A夏目、10代最後に作り上げた1stアルバム『Carry Case』ーーピュアなイメージから脱却と進化、そしてラッパーとしてのプライドとは
A夏目 撮影=ハヤシマコ
未来への不安や希望、友情、純愛、家族……。クールなトラックを武器に、ティーン世代のリアルを歌う新世代ラッパー・A夏目が、1stアルバム『Carry Case』を2月16日(水)にリリースした。「ROOFTOP」のレーベルメイトであるRin音のZEPPツアー全公演へのゲスト参加や、恋愛リアリティショーへの参加でも注目を集める、熊本出身&在住の19歳のA夏目が10代最後の年に作り上げた同アルバム。自身のフロウや可能性を色鮮やかに詰め込むことを決意した、彼の「ラッパーのプライド」とは?
A夏目
純愛を歌った『東京の冬』と違う部分も見せたかった
ーー10代最後にリリースする1stアルバム『Carry Case』は、まずどんな作品を目指して制作をスタートしたんですか?
振り幅がある、いろんな曲があるアルバムにしたかったので、今までにない曲調や、今までテーマにしてなかった題材を詰め込んだものにしようと思ってました。今までに出してきた曲や、アルバムの先行でリリースしたEPも含めて、数曲はすでに出来てる状態だったので、それ以外の新曲をひとつひとつじっくり考えながら作りました。
ーー例えば、ラテン&ファンクなトラックが印象的な新曲「インディゴアイランド」は、まさに今までになかった曲調ですよね。
レゲエっぽいというか、ラテンファンクな感じのこのトラックが送られてきた時点で、これなら今までやったことのない曲が作れると思いましたね。
A夏目
ーーこの曲のラップのフロウはかなり歌的というか。こういう、いわゆるポップス的な「開けた」感じも表現したかった?
僕の感触としては、「開けた」という感触はなくて。自分が持ってるフロウとか可能性を詰め込んで出来ています。出来るだけそのバリエーションを多くするために、メロディも次々に変わっていく感じにしたくて。iPhoneのボイスレコーダーにどんどんアイディアを入れて、「これ使える。これも……」といった感じで、録ったものをはめていくやり方をしました。
ーー面白そうですね。
ただ、この曲は歌詞のテーマを考えるのがめちゃくちゃ難しかったですね。ストーリーではなく言葉遊びの世界なので、自分の中の標準的な言葉遊びのレベルを超えないといけないから、次に出す言葉がなかなか見つからなかったというか。聴いている人が楽しくなれるように、自分の中にある面白い言葉を次々にぶつけているので、もしかしたら歌詞は意味がよくわからないかもしれない(笑)。言葉遊び図鑑とか大全集みたいな感じて作ったので、聴いてくれる人には言い回しのバリエーションを楽しんでもらいたいですね。
A夏目
ーー確かに、ファンキーな音と共に次々とイメージが言葉と共に連発されていく……。A夏目くんの中にこんな色鮮やかなクレイジーさも潜んでいたんだな、と改めて驚きます。
ABEMAのオリジナル恋愛番組『恋する♥週末ホームステイ2020冬 Tokyo』(以下『恋ステ』)に参加して、制作した「東京の冬」で多くの人に知ってもらえて。それはめちゃくちゃ嬉しいことなんですけど、「そんな優等生じゃないよー」と思ってたんです(笑)。もし「東京の冬」の前に出した1st EP「この夜のこと」でたくさんの人に知ってもらってたら、きっとそんな風に思わなかったと思うんです。純愛を歌った「東京の冬」で知ってもらって、その後に「Stay true」を出して、一途でクリーンなイメージになっていったというか(笑)。それでラッパーのプライド……かどうかわかんないですけど……そんなんじゃないよという部分も見せたいと思ったんですよね、なぜか。
ーーもともとフリースタイルのMCバトルを見てラップを始めたわけですもんね。
