さいたま芸術劇場、新芸術監督・近藤良平が就任会見 「クロッシング」をテーマに4月からのラインナップも発表
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2022年2月14日(月)、4月から彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任する近藤良平が就任記者会見とシーズンラインナップの発表会を行った。近藤は「クロッシング(CROSSING/交流・交差)」をテーマとして掲げると発表。劇場文化を通して複数ジャンルの融合や人々、地域やオンラインを通じたネットワークといった様々な「交流」を目指しながら芸術表現の可能性を模索していくとともに、劇場のテーマ「Art for Life(全ての人生に芸術を)」共々、劇場文化がより身近に感じられるような活動を目指していく。また2022年10月から始まる、大規模改修による劇場閉鎖の間、「埼玉回遊」として、近藤を含め、アーティストが県内各地を巡りながら地域文化の発掘や交流を図るキャラバン企画を実施していく考えだ。近藤の会見の様子をレポートする。(文章中敬称略)
近藤良平
■新カテゴリー「クロッシング」を設定。就任1作目は近藤 with 長塚圭史による『新世界』を上演
さいたま芸術劇場のあるJR与野本町駅から交差点を抜け、劇場までの道のりを軽快なステップとともに踊りながら進む、近藤のショート映像で幕を開けた記者会見。登壇した近藤は「先人が残してくれた素晴らしい記憶と作品を受け止めつつ、新たな作品も発信していきたい」と述べ、さらに「僕自身はダンスが専門。ダンスが社会を変えていく力と日々向き合いながら暮らしており、またそのダンスの力を利用して、新しい芸術文化を提供したい」と挨拶した。
そのうえで近藤は自身が掲げるテーマ「クロッシング」について、「この言葉には『様々なジャンルのアーティスト同士によるクロス』『劇場を通じて様々な人々がクロスすること』『地域や地域間のクロス』という、3つの意味が込められている」と説明。とくにクロッシングによる創造・創作の面については「一過性的な、またどことなく対立(VS)的な意味合いのある"コラボレーション"とは違い、様々なジャンル同士が真剣に向かい合い、クロスし始めることで生み出される、新たな表現を求めて作品の創造を目指していきたい」と語った。
オープニング映像
新シーズンのラインナップにも、従来の「演劇」「舞踊」「音楽」に加え、「クロッシング」という新たなカテゴリーを設定し、就任後の第1作となる演目として「ジャンル・クロスI 近藤良平 with 長塚圭史『新世界』」(4月29日(金)~5月1日(日))を上演する予定だ。
『新世界』について近藤は「就任後初の上演作品であり、長塚さんには演出補・出演をお願いしている。そのほかサーカスの方々や、ダンサー、役者(芝居)、ミュージシャンなど様々な人材を集めて、一つの作品を創り上げていきたい。ストーリーをそのまま描くことはしないが、シェイクスピアの『テンペスト』を一つのキーワードにしており、音楽も生演奏。心に響く作品にしていきたい」と語った。
また舞踊の新たなラインナップとしては6月にさいたま芸術劇場15回目の公演となる「コンドルズ埼玉公演2022新作『Starting Over』」を実施。さいたまダンス・ラボラトリ企画や、「地域とのクロッシング」というテーマのもと、オープンシアター「ダンスのある星に生まれて2022」も継続していく。また近藤はこれまでも障がい者によるダンスチーム「ハンドルズ」を展開してきたが、さらに「さいたまゴールド・シアター」「さいたまネクスト・シアター」に続く構想として、子ども、若者、高齢者や外国人、有名無名にこだわらないダンスのグループ活動も計画しているという。
■シェイクスピア・シリーズ、バッハ・コレギウム・ジャパンやエトワール・シリーズも継続
演劇については「蜷川前監督のレガシー」として、シェイクスピア・シリーズを継続し、『ヘンリー八世』(9月16日(金)~25日(日))を再演する。故・蜷川幸雄前監督から芸術監督を引き継ぐにあたり、近藤は「蜷川さんはシェイクスピアをより深く知る機会をくれた。蜷川さんがこれまで行ってきたことを一つひとつ考えながら、紐解いていきたいと思っている」と語った。
音楽ではバッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートやピアノ・エトワール・シリーズを継続。また「この劇場の音楽ホールはとても素晴らしく、僕自身非常に気に入っているし、様々な可能性を秘めている。西洋の音楽や楽器、声楽などの魅力を、ジャンルを超えて楽しむ機会を作って行ければ」と、クロッシングに繋がる可能性も考えているようだ。
■キャラバン企画「埼玉回遊」で繋ぐ文化地図。埼玉の文化を築く楽しさを模索したい
