宮本浩次、椎名林檎、Chara、YUKI、長渕剛……数々のミュージシャンに称賛されるギタリスト・名越由貴夫。知られざる道程に迫る【インタビュー連載・匠の人】
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■YEN TOWN BANDを境に、渋めの、せつない系のギターをやってください、みたいな要望が増えました
──YEN TOWN BANDはCharaからの流れですよね。
そうです。そこで小林武史さんと初めて会って。その後のLily Chou-Chouは、スケジュールが合わなくてレコーディングはやってないんですけど、2010年の活動再開の時に呼んでくれて。俺も小林さんの作る音楽が好きで。いわゆる売れる音楽だけじゃなくて、アバンギャルドなこととか、マイナーなことも造詣が深いっていうか。なんでもありな人なので、やりやすかったですね。
──YEN TOWN BANDの時は、レコーディングはどんな感じでした?
ヘンリーのこだわりで機材が全部ビンテージなんです。レコーダーもアナログだし、とにかくシンプルなんですよね。当時日本で仕事でレコーディングする時とか、なんかしっくりきていなかったものが、その時に「あ、そうそう、これこれ!」みたいな。宅録の延長にあるというか、音の捉え方がわかりやすいというか。アナログでビンテージっていう制約がある分、わかりやすいし、いい音だったし。やりやすかったです。
──名越さんの今のギタリストとしてのスタイルが固まったのって、いつ頃でしょう?
いや……今でも、コーパスを始めた頃と大して変わってないと思いますけどね。あんまり進歩してないです。エフェクターが増えて、ちょっとディレイでごまかしたりとか、ある程度は対応できるようになりましたけど。最初の頃は、譜面を渡されて、そのコードに数字とか分数とか書いてあるともうわけわかんなくて、蕁麻疹とか出てましたけどね。
──呼ばれた現場では、どういうギターを求められることが多いですか?
仕事を始めた頃は、汚しだったですね。「この曲、きれいすぎるので、汚しを入れてください」みたいな。で、YEN TOWN BANDを境に、渋めの、せつない系のギターをやってください、みたいな要望が増えました。まあどっちも、ルーツになくはないので。
──YEN TOWN BANDの時のように、この仕事がそれ以降のきっかけになった、みたいなポイントって、他もありました?
順を追って行くと、Chara、YEN TOWN BAND、あと椎名林檎。いちばんでかいのは、その3つですかね。あとUAの朝本(浩文)さんとの仕事も自分的には大きかったです。椎名林檎は、『勝訴ストリップ』(2000年)のレコーディングで何曲か弾いたんですけど。そのあとはしばらく空いて、2008年の『林檎博』で弾いたぐらいから、またアルバムで弾くようになって。その頃から、「林檎さんのところでやっているような感じでお願いします」的な……直接そう言われることはないですけど、そういう曲調の仕事が増えたりして。
──朝本さんの仕事で得たものは?
朝本さんはラクだった(笑)。「悲しみジョニー」とか「ミルクティー」とか、とにかくレコーディングが早くて。モニターチェック代わりに弾いたら、「今のもらったから、もういいよ」ぐらいの。「あ、間違えちゃったかな」みたいなところも「今のおもしろかったから、それでいい」みたいな。とにかく判断が早いんだけど、プレイが新鮮なうちに記録して美味しいところを逃さないということですかね。あとで完成したのを聴いて「ああ、なるほどな」みたいな。あと、「名越くん、ちょっとドゥルッティ・コラムみたいな感じで弾いてよ」とか、共通の好きな音楽もありました。
■長渕さんは乱暴にギターを弾いているようで、ちゃんと音作りしているんですよね
──あと、長渕剛もやっておられましたよね。
おもしろい反面、体力的には大変でしたね。当時長渕さんは、ウエケン(上田健司)がレコーディングでプロデュースしてたし、ライブもバンマスで、彼から声がかかって。最初にレコーディングに1曲呼ばれて……オーディション的な感じだったと思うんですけど、そこで「おまえ、いいな」みたいな感じになって、やることになったんですよね。やってる間は多少筋肉がついてた気がします。
──鍛えたんですか?
最初のツアーのリハは、まず合宿で1週間ぐらいやるんですけど。午前中はトレーニングして、午後からリハ、みたいな。
──えっ、筋トレ?
筋トレとか、走ったりとか。ジムがあるホテルに泊まって、朝からそこでトレーニング。でも無理な根性トレーニングとかじゃなくて、ちゃんとストレッチして、その人に合った負荷をかけるトレーニングをしました。長渕さん、トレーナーとしても優秀で。
──そこで「僕、ギター弾きに来たんですけど」みたいには──。
いや、「長渕剛のツアーをやるんだしな、ある程度身体は作っておかないと」って思いました。理不尽なことをやらされている感じでは全くなかったです。
──ライブの本番はいかがでした?
