岡山天音、三谷幸喜作のホラー・コメディ『VAMP SHOW ヴァンプショウ』に挑む心境を語る
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岡山天音
脚本を担当するNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も快進撃を続ける三谷幸喜が、30年前に発表した『VAMP SHOW ヴァンプショウ』が帰ってくる。1992年の初演時は池田成志(出演も)と板垣恭一が共同で演出を担当し、三谷自身も「一橋壮太朗」名で出演、そして2001年には池田成志が再び演出を手がけてPARCO劇場にて再演されたこの作品。再演時にキャストのひとりとして出演していた河原雅彦が今回の演出を担当し、新たな風を吹き込む。さびれた夜の駅で、5人の吸血鬼と電車を待つ女、そして駅員が織り成す、笑いと恐怖の物語――。5人組のひとりを演じる岡山天音に、作品への意気込みを聞いた。
ーー異色のホラー・コメディ、21年ぶりの上演となります。
公演情報が発表になってから、自分とは離れた世代の方たちに「『VAMP SHOW ヴァンプショウ』やるんだね」という声をかけていただくことが多くて。この作品の存在を僕はもともと知らなかったんですが、それだけ人の記憶に残っている作品なんだなと。そんな作品に選んでいただいて光栄だなと思いましたし、台本を読んでポップなイメージを抱いたので、その中で自分がどんな姿になれるのかなと思って。これまで出演してきた舞台はシリアスなものが多くて、コメディ要素のあるものは今回が初めてなので、自分がどんな風に変貌していってしまうんだろうというのは怖くもあり楽しみでもありますね。登場人物7人の会話で成り立つ作品で、5人組も割と年齢が近かったりして、みんなで作っていく作品だなと思ったので、刺激的な仕事ができるんじゃないかなと、プレイヤーとして非常に魅力に感じました。決められた枠みたいなところにはまらず、はみ出していけるように作られているところもある台本だと思うんです。台本に書かれていることを毎公演同じクオリティで再現するというよりも、即興的な瞬間がけっこう増えるんじゃないかなという予感はしていて。一緒に舞台を作る上で絡みの多い吸血鬼の人たちが、その日その日で突発的な何かを起こしてくれたりするんじゃないか、そこから何か新しい世界が広がって行くんじゃないかなと、スリリングな時間になりそうなのが楽しみですね。
岡山天音
ーー三谷幸喜さんの台本を、河原雅彦さんが演出されます。
三谷さんについては、実際にお会いしたことはないんですが、僕の世代からすると、家族で観に行く映画を作る人みたいな印象が子供のころからありました。『THE 有頂天ホテル』であるとか、有名な人がたくさん出ているお祭り感のある楽しい作品を作られる方というイメージがあります。今回の作品では、時間が飛んだりとかそういった表現はないですが、時間が地続きの中で人間関係だったりがどんどん移ろっていくみたいなスタイルは、僕が観たことのある三谷さんの作品に通じるものを感じますね。非常に勢いといいますか、パンチ力のある台本なんです。キャラクターの行動だったり、展開がすごくダイナミックといいますか。一人ひとりのキャラクターが急に変なことをし始めたりしたり。河原さんは、底知れない方、ミステリアスな方、像がつかめないという印象がすごくあります。一緒に稽古をさせていただいて、コミュニケーションをとっていく中で、河原さんのいろいろなチャンネルをふとしたときに垣間見るんですけれども、どこに実がある方なのかつかめないというか。
ーー今回、即興的な表現も期待できそうですか。
