劇団四季の新作ミュージカル『バケモノの子』稽古場取材レポート「胸の中の剣と向き合う」

レポート
舞台
2022.3.25
劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

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2022年4月30日(土)にJR東日本四季劇場[秋]で開幕する『バケモノの子』。劇団四季がスタジオ地図とタッグを組み、細田守監督の同名アニメーション映画を原作に製作するオリジナルミュージカルだ。

初日まで約5週間となった某日、四季芸術センター(横浜市)にて行われたメディア向けの公開稽古と取材会の模様をレポートしたい。

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

『恋におちたシェイクスピア』以来、四季での演出はこれが2作目となる青木豪氏。「では、始めさせてください」との柔らかな挨拶で稽古がスタート。この日公開されたのはオープニングの場面と1幕5場の様子。アニメーション版では母を不慮の事故で亡くした蓮(九太)が渋谷の街に飛び出すシーンから物語が始まるが、四季版では”渋天街”のバケモノたちに慕われ尊敬を集めるリーダー・宗師の引退宣言からストーリーが動くようだ。

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

華やかで明るい音楽が響く中、人間が住む地の奥にある”渋天街”で暮らすバケモノたちの様子が展開していく。このシーンでは、アンサンブルも含め25名程度の俳優の姿が見えた。

公開稽古で熊徹を演じたのは伊藤潤一郎。これまで『ライオンキング』のムファサや『ユタと不思議な仲間たち』のゴンゾなど、どっしりと構えた力強いキャラクターを多く担ってきた俳優である。荒くれ者で他者とのリレーションシップを取れない熊徹が人間の子・九太(=蓮)との生活でどう変化していくのか、伊藤のエネルギー溢れる演技から新たな熊徹像の片鱗が感じられた。

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

そんな熊徹と次の宗師の座を競うことになる猪王山。この日は芝清道が同役を担う。熊徹とは真逆で人望に溢れ弟子も多い彼のもとにはふたりの息子の姿も見える。劇団の屋台骨を長く背負ってきた芝ならではのしなやかで強い想いが溢れる佇まいは猪王山そのものといった印象。

アトリエでの公開稽古で組まれた仮セットを見る限り、二重の盆も含め、かなり可動式の装置が多い。これはおそらく、バケモノたちが住む”渋天街”と人間が存在する渋谷の街の切り替え等を観客にノッキングを起こさせず表現するためだろう。

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

オープニングのシーンが終わったところで青木氏や演出部のスタッフによるノート(=修正が必要な箇所のチェック)が始まる。青木氏からの言葉はおもに俳優の演技(心理面)や動きに対するもので、演出部からのそれはせりふや歌詞が聞き取りにくかったり、不明瞭になる箇所への指摘。和やかでありつつ一定の緊張感がある中、稽古は5場へと進む。

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

5場で展開するのは”渋天街”に迷い込み、弟子のいない熊徹に家まで連れてこられた人間の子・九太(=蓮)が、多々良や百秋坊に家事の指導を受けたり、熊徹と剣の修行をする場面。百秋坊役・味方隆司と多々良役・川島創の絶妙な芝居が全体をバランスよく導いていく。

さらに原作アニメーションにはほぼ登場しなかった熊徹のご近所女性3人組や、熊徹家に食べ物を売りにくる街の人々などモブでない登場人物が増えたことで、音楽やダンスといったミュージカルを構成する要素に厚みが出ていると感じた。

劇団四季『バケモノの子』公開稽古

劇団四季『バケモノの子』公開稽古

さらに原作では写真のみだった九太(=蓮)の母が、彼を見守る存在として登場するのも四季版のオリジナル設定だ。

劇団四季『バケモノの子』公開稽古

劇団四季『バケモノの子』公開稽古

稽古場では、二重の盆をはじめ、可動式の装置が多用されていることもあり、アクトエリアはぎゅっとしている印象。今回、劇中のダンスに強くこだわったという高橋知伽江氏(脚本・歌詞)の話もあり、俳優としても活躍する萩原隆匡氏の振付にも期待が高まる。また、劇中の楽曲は短いものを含めると約25曲とのこと。

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

自ら係累を捨て”渋天街”に迷い込んだ人間の少年・蓮(=九太)と、誰の力も借りずひとりで生きてきた我流の強者・熊徹。そんなふたりがともに生活し修行を重ねるうちに”親子”となっていく。そのドラマにも心惹かれるし、原作アニメーションに登場した”あの生物”や熊徹と猪王山との試合の様子がミュージカル作品としてどう表現されるのかも気になる。ますます開幕が楽しみになる公開稽古だった。

劇団四季『バケモノの子』取材会(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』取材会(撮影:阿部章仁)

公開稽古の後は場所を移しての取材会が行われ、 劇団四季(四季株式会社)代表取締役社長の吉田智誉樹氏、演出の青木豪氏、脚本・歌詞の高橋知伽江氏、熊徹役・出演候補俳優の田中彰孝氏、伊藤潤一郎氏の5名が登壇。ここでは作品のキーワードのひとつ「胸の中の剣」(自分だけが持っている強く大切な力、闇に勝つ力)について、各人が答えてくれたコメントを紹介したい。

吉田社長「毎日いろいろなことが起きる中で、組織の経営者として何が1番正しいのかを自分のこだわりを捨て、冷静に、客観的に判断する力……でしょうか。あまり剣士っぽくはないですが(笑)、自分の仕事の中ではそれが剣に当たるのかな、と思います」

青木豪氏「カッコつけるわけではないですが、元々演劇おたくとしてこの世界に入ったので、僕にとっての剣は舞台……自分で言うのはちょっと嫌ですが(笑)、でもやっぱり演劇ですね。演劇の場によって生かされていると思います。何かあってもこの場所に来れば救われるというか」

高橋知伽江氏「作品の中で描かれる”胸の中の剣”は人間が持っている闇と戦う剣のことですが、闇があるからこそ人間は愛おしい存在なのだと思います。私はネガティブな感情に負けそうになった時、でも、これが自分の選んだ道なのだから……と思うようにしています。それが私の剣なのかもしれません」

田中彰孝氏「今、熊徹を演じるにあたり、それが一体何なのかと日々戦っているところです。僕の中にある剣……素直ってことでしょうか。日常生活で人間関係の問題にぶつかるとイライラしたり立ち止まったりしてしまいますが、そういう時にはヨガをやって、自分の心と身体に素直でいられるように心がけています」

伊藤潤一郎氏「公演が始まってからも考えていくことだと思っています。俳優として見え方を気にするのではなく、役の内面でどんな感情が動いているのかを見つめ、自分に問いかけながら演技に生かしていきたい。僕は人生が続く限り、自分の”胸の中の剣”は何なのだろうかと、ずっと問い続けていく気がします」

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季『バケモノの子』公開稽古(撮影:阿部章仁)

劇団四季のオリジナルミュージカル『バケモノの子』は2022年4月30日(土)、JR東日本四季劇場[秋]にて初日を迎える。

取材・文=上村由紀子(演劇ライター)

公演情報

劇団四季ミュージカル『バケモノの子』
 
■日程:2022年4月30日(土)~ロングラン上演
■会場:JR東日本四季劇場[秋]

■原作:映画「バケモノの子」(監督:細田守)
■脚本・歌詞:高橋知伽江
■演出:青木 豪
■作曲・編曲:富貴晴美
■音楽監督:鎭守めぐみ
■振付:萩原隆匡
 
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