「BanG Dream!」をはじめ、アニメ、ゲーム、音楽、ライブ、プロレス等、様々な事業を成功させてきたブシロードがコロナ禍でも成長できたのはなぜか? 木谷高明社長が語る【インタビュー連載・エンタメの未来を訊く!】
-
ポスト -
シェア - 送る
■日本は格差が広がってるように見えるけど変わってない
――最初のお話と重なるところもあると思うんですが、習慣がなくなったことで苦戦しているコンテンツと、新しいお客さんが着実に増えているコンテンツの差はどういうところにあると思いますか?
もちろん個々のIPやコンテンツの新規性とか努力の部分もありますけど、大きいのは時代の流れ、空気です。それがやっぱりコロナによって変わっちゃったというのはありますね。エンタメ業界の人って、エンタメの中のことしか考えないんですよ。でも、やっぱり経済あってのエンタメだし、いろんなことに左右される。風がちょっと吹いただけで、雰囲気が変わっちゃう。例えば今はVTuberが全盛だと思うんですけど、これも飽きられる可能性がある。家でいつも配信を見ているけど、やっぱ外ではっちゃけるのもいいねとなってくる可能性は大いにあると思います。
――ここ2年半は、たとえば音楽にしても家で楽しむことのできるものが流行ったり、どちらかというと内向的なコンテンツがトレンドになっていたと思います。そこからの揺り戻しは感じてらっしゃいますか?
まだ感じてないですよね。例えばアニメの配信サイトでも異世界ものばかりが上位になっています。しかもアメリカとか中国の人たちが異世界ものを好きなんですよ。うちのカードも以前はアメリカで全然売れなかった異世界ものが売れるようになっている。それは何故かと言うと、僕は格差社会が進んだからだと思います。日本は格差が広がっているように見えるけど、むしろ変わってない。金持ちがいなくなって、みんな貧乏に近づいている。むしろ海外のほうが格差が広がっています。だから、異世界ものの日本のアニメやコミックは、まだまだ海外に広がると思います。異世界ものがウケるのは、現実逃避も理由の一つですから。
――コロナだけでなく、社会や経済の状況を背景にした時代の流れにコンテンツやエンターテイメントのトレンドが影響されているということですね。その先行きについては、どんな風に考えていらっしゃいますか?
やっぱり、ライブというのはアーティストの生き様を見るものだと思うんです。流れとしてはそこへの揺り戻しの方向に行くんじゃないかと思っていますけれど、まだそっちの方向には行ってないですね。デジタルというフィルターをかけた方が見やすい、みたいなことにもなっている。ただ、デジタルはオンラインになって、オンラインはすぐにグローバルになる時代ですから、ライブエンタメはグローバルの方向に行ったものが勝つんだと思います。そうなると、やっぱり言葉の問題が大きい。そこをどう乗り越えるかを考えています。例えば、うちのグループ会社に劇団飛行船というマスクプレイミュージカルをやっている劇団があって、もともと「3匹の子豚」や「アラジン」のような子供向けのぬいぐるみ人形劇をやっていたんですけども、「プリキュア」のようなキャラクターものをこれから増やしていこうと思っているんです。これにはすごくメリットがあって、喜怒哀楽を身振り手振りで表現できちゃうので、言葉を吹き替えにすれば世界中でやれるわけです。ここにはすごく可能性を感じています。音楽でいうと、「BanG Dream!」のRAISE A SUILENには期待しています。あんな身長差があって可愛い子たちのバンドは日本にしかない。技術とビジュアルで世界に行けるんですよ。特に今は、オンラインによって技術が伝わりやすくなって、上手いということがものすごく大事になってきている。だから、本物じゃないとなかなか売れづらいようにもなっている。実力が大事になってきているとも思います。
■オンリーワンに持っていけるかどうかが大事
――オンラインライブについてはどんな考えをお持ちでしょうか? 有観客ライブが開催されるようになった現在、リアルとオンラインをハイブリッドにしたイベントの開催もあれば、一方ではオンラインライブは徐々に下火になっているという捉え方もある。このあたりについてはどうでしょうか。
これも、強いものがより強くなるという話だと思います。強いものにとっては可能性が広がったし、弱いものにとっては不確かになった。たとえば日本でやったライブを海外からでも観られるようになったし、東京でやったライブを地方でも観られるようになった。何が何でも見たいと思わせるような強いコンテンツにとってはすごく有利な話ですし、リアルもやって、ライブビューイングもやって、配信もやるみたいなライブもある。とはいえ、全く無名の人がオンラインライブをやったからって、そこに視聴が集まるわけではない。強いところの収益機会とコンテンツの拡散の機会が増えて、強いものがより強くなるということだと思いますね。
