草刈民代芸術監督『キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO』が開催～21名のダンサーが思いを1つにして舞った！

女優で元バレリーナの草刈民代が芸術監督を務める『キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO』（主催：キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA 実行委員会、 RENAISSANCE CLASSICS）が、2022年7月5日（火）昭和女子大学人見記念講堂（東京・三軒茶屋）にて開催された。この催しは、現在危機にあるウクライナのキエフ・バレエ（タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立歌劇場バレエ）への支援を呼びかけるチャリティー公演。草刈の下、国内外で活躍する19名の日本人ダンサーが集い、キエフ・バレエの2名も出演した。

全体は2部構成で12作品を上演。演奏は井田勝大指揮によるシアター オーケストラ トーキョー（一部演目は録音音源）。

前半の幕開けは『デューク・エリントン・バレエ』The Opener（振付：ローラン・プティ）で、水井駿介（牧阿佐美バレヱ団）がジャズにのせて軽快に踊った。『薔薇の精』では題名役を二山治雄がのびやかに舞い、少女を中野伶美（シビウ劇場バレエ）が可憐に演じる。

『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥでは、芝本梨花子（デンマーク王立バレエ）がギリシャの娘メドーラを、猿橋賢（イングリッシュ・ナショナル・バレエ）が海賊の首領コンラッドを踊り、福田昂平（元ノヴォシビルスク・バレエ） による奴隷アリが絡む。元気のいい踊りだった。

『グラン・パ・クラシック』を踊ったのは佐々晴香（スウェーデン王立バレエ） と髙橋裕哉。ここでは佐々が風格を感じさせ、強靭かつしなやかな踊りが冴えた。髙橋も端正な踊り。前半最後の『And... Carolyn.』（振付：アラン・ルシアン・オイエン）はノルウェーの鬼才振付家オイエンの評判作。大谷遥陽（イングリッシュ・ナショナル・バレエ） と松井学郎（ノルウェー国立バレエ） を高い集中力で踊って観るものを惹き込んだ。

後半は『Deep Song』（振付：マーサ・グラハム）で始まり、佐藤碧（マーサ・グラハム・ダンス・カンパニー） が踊る。アメリカのモダンダンスの大家グラハムがスペイン内戦に想を得て創った名作に接する得難い機会だった。『ノートルダム・ド・パリ』よりパ・ド・ドゥ（振付：ローラン・プティ）では、草刈の古巣である牧阿佐美バレヱ団の青山季可と菊地研がエスメラルダとカジモドの魂の交感を奥深く表現した。

『ジゼル』よりアダージョを踊ったのは加治屋百合子（ヒューストン・バレエ）と平野亮一（ロイヤル・バレエ）で、ベテランの名手同士ならではのドラマを見せた。『小さな死』（振付：イリ・キリアン）を踊った江部直哉（カナダ国立バレエ）と藤井彩嘉（チェコ国立バレエ）による精神性の高さを感じさせるデュオも印象深い。

『二羽の鳩』（振付：フレデリック・アシュトン）は佐久間奈緒と厚地康雄という元バーミンガム・ロイヤル・バレエのコンビによって踊られた。ガラ公演では物語の鍵となる鳩の実物は省かれることが多いが、ここでは実際に登場。いうまでもなく「鳩」は平和の象徴である。続いて『祈り』（アメリカン・バレエ・シアター版『コッペリア』より）を加治屋が敬虔に踊る。

そして最後は『森の詩』をキエフ・バレエのアンナ・ムロムツェワとニキータ・スハルコフが披露。森の妖精と青年の恋を詩的に描くウクライナ・バレエの名作のクライマックスがドラマティックに踊られた。森の妖精の幻影と踊る青年はやがて……。当夜のすべての流れがここに収斂し、ウクライナの人々に自ずと思いを寄せることになる幕切れだった。

終演後に行われた囲み取材には、草刈、ムロムツェワ、スハルコフ、加治屋、平野が出席。

芸術監督としてプロデュースにあたった草刈は公演を通して「芸術は人の心から始まることをとても強く感じました。困っている人、恵まれない人に寄り添ったことで、芸術活動の土台になることをすごく感じました。あらためて自分の表現の土台になるもの、基にあるものに触れられた気がしました」と話す。観客への思いを問われると「エネルギーを感じて心が動くということを体験してもらえるのが舞台芸術の良さ。それが具体的な形になって、場の空気を動かしていたんじゃないかな。なので、思ったような展開になってうれしいです」と手ごたえを示した。

ムロムツェワは「3年ぶりに来日しました。今回は非常に大事な意味を持っています。私たちにとっても、ウクライナにとっても、日本人の同世代のダンサーたちと共演できて、とてもうれしく思っています」と語る。スハルコフは「このたびは素晴らしいオーガナイズによって、日本の優れたダンサーの皆さんと共演することができました。ありがとうと申しあげたいです。今日の公演は、私たちにとってただ一言"幸せ"をもたらしてくれました」と思いを述べた。

加治屋は「こうやって少しでも支援につながることができる舞台に感謝しています。このような形でキエフ・バレエのダンサーと一緒に舞台に立てたことをうれしく思っております」と話す。平野は「少しでもウクライナのダンサーのために何かできらなとずっと思っていました。少しでも多くの人に世界平和への思いを持っていただけたらと思い参加させていただきました。こういう機会をあたえてくださりありがとうございました」と語った。

なお、この公演はリアルタイム配信された。配信は7月11日（月）20時まで購入可で、視聴可能期間は7月11日（月）23時59分まで。配信の売上はキエフ・バレエに寄付される。

またムロムツェワ、スハルコフも出演する「キエフ・バレエ・ガラ 2022」（招聘：光藍社）が、7月15日（金）前橋・ベイシア文化ホールを皮切りにスタートし全国を回る。

取材・文＝高橋森彦