部分的に変わっているところもありますが、ベースはもともとの台本を踏襲していて。河原さんもおっしゃっていたんですが、再演の舞台は、舞台でずっとお芝居されていた方たちが集まって作っていて、ビジュアルからしてデコボコ感というか、それぞれはっきりとカラーが散らばっていた感じだそうです。今回は映像で活動しているキャスト、フォルムだけ見ると割と今の若者っぽい感じの俳優が集まっていて、前の舞台とは同じものには全然ならないと思うんです。だから、風合いはだいぶ現代版になるんじゃないかなと思います。ここは自由に変えてもいいよみたいなところがあったり、アドリブだったり即興的に出すものがちゃんと輝く作品だと思うので、そこはいろいろ遊ぶんじゃないかな。そういうの、自分が得意かどうかはわからないですが、好きではありますね。
ーーこれまで抱かれてきた吸血鬼のイメージと、今回の作品に出てくる吸血鬼のイメージとで重なるところ、ギャップがあるところがあったらお聞かせください。
時代設定は初演当時なので、現代ではないんですが、日本で実生活を送っている若者みたいな手触りというか、生々しさがある5人組なんですよね。ファンタジーの世界観で描かれた吸血鬼というよりも、もしも日本の片隅に5人の若い吸血鬼がいたらみたいな、そんなファンタジーと現実のギャップ、その差の開き方みたいなものがとてもシュールでおもしろいと思います。現実にいたらどうなんだみたいなところで描かれているので。河原さんも、太陽の光を浴びられないとか、血しか飲めないとか、そういうことの実感みたいなものを、コメディだけど、他のシリアスな作品と同じように掘り下げてもっていてほしいというお話をされていて。若者たちがファミレスでだべっているみたいなテンションで人の血を吸う話をしているみたいなその風合いがおもしろいなという風に思いますね。
ーー5人組のわちゃわちゃした感じが楽しい作品ですが、岡山さんが演じる「島」はどんな存在ですか。
僕が演じる島だけが4人と同級生ではなく、年下なんです。だから、他の4人のことを、後輩としてちょっと違う視点から引いて見ている瞬間もあって。もともとは大学のサークルの友達で、4人それぞれが違う方向に突出してしまっているみたいな先輩たちで、非常にキャラが濃くて。それぞれリスペクトしているところがあって、島は後輩としてみんなのことが大好きなんです。基本的にみんなバカなんですけど(笑)、それでもたぶんとても尊敬しているんだと思います。本当にみんな横並びで舞台上に立つ芝居なので、演じているそれぞれの個性がすごく見えるんですよね。だから、何かすでにみんな愛おしい感じはします。遠目からみたら今の同世代の若者の感じかもしれないけれど、やっぱりみんな、全然違うんだなって。
岡山天音
ーー座組の雰囲気はいかがですか。
駅員役の菅原永二さんと、吸血鬼役の塩野瑛久くん以外は皆さんご一緒させていただいたことがあるんです。けっこう突発的にいろいろなことが巻き起こっていく舞台になるという感じが、稽古場でもしています。戸塚純貴くんや平埜生成くんとは、10代のころから現場でご一緒させていただいていて、身を委ねられる、思いきって飛び込める安心感みたいなものはあります。今はまだ、みんなでコミュニケーションを深く取るというよりも、それぞれの役柄をいかに全うするかということをそれぞれが突きつめている段階なので、これから関係性や現場の空気も変わってくるんじゃないかなと思いますが、とても楽しいです。
ーー特徴的なビジュアル、コンセプト・ムービーが公開されていますが、撮影の印象は?
羽根を頭につけてるんですが、とても動きの多い撮影だったので、折れたり、落ちちゃったり、本当に大変でしたね。渋谷PARCOが閉店してからの夜の撮影だったので、夜中の2時とかにみんなで踊ったりしていて、トランス状態みたいになっていました。渋谷PARCOの前で撮影していると、クラブ帰りのお客さんとかもいて、あの衣裳で踊っていたのでだいぶ目立っていましたね(笑)。
ーーPARCO劇場の印象は?