8曲目の「舞吐」は、トラックメイカーのNaBTokさんと作ったんですけど、まさにダークめなところが出せて嬉しいんです。でも「舞吐」で書いてるリリックはブラックの裏返しというか。さほど悪いことをしてるわけじゃないのに悪ぶっている感じが、逆にいい子だね、そんなこと自慢するなんて、めっちゃフツーの人だよねというところが狙いです(笑)。実は、いわゆるヒップホップの人がよくやる、自分が犯した罪とかブラックな面を出して、自慢する文化を逆手に取った曲でもあるんです。
A夏目
ーーそういう感覚こそ、新世代ラッパーのリアルなのかもしれない。あと、今回は「ひとつだけ」という新曲の歌詞も曲調も衝撃でした。なんとなく親目線で聴いてたんですけど、<私は貴方の味方です/ここにいて欲しいからって>という最後のフレーズで思わずうるっと……。
ええっ!? 嬉しい! めちゃくちゃ嬉しい! 今いちばん嬉しい(笑)。この曲、歌詞の量が他とめちゃくちゃ違うじゃないですか。初めて自分が最初から最後までストーリーを描き切った実感がある曲なんですよ。他の曲は空想とか、現実には信じがたい部分もあり、それは書いてる自分自身がめちゃくちゃよくわかるんです。でもこの曲だけは一言一言ずっしりと書き切れたなぁという実感があるから、自分的にはいちばん好きな曲ですね。
ーー誰かに生きていてほしいと願うことは、究極の愛だと思うんですよね。そして、救いを求める人がいちばん聞きたい言葉というか。今回なぜそんな言葉を歌詞にしようと?
これは僕自身の実体験ではなく、動画で観たお話なんですけど、小さい子がお母さんに「なんでも券」というのを渡すんですね。
ーーお手伝い券とか、肩もみ券みたいな?
そうです。お母さんはそれを子供が高校生になるまで使わずに大事に財布にしまっていて。で、高校生になったその子がいじめに苦しんで、マンションの屋上から飛び降りようとした時にお母さんがその券を取り出して、「生きてほしい」と言うんです。その動画を観て、僕、初めて心が苦しくなるほどの衝撃を受けたんです。僕も親に肩もみ券とか作ってあげたことあるし……すっごい心に響いて、そこからこの曲を作ったんです。やっぱ最後の味方は、親だと思うんですよ。それを伝えられたらいいかなと。
A夏目
ーー今10代最後の年齢であるA夏目くんだからこそ、誰よりもリアリティを持って歌えるテーマかもしれないですね。しかも、この曲のトラックがリリックに反して明るいというギャップに救われる……。
最初、悲しいトラックだったんですよ。それをトラックメイカーのYuta Hashimotoさんが明るい曲にアレンジしてくれて。僕もこういう、ちょっと明るい曲調だけど悲しい歌詞を歌っている曲が好きなんです。悲しさが際立つというか、歌詞を読んだらいっそう好きになる。
ーー「夏に二つ」も学生時代の情景や将来を迷う気持ちが思い浮かぶナンバーですよね。ああ、髪染めたんだとか(笑)。
僕、高校生の時に紫っぽい色に髪を染めたんですよね。高校にバレて戻しましたけど、怒られましたね……なんかやりたかったんですよね(笑)。
常に進化したいと思っているし、まだまだ進化できると思う
A夏目
ーー今回のアルバムには、「Re:friend feat. キズナ」と「あの音 feat. もさを。」という、2曲のフィーチャリングナンバーも収録されていますよね。
僕はフィーチャリングが多ければ多いほどいいなと思っていて。ラップ/ヒップホップはフィーチャリングがすごく多いし、そういう曲をいっぱい聴いてきたので、誰かと作ると自分だけで作るより何倍も面白いんです。
ーー例えば、レーベルメイトであり、同じく熊本出身の同い年ラッパー、キズナさんとの共作作業はどんなふうに?
電話を繋げっぱなしで一斉にやったりしてました。歌詞の順番としては、僕が一番でキズナが二番なんですけど、このバースを今からせーので作ります、出来たら電話してくださいといった感じで、深夜から作り始めました。
A夏目
ーーまさに会話してる感覚で?
