ロイヤル・バレエのアクリ瑠嘉に聞く~『くるみ割り人形』で英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンが2年ぶりに再開
アクリ瑠嘉 Luca Acri (c) Johan Persson
英国ロイヤル・オペラ・ハウスのバレエ&オペラの公演を映画館で満喫できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」が約2年ぶりに再開する。2022年2月18日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開されるロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』(2021年12月9日収録)は、巨匠ピーター・ライトが手がけた名プロダクションとして親しまれている。クリスマス・イヴを舞台にした心温まるファンタジーで大活躍するハンス・ピーター/くるみ割り人形の二役を務めたアクリ瑠嘉に、収録舞台の模様や近況、今後の目標を聞いた。
■「物語に入り込むことで、お客様ともつながれる」
――2020年4月以降、コロナ禍のためロイヤル・オペラ・ハウスはしばらく閉鎖されました。2020年秋から再開し、今シーズンも公演を進めていますが、日々どのような心境ですか?
舞台に立って踊ることができる幸せを毎回感じています。2020年に公演を再開した時、コロナ禍でできる作品を集めた舞台をしたのですが、それも一度キャンセルになり、公演をやったりやらなかったりでした。今シーズンもオミクロン株が流行って中止になった公演もありました。なので、劇場が閉まるのはこれで最後だと思いたいですね。お客様にも観ていただきたいですし、僕らもリハーサルをがんばっているので、続けて公演をどんどんしていきたいという心境です。
『くるみ割り人形』 (c) 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton
――2021年12月、ピーター・ライト版『くるみ割り人形』のハンス・ピーター/くるみ割り人形を踊って映画館でも上映の運びとなりましたが、すでに昨シーズンの段階でクララ役のイザベラ・ガスパリーニさんと一緒にキャスティングされていましたね。感染拡大を受けて一度は中止になりましたが、1年越しで実現しました。その時の思いは?
映画になることはプレッシャーではありますが、がんばろう!という気持ちにもなります。去年キャンセルになった直後、(芸術監督の)ケヴィン(・オヘア)は「来年上演することになったら、その時も2人にやってもらうから!」といってくれました。今年もイザベラと2人でがんばって練習しました。でも今年も公演直前にコロナが流行り始めました。だから、くるみ割り人形とねずみたちが戦うシーンは元々のプロダクションではロイヤル・バレエスクールの生徒たちと一緒に踊るのですが、急きょカンパニーのダンサーたちが踊ることになりました。
イザベラ・ガスパリ―ニ&アクリ瑠嘉 (c) 2020 ROH. Photograph by Emma Kauldhar
――ガスパリーニさんはブラジル出身で、アクリさんと同じロイヤル・バレエスクール出身の同世代です。彼女はどのようなダンサーですか?
イザベラは素晴らしいダンサーです。テクニカルな面でもやり易いのですが「2人で踊っている」ということを感じさせてくれます。僕を目で見てくれるので、一緒に踊っていていつも落ち着きますし楽しく踊ることができます。ダンサーである以上にアーティストとして尊敬しています。
イザベラ・ガスパリーニ (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou
――ハンス・ピーターは手品師で発明家であるドロッセルマイヤーの甥で、ねずみの王様に魔法をかけられ、くるみ割り人形にされています。クララの手助けで魔法が溶けると、2人は雪の王国へ旅立ち、そこからお菓子の国へ向かいます。どういったことを感じながら演じていますか?
僕たちは物語を旅していろいろなところに出かけます。ただ踊るだけでなく、1人の人間として物語を伝えることができるんです。僕はハンス・ピーターに、イザベラはクララになりきって物語の中に入り込んでパフォーマンスができたと思います。『くるみ割り人形』の主役は(お菓子の国でグラン・パ・ド・ドゥを踊る)金平糖の精と王子ですが、物語を最初から最後まで創っていくのは僕たちです。物語に入り込めると、お客様ともつながれるので楽しいですね。
――ラストが単に「夢から覚めて終わり」というのではなく感動的です。
スペシャルな時間ですね。お菓子の王国へ行って戻ってきますが、夢だったのか夢じゃなかったのか、分かるようで分からないところがおもしろいです。お客様からしても、最初から最後までマジックだと思われるでしょう!
