今 “アツい” アーティストの一人、バンクシーの作品を日本で楽しむ! バンクシーの世界をたっぷり楽しめる3つの展覧会
『バンクシー展 天才か反逆者か』エントランス
2022年も興味をそそる展覧会が目白押しだが、現在、各地で複数のバンクシーの展示が開催されていることをご存知だろうか。ブラックユーモアあふれるグラフィティと話題をさらう活動により、匿名ながら超有名なアーティスト・バンクシーが今まさに日本で “アツい” のだ。そんなバンクシーの作品世界を楽しめる3つの展覧会の魅力をそれぞれ紹介しよう。
数が多く、彩りも豊かなバンクシー作品に圧倒される
『バンクシー展 天才か反逆者か』<原宿>
現在、東京・原宿で開催されている『バンクシー展 天才か反逆者か』は、2018年からモスクワ、マドリード、香港、ニューヨーク、LA、日本各都市などを巡回し、300万人以上を動員してきた展覧会。オリジナル作品を含む70点以上ものバンクシー作品が集結しており、バンクシーの世界観を一挙に感じることのできる絶好の機会だ。
本展は、消費社会への批判が込められた「消費」、イギリスのEU離脱などをモチーフにした「政治」、グラフィティという表現にとって根源的な「抗議」などの章に分かれており、バンクシーの問題意識やテーマが分かるようになっている。
『バンクシー展 天才か反逆者か』会場風景。「政治」の章。
全国巡回中の本展の中でも、原宿の展示では、アンディ・ウォーホルが印刷メディアに氾濫するマリリン・モンローのイメージから引用した作品《マリリン・モンロー》と、《マリリン・モンロー》に触発されてバンクシーが制作した《ケイト・モス》を並べて見ることができる。またウォーホルの《キャンベルのスープ缶》と、ウォーホル作品からインスピレーションを得てバンクシーが制作した《スープ・カンズ》も同時に鑑賞可能だ。
『バンクシー展 天才か反逆者か』展示風景。左6作品がバンクシーの《ケイト・モス》、右の作品がウォーホルの《マリリン・モンロー サンデー・B・モーニング・エディション》。
バンクシーは、彼と同様にグラフィティ・ライターだったジャン=ミシェル・バスキアを敬愛しており、本展ではバスキアの《ジョウボーン・オブ・アン・アス》も展示されている。ウォーホルやバスキアの絵は、描かれてからかなりの時を経ているにもかかわらず、今見てもキャッチーで洗練されており、彼らの作品の “かっこよさ” がバンクシーに脈々と受け継がれていることが実感できる。
『バンクシー展 天才か反逆者か』展示風景。左より:アンディ・ウォーホル《キャンベルのスープ缶 トマト・スープ サンデー・B・モーニング・エディション》、バンクシー《スープ・カンス》、ジャン=ミシェル・バスキア《ジョウボーン・オブ・アン・アス》
また原宿展では、警察のヘルメットにディスコのミラーボールのようにきらめく鏡を装飾した《メット・ボール》や、パレスチナのベツレヘムで制作された壁画が有名な、火炎瓶ではなく花束を投げようとしている抗議参加者を描いた《スロウワー》(《ラブ・イズ・イン・ジ・エア》または《花束を投げる暴徒》とも称される)の金色の額縁に入った三部作版も堪能できる。
『バンクシー展 天才か反逆者か』展示風景。《スロウワー》三部作版。
バンクシーが企画し、ダミアン・ハーストなどの名だたるアーティストも参加した数日間限定のダークな雰囲気のテーマパーク『ディズマランド』の映像や、ブリストル・ミュージアムで開催されたバンクシーの展覧会のポスター、バンクシーがベツレヘムに開業した『世界一眺めの悪いホテル』関連の立体作品など、展示内容が多彩で幅広く知識を得られるのも本展のポイントだ。
たくさんのバンクシー作品が集結し、圧倒的な迫力を放つ『バンクシー展 天才か反逆者か』は、2022年3月8日(木)まで東京・原宿にて開催中。その後は北海道に巡回し、2022年3月24日(木)から5月31日(火)まで、札幌の東1丁目劇場(旧北海道四季劇場)にて開催予定。