場所がすごくおもしろいなと思います。渋谷の真ん中、PARCOの上の階に劇場があるという作りがとてもおもしろいなと。劇場に来るお客さんの層もやっぱり違うんじゃないかなと思いますし、僕がお客さんとして観に行くときも、渋谷の街を歩いて、ポケモンのショップがあったりする中で、エスカレーターを上がっていく。他の劇場に観に行くのとはまた気分が違うなと思っていて、そこはとても素敵だなと思います。割とポップな作品、見やすい作品をたくさん上演している劇場だと思いますし、客席から舞台が見えやすくて、お客さんとして観に行くのも好きです。
ーー今回、地方公演もありますね。
東京に観に来れない方もいると思うので、そういう方に観ていただける機会があるのはとてもうれしいです。ただ、どういう形なのか知らない劇場もあったりするので、そこは独特の緊張感がありますね。他の作品で地方に行かせていただきましたが、東京公演が一番回数が多いので、体感としては、東京のその劇場でやることに慣れていて。地方公演の劇場だと、お客さんの発しているエネルギーみたいなものの濃度が違ったりするような感じもあって、視線がどれだけ自分に伝わってくるかとか、やっぱり地方公演ならではの緊張感がある中でやるお芝居なんだなって。大阪に親戚がいるので、おばあちゃんが観に来てくれるのがうれしいです(笑)。
岡山天音
ーー舞台と映像との違いをどこに感じますか。
発声だったり、どう身体で動いて表現していくかといった違いももちろんあるんですが、作品ごとの違いという方が大きい気が……。今回この作品をやらせていただいて感じていることですね。舞台と映像の差というよりも、同じドラマでもものによって全然体感が違いますし。今回コメディが初めてなので、違う乗り物に乗って操縦しているような感じというか、乗用車からガンダムに乗り換えて操縦しているみたいな感覚の違いがあります。公演が始まるころにはスポーツカーくらいにスケールダウンしているかもしれないんですけれど(笑)、今のところ一回試しにガンダムに乗ってみているんですね。年始にやらせていただいた舞台が本当にシリアスなもので、日本の事実に基づいたお話だったりしたので、演じている側としては苦しい時間が多いというか、舞台ではそんな作品が多かったので、より新鮮に感じているのかもしれないです。映像ではコメディがあったり、シリアスでずっと悲しい役があったりしたので、そこのギャップにいちいちびっくりしたりしないんですが、今回の舞台は、ちょっとこれいいのかなくらいに、表現をいろいろ試している感覚はあります。僕、これまで舞台でアドリブとかもやったりしたことなかったですし、非常に新鮮ですね。
ーー演じていて感じる三谷さんの台本の魅力とは?
年が近い5人の男の吸血鬼でババッと会話していくところも多い台本なんですが、名前の部分を手で隠しても誰のセリフかわかるという人物像の描き分けがすごいなと思います。10代から仕事をやらせていただいてきて、映像でも、学園ものであるとか、群像劇をいろいろやってきたんですが、今回みたいな台本に出会ったことはあまりないかもしれないです。真面目な場面もあるし、ホラーだし、コメディだし、人間ドラマも入っているし、その全部のせみたいな感じは、僕が子供のころから抱いてきた三谷さんの作品のイメージに近い感じがします。エンターテインメントといいますか、観ている人を全力で楽しませてくれるといいますか。
ーー河原さんの演出の魅力についてはいかがですか。
おもしろいですね。コメディの舞台に出させていただくのが初めてなので、演出を受けて、コメディというものを解体して、理論的に表現すること、コメディとは何なのか勉強させていただいている気がします。こうやるとおもしろい感じがしたりするんだなとか。基本的にはドキドキしてます、ずっと。すごい方だと思うので。
ーーどんな時間が過ごせる作品になりそうですか。
非日常を味わいに来ていただきたいです。そう思ってもらえるくらい、僕ら吸血鬼と、ヒロインと、謎の駅員さん7人で、夏の思い出になるような、エンターテインメントを観に来てくださる皆さんにぶつけられたらいいなと。夏休みのイベントじゃないですけど、テーマパークに来るような、そして帰路に着いたときテーマパークから帰っていくような気持ちになっていただけたらと思っています。
岡山天音
スタイリスト:鹿野巧真
ヘアメイク:SUGANAKATA(GLEAM)
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=iwa
公演情報
東京公演:2022年8月8日(月)~8月28日(日)PARCO劇場
愛知公演:2022年9月1日(木)~9月2日(金)穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
大阪公演:2022年9月10日(土)~9月11日(日)森ノ宮ピロティホール
福岡公演:2022年9月17日(土)~9月18日(日)キャナルシティ劇場
演出:河原雅彦
出演:岡山天音 平埜生成 戸塚純貴 塩野瑛久 尾上寛之 久保田紗友 菅原永二
ハッシュタグ:#VAMPSHOW #ヴァンプショウ
U-25
⼀般発売日:発売中
お問合せ:パルコステージ03-3477-5858(時間短縮営業中)https://stage.parco.jp