男肉 du Soleil『転生したハムレットの世界で生きるべきか死ぬべきか戻れるか、それが問題だ』団長・池浦さだ夢に独占取材~「2時間がすごく無駄だったと、脱力してほしい」

2022.4.17
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男肉 du Soleilメンバー。後列左から二番目が、団長の池浦さだ夢。

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漫画やゲームなどのポップカルチャーとコンテンポラリー・ダンスをミックスした、バカバカしくも高揚感に満ちた世界にハマっている人も多い、京都のダンスカンパニー「男肉 du Soleil(おにく・ど・それいゆ)」。2019年以来、コロナ禍で2回も公演の予定が飛んでしまったが、ようやく3年ぶりの本公演が実施できそうな見通しに。満を持して発表する『転生したハムレットの世界で生きるべきか死ぬべきか戻れるか、それが問題だ』は、この無駄に長いタイトルそのまんまの世界になるそうだ。脚本・演出・振付を担当している、団長の池浦さだ夢に、今回の内容と、3年の間にパワーアップした点などを聞いてきた。最後には恒例の宣伝ラップも!
 



■「やりたいからやる」という、学生の頃の楽しさを取り戻した。

──2020年4月に予定していた『オフホワイトメガタワー(以下オフメガ)』が延期となり、残念ながら最終的には中止となりましたが、今回はようやく公演が実現できそうですね。

『オフメガ』はもともと、『白い巨塔』みたいな話をする予定でした。そこへ新型コロナが蔓延し始めて「じゃあ、コロナの話題を入れた方がいいかなあ?」みたいな話をしていたら、(第一回目の)緊急事態宣言で(公演が)飛んで。夏頃にマシになってきたから、2021年の冬にリベンジマッチをしようとしたら、次は第二波が来て「もう止めとこうか」ってなりました。でも今回は、どうやら無事に迎えられそうで。劇場で公演できるのは、こんなにも嬉しいことなんだと、コロナ禍で再確認できましたね。もうシンプルに感謝だし、ただただハッピーです。

池浦さだ夢(男肉 du Soleil)。 [撮影]吉永美和子

──団員の皆さんはいかがですか?

イベントとかでちょこちょこ舞台には立ってたんですけど、やっぱり大長編が久々なんで、いつもよりモチベーションが高いと思います。打ち合わせの時も、同窓会みたい……というか、何か不思議なテンションの上がり方を、ふんわりとしているという感じでした。

──いつもとはちょっと、皆さんの向き合い方が違っているのでしょうか。

全体的に「単純に楽しもう!」って気合が入ってるというか、大学生の頃みたいです。劇団って、だいたい一年に一回ぐらい公演をするじゃないですか? それが仕事……とまでは言わないけど、使命感とか作業感を帯びるようになっていました。そのマンネリ感からいったん解き放たれたので、今は大学生の時のように「何かやりたいから、やろうぜ!」みたいな気持ちが、みんな戻っていると思います。だからいっそう楽しいですね、そういう意味では。

コミケとオタクをテーマにした、大長編 男肉 du Soleil『薄い書を捨てよ、町へでよう』(2019年)。 [撮影]吉永美和子

──男肉は以前『リア王』(2017年)でシェイクスピアに挑戦していますが、今回まさに代表作と言える『ハムレット』を取り上げようと思ったのは。

去年の夏ぐらいに「来年何やる?」っていうミーティングをした時に、僕が3つ4つぐらい案を出したんです。コロナ禍で日本の政治家が、あまりにもアーティストを大切にしないことにキレて、みんなで宇宙に逃げるという、ムチャクチャ質の悪い「MONO」(注:土田英生が主宰する京都の劇団。一風変わったシチュエーション・コメディを得意とする)みたいな芝居にしたろうか、とか(笑)。その中の一つに「現代の若者が『ハムレット』の世界に転生する」というのがあって、結果的に7:3ぐらいの割合で、これに決定しました。

──結構高い支持率ですね。

他の案は「コロナから逃げる」というのが多くて、『ハムレット』だけコロナとまったく関係なかったんです。団員からは「コロナを触るんは、もうええで」とか「(コロナをネタにした)『オフメガ』が中止になったからゲンが悪い」という声もあったし。ただ他の奴はプロットみたいなものがあったけど、これだけはアイディアしかなくて、どうなるかわからなかった。でもさっきも言った通り、団員の初期衝動というか、テンションが上がった結果「一番わけわからんものをやってみよう!」ということになりました。

大長編男肉 du Soleil『リア王』(2017年)より。 [撮影]吉永美和子


 

■ハムレットには「この軟弱者!」ってツッコミを入れたい。

──内容としては、現代の会社員が『ハムレット』の世界に転生して、登場人物たちに絡んでいくというので、間違いはないですか?