会場の空気を楽しみながら、バンクシーの世界にどっぷり没入できる
『バンクシーって誰?展』<名古屋>
会場に足を踏み入れると、ロンドンやニューヨークなど海外の街並みが広がる『バンクシーって誰?展』。現在名古屋で開催中の本展は、テレビ局の美術チームによる、映画のセットのようにリアルな展示空間が特徴。現実世界でバンクシー作品が描かれた “ストリート” が会場に再現されているのだ。
『バンクシーって誰?展』会場風景(東京の様子)。ロンドンの街角に描かれた《London doesn't work/I love London Robbo》の再現展示。
展示空間には、ロンドンのウォータールー駅付近のトンネルやニューヨークのアッパーウエストサイドの建物、パレスチナのベツレヘム市街の壁などがあり、アート鑑賞のみならず、バンクシーの足跡を辿る世界旅行に参加しているような気持ちになれる。昨今は海外への移動も難しく、またバンクシー作品は訪問が難しい場所にあることも多い(もしくは既に消去されてしまっているのも多い)ため、作品が置かれた状況を展覧会で体感できるのはとても贅沢で貴重な機会といえる。
『バンクシーって誰?展』会場風景(東京の様子)。ガザ地区北部のベイトハヌーンの壁画《Giant Kitten》の再現展示。
この会場でバンクシー作品の再現を見ていると、グラフィティの特性である「生きたアートであり描かれた街の中で輝く」という点がとりわけ強く実感できる。また、薄暗いトンネルや、人通りが多い市街地などでどうやって描いたのだろう……、などと想像が膨らむので、半ば神格化されたアーティストであるバンクシーが、街にいるリアルな存在として身近に感じられる。
『バンクシーって誰?展』会場風景(東京の様子)。ロンドンのウォータールー駅付近のトンネルにあった《Whitewashing Lascaux(The Cans Festival)》の再現展示。
よく目にするバンクシーの絵とは一味違うオリジナル作品があるのも本展の魅力の一つ。無名画家の風景画に、ロンドンの渋滞緩和を目的とした道路課金の対象となる区域「コンジェスチョン・チャージ」の標識をバンクシーが描き加えた《Congestion Charge》や、元はロンドンのウォータールー橋のたもとの階段に描かれたグラフィティ。平和や希望の象徴として名高い《Girl with Balloon(風船と少女)》の珍しい2枚組の作品など、バラエティに富んだバンクシー作品を鑑賞できる。
左より:《Girl With Balloon (diptych)》(2006)、《Girl With Balloon》(2004)(東京の様子)
会場に入った瞬間にテンションが上がり、バンクシーの世界にどっぷり没入できる『バンクシーって誰?展』。東京展は閉幕してしまったが、現在はグローバルゲート ガレージ名古屋にて開催(2022年3月27日(日)まで)しており、その後は大阪、福島、富山、福岡に巡回を予定している。
ダイナミックな映像の後に、珠玉のバンクシー作品が登場
『Banksy Artworks from Masatoshi Kumagai Collection(バンクシー展)』<渋谷>
最後に紹介するのは、東京の渋谷にある「世界一小さな美術館@GMOデジタル・ハチ公」の『Banksy Artworks from Masatoshi Kumagai Collection(バンクシー展)』だ。2021年9月5日(日)にオープンした本美術館は、まず展示方法がユニーク。最初にバンクシーや展示作品に関して映像で10分間紹介し、その後で実物の作品を展示する流れになっている。
『バンクシー展』会場風景。三面スクリーンの映像でバンクシーの世界に没入。 正面スクリーン右下にはバンクシーらしき人物が……。
