演出・野田秀樹に聞く~「東京キャラバン the 2nd」開催決定! コロナを超えて文化の種を全国へ

2022.10.19
インタビュー
舞台

野田秀樹   撮影:鳩羽風子

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劇作家・演出家・俳優の野田秀樹が、「東京2020オリンピック・パラリンピック」をきっかけに、新たな文化ムーブメントの種を日本中にまこうと発案した「東京キャラバン」。多種多様な文化を担う表現者たちが、地域やジャンルを超えてセッションする「文化混流」を掲げ、2015年から国内外各地を旅してきた。コロナ禍による中断を経て、「東京キャラバン the 2nd」として2年ぶりに実施、2022年11月27日に静岡、12月16、17日に東京・池袋で開催される。コロナ後の文化の在り方を見据え、「人の温もりを取り戻す」と走り続ける演出の野田に思いを聞いた。

 

■「幻」に終わった駒沢での集大成

ーー 「東京キャラバン」を振り返ると、2015年10月に東京・駒沢で幕を開け、ブラジル・リオデジャネイロ、宮城・仙台、福島・相馬、東京・六本木、京都、東京・八王子、熊本、愛知・豊田、高知、秋田、福島・いわき、埼玉、富山、岡山、北海道の16カ所を巡ってきました。コロナ禍による影響で、2020年5月に東京・代々木公園で予定されていた「東京キャラバン」が延期になりました。21年8月の東京・駒沢オリンピック公園での「東京キャラバン in 駒沢 2021」も、緊急事態宣言の発令により中止になりました。五輪とパラリンピックの間に開催され、「東京キャラバン」7年間のひとまずの集大成となるはずでした。

駒沢でやるか、やらないかが自分の中では一番大きかったですね。結局、各地からの参加アーティストが東京に集まることが難しくなって、断念しましたけれど。もし、一部の人たちだけでパフォーマンスをしていたとしても、多種多様な文化や芸能が混ざり合うという、キャラバンの大切な要素が出せずに、中途半端なものになっていたと思います。新型コロナというのは、人と人が交わることを阻むウイルスですから、大きな打撃を受けました。だからこそ、コロナを超えたところで、また文化を生み出していくべきだと思いますね。

野田秀樹  撮影:鳩羽風子


 

■人と人とが交わる 文化が生まれる

ーー 「文化とは、人と人との交わりの中からしか生まれてこなかったはず」「とにかく続けることが何よりも大事」と、東京キャラバンの記録をまとめた冊子でお話しされています。「the 2nd」の開催が決まったときの率直な気持ちをお聞かせください。

コロナで消え入りそうな感じだったので、開催できることになって本当に良かったなと安堵しました。コロナ前までは参加してくれたアーティストの皆さんや見てくれた人たちも面白がってくれていて、とてもいい感じだったので。「the 2nd」となっているけれども、自分の中では相変わらず志向は、はじめから、(文化を守り、未来へと続けていく)Beyondなんですよ。

ーー 公式サイトなどでは、感染防止対策を万全にした上で、「こんな時にこそ敢えて挑む。人と人のつながりが断たれた二年以上余りの時間を超えて、『いざ、集おう』。『人と近づこう』。そして傍らに『他人(ひと)』がいることの幸せを感じよう」とメッセージを寄せています。覚悟というか、強い思いを感じました。

今はオンライン配信が全盛だけど、モニター内のコンテンツだけで文化というのはできるものではない。コロナ禍を乗り越えたところで、人と人がその場で交わるところから文化が生まれる状況をつくっていけたらと思っています。

野田秀樹  撮影:鳩羽風子


 

■アイヌと琉球の舞踊が混ざった奇跡

ーー 「 the 2nd」は、11月の静岡と12月の東京・池袋で開催されます。目玉の一つが、客人(まれびと)として参加が決まっている沖縄の琉球舞踊と北海道のアイヌ古式舞踊の共演です。2020年1月に札幌・モエレ沼公園での「東京キャラバン」でも共演したそうですね。日本列島の北と南の伝統芸能が溶け合った瞬間の様子を教えてください。

パフォーマーたちは、自分たちのリズムを必ず持っている。そこに音楽が流れていないときでも。そのリズムを混ぜるとき、お互いのリズムをつかもうとする。これは、この何年かで気づいたことです。アイヌのリズムは独特だけど、琉球舞踊の人たちはうまくそのリズムをつかんでいきました。演出的にはお互いの踊りに隊列なる共通のものを見つけて、それが入り混じればいける!と瞬間的にイメージがパッと見えました。アイヌと琉球の舞踊が一緒になった瞬間、奇跡的なものが見えた気がしました。何か本当に混ざり合ったと思って。とても面白かったし、異なるものが出会って新しいものが見える瞬間だった。