自分ができることには限りがあるのでやれることをやるだけなんですけど。ただ、長渕さんの弾き語りのコーナーがあって、それは「すごいなあ」と思いましたね。ひとりでこんなにできるんだったらバンドなくてもいいよなあ、っていう。あと長渕さんは音に関しても、乱暴にギターを弾いているようで、ちゃんと音作りしているんですよね。そういうところも「なるほどなあ」と思いましたね。
──他に強く印象に残っている現場ってありますか?
うーん……あ、楽しかったのは、キョンキョン(小泉今日子)のツアー。それもバンマスがウエケンなんですよ。しかも長渕さんのツアーと並行で。片や肉体派の過酷なライブで、片やすごく楽しくて明るい現場、っていう(笑)。
■宮本さんはまったく手を抜かない。やっててスカッとします
──最近だと、宮本浩次の全都道府県ツアーが終わったばかりですよね。
そうですね。コロナ禍でもあったので、「これ、全部やれるかなあ」っていう不安はありました。でも、途中で延期はあったけど、なんとか全部行けましたからね。ここまで長いツアーを回ったのは自分も初めてでした。さすがにこれだけの本数を回ると、ツアー自体の成熟感もありましたね。10本ぐらいのツアーだと、毎週末行っていても、身体に入る前に終わっちゃう感じがあったりもするんですけど。
──宮本浩次というパフォーマーはいかがでしたか?
いやあ、毎回全力なので、すごいですよね。あたりまえなんだけど、まったく手を抜かないというか。やっててスカッとします。だから、それに演奏で応えようと思うし、けっこう力入りましたね。
──ツアーが終わったあとの宮本さんのインタビューを読んだんですけど、それによると名越さんは、もっとよくするための工夫として、毎回フレーズとかギターの音を変えていたと。
ああ、ライブ音源を聴き直して、「ここ、もっとこうした方がいいかな」みたいなのは、ありましたね。大枠は最初にある程度決めてたんですけど、ちょこちょこマイナーチェンジはしてました。
──それは名越さんにとっては、わりと普通のことですか?
変えた方がいいなと思うところは変えていくし、ガチガチに決まってなくて遊びがある部分は毎回自由にやりますね。ライブって、どれだけリハーサルをやっても、本番が始まると「あ、違う」って思ったり、「これをやった方がいいな」ってその瞬間に思ったり。ライブをやって変えていくっていうのは、僕にとってはあたりまえなのかもしれない。お客さんの前でやってみないとわからない。それは誰しもそうかもしれないですけど。
──代々木2デイズの追加公演の前、ツアー本編のラストの山口(周南市文化会館、6月2日)のアンコールで宮本さんからひとこと求められて、「感無量です」とおっしゃっていましたね。
(笑)あれはあまりにも定型コメントだなと思って、言ってから恥ずかしくなったんですけど。でも、周南の時も、代々木の時も、ほんと名残惜しい感じはありましたね。
──Charaがスタートと考えると、プロキャリアは30年近くになりますよね。
そうですね。でも、仕事に取り組む気持ちとか感覚は、仕事を始めた頃とそんなに変わってない……まあ、量が増えたぐらいで。だから、まさか今こんなことになっているとは、っていう感じでもないんですよね。
──時間が経っている感じもしない?
はい。老化はしていますけど(笑)。
取材・文=兵庫慎司 撮影=平川啓子
ツアー情報
06月18日(土)埼玉県 戸田市文化会館
06月19日(日)埼玉県 戸田市文化会館
06月24日(金)千葉県 市川市文化会館
06月25日(土)千葉県 市川市文化会館
07月02日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
07月03日(日)山口県 周南市文化会館
07月16日(土)滋賀県 滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール
07月17日(日)滋賀県 滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール
07月23日(土)宮城県 仙台サンプラザホール
07月24日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
08月11日(木・祝)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
08月13日(土)岡山県 倉敷市民会館
08月19日(金)新潟県 新潟県民会館
08月20日(土)新潟県 新潟県民会館
09月03日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
09月04日(日)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
09月10日(土)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
09月11日(日)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
09月18日(日)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
09月19日(月・祝)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
11月05日(土)千葉県 幕張イベントホール
11月06日(日)千葉県 幕張イベントホール
11月26日(土)大阪府 大阪城ホール
11月27日(日)大阪府 大阪城ホール
12月05日(月)東京都 日本武道館
12月06日(火)東京都 日本武道館