もう、ほぼほぼその通りです。これは昨今の転生モノの基本なんですけど、とにかく事故に遭って、特に目的もなく転生して、その世界で何か知らんけど生き抜いて、元の世界に戻るにはどうするか? っていう。今回は転生した先が『ハムレット』の世界で「悲劇は可哀想だから、惨劇を回避してみるか」という感じで、ハムレットをどうにかしてあげよう……という話です。まあでも結局、人がいっぱい死ぬことになるんですけど。

──まあ「いっぱい死ぬけど、最後にはみんな生き返る」は、男肉の基本ですから。

そうです。だから男肉って、実は悲劇とは親和性高いんですよ(笑)。ギリシア悲劇とも、シェイクスピアとも。

男肉 du Soleil『転生したハムレットの世界で生きるべきか死ぬべきか戻れるか、それが問題だ』稽古風景。

──確かに『リア王』では、意外な相性の良さに驚きましたしね。とはいえ『ハムレット』は、また勝手が違いますか?

『リア王』は登場人物が多すぎて混乱するから、全員に名前入りのたすきを掛けるというシステムを採用したんですけど、『ハムレット』は登場人物が多くないし、似てる名前も少ないから、そこは大丈夫かなって。でも改めてやってみると、あの「生きるべきか死ぬべきか」の長台詞、しっかり言ったら3分以上もかかるんです(笑)。そうやって、みんなが変だと思う所に、ツッコミを入れていくスタイルでやろうと思ってます。やっぱりハムレットって「この軟弱者!」って思いますよね?

──正直「その段取りいらんやろ!」って、イラッとくる所が多いです。

さっきまでテンション上がってんのに、次のシーンになったら萎えてたりするから「お前の情緒どうなってるねん!」とか(笑)。古典ツッコミコメディってベタですけど、読んでてついつい言いたくなることを、実際に言ってみたら面白いかな、と。『ハムレット』のドラマの部分はちゃんと抽出して、主要な登場人物たちと、転生してる人たちがガチャガチャするというイメージです。

男肉 du Soleil『転生したハムレットの世界で生きるべきか死ぬべきか戻れるか、それが問題だ』稽古風景。

──転生してる人「たち」?

転生ね、まさかの4人です。その人たちのドラマも入れなきゃいけないから『ハムレット』側のキャラクターが、どんどん消えています。最後に出てくるフォーティンブラスは面倒くさいから消したし、冒頭の兵士たちのシーンもカットです。ローゼンクランツとギルデンスターンは、こいちゃん(小石直輝)が一人で頑張ります(笑)。墓掘りのシーンも消したろかい! と思ったんですけど、大学でアカデミックな教育を受けた者としては、ねえ?

──シェイクスピアの死生観が現れた、割と重要なシーンですからね。

だから今は「普通に『ハムレット』やればよかった!」と思ってます。ハムレットと転生者たちの、2つの話を同時にやってるわけだから、ただでさえ長い『ハムレット』が、余計に長くなるわ! って。それにうちは、しょうもないダンスでも時間を食うから(笑)、悲しいけど今はバツンバツン削っていってます。
 

■男肉の舞台だけは、劇場で観てもらわないと無理。

──その男肉のダンスは、今もっとも避けられるべき「飛沫」が飛び散りまくるパフォーマンスであることも、悩み所ではないでしょうか。

だから今回は「(芝居中に団員が乱入する)男肉飛び散る席」がないですからね。客席と舞台を2メートル離して、客席にも飛び込まず、客を舞台にも上げずに、粛々(しゅくしゅく)と踊る(笑)。でも何だかんだで、ダンスはいっぱい入れてますよ。実は『オフメガ』では「ダンスをなくそう」という話をしてたんですけど、今はもう「結局ダンス楽しいな」ってなってます。

大長編 男肉 du Soleil『薄い書を捨てよ、町へでよう』(2019年)より。 [撮影]吉永美和子

──それもまた、全員のテンションが上がった結果で。

やっぱりダンス稽古をした後は、みんな士気が上がるし、熱量も上がってます。稽古場の窓が結露してるぐらいですから、エグいですよ(笑)。『ハムレット』の部分は割とちゃんとやりつつ、その周りで転生者たちがほたえる(注:関西弁でふざけて暴れる)というので、結構ダンサブルな、見世物ショーのような舞台になってると思います。

──男肉といえば、団員とのコール&レスポンスも楽しさの一つですが、今やそれが自粛されている世の中です。何か変わりの仕掛けは考えていますか?