東京キャラバン in 北海道(2020年1月) 撮影:篠山紀信

ーー 「アイヌ舞踊の女性たちが姿を現す。程なく彼女たちは(中略)歌声にのって、上着の裾を翻し、羽ばたくように舞って『サロルンリムセ(鶴の舞)』を踊る。すると今度は三線の音色とともに、琉球舞踊の地謡による『鷲ぬ鳥節(ばしんとうぶし)』にのって、彼らの立方(=踊り手)が現れ、『鷲ぬ鳥』の踊りを披露していく」--。前述の冊子にレポートが掲載されていますね。

おそらく、これまで出会うことのなかったパフォーマー同士が出会い、一期一会のステージをお目にかけるという、東京キャラバンが今までやってきたことは「the 2nd」でも変わりません。伝統舞踊を見る、現代アートを見るという体験とは違う。伝統と現代の融合のパフォーマンスとも、また違うかな。それぞれの土地の伝統芸能や多種多様なジャンルの文化の担い手たちが出会い、混ざり合い、その場で新しい表現をつくりあげるので、今までみたことのないものが見えてくると思います。ビジュアルも強いですしね。「東京キャラバン in 京都」(2017年9月開催)の二条城特設ステージでは、迫り来る夕闇と照明がとても美しかったですね。今回の静岡も東京も野外での開催です。

東京キャラバン in 北海道(2020年1月) 撮影:篠山紀信

ーー  自然を感じながらパフォーマンスを見られるのはとても楽しみですね。さて、今回はアイヌと琉球の舞踊のほかに、女優(前田敦子)をはじめ、2本の縄を使って跳ぶダブルダッチのチーム(REG☆STYLE)、人形劇師(沢則行)、日本舞踊家(花柳貴伊那)、ロックバンド(浅草ジンタ)、アーティスト(鈴木康広)と多彩な顔ぶれがそろいました。静岡からは、高校生(静岡県立横須賀高等学校 郷土芸能部)が地元に伝わる祭りばやし(三社祭礼囃子)を披露します。演出プランはいつ練るのでしょうか。

現地に行ってみて、皆さんのパフォーマンスを見てから考えます。どことどこが相性良く組み合わせられるか。毎回一か八かです(笑)。

ーー ジャズのジャム・セッションをイメージしました。舞台を楽しみにしたいと思います。さて、コロナ禍の舞台芸術界は、公演の中止・延期が相次ぐなど、今なお苦闘のただ中にあります。野田さんはコロナ禍が発生した2020年春から、危機に立たされた演劇界のために奔走してきました。現在200超の公共劇場や大手興行・劇場運営会社、小劇場、制作会社などが参加する横断的な団体「緊急事態舞台芸術ネットワーク」の発足(同年5月)にも大きな役割を果たしました。

みんな、困っちゃいましたからね。テレビを見ながらブツブツ言っている自分が嫌だったんですよ。動いた方がいいなと思って、すぐ東京芸術劇場に電話をして、「演劇界が今、どうなっているのか、現在の状況を調べたい」と言って、翌日から一緒に調べ始めました。1週間ぐらい経つうちに、「多分、演劇の世界だけでは乗り越えていけない」という話になった。それで、今まで行ったことのない霞ヶ関に行ったり、政治家の人と会ったりするようになったんですよ。そういうところとつながっていないと話を聞いてくれない。(公的支援を働き掛けるには)いろいろなやり方があると思うけれど、中に入っていかないと、という思いがありましたね。やれないことにはものもつくれないので。やらせてくださいという感じですよ。今でもとにかく一刻も早くみんながマスクを取れる世の中になれるように願っています。

東京キャラバン in 京都・二条城(2017年9月) 撮影:井上嘉和


 

■東京に大きな文化のお祭りをつくりたい

ーー 22年春には、文化庁の文化審議会文化政策部会の委員に就任して、国の文化芸術政策について話し合う場にも参加されています。また、22年6月に東京ビックサイトで開かれた「ライブ・エンターテイメントEXPO」のセミナーでは、「東京という大都市に、きちんとした理念を持った、大きな演劇、文化フェスティバルが不在。だから演劇に対する社会的な認知度が上がらない。自分の残りの人生を懸けて大きいフェスをつくっていくことがとても大事だと思っている」という主旨の発言をされていました。その思いについて詳しくお話しください。

