藤山直美、最後の追善公演でこぼす「父寛美は芝居の神さんに選ばれた人」ーー歌舞伎、新派、松竹新喜劇などジャンルを超えた役者が集結
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「はなのお六」藤山直美 (c)松竹
藤山寛美三十三回忌追善 喜劇特別公演 2022.10.1(SAT)~23(SUN) 南座
2022年に大阪、東京とめぐってきた『藤山寛美三十三回忌追善 喜劇特別公演』が10月1日(土)、締めくくりの地である京都の南座で幕を開けた。昭和の時代に日本中を虜にした名優、藤山寛美。三十三回忌追善にあたり、娘である藤山直美と、寛美ゆかりの俳優たちが喜劇への思いを受け継ぎ、人情味あふれる舞台を上演する。
「えくぼ」左から渋谷天外、藤山扇治郎 (c)松竹
演目は、松竹新喜劇の真骨頂ともいえる「泣き笑いの喜劇」を描いた「えくぼ」と、寛美の当り役を直美が熱演する「はなのお六」の2演目。「えくぼ」では運送屋の主人、福三を寛美の孫である藤山扇治郎が勤める。ぶっきらぼうで妻の秋子にもつらく当たる福三という、いつにない人物を演じる扇治郎。松竹新喜劇では朗らかな役柄が多かっただけに、新鮮な表情で楽しませてくれた。
「えくぼ」左から曽我廼家いろは、藤山扇治郎、渋谷天外、川奈美弥生 (c)松竹
男勝りで竹を割ったような性格の秋子を演じるのは曽我廼家いろは。お嬢さん役が多かったが、同作では野太い声でガハハと笑う場面もある。いろはもまた新境地を切り開いた印象だ。渋谷天外、曽我廼家八十吉、曽我廼家玉太呂、髙田次郎というベテラン勢と中堅~若手俳優らが人情に溢れる名作を彩った。
「はなのお六」藤山直美 (c)松竹
藤山寛美を偲んで代表作の数々や思い出の映像をおくる「〈映像〉藤山寛美 偲面影」をはさんで、「はなのお六」を上演。貧しい家族を助けようと、故郷の大和吉野から江戸へやって来たお六を演じる直美。かつて寛美の当り役として人気を博した六兵衛という男性の役を、お六という女性に置き換えた。佐賀藩有馬家の江戸屋敷で起こった騒動を描いた作品で、お六は17歳という設定だ。闊達だがいじらしさも残る、田舎から出てきた少女を直美が好演する。
「はなのお六」左から澤村宗之助、藤山直美、市村萬次郎 (c)松竹
市村萬次郎、中村亀鶴、澤村宗之助ら歌舞伎俳優や、大津嶺子、いま寛大ら寛美ゆかりの俳優、そして新派や松竹新喜劇のメンバーも多数登場し、爆笑出世話をにぎやかに演じた。
初日の前日、ゲネプロを終えた藤山直美が囲み取材に応じ、心境を語った。
藤山直美
「南座で最後の追善公演の初日を何とか無事に迎えられることを喜んでいます。お客様に喜んでいただけることが一番の追善になりますので、感謝して、心持ちを大事にして、心を一つにして勤めさせていただきます」と挨拶する直美。
「はなのお六」では立廻りもあることから「疲れました(笑)」と率直に語りつつも、「中村亀鶴さんに所作や立廻りを指導していただきました。いろいろ聞いたりしながら(本番でも)頑張ってやらせてもらいます」と気合を入れた。
「はなのお六」左から中村亀鶴、藤山直美 (c)松竹
同公演には芝居のジャンルを超え、俳優たちが集結した。「上方喜劇は歌舞伎出身の曽我廼家五郎、十郎先生が立ち上げられました。そして先生方が歌舞伎で身につけたもの、聞いて覚えたもの、観て覚えたものをアレンジしてこられました。上方喜劇と歌舞伎は遠いところではありますが、元々が一緒ということもあって、違和感はありません。新派の方も出演していただきますから、デパートのように階は違うけども同じ建物の中のあるような、それらがマーブル模様のように交われば良いなと思います」と期待を寄せる。
俳優陣の層の厚さは、寛美の役者人生そのものを表しているようでもある。寛美は、関西新派の俳優からそのキャリアをスタートさせ、二代目渋谷天外に誘われ松竹家庭劇に移籍。戦後まもなく松竹新喜劇に入団し、のちに「喜劇王」の名をほしいままにした。
藤山直美
「芝居の神さんから、世の中を明るくするためにと言われて生まれてきたと思っています。私が生まれた昭和33年頃に、ちょうどお父さんが世の中に出ていきました。戦争が終わりまして、高度成長が始まって人の情け、親子や兄弟の関係がどんどん薄れてきた時期です。一方でお六が故郷にいるお母さんや兄弟たちのことを思うように、松竹新喜劇は人の情とか親子、夫婦の話も多いですよね。そんなことをお芝居を通じて世間に訴えかけるために生まれてきた人やと思います」と寛美を語る直美。
そして今、自身が舞台に立つ意味を次のように話した。
「新喜劇の若い方や、これから頑張ろうしている役者さんと一緒に出演させてもらうときに、私がこの方の人生に何か役に立たへんやろうかと考えるようになってきました。親でも兄弟でも親戚でもないんですけども。そしたら一生懸命、芝居をしようと。同じ板の上で一生懸命やっている64歳の喜劇の女役者を見て、いつか「藤山直美という人は、あの年で一生懸命やってはった。私も負けたらあかんな」と思ってもらいたいです。私が後進の方たちに、残してあげられる姿やないかな」
藤山直美
『藤山寛美三十三回忌追善 喜劇特別公演』は10月23日(日)まで南座にて上演中。
取材・文=Iwamoto.K
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公演情報
二等席 8,000円
三等席 4,000円
特別席 14,000円