「恐怖マンガノテッペン」楳図かずおの比類なきアート性に胸がグワシと掴まれるーー27年ぶりの新作も展示される『大展覧会』の全貌

2022.10.18
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『楳図かずお大美術展』 (c)楳図かずお

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楳図かずお大美術展 2022.9.17(SAT)〜11.20(SUN) あべのハルカス美術館

あべのハルカス美術館にて、11月20日(日)まで『楳図かずお大美術展』が開催中だ。同展では、27年ぶりとなる新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』を公開。しかも漫画ではなく、原画101点を連作絵画として観ることができる。

漫画という既存の分野だけでは語り切ることができない、先見的な世界観や幻視的なビジョンを発揮する楳図かずお。「恐怖漫画の神様」として数々の名作を発表してきた彼だが、『まことちゃん』ではギャグ漫画として鮮烈な作品を発表。ほかにも、タレントや歌手、映画監督など多彩な才能で活躍してきた。今回の展覧会では、そんな彼の比類なき芸術性に焦点を当て、SF作品の代表作『わたしは真悟』、『漂流教室』、『14歳』を通じて、気鋭のアーティスト3組とともに、楳図かずおの世界を表現。これまでにない、斬新な展覧会となっている。

本記事では、同展覧会の見応えとともに、楳図かずおの魅力について少しでもお伝えできたらと思う。

赤と白のボーダーでお出迎え

「楳図かずお」の名を聞いてイメージするものといえば、やはり赤と白のボーダー柄のTシャツ。同展の入口も、彼のトレードマークと同じ、赤と白のボーダーがドンと大きくお出迎えしてくれる。パワー漲る赤と、無垢を感じる白、2つの色がこれから始まる「大美術展」への期待を募らせる。

『漂流教室』のシーンがずらり

入口から進んだ先の通路には真っ赤な絨毯が敷かれ、その左右には名作『漂流教室』から抜粋された印象強いシーンが並ぶ。『漂流教室』は1972~1974年に『週刊少年サンデー』(小学館)にて連載されたSFロマン作品。小学校の校舎ごと荒廃した未来の世界に送られてしまった少年たちの生存競争を描いた作品で、今もなお幅広い世代から人気を集めている。作品のなかには、飢餓や伝染病の蔓延、地震や自然災害など、まるで今の時代を予見していたかのようなシーンが登場している。その言葉が羅列された大きなタペストリーに思わず目が釘付けになる。地震、食糧難、砂漠化した未来……。そこに「ドドドド」と手描きの擬音が描かれ、一枚の絵に圧倒的なパワーを生みつけている。

今の時代を予見していたかのような言葉が並ぶ

今となっては漫画で当たり前に使われる擬音だけれど、子どもの頃に読んだ楳図作品の擬音の表現はとにかく怖かった。「ウワー」「ギヤアア」「ワーーッ」。登場人物の目がガッと開き、恐怖に叫ぶ口の中もスミで真っ黒に塗られ、見えない闇に落ちそうな表現。しかも、ページをめくるたびに想像し難いシーンが続いていく。彼の作品はいつも驚きの連続で、その日の晩はいつも読んだことを後悔するほどだった。それはどの作品も同じで、いつだって想像も創造力も豊かなものばかりだった。

『わたしは真悟』の扉絵をデジタルサイネージで掲示

次に足を進めると、『わたしは真悟』の世界へと続く。これまた最高傑作といわれる、長編SF漫画だ。1982~1986年に『ビッグコミックスピリッツ』にて連載されたもの。それまで恐怖漫画の第一人者だった楳図が、恐怖テイストを控えめにして、人とは、神とは、意識とは何なのか、形而上学的なテーマに挑んだ意欲作だ。12歳の近藤悟(さとる)と山本真鈴(まりん)の手によって、一介の工業用ロボットが意識を持ち、やがて自らを「真悟」と名乗り動き始める。まるでひとつの生命体かのように描かれたロボットが、大人によって引き裂かれた悟と真鈴の愛を、互いの元に伝えようとする……。仮想世界やアバターなど、コンピューター・ネットワークが拡大した現在のニューエイジ感覚を、無意識のうちに予見していたのか。2020年代ではなく、1980年代にそれを見事に表現した楳図。

青年誌で連載されたこともあり、それまでの恐怖漫画とは違う、緻密に描かれた絵画のような同作。ラジオドラマやミュージカル化もされるほど、多くの人に影響を与えてきた。バンドのTempalayもそうだ。彼らは2021年に発表したアルバム『ゴーストアルバム』で、『わたしは真悟』からインスピレーションを受けた楽曲「シンゴ」を制作。楳図かずおが楽曲とその制作意図を知り、東京会場で楽曲のリンクを感じたことから、今回の大阪展のテーマ曲に起用。CM映像も公開されているので、こちらもぜひチェックを。

