金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門>番外編 生涯現役でゼンリョクゼンカイ! 渡辺宙明先生を悼む
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故・渡辺宙明先生と筆者(高木大地、左)
金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門>
番外編 生涯現役でゼンリョクゼンカイ! 渡辺宙明先生を悼む
特撮&アニソン作曲家のレジェンド、渡辺宙明先生が、2022年6月23日に逝去された。享年96歳。生涯現役を貫き通し、最期までゼンリョクゼンカイの作曲家人生だった。
『人造人間キカイダー』『秘密戦隊ゴレンジャー』『太陽戦隊サンバルカン』『宇宙刑事ギャバン』、2021年には戦隊ヒーローシリーズ45作品目の『機界戦隊ゼンカイジャー』などの特撮や、『マジンガーZ』『鋼鉄ジーグ』などのアニメと、数々の歴史的作品を携わられた。また、「♪窓をあけましょう/ルルル」の歌い出しで有名な「サザエさんのうた」の主題歌、『ふたりはプリキュア』の挿入歌など実に幅広い。たとえ「渡辺宙明」という名前を知らなかったとしても、誰もが口ずさんだことがあるに違いない。
当連載では3回対談させていただき(第25回、第26回、第30回)、大正〜昭和〜平成〜令和にわたる大河のような人生を語っていただいた。特に第30回では筆者に作曲指導もしてくださった。弟子を取ることのなかった宙明先生、96年の人生で初めての試みだったという。「今日は特別ですよ」と前置きをされ、ご指導いただくために作曲した金属恵比須のデモテープと楽譜をチェックしていただいた。テープを聴き返しては楽譜を入念にチェックする真剣な眼差しが忘れられない。強くお叱りも受けたが、良いところは徹底的に褒める。メリハリのあるご指導は、人生を変える大きな出来事だった。
宙明先生の作曲家デビューは1953年、ラジオ番組から始まる。1956年には『人形佐七捕物帖 妖艶六死美人』(新東宝)で映画デビューし1960年代は数多くの映画音楽に携わる。そして1972年、『人造人間キカイダー』、続いて『マジンガーZ』を担当したことにより、アニメ・特撮の音楽家人生が始まる。この時、先生は46歳。40代ともなれば過去の成功体験から守りの姿勢に転じていくのが一般的。だが先生は攻めた。未開の地に飛び込んだ。アニメ・特撮は勃興期。成功するか失敗するかもわからない。にもかかわらず、今までやってみたかった実験ができるいい機会ととらえたのだそうだ。
そのひとつが、ロックの要素をふんだんに混ぜ込んだアレンジ。主題歌「ゴーゴー・キカイダー」「キカイダー01」で聴くことができる。ことに歪んだ音色のギターの使い方が実に素晴らしかった。真空管のギター・アンプのボリュームを上げ、さらに歪ませるファズ・エフェクターを加えた豪快なサウンドを融合。1972年当時、欧米のロックでは当たり前の音だったが、アニメ・特撮の主題歌でここまでエッジの効いた音が前面に出てくる音作りはなかったのではないか。対談の時にお聞きしたのだが、学生だった頃の渡辺俊幸氏(ご子息で現在音楽家)が朝食を食べながらロックのレコードを聴いていて、それが耳に入ってきたとのこと。40代のお父さんが息子の聴く最新の音楽文化に興味を示し、あまつさえ自らの音楽に取り込んでしまうという若い感性には驚くほかない。
「ゴーゴー・キカイダー」では、まるでヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターで暴れまわるロバート・フリップのギターのようなファズ・トーン・ソロがブチかまされる。そして「キカイダー01」ではクリーム「ホワイト・ルーム」のようなワウ・ギターの合いの手が入る。ロック・ファンが聴いても欧米のそれと比べて遜色のないワイルドな音を楽しむことができる。今となっては必須の音色で、むしろ入っていない主題歌を探す方が難しいかもしれない。宙明先生の先見の明には瞠目だ。
ギターといえば、初めて手がけた映画『人形佐七捕物帖 妖艶六死美人』のエピソードが興味深い。監督がギターしか使わない音楽を用いた時代劇を作りたいというプログレッシヴな提案をした。ベテランはやりたがらないだろうということで若手の宙明先生に白羽の矢が立ったのだそうだ。そこでオーケストラで演奏するようなパートを6本のギターで弾くようなアレンジを施し、宙明先生も胸を張る名曲が生まれたのだという。その時も『キカイダー』の依頼の時同様、チャンスと思って臨んだとのこと。いつでも境遇をポジティヴにとらえて挑戦する姿が共通している。宙明先生自身、ギターは弾けなかったそうだが、人生の転換期にギターの存在が見えるというのは興味深い。
そう、実は次にお会いする時、ギターに関して伺おうと思っていたのだった。宙明先生は日本茶が大好きだったので、お茶葉をお持ちして一緒にお茶を飲みながらそんな話をしたかった。
が、もう叶わない。
でも、どんな境遇に立たされてもポジティヴな姿勢で臨むのが宙明先生だ。きっとあちらに行かれたことも前向きにとらえ、「チャンスだ!」とすでにゼンリョクゼンカイで作曲しているに違いない。
宙明先生、本当にありがとうございました。ご冥福をお祈りいたします。
渡辺宙明先生のサイン
2022年6月29日
金属恵比須 高木大地
SPICEでの渡辺宙明さん過去インタビュー記事
https://spice.eplus.jp/articles/291501
https://spice.eplus.jp/articles/292539
https://spice.eplus.jp/articles/304323
※生前最後のインタビュー記事