アクリ瑠嘉&イザベラ・ガスパリ―ニ (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou
■120%の力を! カンパニーが引き締まるライブ収録
――20か国732の劇場で上映されます。ライブヴューイングの舞台はやはり緊張しますか?
緊張します。ライブシネマでいろいろな国の方に観てもらえるのはバレエを広める意味でも良いことです。しかし、動画に残るとなると、一番よいところを見せたいので、カンパニーの引き締まり方が違います。普段も100%の力を出していますが、120%になるくらい皆がんばります。
『くるみ割り人形』 (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou
――緊張をほぐすためにやることはありますか?
僕は呼吸に集中します。いつも通り鼻から吸って口で吐いてというふうにして呼吸を落ち着かせています。あとは考えてもどうしようもないから楽しんでいこう!と気持ちを切り替えます。ライブシネマだったら1回限りだと思ってしまいますが、普段から毎回そういう舞台をやっていると自分に言い聞かせて楽しんだほうが、お客様にも楽しんでもらえると考えています。
クリストファー・サウンダーズ (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou
――収録日の金平糖の精を高田茜さんが踊る予定でしたが、怪我のためヤスミン・ナグディさんに代わり、彼女が王子のセザール・コラレスさんと踊りました。こうしたアクシデントがあってもカンパニーが一致団結して乗り越えますね。2020年1月、『眠れる森の美女』の収録日に主演予定のダンサーが当日降板して代わりに金子扶生さんがオーロラ姫を踊って喝采を浴びましたが、その時もそういった印象を受けました。
それはありますね。バレエはスポーツと同じくらいフィジカルなので、ダンサーに怪我は付き物です。だからカンパニーのメンバーは、どのようなシナリオになっても舞台を続けていけるという準備ができていると思います。そこがロイヤル・バレエの凄いところですね。
ヤスミン・ナグディ&セザール・コラレス (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou
■「今後もどんどんいろいろな挑戦をしていきたい」
――ロイヤル・バレエに入られてまもなく10年です。キャリアを振り返っての思いと、今後どのように踊っていきたいのかという展望をお聞かせください。
古典から新作まで踊ることができて本当に幸せです。『ラ・フィユ・マル・ガルデ』のアランや『真夏の夜の夢』のパックのようにキャラクター役の演技も楽しいです。『ダンテ・プロジェクト』を始めとするウェイン・マクレガー(ロイヤル・バレエ常任振付家)の作品などでクリエイティヴになれるのも楽しいですね。世界各国に素晴らしいコレオグラファーがいます。ケヴィンが芸術監督として素晴らしいのは、ロイヤル・バレエにさまざまなものを取り込んでいること。いま一番いい時期だと思います。今後もどんどんいろいろな挑戦をしていくのが夢です。
――たとえばどんなことですか?
最近クリスタル・パイト(カナダの著名振付家)の作品をやるのですが、クリスタルは尊敬するコレオグラファーの1人です。毎回彼女の作品から学ぶことが多いので、今後も続けていきたいですね。それから主役もやりたいです。古典全幕では『コッペリア』のフランツをやりましたが、物語を引っ張っていける役をやりたいですね。王子もできたらいいんですけれど(笑)。
アクリ瑠嘉 (c) 2021 ROH. Photograph by Foteini Christofilopoulou
――英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンは約2年ぶりの再開です。日本のお客様にメッセージをお願いします。
僕らも2年間ため込んできた気持ちを皆様に伝わるくらい出せたと思うので、ぜひ映画館でご覧いただきたいですね。日本のオーディエンスは本当に良くしてくださり、団員皆が「一番好きな海外ツアー先は日本!」というくらいロイヤル・バレエにとって大切なお客様です。良いダンサーがいて、日本人もがんばっています。応援していただけれるとうれしいです!
