ゆずが2枚のアルバムとともに届けたアリーナツアー、さいたま公演を振り返る
-
ポスト -
シェア - 送る
YUZU ARENA TOUR 2022 SEES -ALWAYS with you- 2022.8.14 さいたまスーパーアリーナ
3月26日~8月3日に行われた『YUZU ARENA TOUR 2022 PEOPLE -ALWAYS with you-』、追加公演の『YUZU ARENA TOUR 2022 SEES -ALWAYS with you-』と約5ヶ月にわたったゆずの全国アリーナツアーが先日幕を閉じた。本稿では『YUZU ARENA TOUR 2022 SEES -ALWAYS with you-』から8月14日・さいたまスーパーアリーナ公演を振り返る。なお、9月3日には同公演の模様とアフタートークがRakuten TVで配信されるとのこと。ライブの内容をまだ知りたくないという人は後日読んでいただければと思う。
16thアルバム『PEOPLE』、17thアルバム『SEES』と今年2枚のアルバムをリリースしたゆず。MCによると、デビュー25周年のタイミング、かつ2作を引っさげたツアーということで、この時代の中でどんなツアーをまわろうかと悩んだが、「これからも音楽シーンを牽引していきたい」という想いからロングツアー実現に至ったとのことだ。現代美術家・松山智一氏がアリーナツアーのために制作した全長12mの女神像「Mother Other」がそびえるステージの上で、北川悠仁、岩沢厚治は「なかなか派手にツアーをやってます」と笑う。
2020年春を境に多くの“日常”が失われた。会いたい人に会いに行けないし、今まで通りに生活を営むことはできない。そんな時代にどんなメッセージを発信するべきか。多くのアーティストが悩んだことだろう。それはゆずも例外ではないし、むしろこれまでポップミュージックを信じて鳴らしてきた彼らだからこそ直面したこともあったはず。そんな中、彼らは配信ライブを積極的に行い、有観客ライブができない時期でも希望を繋いだ。新曲の制作でクリエイションを発揮し、それが2枚のアルバムに結びついた。実験的なサウンド/アレンジの曲も弾き語り曲も収録し、いち生活者として2人がこの2年で感じたことをリアルに歌った『PEOPLE』。『PEOPLE』での意欲的なチャレンジを経て“ゆずスタンダート”を改めて鳴らしつつ、“これから”へと目線を移した『SEES』。これら2作の制作を経てのツアーでは、“混沌の時代の中でもあなたに音楽を届けたい”という力強い意志の下、全世代対象の華やかなエンターテインメントが展開された。
松山氏の描き下ろし作品で『PEOPLE』のアートワークにも使用された「People With People」を動的に発展させたオープニング映像がライブの幕開けを告げた。前ツアーのタイトルが一度表示されてから、映像が早回しになり、改めて表示される『YUZU ARENA TOUR 2022 SEES -ALWAYS with you-』の文字。そして「君を想う」から演奏が始まった。<君が想い描くような 僕じゃないけど/君は僕を不思議なくらいに 強くするんだ/誰かがイメージするような 君じゃないから/僕といる時くらいは ありのままでいいんだ>。意思と覚悟を胸にステージに立つ北川&岩沢とゆずの音楽を生活の支えにしてきたファン、両者が対面するライブという場において最初に届けられるにふさわしい曲だ。<ここにいるよ>と歌いながら自分の立つステージを指すのは北川。曲の終盤に入ると、映像が切り替わり、透き通ったハーモニーを響かせる2人の真剣な表情がスクリーンに映る。カラフルな照明がクロスする演出が久々の再会を連想させる。
「さーいたまー---!」と北川の元気のいい叫びとともに始まったのは「ストーリー」で、歌もバンドも力強い。磯貝サイモン(Key/Bandmaster)、真壁陽平(Gt)、須藤優(Ba)、河村吉宏(Dr)、松本ジュン(Key)、結城貴弘(Cello)が奏でるサウンドはダイナミックで、ある人の挿し込んだ刺激的なプレイに全体が触発されたりという有機的なやりとりが楽しい。一方、2人の弾き語りを中心に展開する「イセザキ」など、最小限の編成で鳴らす曲でも音楽の彩りが失われないのがすごい。光のようにまっすぐな二声は、思いきり張った時にも、逆に抑えた時にも、転調を経ても、同じくらいの熱量でぴったりと寄り添い合っている。2人の歌が絶対的なものとして存在しているからこそ、例えばユーモアたっぷりの曲のあとに荘厳なバラードを歌うなど、振れ幅の広いセットリストもゆずならばアリにできてしまう。
ライブ前半では、MCや幕間映像などを挟みつつ、音楽メディアの形も変わっていった25年間で唯一MDダウンロード形式でリリースした曲と紹介された「アゲイン」、ファンから事前に募集したダンス動画とともに届けた「タッタ」、北川が“ハンドくん”というキャラクターに扮してじゃんけん大会を行った「あの手この手」などを披露。圧巻だったのは「栄光の架橋」で、技術云々ではなく、2人の剥き出しの想いが歌に乗っているように感じられた。そして北川が「心の中で一緒に」と伝えていたように、その歌には2人の想いのみならず様々な人の心が乗っていたことだろう。アウトロではライブならではのアレンジが加えられ、バンドが熱く鳴らす中、2人も力強くハーモニーを重ね、「こんなもんじゃない」など元々の歌詞にないフレーズを歌っている。未だ続くこの夜を乗り越えていこうというエネルギーが渦巻いている。