三面のスクリーンに映し出された映像とライブ感あふれる音でバンクシーの世界にどっぷりと浸かり、期待値が最高になったタイミングで絵が登場! 現在は3点のバンクシー作品を公開しているが、どれも素晴らしいものばかりなのだ。
『バンクシー展』会場風景。映像が終わると正面のスクリーンの幕が上がり、満を持して作品が登場。
少女が爆弾を抱える《Bomb Love》にレーダーマークが加わった《Bomb Love Over Radar》は、バンクシーから前所有者(世界的に著名なミュージシャン)に直接プレゼントされたという貴重な一点もの。キャンバス側面には「BANKSY」と特徴的なサインが記されており、しかも裏面には前所有者に宛てた直筆メッセージが記載されているのだ。残念ながら展示では裏面を実際に見ることはできないが、冒頭の映像では確認することができるので、ぜひそこにも注目してほしい。
本美術館オープン時から展示している《Girl with Balloon》は、関係者に販売する時のみ入れられるハートマークつきのサインがなされた希少なもの。本作はサザビーズでのシュレッダー事件(オークションで落札されると、額縁に仕込まれていたシュレッダーに切り刻まれてしまったこと)も記憶に新しいが、今回はそのときの額装を忠実に再現しているというから手が込んでいる。
そして1月から新しく加わった《Love Is In The Air》(《花束を投げる暴徒》、または《スロウワー》とも称される)は、有名なベツレヘムの壁画よりも古いもので、花束を投げるテロリストのモチーフの起源となる最初期の作品とのこと。木の板にスプレーペイントされた本作は世界に一つしかない貴重な作品だ。全体的な銀の色調と額縁の銀色が非常にマッチしている。
『バンクシー展』会場風景。左より:《Bomb Love》、《Girl with Balloon》、《Love Is In The Air》。
最新のテクノロジーを駆使した映像を堪能した後、バンクシーの唯一無二の名品を鑑賞できる「世界一小さな美術館@GMOデジタル・ハチ公」の『バンクシー展』。映像を含めた鑑賞時間が20分の入れ替え制で、料金も300円と手軽なのもうれしい。また、来場者には作品に登場する赤いハートの風船とオリジナルステッカーのプレゼントも。鑑賞の余韻を頼みながら帰ってもらいたいとのことだ。たった3点、されど3点。バンクシーを知る入門として鑑賞してもいいし、ここでしか出会えないまさに “一点もの” の作品はそれだけで見応えバツグンだ。
「世界一小さな美術館@GMOデジタル・ハチ公」の外観(写真=オフィシャル提供)
圧倒的な作品点数の多さやリアルな再現空間、映像による没入感など、今回紹介したバンクシーの展覧会はそれぞれに見どころがある。《ガール・ウィズ・バルーン》(《風船と少女》)や《ラブ・イズ・イン・ジ・エア》(《花束を投げる暴徒》、または《スロウワー》とも称される)など、すべての展覧会に共通して展示されている名作も、実は三部作だったり板に描かれていたりと素材や背景などが異なっており、それぞれの展覧会に共通する作品で新しい発見をするのも楽しい。
世界でも注目されているアーティストの一人、バンクシーの作品が日本で鑑賞できるこの機会。ぜひ各展覧会の見どころに注目しながら足を運んでみては。
文・写真=中野昭子
展覧会情報
<原宿開催中>
展覧会情報
会場:グローバルゲート ガレージ名古屋
住所:愛知県名古屋市中村区平池町4丁目60−12
時間:10:00~18:00(金・土は20:00まで)
※最終入場は閉館時間の30分前まで。
展覧会情報
会場:世界一小さな美術館@GMOデジタル・ハチ公
開演時間:11:00~20:00(最終入館時間19:40)
※ 1公演時間 20分(途中入退館不可)
注意事項等:
※ ご指定時間の5分前までにご来場ください。
※ 開館時間・休館日は変更になる場合があります。フクラスホームページ等で確認の上ご利用ください。