真悟に見られているような不気味さも漂う……

話は展覧会へ戻して、続いては楳図かずおの作品をテーマにしたインスタレーション展示へ。今回の展覧会では3組の現代アーティストに楳図の3作品を委ね、インスタレーションとして拡張。まず最初はエキソニモの作品「回想回路」だ。エキソニモはニューヨークを拠点に活躍する、日本人アートユニット。先だって紹介した『わたしは真悟』の世界観を、モニターや無数の廃材ケーブルで表現。ノイズ交じりの昭和歌謡が流れる空間のなか、漫画のコマ割りのように設置されたモニターには漫画のシーンのいくつかが映され、まるで真悟が息をして、こちらを見ているかのように画面が揺れている。「彼」がなにを伝えようとしているのか……。

ここでぜひチェックしてほしいのが、作品の後ろ側に置かれたランドセルだ。『わたしは真悟』のなかでも重要なシーンに登場するこのランドセル。会場となるあべのハルカス美術館のある、あべのハルカスは高さ300m。東京タワーにはあと33m足りないけれど、この場所でこの作品が展示される意義を探ってしまう。

年表の下には掲載誌などが展示されている

続いては、楳図かずおのバイオグラフィーの展示へ。楳図かずおといえばやっぱり恐怖漫画。デビュー作から『おろち』、『ママがこわい』に『へび少女』、『神の左手悪魔の右手』、そしてギャグマンガ『まことちゃん』に少女漫画まで、幅広い作品をが並ぶ。時代とともに少しずつ変わっていく絵柄、それでも変わらない緻密さ。漫画家、楳図かずおのこれまでの歴史を知ることができ、彼のパワーに触れることができるだろう。ちなみに、楳図は和歌山県高野山生まれの、奈良県育ち。今回の大阪での展示に、ちょっとした親近感が湧いてしまう……。

『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』

いよいよ、同展のメイン展示『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』へ。27年ぶり、しかも4年もの期間を費やした新作。しかも、マンガではなく原画101点を連作絵画としての展示だ。一枚々々の絵画をじっくりと観ながら、「アーティスト楳図かずお」の大美術の世界へ足を進めていこう。

作品は『わたしは真悟』の続編であり、同時に時空を超えたその作品のパラレル・ビジョン(並行世界)でもある。アクリル絵画で描かれた作品は生き生きとした筆遣いをしていて、ぐっと視線を奪われてしまう。そして、その色遣いも魅力的だ。彼のトレードマークでもあるくっきりとした赤と白、煌びやかで吸い込まれるような色彩が目立つ。作品は時系列に沿って展開され、それぞれの絵画の上下には作品タイトルと、少しのセリフも描かれているところは漫画に近い部分がある。一方で絵画にはコマ割りがなく、一枚で完結した作品としても鑑賞することができる。

出来ることなら『わたしは真悟』を読んでから足を運んでほしいけれど、同展ではしっかりと物語のあらすじなどが説明されているので、初心者でも存分に楽しむことができるだろう。「恐怖漫画」のイメージが強いけれど、同展では彼が持つ世界観、頭の中を垣間見るような印象で、「ホラー」的要素はほとんどないので怖いものが苦手な人もきっと大丈夫!

色彩豊かなタペストリー

楳図のカラー作品は、これまで漫画の表紙などで何度も見てきたが、『シンゴ美術館』では改めて、彼の筆の緻密さに驚かされる。ストーリーについては、ぜひとも現地で触れてほしが、101枚の作品を観終えると、巨大なタペストリーが目の前に現れる。ある女性の姿や、その登場シーンが描かれている。

ともに飾られれている美しい女性の巨大タペストリー

彼の漫画作品に描かれる女性はどれも目がくりっとして美しく、とても愛らしい表情をしている。そんな美少女たちの顔が恐怖に歪み、美女が恐ろしい怪物に変貌し、奇怪な行動をとる。そのギャップがより一層恐怖心を煽るのだ。『シンゴ美術館』でも、美しい女性が描かれているのでぜひ注目してほしい。

数分ごとに照明が変化する

続いての展示は、再びインスタレーション展示へ。ここではアーティスト冨安由真による『シンゴ美術館』の素描をテーマにした作品が展示されている。楳図は本来、着彩してこそ作品の完成としていたため、元々素描を展示する予定ではなかったという。それでも、今回は冨安のインスタレーション作品の一部ということであればと、着彩前の素描を展示。部屋の中央には作品に繋がるものが展示され、数分ごとに照明が変わることで空間そのものの印象に変化をつけている。