そうですね。キズナというアーティストは、歌詞が独特というか。ちょっと難しい言い回しをむちゃくちゃするんです。僕もかなり伝わりづらい歌詞の書き方をするので、そんな2人が共作したらごっちゃごちゃになるだろうなと。なので彼には、この曲は僕らの友達がテーマで、友達に伝えるみたいに、とことんわかりやすい歌詞にしてと言いました。とりあえずストレートに、遠回りだけはしないでくれと(笑)。友達の歌だし、そうじゃないと伝わらない気がしたから。だから、スタスタスタとかキラキラキラという言葉を使って、小さい頃に聴いた歌みたいな、親しみやすいイメージで作りました。
ーーそのディレクションのおかげで、同世代ならではの不安や夢、お互いに住んでる環境とか……聴き進めるうちにいろんなイメージが浮かんできました。MVにしても、普段2人はこんなふうにわちゃわちゃ話してるのかなという妄想が広がる(笑)。
友情をテーマに書いてるんですけど、僕らはリスナーの方にとって「他人」といえば他人じゃないですか。それでも共感してもらえるのかなと気になっていたので、そんなふうに言ってもらえて嬉しいです。ただMVと違って、普段は「そんなに近寄らんでくれ」みたいな感じですよ。めっちゃ仲良いんですけどね(笑)。
ーーいろんなタイプの曲が入っている1stアルバムのタイトルを『Carry Case』にした理由は?
『恋ステ』に参加したことをキッカケに知ってもらったり、お仕事で熊本県外に出る機会が多くなったことをイメージ出来るアルバム名にしようと思ってたんです。ジャケットのイラストは僕がiPadで描いたんですけど、それをもとに、実際のキャリーケースにもジャケットの絵を描きました。キャリーケースに描いた絵は全部アルバムの曲がモチーフなんです。
A夏目
ーーそんな11曲分の「今までやったことのないこと」がアルバムには詰まってると。
1st EPの頃からだいぶ印象が変わったと思うんですけど、常に進化したいと思ってるし、まだまだ進化できると思うんです。どんどん洗練というか、突き詰めていきたいですね。あと、最近はライブで楽しい曲を作ろうということを意識してます。最初のEPの頃はライブのことは考えてなかったんですけど、今回のアルバムは会場で歌ってるイメージを優先して作っていて、今もそうしています。曲としての良さ以上にライブでの雰囲気というか、オーディエンスの前でギター……は弾けないんですけど(笑)、大きめのハコのステージに自分が立って、後ろにオーケストラがいるのを想像してみると勇気が湧くんです。この曲、生音で会場でやったら結構盛り上がるだろうなと、想像して1人でテンション上がってますね。
ーーそれは去年、Rin音さんのZEPPツアーに参加した経験も影響してる?
それもありますし、最近、大きい会場でSEKAI NO OWARIさんとサカナクションさんを観た影響もあると思いますね。
ーーいつかやってみたい会場とかありますか?
僕、Mrs. GREENAPPLEさんが好きなんですけど、初めて買ったライブDVDが横浜アリーナ公演だったんです。なので横アリでやってみたいですね、一番。
ーー実現しましょう(笑)。まずは4月に初のワンマンツアー『A夏目 1st album「Carry Case」 RELEASE TOUR ~熊本県から来ました A夏目です~』が開催されます! 大阪公演はどんな意気込みで?
レーベルの先輩であるRin音さんもクボタカイさんも、大阪はすごく緊張すると言ってたんですけど、僕はまだ感じたことがなくて。ワンマンだと、「自分を観に来てくれるお客さん」を前にするわけだから、どんな感覚なのか楽しみです。
A夏目
取材・文=早川加奈子 撮影=ハヤシマコ
リリース情報
2022年2月16日(水)リリース
価格 : ¥2,500 品番 : XQMK-1004
レーベル : ROOFTOP
ツアー情報
「Carry Case」RELEASE TOUR ~熊本県から来ましたA夏目です~』
■2022年4月9日(土)@アメリカ村CLAPPER(大阪)OPEN 17:15/START18:00
■2022年4月10日(日)@Time Out café(東京)
昼公演:OPEN 14:15/START15:00
夜公演:OPEN 17:15/START18:00
<一般発売中>
※お1人様4枚まで購入可能 ※4才以上必要