『王様と私』僧侶役でオーストリア屈指の人気音楽祭に出演~テノール歌手・高島健一郎がメルビッシュ湖上音楽祭を振り返る

2022.9.28
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今年5月にオペラシティでのリサイタルを成功させ、10月のリビングルームカフェでのピアニスト藤川有樹との公演も早々に完売させた、ウィーン在住のテノール高島健一郎。ドイツでイベント参加のため久々の海外滞在中の筆者に、高島本人からお招きがあり、ウィーン郊外のメルビッシュで行われ、彼自身もキャスティングされているメルビッシュ湖上音楽祭を取材する機会を得たので、このスペースでその模様をレポートしながら、高島含め他の日本人キャストや主役の肉声もお届けする。


そもそも、メルビッシュ湖上音楽祭とは、いかなる音楽祭なのか。そのあたりから高島に話を聞いた。

「ドイツ語では『Seefestspiele Mörbisch』。オーストリア・ウィーンから車で1時間ほどのメルビッシュ・アム・ゼーにおいて、オペレッタやミュージカル一演目をひと夏の間、ノイジードル湖上の6000人収容の野外ステージで上演して、毎年約20万人も動員しているという、オーストリアでも指折りの人気音楽祭なんです。1957年に第1回が開催され、以来65年もの伝統をもっていますが、2020年はコロナのために延期となり、その年に予定をされていた『ウェストサイドストーリー』が21年に上演されました。今年、コロナ後2回目の夏は、有名なミュージカル『王様と私』が演目として決定となり、タイを舞台とした作品なので、僕も含めてウィーンに住んでいるアジア人歌手にもチャンスが広がったと言えるかもしれません。日本で学生の頃にDVDで見ていたメルビッシュ湖上音楽祭の舞台に立てた事は僕にとってとても大きな経験でした」(高島)

声がかかり、オーディションを受けて、晴れてキャストに選ばれたという高島。「オーディションの合格通知を総監督から直接電話で受けた時の興奮と喜びは、たぶん忘れられないと思います」と出演決定の瞬間を振り返る。

今回メルビッシュにて上演されたのは、『王様と私』。同音楽祭の過去の演目は、ウィーンのオペレッタが多く、本作品は今回が初めての上演であった。

「ウィーンやオーストリアでもグローバリズムの波があるのでしょうか、オペレッタ中心の音楽祭運営を少し方針転換して、現在の音楽監督となってからは、『ウェストサイドストーリー』もそうですが、ミュージカルを積極的にプログラムに加えることを考えているようです。来年は『マンマ・ミーア』の上演が決定しています。そんな中でも、『王様と私』は、「シャル・ウィ・ダンス」が代表曲で主人公がワルツを王様と躍るシーンがハイライト・シーンのひとつだったりするため、ウィーンのオペレッタの雰囲気に近いものがあるかもしれませんね。ヒロインの衣装やドレスも、華麗でウィーンの風格がブロードウェイ版よりもあるような気もしました」(高島)

衣装と言えば、高島がキャスティングされた僧侶の服装も、非常にリアル。タイの僧侶の雰囲気がかなり忠実に再現されており、何と言ってもワット・アルンがそこにあるんじゃないか?と思うくらいの、背景にある仏塔の再現度も伝統の厚みを感じるものだった。

僧侶役のキャストたち。中央が高島

「公演の規模や関わるスタッフの数などこれまでに経験した事のない大きなプロダクションだったのですが、それぞれのスタッフや出演者がプロフェッショナルに働く姿は僕の今後の活動にもとても大きな影響があると思います。またほぼ毎公演6000席のほとんどが埋まっている客席を見てヨーロッパに根付く芸術文化を肌で感じました。衣装もそうですが、毛髪がない僧侶の鬘のことひとつとってもそうで、豪華で大掛かりなセットと道具と、ディテールへのこだわりがフィクションをリアルなエンターテイメントとしてハイレベルなものにしているのを実感できました。これからもヨーロッパを中心に様々な経験を積んでいくと同時に、この経験を日本の方にも舞台を通して伝える事が出来たらとても幸せだと思っています。世界中の方に芸術とエンターテインメントの素晴らしさを伝えられるアーティストを目指してこれからも様々な事に挑戦していきたいという思いを新たにしました」(高島)

高島と同様に、今回王妃として日本人歌手・今井テリエン美範がキャスティングされた。今井は実のお子様ともどものキャスティング。今井にも、音楽祭を振り返ってコメントを寄せてもらった。

今井テリエン美範コメント

今回メルビッシュ湖上音楽祭のこの大きな舞台に立てたことは私にとって貴重で大きな経験となりました。 そして何より実の息子たちと同じ舞台を踏めたことはこの上ない幸せでした。 子供達を舞台の上に立たせることはストレスがなかったと言えば嘘になります。 このシーンはこうあるべきだという固定観念が先立ってしまい、それをしない子供達にイライラしてしまったからです。 でもある日のリハーサル、客観的にシーンを見て、子供達の自然な反応にそこに嘘がなく、それでこそ演じるということなのではないか、嘘を付かずにそこにいると言うことが舞台のシーンを成立させていると気付き、イライラはなくなりむしろ子供達から教えられることとなりました。 チャン王妃を演じている時にそこにいて嘘なく演じる、言葉や歌詞の意味を噛み締めて嘘なく伝える、知ってはいたけど、子供達に再確認させてもらい丁寧に演じることができ幸せを感じております。

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ここからは、一観客としてメルビッシュ湖上音楽祭を初めて訪れた筆者の目線から、簡単なレポートをお届けしたい。

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