末満健一(作・演出)&和田俊輔(音楽)が語るミュージカル『ヴェラキッカ』制作の裏側~“虚構”の音楽〈Blu-ray&DVD 9/21(水)発売〉

2022.9.18
インタビュー
舞台

腹七分目で終わるように、余韻を残したい

――話は戻りますが、和田さんは苦労しながら音楽を作られたわけですよね。

和田:(しみじみ)はい、それはもう。いつも以上に、これが響くかどうかの判断がつかないまま作っていました。

――とはいえ素晴らしい楽曲だったのですが、どういうふうに作っていかれたのですか?

和田:最初に書いたのは、劇中でも1曲目の「靴音が囁く」で、キャンディがヴェラキッカ家の屋敷に来る、という曲なんですけど、あれを書いた時点で「『ヴェラキッカ』で書くものはこれで終わった」って気がしたんですよ。それが自分の中で大きかったかな。ここから中身のない作業をしないといけないんだなって覚悟ができた気がします。そこからが長いんですけど。

末満:「靴音が囁く」はすごくすんなりいったよね。

和田:そうだよね。

末満:ミュージカルのスタンダードな導入という感じもしたし、僕は「これが騙し討ちになるな」と思いました。「あ、ミュージカルが始まったな」っていう意味でもわかりやすい曲だったので。

ミュージカル『ヴェラキッカ』(撮影=遠山高広)

――そういう中で、キャストの存在は楽曲にどう影響するのですか?

和田:僕はキャストさんのことを知れば知るほど強いと思っているので、知りたがりなんですね。それで言うと『ヴェラキッカ』では、(シオン役の)松下優也くんや(ジョー役の)愛加あゆさん、(クレイ役の)大久保祥太郎くんは、何回かご一緒してきたので、既に知っていることがある。そういう方には、作品とはまた別の文脈でひとつ、「一緒にやってきた歴史がないとできないような曲」をやろうとしたところはあります。それを『ヴェラキッカ』の中でどう表現するか、という楽しみ方をしました。

――それって具体的にどういう楽しみ方なのですか?

和田:これは作曲家のエゴでもあるのですが、「前回はこれ歌えなかったよね」をやってもらいたかったりするんですよ。前にご一緒させてもらったときに出た結果はもうわかっているから、次のステージ行こうぜ、みたいなことを取り入れていました。

――それは、曲をもらう方は……。

和田:大変になるのかな(笑)。松下優也くんには妙にそれが伝わっていて、ずっと僕との「戦いだ」みたいなことを言ってました(笑)。

――逆に美弥さんとは初めてですが、そうなるとどう作るのですか?

和田:はい。そこは暗中模索中の暗中模索で。どこが美弥さんが輝くところかなっていうのは、書きながら、稽古映像を見ながら、自分の中で誤差を修正していく、というような感じでした。

――最終的にできた楽曲に、和田さんご自身はどう思われているのですか?

和田:めっちゃいいっす(笑)。もう書けないなって思いますし。それは毎回どの作品でも思うことなんですけど、『ヴェラキッカ』は特にそう思う。もう二度と書けません。さっき末満さんもそのようなことをおっしゃっていましたが、僕も、自分では使わないセオリーとか、使わない進行とかを積極的に取り入れたんですよ。それが気持ち悪くて。敢えて自分は使わないルールを使いながら自分らしさを出すってどうすればいいんだろう、ということをやってみました。だからめちゃめちゃ気持ち悪かったです。その気持ち悪い中で、自分に引き寄せていく作業を2か月くらいかけてやっていきましたね。

――末満さんはどのように感じていましたか?

末満:音楽は、一幕に関しては「即時的な楽曲の良ささえあればいい」という感じだったので、そういう意味でも面白い楽曲だと思いました。<TRUMPシリーズ>の中でもちょっと違う肌触りの楽曲になっていたしね。

和田:だってこれ、一幕の曲が面白くなかったら成立しないよね。

末満:うん。そして一幕ラストの「愛は毒だ -Liebe ist Gift-」で、それまでの曲を全部捨てるっていう構成になっている。ご破算にして、ここから仕切り直しますっていう。あの楽曲はすごく威力があった。自分で言うのもなんですが、あそこの演出もよかったなって、映像を観て改めて思いました(笑)。

和田:みんなが寝転がっていて、そこから目覚めていくところね! あれはよかった。まさかそんなふうにするとは思わなかったし。

シオン役の松下優也(撮影=遠山高広)

――では、二幕の音楽はどんなふうに考えられたのですか?

和田:二幕は「種明かし」なので、やりたいことをやれたなと思います。難しかったのは締め方でしたね。そこまではわりかし見えていたんですけど。

末満:楽曲的には二幕はストレートな構成ではありますね。目的がハッキリしているから。

和田:やりやすい。

末満:目的がない一幕、目的がハッキリしている二幕。だから楽曲の雰囲気も変わりますし。

――ちなみに和田さんのおっしゃる「締め方」が指すのは、ノラとシオンが歌う「あの日の続き」ですか?

和田:はい。そこが難しかったです。最後のふたりのデュエットが、あれで良かったのかどうかは、それこそ僕も幕が開くまでわかりませんでした。もっとちゃんと盛り上げたほうがいいのかな、とか考えたりもしていて。

末満:そこは難しいよね。でもよかったと思う。

和田:うん。僕も今回映像で見直して思った。あれがベストだったって。

末満:感情を解消しすぎないほうがいいから。昇華させすぎないっていうか。腹七分目くらいで終わるように余韻を残しておかないと、お客さんは気持ちよく劇場を出てしまうので。

和田:そうそう。

末満:そんな中でも、一幕でやり残した大久保祥太郎と(マギー役の)斎藤瑠希のデュエットがね、顔をのぞかせてますけども。

和田:(笑)。やり残してたね。一幕でやれなかった。

末満:入れられなかった(笑)。

ミュージカル『ヴェラキッカ』(撮影=遠山高広)

和田:あとこれは末満さんが意識的にやっていたかわからないけど、新良エツ子さんが歌うBGMが一幕の最後からかかりだすのが面白いなと思ってた。

末満:無意識だった。でもそうなったのは、一幕が”TRUMP”じゃないからだと思う。

和田:そういうことだよね。「TRUMPの世界、始まりました!」っていうのが一幕ラストの楽曲「愛は毒だ -Liebe ist Gift-」。でもその直前からトランプの象徴みたいなあの歌声が聞こえてきて……っていう構成になっていて。

末満:そこまではえっちゃんの歌で情緒をつくる必要がなかったのよ。だって嘘の羅列だから。

和田:うん、そこが面白かったですね。

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