小規模なフェスティバルが分散化していて、どこも予算が少ないと、(2009年に)東京芸術劇場の芸術監督に就任してからずっと思っていました。予算規模の小さなフェスティバルばかりだと、海外からの大型公演の招へいはなかなか難しい。一つにまとめて、芸術祭というか、文化のお祭りを1年に1回、2年に1回でもいいから、国内外の舞台作品を並べて大々的に開催できたら、という思いがある。コロナ禍の舞台公演を支援する、文化庁の「アートキャラバン事業」がありますが、コロナが収束したら、芸術祭のための予算に計上されて、開催実現につながっていけばという願いもある。海外の芸術祭に行くと、プラットフォーム的な場所があって、そこへみんなが来て今年は何が面白いかなどと熱く語り合っています。そういうかたちのものを、東京でも実現できたらいいなと思うんです。文化を語れる場所がつくられて、そこから創造も生まれてくる。リオのカーニバルのように、お祭りを楽しむために生きる人が出てくるぐらいの存在になったとき、本当の芸術祭になるのではないでしょうか。コロナが収まったら、芸術祭とかポジティブな方向を打ち出していきたいと考えています。

野田秀樹  撮影:鳩羽風子

取材・文=鳩羽風子

イベント情報

東京キャラバン the 2nd

■日程&会場:
① 静岡
2022年11月27日(日) 13:00~/16:30~
駿府城公園紅葉山庭園前広場(静岡県静岡市葵区駿府城公園1-1)
② 東京
2022年12月16日(金)16:30~、12月17日(土) 13:00~/16:30~
池袋西口公園野外劇場グローバルリング シアター(東京都豊島区西池袋1-8-26)

■観覧:無料、事前申込制・応募者多数の場合は抽選
■応募方法:公式ウェブサイト(https://tokyocaravan.jp/the2nd)よりご応募ください。
■応募受付:
① 静岡 2022年9月28日(水)11:00~10月31日(月)23:59
② 東京 2022年9月28日(水)11:00~11月14日(月)23:59
※詳細は公式ウェブサイトをご覧ください。

■演出:野田秀樹(劇作家・演出家・役者)
■主催 :東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、
一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワーク(東京のみ)
■後援:静岡県、静岡市(静岡のみ)、豊島区(東京のみ)
■連携:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場(東京のみ)
■参加アーティスト:
前田敦子(女優)、浅草ジンタ(ミュージシャン)、REG☆STYLE(ダブルダッチチーム)、
沢則行(人形劇師)、宇治野宗輝(アーティスト)、花柳貴伊那(日本舞踊家)、“東京キャラバン”アンサンブル
(石川詩織、上村聡、川原田樹、末冨真由、手代木花野、間瀬奈都美、松本誠、的場祐太、
水口早香、吉田朋弘)、琉球舞踊(立方:玉城匠、大浜暢明(静岡のみ)、上原崇弘(東京のみ)
地謡:玉城和樹、仲嶺良盛)、公益社団法人北海道アイヌ協会(アイヌ古式舞踊)、
静岡県立横須賀高等学校郷土芸能部(三社祭礼囃子)
■参加クリエイター:
鈴木康広(美術)、原摩利彦(音楽)、ひびのこづえ(衣装)、赤松絵利(ヘアメイク)、篠山紀信(写真)、青木兼治(映像撮影)
■メインビジュアル:はらわたちゅん子(アーティスト/デザイナー)
※荒天の場合は中止となります。
※新型コロナウイルス感染症の状況により、実施内容等に変更が生じる場合があります。
※出演者やプログラム内容は予告なく変更になる場合があります。

■公式ウェブサイト:https://tokyocaravan.jp/the2nd
公式SNSアカウント
Instagram https ://www.Instagram.com/tokyocaravan/
Facebook https ://www.facebook.com/tokyocaravan.official

東京キャラバンthe 2nd は、「 東京都の新型コロナウイルス感染症対策の基本方針 」に沿った新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じて実施します。ご応募の際は、必ず、東京キャラバン the 2 nd 公式ウェブサイト内の「新型コロナウイルス感染症対策とご来場の皆様へのお願い」をご確認いただき、マスクをご着用の上、ご来場ください。マスクを着用でない方や、37.5 度以上の発熱や体調不良が認められる方等は、当日ご入場をお断りする場合がございますので、予めご了承ください。
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