ってもなかなか勝つのが難しいし、歌唱力がすごい人たちもたくさんいて。そこで何かひとつ個性をとなったときに、自分の場合はそれが和楽器だったんですよね。だから、たぶん海外でやるときは、ただたんに洋楽の真似をするのではなく、自分達の国のものを表現できるといいなと思いますけどね。やっぱり日本には素晴らしい文化があると思いますし、たぶんそこに日本人が一番気づいていないんじゃないかなということに、日本に来て思いましたし。そこはちょっともったいないなって思います。
──尺八もそうですし、和楽器と洋楽器って相性いいですよね。
平野:そうですね。だから、やっぱり可能性はすごく大きいと思いますよ。和楽器界隈でも、自分のやっている芸事とか、伝統的なものだけをやるわけでなく、いろいろな新しいものを踏まえて、自分なりの表現で発信されている方もいっぱいいらっしゃるので。そこだけに囚われずに、いろんなものと馴染めるんじゃないかなと思います。
──Seannさんとしては、最近の日本の音楽であり、音楽シーンみたいなものにどういう印象を持っていますか?
Seann:やっぱり進化しているイメージがありますね。最近はK-POPが世界で人気になったことで、日本も世界で戦えるようになっているんじゃないかなと思います。いまはみんなグローバルにやっていけるじゃないかというのを見出していると思うので、この5年ぐらいで状況も変わってくるんじゃないかなと思いますね。
──日本というよりは、アジアとして見たときにチャンスがあるかもしれないと。
Shin:僕もやっぱりK-POPはすごいなと思っていて。僕が向こうに住んでいた頃って、アジア人男性って、どちらかというとダサい部類だったんですよ。僕が生まれ育った時代って、日本の企業もアメリカに入っていない頃だったので、あまり日本人を見ることもなかったし、いまでこそお寿司も当たり前になっているけど、「お寿司」という単語すら知らない人もいっぱいいて。そういう状況だったのが、ここ最近、K-POPのおかげでアジア人男性がモテるようになったことって、僕からすると本当にすごいことなんですよ。
──ものすごい変化ですよね。
Shin:なので、どのジャンルもそうですけど、日本でとか、そういうことではなく、別にいろんな国でやればいいと思うんですよね。音楽も簡単に届けられるようになったんだから、わざわざ日本限定にする必要もないし、そうやって壁をわざわざ作る必要もないんじゃないかなって。逆に、海外でリリースしたら、その国にツアーしに行ったついでに遊べるし(笑)。
──ははははは(笑)。確かに。
Shin:単純にそういう感じでいいんじゃないかなと思いますけどね。たとえば、日本で何かつらいことがあって落ち込んでいても、海外に行くと気持ちも晴れますし。別にそんなに大変なことじゃないんだな、自分がいるところってすごくちっぽけなんだなって思いますしね。
──今回の曲を始まりとして、またコラボしたいなと思います?
Shin:またやりたいですね。手応えもありましたし、僕がこの曲のファンになってしまったので(笑)。
──Seannさんは、それこそ昔、音楽を聴いていた人とコラボしてみていかがでした?
Seann:ものすごく楽しみながらできました!
Shin:逆に、自分が音楽やってきてよかったなって思いましたね。昔、海外でやっていたときは、グラミー賞にノミネートされることが目標だったし、夢だったんですよ。いまもそこは諦めたわけじゃないんだけど、そういう気持ちで作った自分の楽曲を聴いていた次の世代の人達が、実際にグラミーにノミネートされるレベルになっていることに、ものすごく感慨深いものがあって。それは本当にすごく嬉しかったし、自分がやってきたことは間違っていなかったんだなと思えましたね。それに、次の世代のためにも、いい背中を見せていかなきゃなって。僕は息子がいますけど、やっぱりいい加減なことをしていたらいけないなと思うし、こうやって自分の気づいていないところで、誰かが影響を受けて、大きなものを得ることもあるので。だからもう、本当に感謝しかないですよ。
Seann:こちらこそ!
──お2人もまたコラボしたいですか?
Seann:もちろん! いつでも!
平野:そうですね。いまは状況が状況なので、まだ生で3人でやったことがないんですよ。これから(世の中が)回復していったら、そういうこともやれたらいいなと思いますね。
取材・文=山口哲生
◆作品に寄せたコメント
Shinさんの心地よい優しい歌声の中には、芯のある熱いパッションの様なモノを感じる。歌詞に込められた強い意思や葛藤と、その優しい歌声が相まって胸がギュッとなる一曲。
声質異なる2人のTwin vocalsが何よりも魅力的で、「シンプルな構成で短い曲」という今の流行りをしっかりと捉えた、とても聴きやすい曲。
ただ外タレ感強すぎて日本からリリースされる曲とは思えない(笑)
粋で色気ある音に
苦しくなる歌詞が
脳に刺さって離れない
この歌には
切なさと刹那が乱舞している