ヒップホップのライブでは、観客と掛け合うために、手拍子のパターンを作るというやり方があるんです。声を出せない代わりに、手拍子をリズムよく、タンタン・タン! とやるという。あとうちは(上演中の)撮影OKだから、スマフォのライトを振ってもらうとか。でもこれは、お客さんが乗ってくれなかったら地獄ですけどね(笑)。そんな感じで、声以外のレスポンスの仕方を、いろいろと考えている所です。やっぱりオーディエンスとは、コミュニケーションを取りたいんで。

男肉 du Soleil『転生したハムレットの世界で生きるべきか死ぬべきか戻れるか、それが問題だ』全出演者。

──3年ぶりの舞台となりますが、何かパワーアップを感じる所は?

まず今回、思ったより衣装を着ているのが、まずパワーアップしてる(笑)。できるだけ汗の飛沫を飛ばさないためなのと、やっぱりハムレットは衣装がないとヤバいなって。あとは思ったより、ちゃんと『ハムレット』の芝居を頑張ってます。男肉が初めて、芝居を頑張ってるかもしれない。それを踏まえた上で「(上演時間)2時間かけてこのオチかい!」って、みんなを脱力させるという。

2時間の最後の最後の1つのボケのために、2時間の前振りをする。「この2時間、すごく無駄だったんだな」という、その愛しさと切なさを心強さを見てほしい……なんてことを言うから、お客さん来うへんのやろうなあ(笑)。今回の初動がいつもより悪くて、3年ぶりに肉をしがみたいという人しか来なくなるという恐怖があって。本当にね、ファニーな集団だから、観たことがない人も観に来て下さいと、このインタビューで伝えたいです。

──確かにコロナの憂さを忘れたり晴らしたりするには、これほどピッタリな舞台はないですよね。ちなみに今流行の、公演の配信はありますか?

いろいろ事情があるんで、配信は考えてないです。時代に取り残されるようだけど、男肉の舞台は劇場で観てください、と。VRのゴーグルを付けて、まるでその場にいるような劇場体験ができる世の中になっても、うちだけは劇場に来てもらわないと無理な集団なんで。足を運んで、自分のスマフォに全部録画して、家で観てください(笑)。男肉の舞台は違法ダウンロード、違法撮影も全部OKなんで、好きなだけ撮って楽しんでほしいです。

取材・文=吉永美和子

公演情報

大長編 男肉 du Soleil『転生したハムレットの世界で生きるべきか死ぬべきか戻れるか、それが問題だ』
 
■団長:池浦さだ夢
■出演:江坂一平、小石直輝、高阪勝之、城之内コゴロー、すみだ、チェン、ヤマモトエリコ、吉田みるく
新井聖美(テアトルアカデミー/なにわニコルソンズ)、稲森明日香(夕暮れ社 弱男ユニット)、重松よしこ、空本奈々(万博設計)、小林欣也
 
〈京都公演〉
■日時:2022年4月21日(木)~23日(土) 18:00~ ※23日=13:00~/18:00~
※22日は終演後に「おまけトークショー」あり。
■会場:京都市東山青少年活動センター 創造活動室
■料金=一般=前売3,000円、当日3,500円 学生=前売500円、当日800円
■問い合わせ:06-6357-4400(サウンドクリエーター) ※平日12:00~15:00
 
〈東京公演〉
■日時:2022年5月6日(金)~8日(日) 6日=19:30~、7日=13:00~/18:00~、8日=13:00~
※7日夜公演は終演後に「おまけトークショー」あり。
■会場:下北沢・小劇場B1
■料金一般=前売3,300円、当日3,800円 学生=前売2,000円、当日2,300円
■問い合わせ:0570-00-3337(サンライズプロモーション東京) ※平日12:00~15:00

 
■公演特設サイト:http://oniku-du-soleil.boy.jp/project/hamlet/
 
※この情報は4月16日時点のものです。新型コロナウイルスの状況次第で変更となる場合がございますので、公式サイトで最新の情報をチェックしてください。
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