【動画】Watch The Royal Ballet's The Nutcracker in cinemas from 9 December 2021 (Trailer)
取材・文=高橋森彦
上映情報
ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』
2022年2月18日(金)よりTOHO シネマズ 日本橋 ほか全国公開
手品師で発明家のドロッセルマイヤーは、王室でねずみをやっつける罠を発明したが、ねずみの女王は復讐のために彼の甥ハンス・ピーターに呪いをかけ、くるみ割り人形の姿に変えてしまった。呪いを解くためには、くるみ割り人形がねずみの王様を倒し、そして外見に関わらず彼を愛してくれる娘が現れなければならない。
シュタルバウム家のクリスマス・パーティに招かれたドロッセルマイヤーは、この家の娘クララにくるみ割り人形を贈る。夜中に目覚めたクララは、ドロッセルマイヤーによって魔法の世界に招かれ、ねずみの王様とおもちゃの兵隊たちの戦いを目撃する。クララの助けによりねずみの王様が倒され、くるみ割り人形の魔法が解かれてハンス・ピーターの姿に戻る。クララとハンス・ピーターは雪の王国へと旅し、さらにドロッセルマイヤーに導かれてお菓子の国へ行き、金平糖の精や王子に出会う。クララの勇敢さによって救われたとハンス・ピーターは金平糖の精に伝え、ドロッセルマイヤーはお礼として美しく賑やかな祝宴を二人に贈る。夢から醒めたクララは外に出ると、見覚えのある若者とすれ違う。そしてドロッセルマイヤーの部屋に、ハンス・ピーターが元の姿で帰ってきた。
【原振付】レフ・イワノフ
【1幕戦闘シーンの振付】ウィル・タケット
【美術】ジュリア・トレヴェリャン・オーマン
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【原台本】マリウス・プティパ(「くるみ割り人形とねずみの王様」E.T.A.ホフマンに基づく)
【プロダクションとシナリオ】ピーター・ライト
【ステージング】クリストファー・カー ギャリー・エイヴィス サマンサ・レイン
【指揮】クン・ケセルス
【出演】
ドロッセルマイヤー:クリストファー・サウンダーズ
クララ:イザベラ・ガスパリーニ
ハンス・ピーター/くるみ割り人形:アクリ瑠嘉
金平糖の精:ヤスミン・ナグディ
王子:セザール・コラレス
シュタルバウム博士:ギャリー・エイヴィス
クララのパートナー:スタニスラウ・ヴェグリジン
キャプテン:トーマス・モック アルルカン:ケヴィン・エマートン
コロンビーヌ:シャルロット・トンキンソン
兵士:ベンジャミン・エラ ヴィヴァンデール:佐々木万璃子
ねずみの王様:ルーカス・ビヨルンボー・ブレンズロッド
スペイン:ナディア・ムロバ・バーレー、アイダン・オブライエン、シャーロット・トンキンソン、ジャコモ・ロヴェロ
ジーナ・ストーム・ジャンセン、ケヴィン・エマートン
アラビア:メリッサ・ハミルトン、ルーカス・ビヨルンボー・ブレンズロッド
中国:レオ・ディクソン、カルヴィン・リチャードソン
ロシア:ジュンヒュク・ジュン、ハリソン・リー
葦笛:ミカ・ブラッドベリ、カトリーナ・ニケルスキ
ロマニー・パイダク、アメリア・タウンゼンド
ローズ・フェアリー(薔薇の精):崔由姫
ローズ・フェアリーのエスコート:ジョセフ・オーメア、デヴィッド・ドネリー、フランシスコ・セラノ、ジョセフ・シセンズ
花のワルツのソリスト:オリヴィア・カウリー、レティシア・ディアス、ハンナ・グレンネル、イザベル・ルーバッハ
天使と子供たち:ロイヤル・バレエ・スクールの生徒たち
宮城フォーラム仙台2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
東京TOHOシネマズ日本橋2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
東京イオンシネマ シアタス調布2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
東京TOHOシネマズ流山おおたかの森2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
神奈川TOHOシネマズららぽーと横浜2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
愛知ミッドランドスクエアシネマ2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
京都イオンシネマ京都桂川2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
大阪大阪ステーションシティシネマ2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
兵庫TOHOシネマズ西宮OS2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
福岡中洲大洋映画劇場2022/2/18(金)~2022/2/24(木)
■詳細情報:https//www.tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=nutcracker2021
■配給:東宝東和
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/