換気タイムを挟んで後半がスタート。デジタルサウンドを大胆に取り入れたカオスなダンスナンバー「奇々怪界-KIKIKAIKAI-」では北川がドラムセットのように配置された太鼓やサンプリングパッドを叩き、ドラマーと掛け合いを繰り広げるなど、リズムで以って観客を高揚させた。早いもので、25周年を象徴する「NATSUMONOGATARI」~「桜木町」メドレーに差し掛かった頃にはライブの終わりも近い。「センチメンタル」では「心の中で!」と客席にマイクを向けた北川が、「ありがとう、届きました!」と笑い、「夏色」ではトロッコに乗ってファンの近くで歌を届けた。「もう1回!」はさすがにできないか?と思いきや、観客はコールせず、グッズのうちわを振ったり手拍子をしたりすることで「もう1回!」と伝える。嬉々としてそれに応じる2人。テンポアップし、はちゃめちゃになっていく様が楽しいライブでおなじみのシーン。ゆずのライブにある幸せな光景はコロナ禍でも失くなりやしない。
振り返れば、何もかもが変わってしまった世界の中で、変わらずリスナーを想い、歌を届け続けるゆずの頼もしさが感じられたライブだった。感染症対策のため観客が声を出せないが、そんな状況を逆手にとった演出、そして音楽の力で以って全てをエンターテインメントに変えていく2人。MCでは「10代の人ー? 20代の人ー?」「○列目にいるそこのあなた!」とこれまでと同じように投げかけ、ファンとのコミュニケーションを試みた。そんな2人の想いを汲み取り、観客は長め大きめに拍手をしたり、グッズのタンバリンを鳴らしたり、メッセージを書いたスケッチブックを用意したりと、“声を出す”以外のやり方で思い思いに応じた。追加公演という位置づけであるにも関わらず、また、前ツアー完走から中2日しか空いていないにも関わらず、セットリストは大きく変わっている。歳月を重ねても衰えないバイタリティがあるからこそ実現したセットリストからは、“来てくれた人を全力で楽しませたい”という2人の想いが伝わってきた。
「RAKUEN」の盛り上がりのあと、「ずっと声出せなかったから、その思いを全部拍手に込めてくれてありがとう」と北川。最後のMCでは、このご時世に長いツアーをまわるということで不安もあったが、全国のゆずっこと久々に会えて嬉しかったと振り返りながら、「俺たちにとって忘れられない大切なツアーになりました」「こんなに幸せな25周年になると思っていなかったです。みんなへの感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとう!」と伝えた。また、今回のツアーを通じて、「できなくなったこともあるけど、知恵や工夫でできることもたくさんあると実感しました」とも。
「これからも知恵、アイデア、ユーモア、みんなへの愛で必ず乗り越えて、必ずみんなのもとへ音楽を届け続けたいと思います。だから、どうか忘れないでほしい。俺たちが側にいるってことを。俺たちの音楽が側にいるってことを」
そうして最後には「ALWAYS with you」が届けられた。ツアーのサブタイトルと同名のこの曲は、『PEOPLE』収録の「ALWAYS」と今から10年前にリリースされた「with you」をマッシュアップさせたバラードだ。時代も街も自分たち自身も変わり続けるが、“僕たちの音楽は、あなたの側に”という想いは25年間変わらずに在り続けた。そして、これからも。そんなメッセージが伝わってくる。2人の美しい歌声と晴れやかなバンドサウンドがこの先の未来を輝かせた。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=中島たくみ、森リョータ
セットリスト
1.君を想う
2.ストーリー
3.ゆめまぼろし
4.イセザキ
5.AOZORA(YZ ver.)
6.アゲイン
7.タッタ
8.明日の君と
9.あの手この手
10.栄光の架橋
11.奇々怪界-KIKIKAIKAI-
12.LAND
13.夢の地図
14.NATSUMONOGATARI~桜木町メドレー
15.センチメンタル
16.T.W.L [Y.Z ver.]
17.夏色
18.RAKUEN
19.ALWAYS with you
配信情報
【開催日時】
2022年9月3日(土)
19:30開場 / 20:00開演
ライブ本編+ゆずアフタートーク
※8/14(日)のさいたまスーパーアリーナ公演の模様を配信。
【配信プラットホーム】
Rakuten TV
【見逃し配信期間】
公演終了後、9月4日(日)23:59まで
【視聴
特設サイト:https://yuzu-official.com/pages/peopletour#online-live