――長期的な話で言うと、デジタル化とグローバル化によって、いわば世界中で勝者総取りのような状況が訪れるという見通しがあるということですね。そこにおいてやっていくべきこととしては、どんな考えがありますか。
やっぱり、勝者総取りにさせないためにアナログなゲリラ戦というのがあったんです。けれど、それがコロナによって使えなくなったここ2年半で、なおさら勝者総取りになった。だから、これからはどう差別化するか、オンリーワンに持っていけるかどうかが大事だと思いますね。今の時代は前とスピード感が違う。結果が早く出る時代なんです。昔に5年10年経たないと実現しなかったことが、今は1年2年で結果が出る。デジタルでオンラインということは、結果が早く出るということなんですよ。だから、ビジネスにしてもIT企業はすぐに大きくなる。デジタル中心に世の中が回っているということは、結果を早く出さないとお客さんが付いてこないということです。あとは、世の中全体が非常に短尺思考になっている。なのでうちのコンテンツもTikTokやYouTube Shorts に力を入れようという話になっています。それも、作品を見せようとするのは違う。現場の担当者はちゃんとした起承転結のあるものを見せなきゃいけないと考えがちなので、そうじゃなくて「え、ここで終わっちゃうの?」というくらいにしなきゃダメだと言っています。時間をどんどん細切れにする時代なので、フルコースはそんなに望まれない。たまにはフルコースもいいけれど、基本は前菜だけで終わりみたいな感じになっている。30分の動画を見せるというのも、すごく大変になっているので、そう考えるとアニメも非常に難しいですよね。若い人がテレビを観なくなって、プロモーション手段が難しくなっているというのもあります。それに対する答えはあまりないんです。だから、すでにみんなが知ってることが、より有利になってしまう。新規のコンテンツを広めるのがすごく大変になっているので、会社の規模感自体も大事になっている。自社IPを頑張らないとその会社にファンができないですから。
――まさにそこに関わる話ですが、11月13日には「ブシロード15周年記念ライブ in ベルーナドーム」が開催されます。このイベントについてはどんな思いをもって進めていますか?
今まで7周年と10周年のライブをやってきたんですが、15周年というのは、区切りを作るためにも是非やりたいなと思っていました。やっぱりこれは盛り上げたいですよね。かなりアーティストも出るし、全部で50曲以上披露する大きなライブなので。そして、なるべくみんなが知っている曲をやってほしいとは思ってます。15周年なので、お客さんもやっぱり何らかの思い出がある曲をお客さんも歌ってほしいだろうし。あとは、11月には感染者数も減って、コロナの終盤戦に入ってると思いますしね。
――ブシロートは2020年の8月に先陣を切って有観客の大規模ライブを開催に挑んだわけで、そういう意味においてもライブの意味合いを感じてきた2年半なのではないかと思います。
そうですね。やめるのも一番早かったですし、その時に一番早く再開しようと思ってやってきたんです。それは性格もありますよね。リスクを恐れてやらないというのは、あんまり好きじゃない。常にチャレンジしている姿を見せたい。リスクばっかり考えたら、エンタメじゃないと思うんですよね。会社やお役所と同じことをしていたら、そこには夢も何もない。そういう意味でも、コロナ禍の区切りにしたいと思ってるので、その集大成のライブにぜひ来ていただきたいなと思います。
取材・文=柴那典
この取材は8月23日に行われました。
イベント情報
2022年11月13日(日) ベルーナドーム
・アサルトリリィ
一柳隊
スタァライト九九組(小山百代、三森すずこ、富田麻帆、佐藤日向、岩田陽葵、小泉萌香、相羽あいな、伊藤彩沙)
Happy Around!、Peaky P-key、Photon Maiden、Merm4id、燐舞曲、Lyrical Lily
Poppin'Party、Roselia、RAISE A SUILEN、Morfonica
from ARGONAVIS Special Band(伊藤昌弘、日向大輔、前田誠二、森嶋秀太、小笠原 仁、真野拓実、宮内告典)
ミルキィホームズ、フェザーズ
Aqours(斉藤朱夏、小林愛香、降幡 愛)、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(大西亜玖璃、前田佳織里、小泉萌香)
バーチャルD.U.P.(デ・ジ・キャラット/プチ・キャラット/ラ・ビ・アン・ローズ)、奥井雅美