後半は『14歳』にまつわる展示が展開されている。同作は現時点では楳図かずおの最新長編作で、1990~1995年にかけて『ビッグコミックスピリッツ』にて連載された長編SF作品だ。『漂流教室』の続編ともいえる作品で、食肉でさえ遺伝子技術によって工場生産される未来の世界で、環境破壊によって人類が滅亡しそうになっているのをどうにか乗り切ろうと奮闘する子どもたちの姿が描かれている。

同作では「チキン・ジョージ」という鳥頭の人物が登場するのだが、これがまたすごい存在感なのだ。培養肉の製造過程から突然変異して誕生した生物で、作中では彼の言葉や視線によって人間の醜さや醜悪さが描かれている。人類が破滅していく様子がじっくりと描かれ、クローンのような存在に自然災害など、今の時代を先駆けたようなワードも次々に飛び出している。ページをめくるたびに物語に吸い込まれていく、大人にこそ読んでもらいたい名作だ。

振り子のように揺れ動く「むし」の頭部

ここではインスタレーション作品として、アーティスト・鴻池朋子による作品が展示されている。作中に登場する「むし」の頭部が振り子のように揺れ動く作品や、大小2点のドローイングと映像、そして階段と滑り台のオブジェで構成されたものなど、様々な作品を展示。『14歳』という作品、ワードにまつわるそれらは、楳図かずおという芸術家の内面に迫ろうとする過程を垣間見ることができるはずだ。

展示の最後は『14歳』のカラー作品だ。色鮮やかな色彩、印象的なシーンの数々。長編SF漫画として表現してきた3つの作品は70、80、90年代と続き、その作品の全てが互いにリンクしているようで、そこに描かれた先見的な世界観に改めて魅入ってしまう。楳図かずおが作品を通して何を伝えようとしているのか。漫画家の枠に収まることなく活躍する、「アーティスト楳図かずお」の世界に触れてみてはどうだろうか。

最後に、今回の展示に先駆けて楳図かずお本人からメッセージが届けられた。「なんといっても、同展の主役は作品です。とにかく僕は誰にも負けないように描きました。自信満々の作品になっているので、ぜひみなさんに観てほしいです」とのこと。

筆者の財布の紐も緩む、可愛いグッズの数々

あともうひとつ、ぜひともチェックしてほしいのがグッズ。今回の大美術展限定で制作された文房具や雑貨、ピンバッジにポーチ、Tシャツやトートバッグなど、そのどれもが素敵なものばかり。大阪展限定アイテムなどもあるので、来場の記念にぜひ!

10月28日(金)までの平日16:00~、各日先着30枚限定でグワシカードがプレゼントされる「UMEZZ GWASHI! DAYS!」を実施

なお、同展では平日で入場者特典のある「UMEZZ GWASHI! DAYS!」や、ハロウィン限定のイベント「ハロウィンナイトミュージアム」を開催。『まことちゃん』の「グワシ!」ができる特製グワシカードのプレゼントなどもあるので、詳細は公式ホームページをチェックしよう。

取材・文・撮影=黒田奈保子

イベント情報

展覧会『楳図かずお大美術展』
【開催期間】 9月17日(土)~11月20日(日)
【開館時間】 火~金 / 10:00~20:00 月土日祝 / 10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
【会場】 あべのハルカス美術館 〒545-6016 大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階
美術館公式HP:https://www.aham.jp/
【観覧料(税込)】 一般/1,700円(1,500円)、大高生/1,300円(1,100円)、中小生/500円(300円)
※( )内は15名様以上の団体料金。
※障がい者手帳をお持ちの方は、美術館カウンターで購入されたご本人と付き添いの方1名様まで当日料金の半額。
※学生料金でご入場の際には学生証をご提示ください。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開催内容の変更や入場制限等を行う場合があります。
最新の情報は美術館公式HPをご確認ください。

【主催】 あべのハルカス美術館、読売テレビ、読売新聞社
【協賛】 光村印刷
【協力】 リサイクルパーク、地域整備開発研究所、アートフロントギャラリー、ヒノコスタジオ
【企画制作】 楳図かずお大美術展製作委員会
【展覧会公式HP】 https://umezz-art.jp/
【展覧会公式Twitter】 https://twitter.com/umezz_art
【一般のお問合せ】 06-4399-9050(あべのハルカス美術館)
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