近藤の芸術監督就任におけるもう一つの大きな企画は「埼玉回遊」だ。これはさいたま芸術劇場が大規模改修により閉館となる、2022年10月3日(月)~2024年2月29日(木)の間に計画されているもので、埼玉県内にある、または埋もれている文化を軸とした人や地域の交流がコンセプトとなっている。
近藤は自身が主宰するコンドルズやハンドルズの活動を通し、埼玉県と15年以上にわたる関係を築いてきており「僕自身、埼玉が非常に身近になり、この地をより深く知るべくリサーチも行っている。とはいえ” 地域とつながる”と言うことはたやすいが、実際にどうそれを形にしていくかということは簡単ではない、ということも十分承知している。またリサーチを通して、埼玉県内の各地域で様々な伝統文化などがあることもわかったが、それがどう(文化として生活や、地域の人々と)つながっているのかも、まだはっきりとはわからない」と近藤。それを理解し一つひとつをつなげ、作品として形にしていくには「人と出会い、一つひとつ扉を開いていくしかないが、そうして埼玉を巡り、地図をつなげていくことで見えてくるものがあるかもしれない。その中からこの劇場でフィードバックできるものがうまれてくればいいなと思っている」と思いの内を語る。
またこのキャラバンには近藤自身も「できるだけ参加したいし、自分の目で確かめたいこともある。何より僕自身が人を繋げる役割を担うべきだと考えている」と意欲をのぞかせる。また「キャラバンのオンライン配信も一つのアイデアとして考えていきたい。現在はオンラインも見せ方の一つとして重要なコンテンツとなっており、またスマホやパソコンなど、見せ方・見え方など研究する余地は多分にある」という。このほか県内にある劇場などとの協力も計画しているほか、様々な可能性を模索していく考えだ。
コロナ禍により、日本のみならず世界各地の劇場が一時は閉館を余儀なくされ、ようやく再開された今でも上演や集客に制限がかかり、予定通りの上演がままならない。「劇場が閉鎖されるという、考えられないようなことが起こったコロナ禍だが、しかし人々が行き交わないと劇場は存在しない。人々にとって劇場は財産であり、公演がある時だけでなく、ない時でも人々がそこを行き交うような、決して遠くなく、敷居の高い場所ではないということを感じてほしい。そのきっかけを与える場を提供していきたい」と語る近藤。新芸術監督が思い描く様々なアイデアや夢が今後どのような形として結実し、我々の前に現れ、どうクロッシングできるのか、今後も注目だ。
近藤良平
取材・文=西原朋未 撮影=宮川舞子
公演情報
4月29日(金・祝)~5月1日(日)
ジャンル・クロスI 近藤良平 with 長塚圭史『新世界』
5月12日(木)・13日(金)
【共催】 加藤訓子「META-XENAKIS~クセナキス生誕100年を祝う」
5月18日(水)
イレブン・クラシックスVol.5 大萩康司(ギター) & 江戸聖一郎(フルート)
6月4日(土)・ 5日(日)
コンドルズ埼玉公演2022新作『Starting Over』
6月30日(木)~7月3日(日)
ディミトリス・パパイオアヌー『TRANSVERSE ORIENTATION』
7月3日(日)
大塚直哉レクチャー・コンサート
バッハ“平均律”前夜 ~月明かりのもと書き写した楽譜たち~
7月8日(金)~10日(日)
【共催】 Noism × 鼓童『 鬼』
7月8日(金)~18日(月・祝)
ジャンル・クロスII 近藤良平×松井周『導かれるように間違う』
7月18日(月・祝)
ピアノ・エトワール・シリーズVol.44 三浦謙司ピアノ・リサイタル
7月26日(火)~8月7日(日)
さいたまダンス・ラボラトリ企画 Vol.6 ※集中ワークショップ(公開リハーサルあり)
7月30日(土)
ユナイテッド・ユーロ ブラス・クインテット
8月3日(水)~6日(土)
【共催】 ピアノデュオ ドゥオール デュオ・セミナー
8月20日(土)・ 21日(日)
オープンシアター「ダンスのある星に生まれて2022」
さいたまダンス・ラボラトリ企画
岡田利規×湯浅永麻
『わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド』
【共催】 マームとジプシー『cocoon』
9月16日(金)~25日(日)
彩の国シェイクスピア・シリーズ『ヘンリー八世』
9月17日(土)
ピアノ・エトワール・シリーズVol.45 松田華音ピアノ・リサイタル
9月30日(金)
クロノス・クァルテット『ブラック・エンジェルズ』
10月2日(日)/埼玉会館
NHK交響楽団公演
11月19日(土)・ 20日(日)/埼玉会館
マギー・マラン『MayB』
12月3日(土)/埼玉会館
バッハ・コレギウム・ジャパン
ベートーヴェン「第九」
2023年3月25日(土)・26日(日)/埼玉会館
日本昔ばなしのダンス